汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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加賀さんを泣かせるなんて……!


第五話 加賀と帰る場所

 

 

 艦娘どもの意外な働きによって、想定より早く掃除は終了した。

 クックック、道具としては及第点ってとこだなぁ。

 

「お前らぁ!! 更なる命令だ! よく聞け!!」

 

 昼食(うどん)を終えた兵器共が、俺の声に一斉に立ち上がる。

 

「基本的なシフト表を作成した……各部隊長は取りに来なぁ!」

 

「はいっ!」

 

 こいつらに俺が直接命令すること自体は、とても重要な事だ。

 しかし、いちいちやることなすこと全部俺が命令するのは無駄の極み。

 

 日々のルーチンワークは、予め決めておくのが普通だ。

 

「……提督、意見を言わせてもらってもいいかしら」

 

「あ? ……加賀か。いいぜ、言ってみろ」

 

 第一空母部隊長の加賀が、シフト表を見ながら発言してきやがった。

 さて、どうせ文句が来る事は想定済みだ。

 一体何に不満があるのか、聞かせてもらうぜ?

 

「この、『自由時間』というのは、一体何をする時間なの?」

 

「……はぁ?」

 

 こいつ、意味不明な事を突いてきやがった。

 てっきり出撃とか訓練の多さに文句を言ってくると思っていたんだがな。

 

 全艦娘、一週間に最低4回は出撃。

 一日合計7時間の訓練、座学。

 これほどまでの過密なスケジュール、以前とは比べ物にならないはずなんだが……。

 

「自由なんだから……そのまま、自由に過ごす時間だろうがよ」

 

「?」

 

 こいつら、まるで意味がわかってねえ。

 加賀だけじゃなく、全員が的を射てねぇ顔をしてやがる。

 

 ……ははぁ、そういうことか。

 こいつら、今までのぬる過ぎる環境に慣れ切ってんだな。

 『自由時間』が当たり前になってて、こうして文字で起こされると意味がわからねえんだ。

 まったく、ふざけた奴らだぜ。

 

「しょうがねぇ、一から、具体的に説明してやるぜ!」

 

 俺は、妖精さんが持ってきてくれたホワイトボードに箇条書きでどんどん書き込んでいった。

 休みにやること、その色々を。

 

 町へ出かけたり、部屋でごろごろしたり、ゲーム、本、テレビ、談笑、おやつ……。

 こいつらが今までやってた当たり前のことを、ワザとらしく挙げていく。

 

 ククク、こいつら、驚きの余り言葉もねえようだな。

 こういった娯楽を、前より制限させられるんだからな。

 絶望した表情、今日も頂きましたってかぁ!?

 

「……これは」

 

「どうだぁ? 自由時間は、こういった事を好きにする時間なんだぜ?」

 

 呆然としている加賀。

 これからの生活を思い浮かべて、もはや考えがまとまらないみてえだなぁ。

 

「……こんな事、してもいいのかしら」

 

「へぇ……」

 

 出た、こいつらの得意技、『嫌味』。

 なにが、してもいいのか、だ、嫌味ったらしい。

 

 ま、俺の虐待的采配に対し、こいつが出来る抵抗はこれだけ。

 己の無力を自覚しながら、悪夢に沈んでいきなぁ!!

 

「クックック、いいんだぜぇ、なんせ『自由』なんだからなぁ?」

 

「……っ」

 

 俺の最高に歪んだ笑みを見て、加賀は手で口元を抑えて俯いた。

 いいねぇ、これだ、これだよこの感覚!

 

 虐待の意味、それがいまここにある!!

 

「さあ、早速午後の活動と行こうじゃねえか、艦娘ども!」

 

 昼食も終わったことだ、早速シフトを活用していくぜ。

 俺の号令に、艦娘どもは敬礼をして、各々動く。

 

 午後の出撃予定部隊は、港へ向かう。

 午後の遠征予定艦隊と共に。

 

 午後の演習予定艦隊は、湾内演習場へ。

 基礎体力訓練予定部隊は、運動着に着替える為に更衣室へ向かっていく。

 

 食堂に残ったのは、十数名程度の艦娘。

 

「あの、提督……私達、『座学』って……」

 

「ああ、とりあえず適当に着席しな!」

 

 こいつら艦娘は、とことん知識が足りてねぇ。 

 俺の命令だけを聞く、それじゃあ完璧とは言えない。

 

 自分で考え、俺の為に動く兵器。

 それこそ完璧な道具としての形だ。

 

 俺は先程のホワイトボードの文字を消し、ペンを持つ。

 妖精さんが抱えてきたノートと鉛筆を、艦娘どもに配り……。

 

「さぁ、『お勉強』の時間だぜぇ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 私は、私達は、自由。

 提督にそう言われ、眩しい笑顔を向けられた時、不覚にも目が潤んでしまった。

 

 感情を、表に出す事が苦手な私が。

 感情を少しでも出してしまえば、顔を散々殴られた私が。

 

 彼の優しさに当てられて、心が溢れてしまったのだ。

 

「加賀さん、よかったですね」

 

「……はい、本当に」

 

 赤城さん達と共に、出撃任務へ向かう。

 鎮守府近海の哨戒。

 

 以前では考えられないほど、簡単な任務。

 ろくな補給も整備も無く、敵海域深部まで送られていた私達。

 

 今まで一隻も沈まなかったのは、運がいいのか、あいつが狡賢かったのか。

 

 それも、今は関係の無い事。

 あいつは消えた、今は、私の提督が居る。

 

「今日は近海哨戒で、少しずつ進軍していく計画だそうですよ」

 

「燃料も弾薬も、艦載機も満タン! 力がみなぎってくるよね!」

 

 空母の皆が張り切っている。

 艦娘として、全力を出せるなんて何時ぶりだろうか。

 

「あら、加賀さん。艤装が……」

 

「提督が、何かしてくれたのでしょうね」

 

 整備施設を使うことが出来ず、個人個人でなんとか調整していた私達の艤装。

 妖精さんも宿らず、本来の力が全く発揮できていなかった過去。

 

 しかし、出撃場に用意されていた艤装は、まるで新品の如く黒々と輝いていた。

 中には、大勢の妖精さん達。

 

「では……行きましょうか」

 

「何だか新鮮ですね。こんなに、出撃することに喜びを感じているなんて」

 

 艤装を展開し、海に出る。

 興奮と、高揚感。

 しぶきを上げ、波を切る。

 

 ……戦う事の意味を、私は喪失していたのかもしれない。

 嫌いな人間に命令され、恐怖で出撃を強要されて。

 

 敵と戦いながら、私の心は何処にも無かった。

 地獄に戻りたくない、しかし死にたくもない、そんな感情だけ。

 

 でも、今日は、この瞬間は……。

 

「加賀さん、索敵機が敵艦隊を発見しました!」

 

「敵軽空母を旗艦とした、中規模の艦隊です!」

 

 赤城さん達空母の皆、護衛の駆逐艦達。

 彼女らの表情。

 きっと、私も似たような顔をしているのでしょうね。

 

「艦載機による先制攻撃を敢行します。駆逐の娘達は魚雷装填」

 

「了解!!」

 

 風が、頬に当たる。

 弓を構え、水平線を見つめる。

 

 矢に乗った妖精さんが、少し心配そうな顔で私を振り返る。

 私は、ほんの少しだけ、口元の筋肉を緩めた。

 

「鎧袖一触よ、心配いらないわ」

 

 負ける気は、全くなかった。

 それは、帰る場所が生まれたから。

 

 無事に帰りたいと思える場所を、提督が作ってくれたから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふんふん……よし、順調なようだなぁ」

 

「あの、提督ー? どうしたんですか?」

 

 俺は妖精さんから伝えられた出撃艦隊の様子に頷く。

 何の問題も無く、勝利を収められそうらしい。

 兵器として、素晴らしい成果じゃあないか。

 

「クク、どうもしねえよ。それよりお前、もう終わったのか!?」

 

「うぇ、い、今やってまーす!!」

 

 座学、といっても、ガキに教える様な事をするわけではない。

 今まで甘やかされてきたこいつらに、世間と俺の厳しさを教えるだけ。

 

 町の様子、俺の方針、大本営の考え、敵。

 そういったことを総合的に、俺が講義していくだけだ。

 

 今の時間は、いわば単純な計算問題。

 こいつらの働き、それによる給金の支払い、それに関するものだ。

 

「司令、終了しました」

 

「おう、見せてみろ」

 

 クッソ鋭い眼光の駆逐艦、不知火がノートを渡してきた。

 こいつ、俺好みの目をしてやがるな……。

 

「司令、一つ質問してもよろしいでしょうか」 

 

「……おー」

 

 ふむ、どうやら計算に間違いはねえようだな。

 そして、また質問か。

 

「……これは、不知火達にお給料が支払われるということでしょうか」

 

「あ? おう当たり前だろうが」

 

 その為の計算問題だろうが、何言ってんだ?

 以前より少ねぇ金しか貰えない事に、文句があるんだろうが……。

 

 お前らみたいな兵器に、大金は不要だろうがよ!!

 

「まぁ後々やるよ。その金で通販したり町に行ったりしな。ククク」

 

「……はい」

 

 少ない金で、どれほど楽しめるか見ものだなぁオイ。

 こいつらと一緒に町に行って、監視してやるのも面白そうだ。

 

 俺みたいのに着いてこられたら、碌に楽しめないだろうがな!!

 

「さぁて、俺は港に行ってくる。お前らは自習してな」

 

 まだまだ終わらなそうな奴がいるため、俺は食堂を後にした。

 そろそろ出撃艦隊が帰還する頃だろうからなぁ。

 

 妖精さんからの報告によると、中破艦が一隻いるらしい。

 ククク、『虐待』するには丁度いいネタじゃあねえか。

 

 お前らが地獄に帰ってきたということを、再認識させてやるぜぇ!!

 

 

 




中破艦が出てしまいました。
これは一波乱の予感。

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