汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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大将のありがたい演説を聞いてみましょう。


胸糞回かもしれませんがラスボスなんで多少はね。


第四十四話 軽視派と演説

 

「兵器に人権なんて必要ないでしょう。これは当然のお話です!」

 

 

 男は大きく手を振り、大袈裟なほど声をあげる。

 まるで舞台上の役者だ。

 

「……人類は今、未曾有の危機に直面しています」

 

「深海棲艦の侵攻、奪われた海域……亡くなった、人々」

 

 かと思えば今度は悲痛な面持ちで握りこぶしを作る。

 その緩急に、テレビの前の国民はいつのまにか引き付けられていた。

 

 

「そんな悲劇的戦争を終結に導くのは、ご存じ『艦娘』という存在です」

 

「少女の姿をした、軍艦の化身……『非人間』」

 

 男はまた顔をあげ、笑う。

 自身に満ち溢れた表情で。

 

 

「『車』に人権を与える人がこの世にいますか?」

 

「『船』を憐れむ人がこの世にいますか?」

 

「……残念ながら、いるのですよ。そんなどうしようもない阿呆が」

 

 男の演説は続く。

 

「『艦娘だって人間だー大切にしよー』だなんて馬鹿げた事を言う連中がいます」

 

「きっと彼らはこの国を滅ぼしたいのでしょう」

 

「だってそうでしょう? 幾らでも替えがきく道具を、慈しんで大事にするなんて」

 

「戦う為の道具を『兵士』と混同しているのですよ、愚かなことにね」

 

 男は一見すると、過激な事を言っているように思える。

 しかし国民達はこの男が、極正論を言っているようにも感じた。

 

 

「そういう連中はね、艦娘の見た目が可愛い少女だからそんな事を言ってるのですよ」

 

「人の皮を被っただけのロボットに、まんまと騙されてるんです。ああ可哀想」

 

「もし艦娘の姿が骨格剥き出しの機械だったら? 筋骨隆々のおっさんだったら?」

 

 

「『美少女じゃあない、まったく可愛くない姿だったら?』」

 

 

「はたして彼らは今の様に『艦娘大好きー』なんて言えるんですかねぇ?」

 

 手を合わせながらクスクス笑う男。

 どこか邪悪なその微笑み。

 

 

「いい加減やめにしましょうよ。『美少女コレクション』は」

 

「艦娘でハーレム作って満足している馬鹿どもを、矯正しましょう」

 

「兵器は特攻させましょう、沈むまで酷使しましょう。それが艦娘の役目です」

 

「大丈夫ですよ、深海棲艦を沈めればまた新しい艦娘が湧いて出ますから。ゲームみたいにね」

 

 男は立ち上がる。

 

 

「そもそも艦娘は『人間に危害を加えられない』! なんだこれは!!」

 

「まさしく安全装置、セーフティロック、道具そのもの、人外の証!」

 

「騙されてはなりません国民の皆様! 艦娘は人間ではないのです!」

 

 言葉は熱を持つ。

 そしてそれは、男だけでは無かった。

 

「しかも幾らでも補充可能! 沈んだら新しいのを出せばいい!」

 

「効率よく深海棲艦を殺していかなければ! 人類の未来の為に!」

 

 誰も気が付かない。

 熱意に満ち溢れた男の瞳に隠れて輝く、ドス黒い光に。

 

「よーく考えて下さい! 呑気に提督と馬鹿げた乳繰り合いに興じている艦娘の事を!」

 

「そんな事している間にも、ほら! また深海棲艦が暴れてる! 人間が苦しんでる!」

 

「間抜けな提督がお人形遊びしてるせいで、罪なき民が傷ついているのです!!」

 

「こんな事が許せますか!? 否! 断じて許されるべきではない!!」

 

 まるで正義。

 まるで断罪。

 

「皆様の大切な家族を、かけがえのない友を、良き隣人を、そして己の命を」

 

「そんなふざけた連中に踏みにじられていいわけがない!」

 

「守るのです! 守るための行為です!」

 

「艦娘に人権などいらない! 人権は守る為の物! 人間の物です!」  

 

 

「艦娘一隻の効果的な消費が、貴方達国民の一刻も早い安寧に繋がるのです!!」

 

 

 腕を振り上げ熱弁する。

 その熱は大きなうねりとなり、国民の感情を動かす。

 

 

「艦娘は『銃』ではない!あれらは『弾丸』なのです!!」

 

「撃って撃って撃ちまくりましょう!そして弾切れになったらリロードしましょう!」

 

「弾は敵が落としてくれます! 素晴らしい循環! 効率化!」

 

「そして深海棲艦を皆殺しにするのです! そこから導かれる未来は……」

 

 

「艦娘も深海棲艦も存在しない、人類の輝かしい未来です」

 

 

 両手を広げ、朗らかな笑顔。

 希望に満ち溢れたその男を見て、国民は何を思うのだろうか。

 

 

「私はこれまでも、そしてこれからも、艦娘非人間化運動に取り組んでまいります」

 

 

「……というわけで私からは以上です」

 

 

「善良な国民のみなさまごきげんよう!」

 

 

 

 

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「大将……先程の演説は」

 

「ふむ、何か問題でもありましたか?」

 

 電話越しに聴こえる男の声。

 どこかとぼけた様子で……私の言いたい事などわかっているくせに。

 

「あの発言は、全て本意だったのですか」

 

「んー、まぁ半分は本意ですよ。艦娘はドンドン酷使すべきです」

 

 ……こいつ。

 だが艦娘である私自身、自分の事は道具だと思っている。

 酷使されたいなどとは思わないが。

 

「もう半分は?」

 

「……『人類の輝かしい未来』とか『深海棲艦皆殺し』らへんですかねぇ」

 

 どこか嬉しそうに語り出す。

 こいつの、そんな所が私は嫌いだ。

 

 

「だってどうでもいいですもん。そんなの」

 

「私は私の幸せと未来以外興味ないです」

 

「地位があがって権力持ってハッピー、キモイ艦娘と深海棲艦は減ってラッキー」

 

「そんなもんですからねぇ」

 

 この男は、別に精神異常者ではない。

 だが、私にはこいつが狂っているように思える。

 

「ぶっちゃけ艦娘が人間だの感情がどうとかもどうでもいいです」

 

「必要に駆られれば人間だって特攻させるのが軍人ですし」

 

「ただおバカな民衆を使って艦娘重視派とかいうゴミ共を煽りたいだけですよ」

 

「『偉い人がテレビで言ってる』事をすぐ真に受けますからねぇアホは」

 

 この男は己の欲望に正直に生きている。

 ただそれだけで、たくさんのものをかき乱しながら。

 

「ま、それでも艦娘という存在は嫌いですけどねぇ」

 

「だって気持ち悪いじゃあないですか。人間の面してる化け物なんて」

 

「あーあれですよあの映画のセリフ、『化け物には化け物をぶつけんだよ』ってね。あひゃひゃ」

 

 下品な笑いが本性とともに漏れてるぞクズめ。

 そう言ってやりたい気持ちをグッと抑える。

 

 

「ごほん、それはさておき、『スパイ活動』は順調ですか?」

 

「はい……問題なく」

 

「それは大変けっこうです。ああ、あの無能の処理もしなければいけませんねぇ」

 

 今居る鎮守府、私は此処にこの男のスパイとして潜入している。

 ただ、目的は知らされていない。

 ただ状況だけを定期的に報告させられるだけだ。

 

 そして今こいつが言った『無能』。

 それは以前、鎮守府に居た提督のことだ。

 

 今はどこにいるのか……。

 

「さて、とっとと役割に戻りなさい」

 

「はい、失礼します……」

 

 

 私はこの男に使われている。

 何も考えることはない。

 成すべき事を成すだけだ。

 ……それが一番楽だから。

 

 

 




こういうキャラクターが好きです。
書いてて楽しかった。



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