汚い艦娘を見つけたので虐待することにした   作:konpeitou

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今回は虐待提督不在回。
故に虐待成分も無い、平和なひとときです。











と思うじゃん?


第三十話 大本営と正体不明

「……これで以上です」

 

「ふむ、視察報告ご苦労だったな」

 

 目の前の若き提督は、終始不機嫌そうな表情を隠そうともしなかった。

 私に騙された事がよほど頭に来たらしい。

 

「そう睨むな」

 

「元帥は全て知っていたんでしょう!」

 

 あの男の素性、というか特性。

 それを黙って視察に向かわせたのは、確かにすまんかった。

 しかし……。

 

「良き出会いに恵まれたのではないか?」

 

「っ、ま、まぁ……そうですね」

 

 あのアホと彼女。

 相性が良いのではと、多少は考えていた。

 最悪、衝突してしまう可能性もあったが、良いように作用してくれたらしい。

 

「面白い男だっただろう」

 

「というかアホですね。でも、決して『悪』ではありませんでした」

 

 あいつが着任して、鎮守府運営は軌道にのっている。

 かつ艦娘との関係も良好。

 

 素晴らしい提督だと言える。

 

 結局の話、そういった提督を一人でも増やしていくのが『海軍』のためになる。

 そして我が国のためにも。

 

 なんてことはない、二人の人間が仲良しこよしになった、それだけのことだ。

 だが、それだけのことは、やがて国を変えるのだ。

 

「しかし、君の正義は無くなった訳では無い。そうだろう」

 

「はい……『軽視派』はまだまだはびこっていると聞いております」

 

 内部告発、強制視察。

 少しずつ闇は取り除かれているが、それでもまだまだだ。

 

 軍の重役が腐っている以上、中々難しい。

 巧妙な偽装工作、世論操作。

 

 見えない敵がこれほど厄介だとはな……。

 

「いざという時は、頼りにすることとしよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 実働部隊は、多ければ多い程いい。

 彼女の場合、独自調査も始めているらしいが。

 

「して、合同演習はどうだった?」

 

「あ、はい。対潜演習を軸に……」

 

 

 …………。

 

 

「それにしても、随分あの男を気に入っているようだな?」

 

「え!? そう、ですかね?」

 

 彼女は、どこかピリピリした人間だった。

 周囲を信用しきっていないというか、警戒していたが。

 

 あいつの話をしている時は、完全に友人との思い出を語るそれだ。

 心を許せる人間がいるのといないのでは、大違いなのだ。

 

 成長したな……。

 

「……報告ご苦労だった。退室を許可する」

 

「はっ! 失礼致しましたっ!」

 

 敬礼して去っていく彼女を見て、ため息をつく。

 小さい一歩だが、確実に前に進んでいる。

 

 人は成長する。

 誰しもがもつ『正義の心』も。

 

 軽視派が持つ、正義も。

 

「急がなくてはな」

 

 どうにも、軽視派の動きが最近怪しい。

 警戒する必要がある。

 

 正体不明の敵は、どこにいるか分からないものだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ」

 

 退室した後、廊下を歩いていく。

 まったく、元帥には困ったものだ。

 

 でも、彼と出会えたのだから、感謝しなくてはならないかもしれない。

 良き出会い、まさにその通りだったのだから。

 

 軍に入ってから、友人なんて一人もいなかった。

 同性は居ないも同然だったし。

 

 しかし、なんでここまで彼と仲良くなれたんだろうか?

 思想は食い違っているし、性格も一致しているとは思えない。

 

 それが、逆に良かったんだろうか。

 

「まぁ、どうでもいいさ」

 

 どこか波長が合った、それだけだ。

 

 思案しながら階段を降りる。

 大本営にはエレベーターが設置されているが、健康に気をつかう事にした。

 

 道中、研究班の人たちとすれ違う。

 妖精の研究を行っているらしいが、中々進展は無いそうだ。

 

 自由気ままな妖精は、協力してくれることが稀らしい。

 お菓子で釣っても、気付けば何処かに行ってしまうとか。

 

 ……そう思うと、彼の所の妖精は一体なんなんだろうか。

 あそこまで仲良くなれるなんて。

 

 僕のところは、あれほどではない。

 普通に言う事は聞いてくれるけど。

 

 ちょっとだけ、羨ましいかもしれないな……。

 

 

「! おっと」

 

「ああ、すいません!」

 

 少し考え事をしていたためか、大本営玄関で人にぶつかりかけた。

 ギリギリで止まることが出来たため、衝突は避けられたけど。

 

「失礼しました、僕の不注意でした」

 

「……いえ」

 

 眼前にいたのは、四十代くらいの男性だった。

 少しやせ気味、身長は高め。

 あの虐待提督に比べると、覇気の無さげな顔。

 

 作業着を着た、何処にでもいる普通の人だ。

 

「本当にすみませんでした」

 

 頭を下げ、外に出る。

 いけないいけない、流石に前後不覚がすぎる。

 

 迎えの車を発見し、そちらへ向かう。

 

「お疲れ様です!」

 

「お待たせ択捉」

 

 後部座席でちょこんと待っていた秘書艦の択捉。 

 大丈夫と言ったのに、ついてくると言い出した真面目な娘。

 

 運転手さんに、帰りにどこか寄ってもらうように言おう。

 ちょっとしたご褒美だ。

 

 走り出す車の外を見る。

 

 ……さっきの人、あまり、というか一度も見たことの無い人だったな。

 作業服を着ていたから、用務員か何かだろうけど。

 

 それにしても、『艦娘軽視派』。

 元帥はもう気付いているだろうけど、どうにも最近怪しい。

 

 軽視派重鎮と思われる人物が、密会を行っているという話だ。

 なにかよからぬことでも企んでいるのではないだろうか。

 

 隣の択捉を見る。

 彼女は艦娘。

 その本質は兵器よりも人間にあると、僕は信じている。

 

 彼女達と共に歩むと決めたから。

 僕は、自分の信じる『正義』を見失わないようにするだけだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 車のキーをポケットから探り当て、差し込む。

 どこにでもある軽自動車だが、私はこれを気に入っていた。

 

 周囲を見渡し、サッとドアを開ける。

 

「すまなかったね。少し用事があったんだ……」

 

 運転席に座りながら、後部座席の『彼女』に話しかける。 

 返事は無いが、ミラー越しに目が合った。

 

「……行こうか」

 

 ゆっくりと車を発進させる。

 街を行き、少し外れ、そして郊外へと進んでいく。

 目的地はまだ遠い。

 

 

 …………。

 

 

「この山を越えた、もっと奥の方にはね、少し変わった言い伝えがあるんだ」

 

「『御舟の守神』といってね、山なのに船の神様を祀っていたんだよ」

 

「とっくの昔に廃れてしまったらしいがね……」

 

 何処かで聞いた、古い話を語りながら、大本営での事を思い出す。

 玄関でぶつかりそうになった、あの女性の提督。

 

 階級的、年齢的にはまだまだ新参の様だが。

 なにかただならぬ雰囲気を感じた。

 

 『女性』にも関わらず提督になっているということは、それだけ有能なのだろう。

 ……有能な提督、か。

 

「……反吐が出る」

 

 つい、口から零れてしまう。

 全く、ままならないものだ。

 

 

 車を走らせ、山道を行く。

 関係者以外立ち入り禁止の道を。

 

 それでも、こんなところに好き好んで来る者はいないだろうが。

 地図にも載っていない、秘密の場所なのだ。

 

 ……『秘密にされている』と言った方が正しいが。

 

 一部の軍関係者以外には知られていない、この場所。

 もし『あいつら』に露見したらどうなるか。

 

 それだけは絶対に防がなくてはならない。

 

 森の中にそびえたつ、一つの建物が見えてくる。

 

 大きめの車庫に入り、シャッターを下ろす。

 つけられてはいなかったようだ。

 そういった事にすぐに気付くのも、こんなところに建てた意味があるというものだ。

 

 エンジンを止め、車から降りる。

 

「到着だ。少し待っていてくれ……」

 

 後部座席のドアを開ける。

 そして、座らせていた『彼女』の肩に触れた。

 

「うぐぅ……」

 

「そう睨まないでくれ」

 

 彼女……駆逐艦『時雨』。

 全身を拘束され、猿轡を噛まされた彼女が、私を睨みつけていた。

 恨みがましい目で。

 

「うっ! んむーっ!!」

 

「……失礼するよ」

 

 うめく時雨の膝に手を入れ。持ち上げる。

 ここまで『荒れている』娘は久しぶりだな……。

 ほとんどは無気力になっているものだが。

 

「んっ! んー!」

 

「……すまないね。『上』からのお達しなんだ」

 

 彼女を担ぎながら、歩いていく。

 上、と言ったものの、私も好きでコレをやっているのだが。

 

「大丈夫。きっと幸せになれるよ。……『しあわせ』にねぇ?」

 

「んんーっ!!」

 

 時雨の叫びが響いたが。

 決して外に聴こえる事はない。

 

 絶対に……。

 

 

 




この小説に似つかわしくないガチっぽい雰囲気……!

一体どうなってしまうというんだぁ!?




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