きゃすたー・おぶ・じ・あるとりあ   作:ヤトラ

3 / 8
今回のお相手はサーヴァント数名。主にキャストリアにとって好感の持てる英霊がメイン。
割とグダグダしていたので誤字や脱字、違和感など大きく目立つかもしれませんがご了承ください(汗)


きゃすたーとさーばんと

 魔術師(キャスター)アルトリアことキャストリアは暗い。王の立場から逃げ出したという過去は彼女にとって忘れてはならぬ恥であり、どんな偉業を成し遂げたとしても自分を嫌い続ける事に変わりはないと本人は語る。

 自己嫌悪と陰気ばかりが目立つ彼女だが、根は優しくて感情の起伏が激しい。悲しくとも嬉しくとも泣くし、大いに驚き、喜ぶ時は惜しむ事無く笑顔を浮かべる。落ち込む時は暗黒空間を生み出すのが難点。

 そして国の滅びを避ける定めを背負った騎士王から逃げ出す程までに「人」という物を知りたがる探求心、その人の悩みや苦悩を少しでも知り僅かでも救済の道を導こうとする救済の心を持つ。

 

 そんな彼女の交友関係のモットーは「広く浅く」。言葉を交わし視野を広げ、幅広い知識と感性を得る事を良しとする。苦手な相手や怖い相手はソソクサ逃げます。黒髭など即・退・散。

 円卓の騎士と会談……正確にはモードレッド(バーサーカー)こと勇モー王と大騒ぎしてから数日が経過し、さらに関係が深まったサーヴァントとの日常を一部紹介しよう。

 

 

―――

 

●エミヤの場合

 

 唐突だが、人理継続保障機関カルデアに召喚された英霊には聖杯戦争の記憶を持つ者も居る。

 英霊とは聖杯の座より召喚される故、聖杯戦争が始まれば召喚されるのは当然の事だろう。その為かカルデアでは聖杯戦争で戦い合った者同士が集まる事もあり、時に再会を喜び時に気まずい雰囲気を味わう事もある。

 

 そんな中でも複雑な英霊関係(?)を持つ英霊を1人挙げるなら、アーチャーことエミヤが妥当だろう。

 

 エミヤと騎士王アルトリアは同じ聖杯戦争を生き抜いた仲で互いの信頼は厚い。一部サーヴァントからリア充と言われるほどには熱い(誤字じゃないよ)。

 当然ながら別世界のアルトリア……黒王や獅子王と言ったサーヴァントは別物と考えてはいるものの、アルトリアの有り得た未来という側面もあって放っておけず、主に食事方面で世話をすることが多い。アサシン?彼女はもっと複雑だから触れないであげてお願い。

 

 そして最近になって追加された新アルトリア顔(キャストリア)の反応はといえば……。

 

「ふむ……」

 

 エミヤは顎に手を添えて、2人の少女を見比べていた。

 

 片方は、どこか気まずそうに視線を横に向けている本家アルトリア(いつものアルトリア)

 片方は、どう見ても気まずそうに視線を横に向けている魔術師アルトリア(キャストリア)

 

「オルタやランサーと違って、こうも大きな違いがあるとはな」

 

 互いにけん制し合っているアルトリア2人を見てエミヤがポツリと呟く。

 

 元々服装の時点で比較は容易いのだが、表情と姿勢に大きな違いがある。前者が背筋がピンとしていて気難しそうで、後者が背筋が猫背気味でオドオドしている。

 黒王や獅子王も背筋をピンとしていて少し堅い所はあったが、キャストリアは非常に表情や動作に感情が出やすいようにエミヤは感じていた。特に思う処は……。

 

「狼狽えているセイバーは何度か見たがこう露骨だとありがたみが「シロウ貴方何を言っているんですか!?」」

 

 唐突に叫び出すアルトリアにビビるキャストリア。しかしエミヤは気にしていないのか涼しい表情を浮かべたままだ。

 

「言った通りの意味だ。知っていたか?君は感情に揺らぎがあるとまずアホ毛から変化が生じ、そこから表情に僅かな変化を起こすんだ」

 

「嘘ですよねシロウ嘘と言いなさい私は決してそんなことは」

 

「そんなに私を疑うのなら鏡を見るがいい。所詮長い付き合いから生じる経験談でしかないからな」

 

「嘘だとは断言してくれないのですね……」

 

 いつの間にかキャストリアを差し置いて話を弾ませる2人。エミヤがペースを握っているのは確定的に明らか。

 黙ってみていたキャストリアは、なんとなく2人の仲を察知したらしく、くすりと笑みを浮かべて話に割り込む。

 

「あの、失礼ですが2人はどういった関係でしょうか?」

 

「ああ、私と彼女は同じ聖杯戦争に参戦した英霊同士で……どうしたセイバー、そのような目をして私を見るな」

 

「シロウ……いえ、アーチャーの気のせいでしょう。ええそうです、英霊として通じたのですよね私達は」

 

 同じアホ毛を持つ同一人物(アルトリア)であるキャストリアだからこそ解る―――アルトリア(セイバー)は拗ねている。アホ毛がショボくれ視線を逸らすのがその証拠だ。

 そんなアルトリア(セイバー)を見てエミヤはフっと笑みを零す。キャストリアも解ってきたが、エミヤはアルトリア(セイバー)に意地悪をしているのだ。

 

「すまないセイバー、そう拗ねるな」

 

「拗ねてなどいません」

 

「……私は近代の英霊なのだが、英霊になる以前の私はココにいるセイバーのマスターでもあったんだ。共に聖杯戦争を生き抜いてきた。今も昔も、セイバーは私が最も信頼している英霊だよ……女性としてもね」

 

 そう言ってエミヤは優しくアルトリア(セイバー)の頭を優しく撫でる。アルトリア(セイバー)は俯いているものの顔がうっすらと赤く染まり、嬉しそうにアホ毛を揺らしていた。

 

「羨ましいですね……」

 

 そんな2人を心底羨ましいと思うキャストリア。英霊となった今でも、生前に出来なかった事の1つである「恋」に憧れているのだ。

 

(何でしょうか……この優越感は……)

 

 羨望の眼差しを向けるキャストリアに対し、アルトリア(セイバー)は内側から湧き出てくる感情に少しながらの勝利を得る。

 一部を除いた英霊に完璧な存在など無い。キャストリアには無い物をアルトリア(セイバー)が持っていることだってあるという話。

 

 

「「「グギギギギ……」」」

 

 

 その優越感のあまり、物陰から2人のサーヴァントの仲を睨みつける他のアルトリア(オルタ・ランサー・アサシン)の殺気に気づかないアルトリア(セイバー)であった。

 

 

 

―――

 

●メディアの場合

 

 メディアと言うサーヴァントは魔術師の鏡とも言える。目的の為には手段を選ばない、魔女の中の魔女と言える存在なのだから。

 

 しかし彼女は根っこから悪人というわけではない。不要な犠牲や裏切りを由としない最低限の節度はあるし、人理救済の為に手を貸してくれる良識もある。

 装飾や制作といった手先の器用さを活かした趣味を持ち、理想の男性を語る純真さ、可愛い女の子を着せ替えしたくなるなど、魔女としての彼女とは別の一面も浮き出てくる。

 

 そんなメディアに、千載一遇の好機が訪れた―――キャストリアである。

 

 彼女は魔術師としての人生を歩んだ別世界のアルトリアであり、その容姿はメディアにビビっときた。性格は大人しく少し暗いがストライクゾーン内であり、騎士王と獅子王の中間ともいえるスタイルも中々に良い。

 極めつけはその根暗な性格。言って悲しくなるが同族(おなじねくら)故に自ずと引き寄せられるだろうし、魔術師(キャスター)という括りもあって仲良しを演じる事は容易いだろう。

 

 是非とも手中に収めるべく奸計を案じるメディアだが―――その苦労は無駄に終わる。何故なら……。

 

「メディアさん、貴女は魔術師(キャスター)として非常に優れていると、マスターと(アルトリア)より耳にしました。

 もしよろしければ未熟者である私に、魔術とは何かを教えていただけますか?払えるだけの対価を払う覚悟です」

 

 キャストリア自身がそう尋ねてきたのである。しかも「払えるだけの対価を払う覚悟」と自ら約束した。

 

 まさに好機!海老で鯛を釣るどころか、鮟鱇の口に獲物が自ら入り込むが如く!

 

「いいわアルトリア。今の私は機嫌がいいの……その身にたっぷりと教えてあげる」

 

 顎を軽く掴む事で怯えるキャストリアだが、気にせずメディアは内側から漏れだす嬉しさで口角を吊り上げる。

 機嫌を損ねたら教えてくれないかもしれないと判断したキャストリアは意を決したように表情を硬め、メディアの導きがままに歩み出す。

 

 

 

 数十分後、キャストリアにメディアの事を話しておきながら気になった藤丸立香が、メディアが使用する個室にお邪魔した所……。

 

「良いわぁ凄く良い!一度貴女(アルトリア)にフリフリのゴシックドレスを着せてみたかったのよ~!ネロとは違った可愛らしさがあるわ!」

 

「そ、そうでしょうか……?」

 

 自分が装飾した衣装を着たキャストリアをハイテンションに眺めるメディアと、満更でもなさそうに頬を染めるキャストリアの図。

 黒と白のゴシックドレスを着た、恥ずかしげに己の姿を見るキャストリアを見て、不意にもキュンとしてしまった藤丸立香であった。

 

「あらマスター、いらっしゃい。どう?可愛らしいでしょう、ゴシックドレスのキャストリアちゃん!いつかセイバーに着せてみたいと思っていたよ~!」

 

 黒王・獅子王・ヒロインXも居るがメディアにとってドツボなのは騎士王とキャストリアらしく、小さな(?)夢が叶ったメディアのテンションは高かった。(因みにセイバー・リリィは未だカルデアに召喚されていない)

 しかしメディアの着せ替え人形状態になっているキャストリアに、それでいいのかと立香はキャストリアに問いかけるが……。

 

「いえ、これも魔術の教えを乞う為の対価です。魔術師(キャスター)として求められる対価に応じるのは当然の事。それに……」

 

 いつも弱弱しいキャストリアが真面目な表情を浮かべているが、それはすぐに緩んで恥ずかしそうに視線を逸らし……。

 

「……恥ずかしながら、癖になりそうです」

 

 お洒落な服装に身を包むサーヴァント達に影響されたのか、恋だけでなくお洒落にも関心を抱いたキャストリアにとって、今回の対価は渡りに船だったらしい。

 恥ずかしそうに俯いて白状するキャストリアに対し、メディアは「キャー★」と喜び、藤丸立香は「だめだこりゃ」と言わんばかりに肩を竦めるのだった。

 なお、この事はメディアとキャストリアだけの秘密にするという約束の元、たまーに魔術の勉強がてら着せ替えさせられることになるのだが、それは別の話。

 

 

―後日、どこで嗅ぎつけたのかメディア作ゴシックドレスを着込んだ清姫・頼光・静謐(ストーカーども)が彼に押し寄せてきたとか。

 

 

 

―――

 

●ブーディカの場合

 

 ライダー・ブーディカ。古代ブリタニアにおける「勝利の女王」の伝説を持つサーヴァント。

 

 故郷を想いブリタニアの為に戦い続けた母の力はカルデアに召喚された後も健在で、マスターである藤丸立香やマシュを我が子のように可愛がり、カルデア食堂を支える第二のオカンとして君臨している。第一のオカンは勿論エミヤ。

 ブーディカにとって、後世のブリタニアを支える騎士王アルトリアを始めとしたブリテン出身の英霊も、マスター同様に慈しむ対象である。どの世界のアルトリアも、彼女にとっては可愛らしい妹も当然なのだ。

 

 そして最近になって表れた新たなアルトリアことキャストリア。性格は弱弱しく感情表現豊か、基本は暗く自己嫌悪も割と激しい。

 なんというかこう、見ているだけで放っておけないオーラが陰気オーラと共に溢れ出る、母性本能を刺激してならない珍しいサーヴァントであった。

 

「あの……」

 

 このように困ったように自分を見上げる姿とか、同一人物(アルトリア)とは思えぬ可愛らしさを発揮している。

 

「あのですね……」

 

 それにしても柔らかな髪質だ。生前は魔術師としてブリテンの民を救済するべく四苦八苦していたらしいのでボサボサだったが、シャンプーとリンスで洗ってやったのは正解だったと思う。

 

「ブーディカさん?」

 

「なに?」

 

「いつまで頭を撫でているのでしょうか……」

 

「もう少し!もう少しだけ!」

 

「先ほども同じ事を言っていたような気がするんですが……」

 

 ああもう、この困り顔ですら可愛らしい!今なら頼光の気持ちが少しだけ解る気がする。愛おしくて愛おしくて仕方ない!今度美味しい物でも食べさせてやりたいなー。

 

 

 ひたすら幸せそうな顔でキャストリアの頭を撫で続けるブーディカ姉さんであった。

 

 

「……で、私に用があるんだっけ?何かな?」

 

 撫で続けて20分後、ほくほく顔のブーディカはようやくキャストリアを解放した。元々はキャストリアがブーディカに話しかけたのだ。

 

「実はですね、アーチャー・エミヤから聞いたのですが……」

 

 キャストリアの頼み事。それはブーディカを喜びの意味で驚かせるのに十分な内容であった。

 

 

―数十分後。

 

(バカな……ありえません……!)

 

 アルトリア(セイバー)に戦慄走る。それほどまでの衝撃的事実が騎士王に突き付けられたからだ。

 その凛々しき顔は絶望で歪み、体は恐怖で震え、目の前の真実を拒絶するように先の言葉を口走ってしまった。

 

「そうなんだ……貴女の世界でのブリテンは……」

 

「はい、お恥ずかしながら国は救えず、しかし民に出来る事をしてきました。これ(・・)もその成果です」

 

 そこには勝利の女王ブーディカとブリテンの魔術師キャストリアが並び、キャストリアの過去を話していたのか神妙な空気が漂っていた―――別の物も含めて。

 ここはカルデアの食堂。サーヴァントも(食べる意味でも作る意味でも)利用するある意味の聖地。2人はそこの厨房に立っていた。

 

 2人の前にはコンロの火で暖められクツクツと煮込まれた牛の煮物があった。洋風テイストで香りも良い。

 だが問題はそこではない。その料理を作っている人物にあった。

 

 

(キャストリア)が……料理をするだなんて!!!)

 

 

 食堂の陰から2人を覗き込んでいたアルトリア(セイバー)の心が叫ぶ。牛の煮物を作っていたのはブーディカではなく、隣のキャストリアだったのだ。

 ブーディカから作り方を教わっているし調理の腕も拙いが、間違いなく包丁で肉を切り、香辛料などで味を調え、味見をしていた。驚くべき事実だった。

 

 話によるとキャストリアはブリテンの民を救うべく、まずは食の道を探求していた。自らの腹を何度も壊してでも、火で焼いたり沸騰した水で煮たりと、今までにない調理方法を編み出そうとした。

 その結果「とりあえず程々に煮ればなんとかなる」という偏った思考こそあれど、キャストリアは僅かでもブリテンの食文化に変化を与えたのだ。

 

 故にキャストリアは腕こそ自慢できないが料理好きだ。

 食堂のオカンことエミヤやブーディカの料理の腕前に感銘を受け、是非とも学びたいと志願したのだ。因みにエミヤがブーディカを推したのは同性だからだという。

 

「けど良い事よ。栄養価を捨てないってことが大事だったものね」

 

「結局は自分のお腹を満たしたいが故に編み出したんですけどね……」

 

 恥ずかしそうにキャストリアは言う。王を捨て魔術師になっても食いしん坊なのは変わらないらしい。

 

 

 楽しそうに話しながら煮物を作る2人の女を他所に、アルトリア(セイバー)は真っ白になったままフラフラと食堂を出るのであった。

 

 

 

―――

 

●イスカンダルの場合

 

 先にも記載したが、キャストリアは王という立場から逃げ出したことを恥じている。その結果ブリテンの未来に変化が生じたとしても、彼女自身が未だに許せない事実だ。

 

 というわけで、キャストリアは勇猛王を除く王という存在そのものが苦手だったりする。

 

 並行世界とはいえ同一の存在であるアルトリアシリーズならまだしも、キャストリアにとって王の気質を持つサーヴァントは目を背けたくなる程に眩しい相手なのだ。

 特に英雄王と太陽王といった『完璧な王』はキャストリアの天敵ともいえる為、僅かな気配ですら察知し脱兎のごとく逃げ出してしまう。この時だけは魔術師(キャスター)とは思えぬ敏捷性と幸運を発揮する程に。

 

 そして今日、不運にもある王様サーヴァントに捕まってしまった。

 

「ふぅむ……これが魔術師(キャスター)となった並行世界の騎士王か……」

 

 顎に手を添え不思議な物を見るような目でキャストリアを見下ろすのは、征服王ことライダー・イスカンダルである。

 話をマスターである藤丸立夏(妹の方)から聞き、面白そうだからと探したが中々見つからず、持ち前の勘を活かしようやく捕まえる事に成功したのだ。

 そんな巨漢で王様で筋肉モリモリマッチョマンに見下ろされるキャストリアは全身から冷や汗が止まらなかった。正直怖くてたまらない。

 

「なんというかこう……」

 

 身を屈ませマジマジとキャストリアを見るイスカンダル。距離が縮まって更に怯えるキャストリア。

 逃げたくても逃げれないのかカタカタと震え涙目でイスカンダルを見上げるキャストリアに対し、イスカンダルは「ふむ」と頷いてから。

 

「暗いな!実に暗い!ここまで暗い奴を見たのは余ですら初めてかもしれん!」

 

 ドストレートな感想をぶっ放し、自身でも解っているとはいえストライクな感想に陰気オーラ全開にするキャストリアであった。

 どよ~んと暗いオーラを醸し出すキャストリアを見て「あちゃー」と頭をガシガシ掻きながらイスカンダルは続ける。

 

「黒王や獅子王にも驚かされたが貴様は格別だな。王の座から降りた者とはこうも変わるものとは……」

 

「あの……貴方様は他のアルトリアをご存じなのですか?」

 

「む?……おお、そういえば言っておらなんだな!余と騎士王は以前聖杯戦争で戦いあった者同士でな!剣を交え、王とは何ぞやと酒で語り合ったものよ!」

 

 思い出したように自分と騎士王(アルトリア)の接点を軽く話すイスカンダル。キャストリアにとってはどうでもいい話なのでさっさと逃げたいが、王の気質に当てられたのか動けないようだった。

 

「それでな、魔術師(キャスター)となった騎士王が出たと藤丸立夏(マスター)から聞き及んだので見に来たのだが……なんともまぁナヨナヨしい事この上ないな!」

 

 イスカンダルは何が面白いのか笑いながらキャストリアの背を叩き、キャストリアは吹っ飛びそうになったが足を踏ん張って堪えたようだ。

 そんなキャストリアの踏ん張る姿ですら、イスカンダルは懐かしい物を見るような目をしている。痛そうに背を擦りながら、その視線に気づいたキャストリアは思い切って聞いてみた。

 

「あの、何がおかしいのです?」

 

「いやなに、ナヨナヨしい癖に簡単に倒れぬ貴様を見ているとアヤツを思い出すのでな……つい重ねてもうたわ」

 

「アヤツ……といいますと?」

 

「未熟で脆弱ながら決して折れる事のない、余のマスターにして臣下よ」

 

 「お前さんのようなな」と、先程の力強さとは打って変わって優しくキャストリアの頭を撫でる。大きく力強い、しかし全くの威圧感を感じさせない掌だった。

 

「キャスター、王から逃げた貴様には酷な事であることは重々承知している。だが余は貴様に聞かねばならん事がある」

 

 不意に真面目な顔を浮かべたのでキャスターも黙って耳を傾ける。

 

 

「キャスターよ……王とはなんぞや?かつて騎士王だった貴様(・・・・・・・・・・・)は、何を持って王道とする?」

 

 

 それは第四次聖杯戦争から始まり、カルデアに召喚されてから王たる英霊に問いかけ続けた、イスカンダルが尚も知りたがる聖杯問答。

 本来なら酒の席を設けて語り合いたい処だが、王から逃げ出したと自ら語るこのキャストリアには不要だろう。彼女に期待できぬが故に。

 

「……それは私如きでは語れません」

 

 申し訳なさそうに首を垂れて言うキャストリア。

 それをイスカンダルは責めはしない。「やはりなぁ」と少し残念そうに溜息を零すだけだ。

 

―しかし。

 

「それを語るべきは私ではなく我が息子(・・・・)……勇猛王モードレッドなのですから」

 

 イスカンダルを見上げるキャストリアの顔は、慈愛に満ちていた。その表情には先程までの陰りは無い。

 

「ほぉ、勇猛王とな?」

 

「ええ。バーサーカーのクラスで召喚されたモードレッドが居ます……私の正当な後継者、私が支えしブリテンの王です」

 

「なるほどな……興味深い!」

 

 人任せと言えばそこまでだろうが、気弱なキャストリアが王道を語るに相応しいと暗に言い切ったのだ。征服王イスカンダルの興味を惹くには十分だった。

 勇猛王モードレッドとは顔合わせしたことがある。反逆の騎士に王の気質が備わったような英霊で、一度ゆっくりと話してみたいと思っていた所だ。

 

 王の座から逃げ出したキャストリアが滅びゆくブリテンの未来を託し、生涯を賭けて信頼して来た後継者。

 その者と他の王たる英霊を引き連れ、聖杯問答という名の王の宴を開いた話は……また後日に語るとしよう。

 

 

 楽しみが増えた事に心躍るイスカンダルの隙を突き、キャストリアは颯爽と逃げ出すのだった。

 

 

 

―――

 

●ジャック・ザ・リッパーの場合

 

 前述ではキャストリアの苦手なものは王と述べたが、逆に彼女の好きなものは何かといえば……子供である。

 彼女が魔術師になった理由も、飢えた親子を見たことが原因であった。人を知ったキャストリアにとって、子は人の未来ともいえる存在故に放ってはおけなかった。

 単に女を自覚し、モードレッドという愛したくても愛せなかった子が居たから親としての母性を持て余しているだけともいえるが……ブーディカや頼光程でないにしろ、見かけたら可愛がりたいぐらいに子供好きである。

 

 ある日、藤丸立香がキャストリアが使っている個室にお邪魔すると……。

 

「しー」

 

 入室したマスターに向け、人差し指を口に添えて静かにするよう促すキャストリア。

 キャストリアはベッドに腰掛けており、何故か大きく膨れたお腹の上に大きな毛布を被せていた。何をしているのだろう?

 とりあえず立香は足音を立てずにキャストリアに近づき、これは何かと膨れたキャストリアの腹を指さして問いかける。

 

 するとキャストリアはそっと毛布を剥がすと、そこには丸まって眠る少女……ジャック・ザ・リッパーの姿が。

 

 とても幸せそうな寝顔で、安心しきっているのかキャストリアの腹に全身を委ねている。とても微笑ましい光景だった。

 キャストリアの話によると、英霊ジャック・ザ・リッパー誕生の秘話を聞いて涙したキャストリアが思い付きでやってみた所、すぐに眠ってしまったらしい。

 

 このジャック・ザ・リッパーは生まれる前に堕胎された存在。魔術師アルトリアにとっては、互いに英霊となった身だとしても、少しでも救済の手を差し伸べたい相手だ。

 腹の上に乗せ布を被せる程度の戯れ事だが、母親の胎内を疑似的にでも再現できればと思ってやっみた所、ジャックは大層気に入ってくれたらしい。

 

 嬉しそうに己の腹の上で甘えるジャックの姿を思い出すキャストリアの顔は、まさにお腹の子を案じる母のごとし。

 ブーディカとも頼光とも違う母性溢れる姿を目の当たりにして、藤丸立香は静かに微笑んで部屋を後にする。

 

 

 

 暖かな気持ちで退室した立香だが、そこに居たのは……。

 

「グギギギギギ……!」

 

 血涙を零し、目が赤く染まる程にジャック・ザ・リッパーに嫉妬している勇モー王の姿が。

 

 

 

 清姫とは違った恐ろしい嫉妬を体感しました―――藤丸立香

 

 

―終―




●キャストリア(プロフィール)
・性別:女性
・属性:中立・善
・イメージカラー:水色
・特技:料理、治療
・好きなもの:子供、救済が届いた瞬間
・嫌いなもの:自分、王という存在
・天敵:英雄王

~おまけ1「ジャックと勇モー王」~

勇モー「おい」

ジャック「なーに?」

勇モー「その……父上、いや、キャストリアの腹に包まれたんだよな?」

ジャック「うん!すっごくあったかかった!解体しちゃいたいぐらい!」

勇モー「あったかいのか……もっと他にないか?柔らかかったとかなんとか……」

藤丸立夏(なにあのモードレッド可愛い)

~おまけ2「しょかつこーめー」~

 物陰に隠れイスカンダルとキャストリアの会話を聞く人物が2人……。

立香「……」

孔明らしき少年「……はぁ?マスターも人が悪すぎだろ……今出たら恥ずかしくて死ねる」

立香「……」

孔明らしき少年「どこが似てるっていうんだ、あの根暗キャスターと僕が!」

立香「……」

孔明らしき少年「……芯が意外と太い所?なんだそりゃ?」


書きたいサーヴァントの交流の光景を書いた話でした。詰め込むと纏まらないものですねぇ(汗)
次回は勇モー王とイスカンダル+αがカルデアで聖杯問答をする予定。最初に言っておきますがローマは除外。

誤字報告・感想・ご意見・リクエスト等お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。