仕事が休みになりそうなんで、久々に頭を動かします。
設定や展開が荒い所は目を瞑ってくれたら嬉しいです……。自分の悪い点です。
「マスターッ!」
セイバー・オルタが銃撃を弾く。その反動に彼女が大きく後退した。
――違う、アレの威力は普通の霊基では無い。
何故、何故気づかなかった。
「エミヤ・オルタ……!」
「……アンタがお人よしで助かったよ、カルデアのマスター。おかげで駒を増やすのがラクだった」
「マスター、囲まれてるわ……」
先ほどライダーが撃退した筈のアサシンに加え、ランサーやキャスターもいる。それも同じ霊基が複数。
――シャドウサーヴァントだ。
最悪と言わざるを得ない。真名開放を必要とせず、技量そのものが究極の一に匹敵するランサー。一つの存在で百人の人格に分裂出来るアサシン。海魔を召喚し戦局を操りながら、自身も将軍としての経験を持つキャスター。
「……ほう、あん時の黒いアーチャーか。貴様、何やら知っておるな。
――どうだ、駆け付け一杯」
「余計な気遣いだよ征服王、味覚はとうに失っている。
既に固有結界も展開させた以上、連発はやめておけ。その少年の魔力では後一度が限度だろう」
「……おい、どういう事だよアラン。
アレ、お前のサーヴァントじゃないのか」
そうだ、何で思い込んでしまっていた。
最初に出会ったサーヴァントが特異点でこちらに味方をしてくれる訳ではないと言うのに。バビロニアだってそうだったと言うのに。
「エミヤ・オルタ、お前……誰に召喚された」
「会ってみれば嫌でも分かる。オレのマスターの目的は、お前の体だアラン。
それでようやく彼らはゼロを超える」
「」が刀を手にした。
エミヤ・オルタの霊基は、通常のサーヴァントの比では無い。でなければ、アルトリア・オルタの防御を銃撃一つで吹き飛ばすなどありえない。
彼と直接やり合えるとすれば、彼女ぐらいしかいないだろう。
「……斬れるか」
「えぇ、問題なく」
彼女の力を以てすれば、この場にいる全てのシャドウサーヴァントを一度に斬り捨てる事も出来る。
だがその場合、エミヤ・オルタをここで確実に仕留めなければならない。彼の心眼ならば、彼女の力を封じるべく何らかの対策を講じてもおかしくないからだ。そして彼女自身も何らかの原因で力を落としている。シャドウサーヴァントを処理出来るとすれば一度切りだ。
エミヤには固有結界がある。ならば彼女を倒せる事は出来なくとも、俺自体に届けば何の問題も無い。
「おう、黒いの。お前さんも余の軍勢を味わってみるか?
魔力ならまだたんまり賄えるぞ」
「ちっ……。ならば分が悪いか。あの一撃なら負傷させられると思ったんが、考えが甘いな」
銃口を下ろす。けれどその眼光は確かに。俺を捉えていた。
「――円蔵山の大空洞。かつてお前達がそこの騎士王と剣を交えた場所に来い。
無論カルデアのマスターであるお前は必ずだ。他のマスターはどうでもいい。所詮スワンプマンだ。どうなろうと大した問題ではないからな。
あぁ、別に来なくても構わないが。その場合お前は永遠にここから出られない。それを念頭に置いておくことだ」
そういって、彼は姿を消した。それに伴いシャドウサーヴァントも消えていく。
――円蔵山の地下大空洞。超魔力炉心がある場所。恐らくエミヤ・オルタはそこで戦うつもりだ。
わざわざ場所を指定したという事は、そこが彼の力を最も発揮出来るという事だろう。或いはそこでシャドウサーヴァントを生み出せるという事か。
「……つまり元々この聖杯戦争は壊れていたという事か。それとも壊されたか。
カルデアのマスターとやらであるアラン、話が聞きたい。どうにもこいつは只事じゃあ無さそうだ」
そこにいた人物に話せる限りを話した。
カルデアと言う組織とその目的。人理焼却とグランドオーダーを果たした事。そして今回、この都市が特異点となっている事。俺がその特異点を修復すべく、訪れた事。
「――ふむ、ふむふむ。大方呑み込めてきたな。
つまりここは本来の歴史とは異なった特異点。つまりは聖杯戦争を利用した分岐点か。お主らはその修復に来たと」
「話が早くて助かります、征服王」
「何、異国の文化を取り入れるには理解するのが一番手っ取り早い。
しっかしカルデア。カルデアか……。今、そこにサーヴァントはどれぐらいおるのだ」
「確か……二百を超えるかと」
アイリスフィールさんとウェイバーが頭を抱えた。
それが一つの施設に存在するなど、確かに一種の国家にも匹敵する。と言うか地雷そのものだ。
俺の返答にイスカンダルは目を輝かせて、身を乗り出した。
「ではもう一つ。そなたはアキレウスと会った事があるか!?」
「あ、はい……。英雄らしい、さっぱりとした人物でした」
「ほほ~う、そうかそうか! いやあ、惜しい! 一目でいいから見たかったわい!
何とかして今から連れてはこれんのか!?」
「カルデアとの通信が繋がれば……なんですけど」
「うぬぬ……そいつは惜しい。本当に口惜しい。
今からカルデアの敵に回れば嫌でも会えるかのぅ」
そういえばイスカンダルはイリアスの愛読者であり、アキレウスの大ファンであったと聞く。
カルデアに戻ったらアキレウスに話してあげよう。
「……その、アラン君。貴方、あのアーチャーをエミヤと言っていたわよね」
「ええ、まぁ」
「……そう。いえ、それが聞けただけでもいいわ、ありがとう」
今後、どうするか――恐らく先ほどまでの流れを見るに、エミヤ・オルタはこの聖杯戦争で脱落したサーヴァントを使役する力を有している。
特にアサシンが極めて厄介だ。一つの霊基で百の体に分離するのであれば、最早一個の軍隊に等しい。しかも際限なく生み出される。
どう対処する。どう対応する。王の軍勢ならば一時しのぎにはなるが、後から召喚されたモノを取り込むことはできない。
「それで、どう動くカルデアのマスター。文字通り世界を救ったのであろう?
ならば兵はともかくサーヴァントの運用に関しちゃ、右に出る者はおらんだろう」
藤丸立香って言う親友は俺以上に指揮が上手いです。
なんて言葉は置いておく。士気を下げる発言は控えるべきだ。まだ明日まで時間はある。
アインツベルン城の一室で、衛宮切嗣は己と言う人間の在り方を問い詰めていた。
世界を救う――そのために犠牲を選んできた。切り捨ててきた。それに報いる未来を、目指した。
英霊は嫌いだ。彼らの存在に目が眩み、戦場を目指す者は後を絶たない。所詮はイコンに過ぎないと、考えていた。
自分の人生と価値観そのものが、意味を失ったように思える。
「……」
「切嗣……」
救ったのだと言う。カルデアにいると名乗った少年は一度終わりかけていた世界を。ごく平凡な人生を歩んでいる道中の彼らの奮闘で。
衛宮切嗣が目指す光景とは異なるが、世界を救ったと言うその在り方に。正義の味方と言う言葉を感じざるを得なかった。
自身が嫌っていた英霊達に導かれて。自身が切り捨ててきたであろう人々に支えられて。最後は人類悪を打倒し、世界を取り戻したのだと。
なら、これまでの人生全てを費やしてまで何一つ救えなかった自分は何だ? 正義の味方と存在がいつしか呪いに成り果て、ただ死体を生み続ける機械でしかなかったと言うのか。
彼らがただ羨ましく、そして自分が浅ましく感じられる。何て、無様な人間だろうと。
それは八つ当たりでしかない。
喉元までせり上げる熱を無理やり飲み込む。
「アイリ、もう一度聞いてもいいかい」
「……ええ」
「もし、僕が。この戦いから逃げ出したら……キミはどうする」
「支えるわ。だって、切嗣、泣きそうな顔をしているもの。貴方が人々の為に戦っていたことは私が知っています。そして、貴方がイリヤと過ごした穏やかな笑顔も知っています。
だから、私が守るわ。例え世界の全てが貴方を否定しても、私は貴方の味方です」
「もしも、それが、アインツベルンの悲願を裏切るとしても?」
「――はい。貴方とイリヤがいる世界が、私の生きた日々の全てです」
爛漫な笑顔が、ただこんなにも――。
彼女は切嗣が戦っている事を知っているが、彼の戦い方を知らない。けれどきっと、彼女はそれを知っても、彼を咎める事は無いだろう。
その言葉と笑顔に、少しだけ憑き物が落ちたような気がする。
もう、止まっていいのだと。そういわれたようで。
「あぁ、そうか……。救われたかったのは、自分だった。
だから、もう。休んでいいのか」
満天の星の夜、告げられなかった言葉がある。
夜明けに輝く海の上で、伝えられなかった言葉がある。
だから何かに突き動かされるように生きてきた。それに近づくたびに、自分が生きてていいのだと許されるようだったから。
機械であれと言い聞かせてきながら、人である事を願っていた。その一人相撲に思わず笑みがこぼれてしまう。
それはいつもの自嘲ではなく、かつての島に置き去りにしてきた時の――。
「……ありがとう、アイリ。
まずはこの戦争を終わらせよう」
「そうよ、だからまずは。セイバーとちゃんと会話して。ね?」
「……善処するよ」
そしてもう一つ気になる事がある。
銃を持った浅黒の男――カルデアのマスターは彼をエミヤと呼んだ。
詳細はまだ聞いていない。
けれど、何故か。あの姿と瞳に、古い鏡を見たような気がした。
円蔵山、地下大空洞。そこに一人の男が足を運ぶ。
言峰綺礼――既にその手から令呪は消え去っていた。
「ほう、神父か。来て貰ってすまないが、生憎懺悔する内容も覚えていなくてね。
お引き取り願いたい」
「何、そろそろ仕上げに取り掛かるところだと思っていた。それに中身が腐り果てとうに無くなった者であっても、過ちを正す心があれば主は告解を聞き入れてくださるだろう。
それにしても随分と醜いサマに成り果てたモノだな、衛宮士郎。道中にいくつも非道の仕掛けを施すとは。私の知るお前であれば、寧ろ咎めていたように思うが。
おかげで少々手荒くなってしまったな」
どうやらこの男は、仕掛けてきた罠の悉くを破壊してきたらしい。――だがそれよりも気になる事を奴は言った。
エミヤシロウ。えみや、しろう。
その名前に思い当たる節は無い。
苛立ちも怒りも憎悪も、何もかもを感じない。
いや、一つだけ感じるモノはある。
「……エミヤシロウ? それがオレの名か。……知らんな、寧ろ吐き気すら覚える」
「その事すらも忘れたか。最早今のお前は動く肉塊だな。人の形を得ておきながら、その中身は腐り落ち、何も残ってはいまい。その有様すらまるでヤツのようだ」
「そっちの方が都合がいい。容赦なく心を切り取れる。機械に感情は不要だろう」
「……違うな。今のお前は機械ですらない」
「何?」
「此度のお前の在り方が、既にソレを証明している。今のお前が動く理由が感情でなくて何なのだ。
機械は生み出し続ける。だが、お前が今から行う事は何も変わらん。無から無に変わるだけだ。
――無様だな、衛宮士郎。かつて過去を肯定し願望を否定したお前が、願望のために過去を拒むとは」
「……さてな。確かに俺のマスターがしようとしている事が酷く無意味な事はとうに知っている。そして英霊を呼び出すには値しない、先の無い願いである事もな」
そう、彼は語る。
過去を喪い、中身すら失くした男はただ淡々と、自身の結末を受け入れた。
「――ならば問おう。かつて正義を目指し、悪に落ちた少年。
君は何を求める。願望集うこの都市で何を為す」
「知れた事だ。この廻り続けた世界でその願いを果たす。
「――そうか、ならば私は見届けよう。
誕生が許されたのならば祝福を送り、許されぬのならば手向けを送ろう」
「いい加減なコトを。もう何度も付き合ってるんだろう、アンタ。
オレはカルデアの侵入と共に呼び出されたサーヴァントだが、アンタは違う。
この空想が最初に生まれた時から、ずっと見届けてきたんじゃないのか」
「さて、詳しい事は忘れたな。だが、今の私は求道者ではなく聖職に仕える者だ。
――そして変わったのは中身だけだ。今のお前と同じようにな。いや失礼。お前にもう中身は無かったか。或いは記憶の底に残った欠片だけか」
「どうだが。……そろそろ失せろ、仕上げに掛かる。
アンタはアンタの起源に従えばいい」
「言われずとも。ではな、喪った者よ。
――その呼びかけに応えた務めを果たすがいい。私からの餞別だ、受け取りたまえ。
例え何であれ、仕事であれば報酬はあってしかるべきだろう」
そうして彼が放り投げたのは一つのペンダント。
罅割れた、赤い宝石。
「これ、は」
問い詰めようと思ったが、神父は既に姿を消していた。
手にした宝石を見つめて、彼は呆れたように嗤った。
「……ただの石ころだな、宝石の価値など、今のオレに分かるものか」
――けど、どうしてか。
妙に、泣きたくなる。
四日目
既に日は上っているが、これは聖杯戦争ではない。故に縛りなど何もないだろう。
円蔵山の地下大空洞入口。道中にトラップも一切なく、シャドウサーヴァントの襲撃も無かった。
特異点Fの記憶を頼りにそこを訪れ、他に合流する陣営を待つ。既に残ったのはセイバーとライダー、そしてバーサーカーの三騎のみ。
結局、カルデアに通信はつながらず。頼れるのはアルトリア・オルタ、ランスロット、「」の三人。後は決戦礼装を含めれば、俺も頭数には含めていいのだろうか。
「……マスター」
「どうした、アルトリア」
「顔色が悪いぞ。食事はしたのか」
「……何でか、食べる気になれなくてさ。
どうにも昨日から。自分の行動の一つ一つに、罪悪を感じてしまって」
「arrr……」
俺の言葉にアルトリアはため息を吐いた。「」は困ったように頭をかしげて。
「自己否定もそこまで来ると厄介だな」
元々俺は、あんまり自分の事が好きじゃない。
カルデアに来てから、その性格は幾分かマシにはなったと言われるが。
何故か、この特異点に来てから。ずっとその感情が胸に残り続けている。
「……ごめん」
「謝るな馬鹿者。あぁ、全く。いつまで立っても変わらんな。ますます目が放せん」
「……返す言葉も無いです」
「……フン。サーヴァントの気配だ、征服王だな」
見れば空から迫る戦車とそれに乗った征服王。そしてマスターであるウェイバーもいた。
「ふむ、余が一番乗りと思ったが既に取られていたか。戦における陣の基本が分かっているな、小僧」
「貴方程では無いですよ、アレキサンダー大王」
「よせよせ、王からの言葉は素直に受け取っておくのが臣下と言うものだぞ」
「誰が貴様の臣下だ、間違えるなよ征服王。コイツは私の部下であり、家臣だ」
アルトリア・オルタの言葉に、ライダーは一際大きく笑った。
「ウェイバーは何で……」
「馬鹿、お前。こいつが一人で突っ走らないよう、見張ってるんだよ。土壇場で敵に回ったりするかもしれないからな」
「おいおい、そんな事は――無いとも言えんな」
「いや、言いましょうよそこは」
「はっはっはっは」
何て安心する主従だろうか。
カルデアにいるとどうしても違和感を覚えてしまうけれど、サーヴァントとマスターは原則一対一のコンビ。
二騎以上いると、どうしてもすれ違いが生じるからだ。立香とて一人だけで全てのサーヴァントと対話出来ているのではない。彼の傍にはマシュがおり、彼と彼女の関係に光を感じるからこそ、サーヴァントは力を貸してくれたのだ。
彼が一人で扱いきれるサーヴァントは、巌窟王と武蔵ちゃんぐらいだろう。
「――どうやら向こうの私の方も準備が済んだようだぞ」
バイクの駆動音――見ればスーツを着込んだアルトリアとその傍らにくたびれたスーツを着た男性。
その右手には令呪がある。
「遅くなりました、マスターも既にいたようで」
「あぁ、先回りしていた。場所は分かっていたからね」
「あれ、セイバーのマスターって……」
「なんだ気づいていなかったのか。あの女はフェイク。あの男が本当のマスターだ」
「……」
「衛宮切嗣だ」
「……衛宮?」
目には生気がまるで無い。
それにこの声、カルデアで聞いたような気がする。アレは、誰だったか。
「よし、では確認するか小僧。
現状味方と考えていいのはここにいるサーヴァントとマスターだけだな」
アルトリア、アルトリア・オルタ、バーサーカー・ランスロット、征服王イスカンダル、「」の五騎。
相手側はエミヤ・オルタに加えて無限召喚されるシャドウサーヴァント。
物量戦ではこちらが押し切られる。イスカンダルの宝具も固有結界を展開する必要があり、シャドウサーヴァントがどこから生み出されるか分からない以上、一時凌ぎにしかならない。
故に速攻でカタをつける。
「切嗣さん、頼んでいたものは……」
「あぁ、準備してある」
切嗣さんが用意してくれたのはサブマシンガン二丁。
これをランスロットに使用させれば、サーヴァントにすら対抗しうる切り札となる。
「……なあ坊主」
「おい、欲しがるなよ? 略奪するなよ?」
「うぬぬ……」
ランスロットがそれを両手に持ち、銃器が宝具化されたのを確認する。
よし、これで付け焼刃ではあるが戦力の増強が出来た。
「確認しよう。目的はあのサーヴァント……エミヤ・オルタの排除だな」
「はい、恐らくそこに今回の騒動の原因もある筈。彼のマスターを捕縛し、理由を吐かせます。
何故この聖杯戦争に異常が起きたのかを」
「そしてもし仮に、聖杯戦争が続行可能であれば。そこで雌雄を決するか。
何か変な感じ」
「敵味方など、時間と場所によって変わるモノよ。重要なのは何故戦うかだ。それを見誤るなよ坊主」
ライダーの言葉に、切嗣さんは微かに笑った。
「全く、耳が痛いな」
道中に敵影は無い。だがシャドウサーヴァントは瞬時に湧いて出る。
それから考えれば、アルトリアのような直感持ちが二人もいると言うのは助かるとしか言いようがない。
既にエミヤ・オルタとの戦闘の際の役割も考えてある。
彼に対しては切嗣さんとセイバーの二人で充分だ。彼の礼装と彼女の宝具ならば確実に押し切れる。
他は徹底的に露払いをこなしつつ、セイバーの援護を。切嗣さんが一撃を当てるための時間を稼ぎ、隙を作る。
「……」
そして聖杯の回収だ。既に事情を説明した。
切嗣さんとセイバーは納得し、ライダーは渋々と言った様子。ただもし聖杯を俺が回収して何も起きなければ、その場で第二ラウンドが始まるだけの話である。
その時はその時になってからだ。今はともかく、エミヤ・オルタを倒し、事情を聴かねばならない。今回の特異点の謎を。
「……」
結局、一度もシャドウサーヴァントに会うことなく、地下大空洞まで到達した。
奥に見える超魔力炉心。
その手前に男が立っている。
「エミヤ・オルタ……」
「あぁ、時間通りだな。時間に律儀なのは嫌いじゃない。仕事はスマートにいかないとな」
「御託はいい。ここで斬られるか、おとなしく全てを話すか選べ」
「どちらも断る――と言いたいところだが、それでは意味が無い。
お前には絶望して貰わなければ困るのでね、カルデアのマスター」
「……絶望?」
額に脂汗が走る。今、この男は俺に絶望をさせると言った。
アルトリア・オルタが俺を庇うようにして剣を構える。それがいつしか。ロンドンのあの時の光景と重なって見えて。
乗り越えたと思っていたトラウマが、掘り起こされていく。
「なぁ、エミヤ。貴方のマスターはどこにいる?」
「ハ、ハハハ、ハハハハ!! 何だ、お前は! 利用したヤツらの事すら覚えていないか!
いや、全く。実に無責任だ、これだから英雄に憧れた人間はタチが悪い!」
利用? 俺が、利用したものが彼のマスター?
足が震える。思考が急に停滞していくのを感じる。そこから先を考えるとなと。だが、もう遅い。
俺が思い出したのはロンドンでの戦い。あそこで俺はある奇跡を起こした。
でも、違う。ありえない。何より、そんな事が起こりうる筈が無い。
だって。それじゃ。
この特異点を作り出した一番の原因は――俺自身に他ならない。
「おい、話が読めんぞ。どこにいるかを言え、アーチャー」
「この世界そのものだよ。怨念と怨嗟の塊。死者達の願望に聖杯の力を加え、生み出されたのがこの特異点さ。
カルデアのマスター、アラン。お前が彼らを起こした。そして、彼らの感情が利用された。だが、マスターとしては不安定だ。無論それに呼ばれる英霊などいないだろう。――あまりにも喧しいから、わざわざオレが出向いたと言うコトさ」
それは、つまり。この特異点を作り出したのは個人ではなく、人々の無意識的集合体。
俺がかつてロンドンで為した奇跡は本来なら眠っていた筈の死者を叩き起こした。
それが在り得るかどうかなど、今はどうでもいい。だって、そうとしか思えない。
「……じゃあ、貴方のマスター、は」
ただ淡々と、エミヤ・オルタは真実を告げた。
俺が抱えなくてはならない、だがずっと目を背け続けていた罪を。
「あぁ、勿論この中さ。汲み取られた彼らの意志はここに凝集された」
取り出されたのは聖杯。
その中に、彼のマスターの意志が存在している。
それはつまり――。
「あぁ、そうだ。
本来の歴史において行われた第四次聖杯戦争。その最後に起きた災害――冬木市大火災、
誰かを助けるという事はね、誰かを助けない事なんだ。