ネロ祭終了。マスターの方々お疲れさまでした!
睡眠時間を削りつつ、暇があれば周回と言う生活で私は250箱でフィニッシュです。いやぁ、楽しかったしオーロラ集めも充実しました。
杭? 杭は、うん。まぁ、後でオルタ達に謝罪するしか無いかなぁと。
あ、後アーケードでオルタのフェイタルが5枚揃いました。やったぜ。
特異点修復の旅路。その道中で、とある街に寄っていた。
俺と立香も、まだ慣れない旅路の途中であり、俺に至っては未だに割り切れていない苦しみの最中でもあった。それを知っているかは定かでは無いが、ドクターから今日は休息を取った方がいいと進言があったのだ。
サーヴァント達も俺達の疲労を知っていたのか、それに同意した。――明日まで、この街で体を休める事になったのだ。
そんな訳で俺は街の随所を歩いて回っていた。一人でこもっていては考えが憂鬱になるし、吐き気を誤魔化す事も難しくなってくる。ドクター達にバイタルの異常を気づかれれば、この先がどうなるか分からない。
“最悪な気分だ……”
いくら永遠を望んでも、時は残酷に結末を運んでくる。その時俺は何をするのだろう。一体何を選ぶのだろう。――そもそも、選ぶ事なんて出来るのか。
答えの出ない毎日が、ただ過ぎていく時間だけがこんなにも苦しいとは。
「っと」
曲がり角から飛び出してきた何かがぶつかる。
衝撃も僅か、痛みもほとんど無い。
見れば、子供の姿だった。街を走り回っているのだろう。
「あっ、ごめんなさい」
「……大丈夫。ほら、行っておいで」
無理やりな作り笑いを浮かべる。幸い、子供に見抜かれる事は無かった。
――駆けていくその姿を見送る。子供だった彼らが成長して大人になって、また子供を産み、現代まで続いていく。
そんな当たり前の事は知っている。繁殖し繁栄する事が生物の最終的な目標である事も。
“分かっていた、筈なのに”
俺の結末を、人理修復後の運命を知った時の空白とその冷たさは、未だに溶ける事も和らぐ事も無い。
それが恐ろしくて、何もかもが消えていく感覚が怖くて。俺は何としても生き延びようと決めたのだ。
どうせ創作の世界なんだから、折り合いなんて簡単に付く――そう、思っていたから。
「……」
死にたくないと言う願い。それを超えるモノは無いと。所詮、自分は自分しか救えないのだと。この考えが変わる訳が無い。
そう、思っていた筈なのに。
どうしてこんなに迷っている。知っている世界だと、割り切れると考えていたのに。どうして俺は、振り切る事すら出来ない。
無事カルデアに帰還するや否や、デブリーフィングを済まして俺は自室のトイレに駆け込んで。全てをぶちまける。ここならバイタルチェックは無いから、気づかれる事も無い。
喉が熱い。口の中が気持ち悪い。視界が朦朧として、このまま意識を手放したくなる。
でもそれは出来ない。何もかもを放り投げる事だけは決して。
「……っ」
ベッドに横になる。――だが眠る訳にはいかない。どうせ見るのは決まって悪夢だと分かっている。もう何度も見てきたのだから。
どうせ寝るのなら、このまま醒めない眠りに着いてしまえばいい。そうすれば夢を見る事も無くなる。
『変なヒト。貴方が望んだ事なのに、それを後悔するなんて』
「……返す言葉が無いな」
彼女の言葉が、重い。それはそうだ。彼女は俺に力の大部分を譲った。その代償に、彼女は今、俺以外には見えないのだ。
皮肉の一つも投げたくなるだろう。
「……」
自分で彼女を呼び出して、利用した癖に。今更それを無かった事にしようとしている。
呆れられて、契約を切られてもおかしくない。
――カルデアの人々だってそうだ。
俺のような人間にも親身に接してくれて。マスターである俺達が抱える負担を、共に支えようとしてくれている。
「……」
自分の過ちから目を背けるように、自身の使命に向き合う彼らから逃げるように。
同じ場所を歩いていた癖に、その目線は全く違う場所を見ていた。
「……」
立ち止まる事は出来ない。
仲間を騙し、自分をも見失って。
それでも時間は淡々と、残酷に過ぎていく。
見覚えのある街を駆けていた。
淡い黒色のコートで身を隠して。逃げるように走る。
「――」
見えるのは、青い空。終わりを焼却された人々に、定めは無い。
あぁ、そうだ。魔術王は人理焼却を完遂した。俺はカルデアを裏切って、彼らを見捨てて。自身の保身に全力を尽くして。――本当に第二の生を得たのだ。
あれほど望んでいた結末が、ここにある。だと言うのに、一向に恐怖は拭えない。
こちらを見る人々の瞳は淀んでいて、何を考えているのかすら分からない。
……いや、違う。きっと考える必要が無いのだろう。
死ぬ事は無い。苦しみも無い。だから何かをする意味が無いのだ。生殖、繁栄、愛情――その全てが不要となり、理解を捨て、ただ在るだけの肉袋になり果てた。
これが、俺の選んだ未来。取り戻すために戦った彼らを見捨てて、掴み取った光景。
「違う、違う、違う……っ」
こんな世界を望んだワケじゃない。
ただもう一度、当たり前の日常が欲しかっただけ。
「――本当に?」
彼女達が道を塞ぐように姿を現す。いつもなら嫋やかに映える白い着物が、まるで亡霊のようで。
「だって、貴方は彼らを切り捨てた。なら、それはこの世界を受け入れたも同然でしょう?」
「あぁ、そうだ。貴様はその上で我らを裏切ったのだろう?」
「今更、否定するつもり? もう元に戻るワケないでしょ?」
違う、違うんだ。
俺は、ただ。ただ――。
「ただ、何ですか? 私達に何一つ話す事もしないで。先輩を傷つけて、カルデアを裏切って」
「――その果てに掴んだ世界すらも、裏切るのかアラン」
マシュと立香の声が聞こえる。
今すぐ耳を塞いで、目を閉じたい。ここから逃げ出したい。
でも、彼らの目線がそれを許さない。
「おめでとう、アラン。キミは、立派な裏切り者だ。そうしてキミは生きていくんだね」
「あぁ全く。実にキミらしいね、アラン」
その言葉に、自身の何かが折れた。
かろうじて体を支えていた力すらも無くなって。闇の奈落に落ちていく――。
「……っっ!」
逃げ出すように飛び起きた。視界に映ったのは照明を落とした自室の天井。
息が荒れている。まるで水を浴びたかのように、汗が体中へ張り付いている。
時間を見た。まだ日付が変わった頃。
「……」
このところ、眠れていない。眠れば必ず悪夢を見てしまって、嫌でも目が醒める。そしてまた悪夢を見る恐怖のせいで、眠る事すらままならない。
ドクターから貰った睡眠薬があるが、それでも夢を見る恐怖があって、未だに飲む事が出来ない。
中でも今のは最悪な夢だった。いつもなら自分が死ぬくらいで終わるのだが、時折今まで出会った誰かが夢に出る。
自分一人ならばまだ耐えられるけれど――。
『――裏切り者』
急に怖くなって、逃れるように部屋を出た。息を切らしながら、向かうのはとある工房。
俺が頼りにしている一人の英霊の部屋。
「おや、いらっしゃい。夜遅くにも……。あぁ、いや、まずは着替えなさい。酷い汗だね、シャワーも浴びるといい。話はそれからだ」
「……はい」
ダヴィンチちゃんの工房でシャワーを借りる。汗は洗い落とせたが、心に巣くう罪悪感と脳裏に焼き付いた光景が薄れる事は無かった。
浴室から上がると、彼女はコーヒーを入れて待ってくれていた。触ると仄かに温かい。冷たい体にはちょうど良い。
「どうしたんだい? まるで悪い夢でも見たようだね。夢を見なくする薬があるけどいるかな」
「いえ、大丈夫です。夢が見れなくなったら、困りますから」
「そっか、キミがいいならそれで構わないけど酷い顔だよ。オルタ達が見たら、血相を変えてくるんじゃないかな」
「……どんな顔してます?」
「今にも泣きそうで、辛そうな顔をしている」
硬い表情でも口元だけは何とか笑顔で。いつもこうして、何とか取り繕ってきた。
心の底から笑う事はまだ出来ていないけれど、それでも――。
「無理して笑う事は無いよ。自然な笑顔は意図せずして生まれるものだ。万能の天才たる私が見抜けないとでも思ったかい?」
「……」
「話せないのなら構わない。次の特異点まで時間はある。ゆっくり落ち着いてからでも――」
「――人類は、焼却されるんでしょうか」
そう呟いてしまう。
俺の言葉にダヴィンチちゃんはゆっくりと息を吐いて、何やら工房に仕掛けを施した。
「遮断だよ、この部屋から音が漏れる事は無い。壁に耳ありと言うからね。
遮ってごめんよ。さ、話してごらん」
「……俺は」
言うべきか躊躇する。
もし口にしてしまえば、今までの関係が全て崩れてしまうかもしれない。最悪、殺されてもおかしくない。
そう思案する心とは裏腹に、口は自然と動き出していた。
「俺は、裏切ったんです。カルデアを、人々を、英霊達を」
「……」
「――怖くて。もう一度死ぬのが、ただ怖くて。あの冷たさと喪失に耐え切れなくて。俺は我が身可愛さに、裏切りを承諾したんです」
「……そうか」
ダヴィンチちゃんはかけていた眼鏡を机に置いて、俺にゆっくりと近づいてきた。
その顔を、表情を正面から見る事が出来ない。どんな言葉を突きつけられようと、それを受け入れる覚悟だった。今ここで殺されても、構わない。
瞑るまいと決めていた目が、咄嗟に閉じてしまう。もうどうあっても、俺がカルデアに受け入れられる事は無いだろう。
――けれど、待っていたのは冷たい拒絶ではなく、温かな抱擁。
「え……」
「よく耐えたね。独りは、辛かっただろう」
強く、抱きしめられた。そのまま頭を撫でられて。
胸の底から、今まで抑え込んでいた感情が溢れ出す。
「……はい」
「誰にも言えなくて、ずっと耐えてきたのか」
「……はいっ」
「気づけなくて、ごめんね」
――初めて、人の胸で泣いた。
ずっと震えながら泣いてばかりいる俺を、ダヴィンチちゃんは何も言わずそっと抱きしめて、怖がりな子供を寝かしつけるように頭を撫でていた。
ダヴィンチちゃんに全てを打ち明けた。
俺の事情も、何もかもを。
その上で彼女はいつものように微笑んだ。工房を訪れた時の、いつものように。
「そうか、それは酷く辛い旅だ。孤独な闘いだっただろう。
私で良ければ、可能な限り力になるよ。
今日はここで休んでいきなさい。まだ目が赤いから、他の誰かに見つかるとまたややこしい事になりそうだ」
「……ありがとうございます」
「間違えたっていい。そもそも、人は自由に生きる事が出来る。だから正解なんてあるワケないのさ。突き詰めて言えば、正しさなんて人を追い詰める道具にしかならないのだからね。
ただ、こと人生において重要なのは。その決意が本物かどうかだけ。だからキミの選択は間違いかもしれないけれど、その心は紛れも無い本物だ。
――アラン、どうかキミの行く末に幸せがあるように」
気持ちが少しだけ楽になった。
工房の一スペースを借りて、横になった際、ふとダヴィンチちゃんが口を開く。
「ところで自分のサーヴァントを操ろうとは思わなかったのかい。キミが望んでいたのなら、それだけの支援も受けられただろうに」
あぁ、確かに。魔術王の手があれば、令呪に手を加えて、彼女達の力を十全に確保したまま完全な手駒にする事も出来ただろう。
けど、それは出来なかった。出来る筈が無い。だって――
「俺なんかをマスターとして認めてくれましたから。それに、命懸けで俺を守ってくれた、大切な存在です」
「……じゃあ、もしも。キミのしている事が彼らに気づかれてたらどうしていたのかな」
その光景を想像して、思わず笑ってしまう。寧ろ、その方がどれだけ楽だったか。
「頭を地面にこすりつけてでも、ただ謝るしか無いかなって。それでもダメだったら、この命を差し出すくらいは」
「……あぁ、そうか。契約した彼らへの信頼と敬愛は、それ程までに強かったんだね。
ただ、召喚に応じてくれただけの話なのに」
「はい、それは変わりません。感謝、してますから」
「そうか……。うん、悪くないよ。
キミは立派なカルデアのマスターだ。私が保証するよ」
彼女の言葉に心が少しだけ軽くなった。
目を閉じると、すぐに心地良い眠気がやってきた。
その夜、初めて悪夢を見なかった。
――親友を、この刃で貫いた。
事前にダヴィンチちゃんに調整は頼んでおいたから、致命傷に至る事は無いだろう。でも、不快感が強く手の中に残っている。
『そんな。君も……君も裏切っていたのかい! アラン!』
あぁ、本当に話してなかったんだダヴィンチちゃん。ドクターがあれだけ声を荒げるなんて珍しい事だから。変なところで、律儀だなぁ。
サーヴァント達が俺を見る。その視線に敵意は無く、寧ろ信じがたいと言わんばかりの物だった。
それがただ歯痒い。いっその事、斬りかかってくれれば楽なのに。
だからどうか、俺を罵ってください。敵だと、見限ってください。貴方達にはその権利があるんだから。
「アラン……! 正気ですか! 人理を燃やせば、人類は!」
ジャンヌ・ダルク。俺に切欠を与えてくれた人。貴方の生き方はとても眩しかった。貴方の言葉に、俺は確かに救いを得たんです。もしそれが無かったのなら、俺は本当に裏切ったままだったかもしれません。
「それで終わる話では無い! 貴方は分かっていて、そちらに付くと言うのですか!」
アルトリア・ペンドラゴン。ブリテンの王、聖剣の担い手。終わりゆく者達にとって輝ける星。
貴方の在り方はとても高潔で、英雄に相応しい人物だった。
だからどうか、その剣を躊躇せず俺に向けてください。
「耳が痛いな、それは。だが……貴様が彼女を語るな」
エミヤ――どう足掻いても救われない者のために戦った正義の味方。俺と立香に旅の秘訣や指揮のコツを教えてくれた。
その瞳が揺れている。俺を敵として処理するべきか、真意を見定めるべきかと。優しいんだな、貴方は。
「……蛮勇――ではないな。貴様のその目は、欲に駆られている。己が欲のために全てを踏み躙ろうとしている。見抜けないとは、私も劣ったか」
影の国の女王スカサハ。彼女の言葉は、俺の真意を呆気なく読み取った。
この命は誰かのために。だから俺は全てを擲つと決めたんだ。
「■■■――――!!!!」
大英雄ヘラクレス。彼の脚力を以てすれば、彼我の距離を瞬く間に埋める事も容易な筈。けれど、その眼光は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「悪鬼に堕ちましたか……。ならば言葉は要らず……!」
沖田総司。幕末の動乱を駆け抜けた、名高き剣豪。
立香の懐刀とも呼べる存在で、時には俺の事も守ってくれた頼もしい刃。
“……”
自身のマスターが刺されたにも関わらず、彼らはすぐには斬りかかって来ない。
どうか罵って、その刃を突きつけてください。貴方達のマスターを傷つけたんだから、俺は相応の報いを受けなくちゃいけない。
戸惑わないで、迷わないで。俺を敵だと突き放してください。
「……マスター」
アルトリア・ペンドラゴン。もう一つの側面。セイバー・オルタ。最初は少し怖かったけど、話をしてみたら意外に優しいし、考えてみれば当然だ。その本質はブリテンの王なのだから。
まだ貴方は、俺をマスターと呼んでくれるんだな。
「……ふざけないでよ、何で。何でアンタが……!」
ジャンヌ・オルタ。時々アルトリアと口論したり喧嘩もするけれど、互いに認め合っている事は知っていた。
ごめんなさい、俺は貴方を裏切った。だから地獄に行くのは、俺だけでいい。
「――最早、語る言葉などありませぬ。我が主よ」
ランスロット。円卓最強を謳われる騎士。彼の剣技と心遣いは、挫けそうになっていた俺を支えてくれた。貴方がいなければ、俺は途中で折れていただろう。
裏切りの汚名は、俺が持っていきます。貴方はどうか、忠節の騎士でいてください。
“……何でもっと早く気づけなかったかなぁ”
脳裏によぎるのはカルデアの記憶。
人理焼却を超えるべく力を合わせた職員達、人理を救うべく集ったサーヴァント達。
彼らとの日々は輝いていた。時間にすればほんの僅かに過ぎなかったけれど。どうかその光景が続くようにと願っていた。
――ようやく、心の底から笑えるようになったのに。
もう俺はそこにいる事は出来ないけれど。それでも、祈らせてください。
「どうか、その輝きを永遠に――」
そんな光景を思い出して、少し笑う。
最初の選択を間違えた結末。その終わりを超えて今オレはここにいる。彼女が、繋げてくれた僅かな時間。
この身に返せるものは余りにも少ない。残ったのは大切な記憶だけ。どれもが比較しようのない、輝ける日々。
いや、もう一つ残っていた。――この命が、まだ残っている。元より既に終わっていた筈のもの。その使い道など、既に決めている。
眼前に相対するは魔術王。本来のサーヴァントでは太刀打ちすら適わぬクラス――ビースト。その力は強大で、今のカルデアには適う術がない。
もし相手が何かの気まぐれであれば、見逃していたかもしれないが。今の相手を見るにその可能性は微塵も無い。
戦えば、オレは必ず死ぬだろう。
……でも、それでいいかな。元々、残骸も同然の体だ。
オレがここで終わっても、その先に彼らの道が続いているのなら。ただそれだけで。
何より、彼女が待ってる。オレを守るために世界を巻き戻した彼女の魂が、まだ。孤独のままだから。
「……」
首元のマフラーにそっと触れた。俺は彼女のマスターで、彼女は俺のサーヴァント。なら、運命を共にするのは当然だ。決して独りなんかにさせはしない。
それが今のオレに出来る、彼女への感謝の証。
さぁ、結末を迎えに行こう。
――彼が、遠のいていく。白い羽織を翻して。死地へと向かっていく。
待って、待ってください。
どうかもう一度、貴方の隣に立たせてください。
令呪があれば、まだ私は戦えます。この重圧に抗って見せます。
だから。
――そんな祈りに気づいたのか、彼は僅かに振り向いて微笑んだ。
「ばいばい、皆」
行かないで。