A:私が描くとしたらこんな感じ。
7/22:誤字修正。報告ありがとうございました。
私は愚か者です。王でありながら苦しむ民を見捨てられなかった。王でありながら救える手立てを考えてしまった。
私は臆病者です。円卓の騎士に応えられなかった。モードレッドを愛したかった―――息子と呼びたかった。
私は卑怯者です。王としての責務を。王としての道を。王としての未来をモードレッドに全てを押し付けて、逃げた。
己を偽り、己を捨て、そんな己を受け入れ、そんな己を蔑んで、私は逃げ続けた。
苦しむ民を救いながら。食物を得ながら。薬学を学びながら。魔術を学びながら―――騎士王モードレッドを陰で支えながら。
国は滅べど、いつしか自分が夢見た【
―――
「問います、貴方が私のマスターですか?」
カルデアのマスター・ぐだ男こと藤丸立香は、目の前の召喚されしサーヴァントを見て頭を抱えた。
―――またアルトリア顔か……と。
しかも今度のアルトリア顔のサーヴァントは……これまでにない新種だった。
聖剣を抜きし騎士王でもなく、槍を携えし獅子王でもなく、薔薇の皇帝でも桜の新選組でも、絶対アルトリア顔殺すウーマンでも闇堕ち騎士王でもない。
バトルドレスをアレンジしたような青と白のローブ。宝石が埋め込まれた自分の背丈ほどもある樹の杖。程々に育った乳。
どこか憂いを帯びた表情で微笑み、申し訳なさそうに頭を下げるアホ毛の少女は。
「キャスター・アルトリア。全てから逃げ出した臆病者ですが、貴方の救いとなれれば幸いです」
―――
召喚を終えたカルデアメンバーの取った行動は、マシュと藤丸立香、そしてキャスターの三人での会話だった。
どうも落ち着きのない彼女を刺激させない為、他のサーヴァントを遠ざけ面談用の個室で話し合う事にした。
「えっと……つまり貴方は、騎士王を辞めて魔術師となったアルトリア・ペンドラゴン……でいいんですよね?」
マシュ=キリエライトは目の前のキャスターにそう問いかける。先ほど簡易的な自己紹介をしたのだ。
「一つだけ訂正を、マシュ=キリエライトさん……私は騎士王の責から
「あ、あのキャスターさん」
「キャスターと呼ばれるのも私には不相応です。適当にアルとでもトリアとでも……まぁ私如きに名など意味を成さないのです。『キャスター擬き』の方がまだ私らしいですね」
どよん、という効果音が似合う程に暗い笑みを浮かべるアルトリアに対し、マシュはどうすればいいのかと戸惑っている。
無理もないと隣で茶を啜る藤丸立香は思う。これまでカルデアに召喚されしアルトリア顔のサーヴァントとは対応が全然違うのだから。
王の威厳だとか覇気だとか高潔さとかカリスマとか、そういうのが一切ない。というか暗い。
顔を隠すようにローブを目深に被り俯いて話す彼女は気弱で、薄幸美人のような儚さを感じさせる。
それでも魔術師としての才の無い彼から見ても、彼女から発せられる魔力はかなりの量だと解る。
「あれが魔術師としての私か……弱いな。色々な意味で弱い。同じ私だと思いたくないな」
「くっ……ついにキャスターのクラスでも降臨してしまいましたか……闇討ちをするなら今か……っ!」
「落ち着きなさいアサシンの私。仮にも彼女はカルデアのサーヴァントとして召喚されたのです。闇討ちしては逆に怪しまれます。いっそレイシフト先で事故に見せかけて後ろから……」
「いえ、それもダメですからね騎士王の私」
「ですけどね獅子王の私」
半ドアの陰から顔を覗かせているアルトリアシリーズの皆さん、隠れているつもりでもしっかり見えているからね?
視界に収めなくても気配と声で解ってしまったマシュと藤丸は、アルトリアシリーズの皆をどう説得しようかと考え……ふと前を見る。
そこには対面するように座っていたはずのキャスターの姿がなかった。
アルトリアシリーズの殺気に当てられ霊体化したのかと思ったが、ふと部屋の隅を見ると……。
「ごめんなさいごめんなさい本来の私ごめんなさいこんな私になってしまってごめんなさい生まれてきてごめんなさいいっそ殺してくださぃぃぃ……」
部屋の隅でガタガタ震えて懺悔する
とりあえずアルトリアの皆さんにはお引き取り願おうと、立香は席を立つのだった。
さて、
ここで立香はキャスターに質問してみる―――どうして騎士王から魔術師になったのかと。
騎士王としてのアルトリアは、いずれも王としての何たるかを胸に抱いている。堕ちようが槍を持とうが、それだけは変わらない。アサシン?彼女の事は置いといてお願い。
「……私は苦しむ人々を捨て置けなかった」
ボソリと口を開いたキャスターの顔は、意を決したように真剣な眼差しを2人に向け、語り出す。
―――
切欠は、痩せこけた少女と、それを抱える少女よりも酷く痩せた母親を見た時だった。
キャスターはその親子が忘れられず、いつしか王としての自分が正しいのか悩むようになった。
国は救えど人は救えず。たった2人の親子ですら救えない自分はブリテンを救えるのだろうか?
人を意識し始めた騎士王は、様々な『人間』を深く知る事になった。ランスロットの事も。ギネヴィアの事も。モードレッドの事も。
彼女は人を愛したくなった。円卓の騎士に頼りたくなった。息子を愛したくなった。―――されど、王の立場がそれを許さない。
蛮族を討ち取り国を支えている間にも、死者は増え、円卓の騎士との間に亀裂が走っていく。―――王でいることが苦しくなった。
やがてモードレッドに全てを押し付けて逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。
自らの届く限りの命を救う為に。王としての自分から逃げる為に。国の滅びという事実から逃げる為に。
―――
「私は卑怯者です。モードレッドを認めておきながら、何も言わず全てを押し付け、民の救済という免罪を以て胸の罪悪感を消そうとした……ブリテンの為にならないと知っておきながら。何故このような並行世界の私を英雄の座に組み込んだのか意味が解りません……」
「そんな、自分を卑下しないでくださいアルトリアさん!いろんな人を救ってきたんじゃないですか!それは無駄ではないですよ!」
「ええ無駄ではなかった……しかし私はブリテンと円卓の騎士を捨てたのです……あぁ……
何故か死ぬこと前提で懺悔しているキャスターを必死に宥めるマシュ。カルデアには何名か円卓の騎士が居るのだが、このアルトリアに会わせたらダメかもしれない。
それにしても相当なネガティブキャラだなーと立香は困ったように頭を掻く。こういったネガティブ思考な英雄も居たが、ここまで露骨なのも珍しい。
ブーディカかエミヤに協力してもらうべきだろうかと考えている中、ドタドタと走る音が聞こえてくる。
「お兄ちゃーん!お兄ちゃーん!手伝ってー!」
慌てた様子で入室してきたのは、立香の双子の妹、藤丸立夏だった。オレンジ色の髪がチャームポイント。
彼女も兄同様生き延びたマスター候補の1人で、様々なサーヴァントのマスターとして活躍している。因みに口数の少ない兄に比べてよく喋る。
「バーサーカーが召喚されたんだけど、ネロを見た途端暴れ出しちゃって!皆に抑えて貰ってるけど聞く耳持たなくて!お兄ちゃん達も説得に協力して欲しいの!」
そういえば
シールダーとしても優秀なマシュが居れば説得も捗るだろう。マシュとキャスターに共に来てもらうよう願い、慌てて誘導する立夏に続く。
因みにどんなサーヴァントなのかと立夏に問いかければ、何故かキャスターを見て言う。
「モードレッドを名乗ったそっくりさんだけど……そこのキャスターさんの知り合い……だったりする?」
この言葉を聞いた途端、
―――
父上は愚か者だ―――優しすぎたんだ。国を、民を、そして円卓の騎士を常に想ってきた。それだけの行動力も知恵もあった―――度胸は無かったが。
父上は臆病者だ―――寛容すぎたんだ。自分の枷になると知りながら受け入れる程、父上は周りを気遣っていた。ランスロットの事もギネヴィアの事も―――俺の事も。
父上は卑怯者だ―――これだけは譲れない。俺を後継者と認めてくれた。俺に王の責務と恐怖を語った。円卓の騎士と語り合った―――なのに、俺の元から去っていった。
俺は怒り、悲しみ、憎み、父上の名を叫び続けた。父上を探し続けた。父上の代わりに戦い続けた。
腹いせに赤き竜をぶっ飛ばした。怒りに任せ蛮族をぶっ飛ばした。八つ当たりでマーリンをぶっ飛ばした。いつしか騎士王でなく勇猛王と呼ばれるようになった。
国の滅びこそ受け入れど、父上が夢見た【
―――
「ちぃぃぃぃちぃぃぃうぅぅぅえぇぇぇぇ!」
「余は其方の父上でないと言っておろうがぁぁぁ!」
これで何度目のやり取りだと、赤セイバーことローマ皇帝ネロ・クラウディウスは怒りを発する。
獣の咆哮の如き叫び声をあげているのは、モードレッドであった……ただしエミヤとクーフーリンの2人と共に取り押さえているのもモードレッドである。
バーサーカーのクラスで召喚されたこのモードレッドは、赤き竜を模したような刺々しい鎧を着込み、手には紅く染まったエクスカリバーらしき剣が握られている。
そんな凶悪極まりない得物を振り回さないよう、
「ダメですよネロさん下手に刺激しちゃチヘドッ」
「がぁぁぁぁぁ!なぁぁぁぐぅぅぅらぁぁぁせぇぇぇろぉぉぉぉ!」
血反吐を吐く沖田にも、その獣の咆哮の如き叫びと殺意を向ける
2人の英雄に体を、己と同じ存在である反逆の騎士に片腕を抑えられながら抵抗の意を示し、今にもアルトリア顔の2人を叩き潰さんと暴れ続けている。
その怒りと筋力はこの場に居るサーヴァントの肝を冷やすには十分であった。ていうか目がヤバい。完全に獣の目だこれ。
「2人ともさっさと離れろ!こいつ相当な馬鹿力だ!」
「あぁもう大人しくしろオレ!ていうかこんなオレをオレと認めたくねぇぇぇ!」
「つーかマスターとその兄貴はまだかよ!令呪でもないと止められねぇぞこりゃ!」
三者三様の叫びを耳にしても
「皆お待たせ!お兄ちゃん達呼んできたー!」
立夏の声が響き、これで最低限令呪で何とかなるだろうと安堵する5鯖―――だが現実は非常である。
何故ならアルトリア顔サーヴァントが5人も追加されたのだから。
「「増えたー!(チヘドッ)」」
アルトリア顔の皇帝と新選組が悲鳴に似た叫びを上げ。
「むぐがごげごがぎげぎがががががが!」
「「「女の子が言っちゃいけないような叫び上げちゃったよ――――!!!」」」」
本家アルトリア5人衆を前に
そのまま
―勝負は一瞬であった。
4人のアルトリアが武器を構えるよりも先に魔力放出で跳んだ
「父上の――――」
「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼女に微笑みを浮かべている
そして4秒が経過して―――
―――結果、10秒後に
呆然としているカルデアメンバーを他所に
それを見た立香はマシュを、立夏はランサーを傍らに連れていち早く駆け出す。このままでは
そのまま2人は見つめ合い、間に合わないかと焦りながらも4人が駆け付け――――。
「モードレッド!」
「父上!」
「「会いたかった!」」
ぎゅっと抱きしめ合う
遅れて走り出した他のサーヴァントも唖然とした表情を浮かべて止まり、特にブリテン組に至っては開いた口が塞がらない程に驚愕。
「ああ、モードレッド!本当にモードレッドなのですね!短命は克服できましたか?ちゃんと食べてましたか?円卓の皆さんは?民は?ブリテンは―――もうどうだっていいです!やっと、やっと会えました!」
「父上のバカヤロー!何が逃げ出しただ!ブリテン滅べど人は滅びず!円卓は瓦解せど父上への忠誠は変わらず!全て陰から父上が支えてくれたんだろそうだろう!父上なんかキラ―――いや嘘だ大好きだー!」
「ええ、陰ながら勇猛王たる貴女をずっと見守ってきました……私はどれだけ蔑まれてもいい、せめて息子と民を救いたいと願いながら……!」
「うわぁぁん父上ぇぇぇ!やっぱアレは……寿命で尽きかけたオレが見た父上の笑顔は、夢でも幻じゃなかったんだ!父上がオレを救ってくれた、だからオレは王として生涯を終えられたんだ!」
「モードレッド……」
「父上ぇ……」
先ほどまでの殺意が嘘のようにすすり泣く
親子と言っても差し支えなさそうな光景を目の当たりにして、
―アルトリア組(+モードレッド)に至っては顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのだが、この際無視しておく。
――
モードレッドの正体を知ったアルトリアがしたことは、対話だった。
もとより精神的に弱っていたアルトリアは、誰かに弱音を吐きたかった。その白羽の矢が
王としての責務の重さ。滅びゆく国をいかに救うか。弱っていく民を見て苦しむ自分。すれ違う騎士達。マーリンに胃を痛める日々。
酒の力もあって
そしてアルトリアが逃げ出し、選定の剣を託されたモードレッドがしたことは、間違いを正す事だった。
アルトリアは苦しむ民に出来る事をした。何を食せるか。魔術で出来る事は何か。少しでもブリテンに貢献できる事は何か。
モードレッドは父が逃げ出した怒りを燃料に、円卓の騎士に一喝してやった。特にランスロットに至ってはボッコボコにしてやったそうだ。
アルトリアは民と息子を想い陰ながらブリテンの支えとなり、モードレッドは父の苦悩を考慮し円卓の騎士が提案したアルトリア捜索を取りやめとした。
やがて時は経ち、国は衰えど人々の暮らしはまずまずの物となった。
アルトリアの自己犠牲による調理研究(という名の料理)により栄養面は改善。魔術師として成長した彼女は、モードレッドの寿命を延ばす事にも成功した。
モードレッドは円卓の騎士の亀裂を修正することで、一部を除けばほぼ円満と言えた。そして様々な障害をぶっ飛ばした実力故に「勇猛王」として名を広めた。
国は滅びに近づきつつある。けどブリテンという国を覚えている人々が生き残りつつある。
ブリテン親子は確かに
アルトリアとモードレッドが語り合った【
―――
「……というわけです」
「良い話じゃないですか!」
子供のように傍らに寄り添う
マシュの両側に座っていた藤丸ツインズも「イイハナシダナー」と目尻に浮かんだ涙を拭いながら呟く。
「けどよぉマシュ、民から聞いたんだが父上はしょっちゅう腹を下してたらしいぜ?」
「そ、そんな話まで耳に届いていたのですか……よく探そうと思いませんでしたね?」
「本当は殴りに行ってでも連れて帰りたかったさ!けど父上ったら隠れるの上手ぇからいっつも逃げられるんだ!」
「す、すみません……今更帰れない、帰りたくないと思っていたもので……陰での暮らしは美味sゲフゲフ」
「美味しいっつったか?美味しいっつったろ父上!香草焼きやら牛の煮込みとか、オレ達以上に美味いメシが民の間で流行ってたのには血涙ですら出たんだぞ!」
「すすすすみません」
ペコペコとモードレッドに頭を下げて謝るアルトリアの図。
気弱な母に強気な子という奇妙な光景ではあるが、間違いなく2人は親子なんだなぁと思い知らされる。
納得したように微笑んで頷く立夏だが、一方で兄の立香は困ったように別の方向を見つめている。
―海岸に打ち上げられた海月の如く床に倒れるアルトリア(+モードレッド)という奇妙な光景が広がっていた。
「父上が、父上が俺に優しいなんて……ガフッ」
「これが人としての情に芽生えた弱き私なのか……ゴフッ」
「円卓の騎士達よ、私は……私は……ゲフッ」
「できない……この
「……(返事がない。只の屍騎士王のようだ)」
まさにアルトリアの死屍累々である。よほど並行世界のブリテン親子が2人にとって眩しかったのだろう。
だが
2人の王が築き上げた結晶。救われし人々の忠誠。滅びた国の確かな栄光。征服王イスカンダルに似通った勇猛王モードレッドの宝具―――『
それを見た
それはブリテンの数多の命を救いし存在『魔術師アルトリア』の逸話が宝具として体現したもの。
滅びた後に生き残った人々が彼女への感謝と忠誠を忘れまいと綴った伝承は、奇しくも2人が語り合った夢を実現したものだった。
範囲内の味方の傷と病を癒し、数多の防護魔術を付与、更に高出力の結界を敷くという魔術師アルトリアの宝具―――『
並行世界のブリテンの栄光と魔術師アルトリアの救いの結果を目の当たりにしたアルトリア達は、心身共に死にかける事になる。
―――1つの波乱を生み出した
―終―
甘々のブリテン親子、イスカンダルの王の軍勢的な演説、ぼくのかんがえた並行世界のアルトリアとモードレッド、救いのあるブリテン。
これら書きたい物をコツコツハーメルン内で書き続けた結果がコレです。
アルトリアを根暗にしたのは……なんでだろ、魔術師になったらこうなるだろうなーと思ってただけなんですが(苦笑)
他にも色々と書きたい物はありました。ステータスとか設定とか宝具一覧とか泣いたアルトリアに変わり怒るモードレッドとか。
ですがこれで満足しちゃいました。必要とあらば追記します。
完全に思い付きの物を書こうと思ったので、続く事は無いと思います(汗)
こんな短編小説ですが、楽しんでいただけましたか?
ではでは。