カルデアに生き延びました。   作:ソン

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他に頭の中に構想しているのは

カルデアのAチーム+立香、オリ主によるアポクリファ乱入ぐらいですね。
ただこれ書こうとしたら
マスター勢合計:23人 サーヴァント:25人
聖杯大戦ってレベルじゃねぇぞ……。


After3 初日/英霊集結

 

 

「……っ」

 

 微睡から目が覚める。体は風にさらされていたのか酷く寒い。上から羽織っていたローブが無ければ凍えていたかもしれない。

 どうやらアスファルトに倒れているようだった。レイシフト、したのだろうか。

 体を起こすと、暗い空と海が見える。中でも一際目についたのは遠方にあっても視認出来る大橋だった。

 俺の記憶にある冬木は焼け野原も同然であり、こうしてきちんとした形でこの街を見るのは初めてだ。

 

「冬木……だな。それにしてもちゃんとしたレイシフトか」

 

 空の上とかもあったけど、それはそれとして。

 カルデアの通信機に手を伸ばす。通信をかけたが、全く応答が無い。

 故障したと言う訳でもなさそうだ。

 

「――そいつはムダな足掻きだ、カルデアのマスター。既にこの特異点は閉鎖された」

「……エミヤ?」

 

 掠れた声に振り返ると、浅黒の男が一人。映像でしか見た事のないその姿。

確か、エミヤ・オルタだっただろうか。――とある魔性を殺すために多くの犠牲を生み出したが、結局その魔性は自ら命を絶ち。結果、ただ意味のない犠牲を生むだけに終わった。その後は奪った命の後を追うように魔道に堕ちたと。

 カルデアで見た事は無い。確か新宿で立香が一度会った事があると言っていた。

 ――その雰囲気は敵か味方かはっきりしない。小さな警戒を抱きつつ会話を試みる。

 

「閉鎖って……」

「言葉通りの意味だよ。元凶を何とかしない事にはアンタは生きてここから出られない。

年は1994年。聖杯戦争の真っ最中。まだ始まったばかり。まさしく地獄の釜の中だ」

 

 色々と尋ねたい気持ちを全てのみ込んで、情報を理解する。

 今俺がいる場所では聖杯戦争が行われている。つまりはサーヴァント同士の戦い。

 ならば、まず一番先に聞かなくてはならない。

 

「……貴方は、どっちだ」

「無論、紛れ込んだ偽物だ。この聖杯戦争におかしなナリのアーチャーはいないからな。オレとしてもさっさと目的は済ませたい所だが、状況が状況だ。

 さて、どうする? アンタの望み次第で、こっちも身の振り方を考えるが」

 

 つまりは契約だ。

 エミヤ・オルタは何らかの目的があって、俺に接触してきた。それがマスターとしての契約なのか、それとも別の意味があるのか。

 けれど今は彼の言葉通りにするしかない。カルデアからの支援が絶たれている以上、縋れるモノは藁でも縋る。ここでもし俺が助力を拒めば、俺の利用価値は彼にとってゼロになる。つまりは始末されてもおかしくない。

 右手の甲を見せ、魔力を通した。令呪に淡い光が灯る。

 

「……分かった。オルタとは俺も縁がある。契約なら慣れているよ」

「そいつはいい。オレも面倒ごとは御免でね。何しろ未熟な魔術師なんて見ていられない。苛立ちしか覚えないからな」

 

 微弱ながらパスがつながったことを確認する。――これで彼もそれなりの戦闘はこなせるだろう。

 これで早速、この特異点に乗り出せる。

 

「話の早い男で助かる。クライアントとしてはギリギリ及第点だな。後は自ら火中に飛び込まない事を祈るばかりだ。

 さて、どうするカルデアのマスター? カタチだけとはいえ、れっきとした主従関係ではある。オレはアンタの指示に従うよ」

「……もう一度状況の把握がしたい。ここは1994年の冬木で、今聖杯戦争が行われてる。

 参加しているサーヴァントは?」

「そいつは見てみない事には何も言えないな。考察も重要だが、それは確かな事実が前提だろう?

 ここから少しした所に倉庫街がある。――今のところ、五騎がそこに集っているのは確認した」

「五騎、か」

 

 思案する。行くべきか別の手を考えるべきか。

 だが、今は何も手掛かりがない。解決への糸口が無い以上、足りない情報を埋めるしかない。

 

「……行こう。戦闘は指示を出す」

「了解した、行こうかカルデアのマスター。いつもの如く、世界を救いに行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 倉庫街。

 そこに集うサーヴァントは五騎。不可視の剣を持つセイバー、二槍を操るランサー、戦車にて空を駆けるライダー、全てを見通すアーチャー、暗黒の霧を纏うバーサーカー。

 アーチャーの爆撃にも等しい猛攻を、バーサーカーは難なく対応して見せた。それこそ一つのかすり傷も負うことなく。

 それは彼にとって屈辱である。全ての英霊は彼にとって下に見るべき存在でしかない。その端正な顔立ちが怒気に染まり、背後に無数の宝具がその鏃を覗かせた。もしそれが一斉に掃射されれば、その一帯へ及ぼす被害は想像を絶する。

 ――だが突如としてアーチャーは舌打ちし、あらぬ所へ視線を向けた。

 

「――フン、ようやく来たか。遅すぎるわ、星見共が」

 

 彼が見たのは、倉庫街の暗闇。全員の視線が誘われるようにそこへ集う。

姿を現したのは黒のローブを羽織った少年と二丁拳銃を携えた浅黒の男だった。

 

「……おい、そんな。嘘だろ、何がどうなってるんだよ」

「ん、どうした坊主?」

「アイツのクラススキル、単独行動が入ってる。……アーチャーにしか与えられないスキルの筈なのに」

「……ははーん、そういう事か。つまりあのサーヴァントもアーチャーであるという事か」

「何で同じクラスが二人いるんだよ……!」

 

 マスターである少年――ウェイバー・ベルベットの狼狽をデコピン一発で沈黙させた後ライダーは顎に手を当てて、興味深そうに思案する。既にその頭は、目の前の戦力をどう引き入れるかを考え始めていた。

 少年はアーチャーを見上げる。彼の言葉に、どこか思い当たる節があったらしい。

 

「……ギルガメッシュ王、もしかして記憶を」

「貴様が記憶に留めているのなら、我にとって既知も当然の事。この名を記憶に刻む栄誉を賜ったにも関わらず、我を矮小な括りで呼んでいようなら、其れは刎頸に値するぞ雑種」

「知り合いか、あの男の対応はさぞ疲れるだろう。話から察するにあの男をアーチャーと呼べば、お前の首は飛んでいたらしい」

「……ノーコメントで」

 

 ギルガメッシュ――原初の英雄王。その真名が突如として明かされた事に、少年への不穏感はさらに高まっていく。

 彼は辺りを見渡した。それぞれのサーヴァントを見定めるように。

 ――そしてソレを遠くから捉える男の視線がある。

 彼の命をスコープ越しに見透かす、一人の男。

 

『……切嗣』

「ひとまず泳がせておく。こちらが知りえない情報を持っているようだ。今のところはじっくり語ってもらおうじゃないか。

 勿論、必要とあれば、始末する。そもそもこちらの騎士王様は真名が明かされたところで対処のしようが無い」

 

 ワルサーWA2000の引き金に指を添えたまま、衛宮切嗣は小さく息を吐きだした。

 少年の傍にいるサーヴァント、二丁拳銃を手にしたアーチャー。その佇まいに既視感を覚えたのは、気のせいだろうか。

 それを振り払うようにして、スコープの世界に意識を落とす。

 人類を救う。その悲劇を、その絶望を、その涙を、無かった事にしないために。

 

 

 

 

 いきなり死ぬ瀬戸際だったらしい。バビロニアでの記憶は朧げでしかないが、それでもあの時のギルガメッシュ王はかなり丸くなっていたのだろう。過労死するぐらい忙しかったようだったし。

 閑話休題。ここに集ったサーヴァントは六騎。

 どう動くべきかを思案する。カルデアでの経験を総動員する。そうでなければ生き残れない。

 騎士王アルトリア・ペンドラゴン――誉れ高きアーサー王。九偉人の一人であり、カルデアでの主力の一人。事実、最優と呼ばれるクラスに最も相応しい英雄だろう。マスターが近くにいるのが幸いだ。エミヤ・オルタなら銃撃でマスターを牽制しつつ戦える。遠距離の間合いを持つ風王結界よりも彼の銃弾の方が遥かに早い。

 フィオナ騎士団一番槍ディルムッド・オディナ――二槍を操るケルトの英雄。クーフーリンに匹敵する技量を持ち、魔力を無効化する能力と癒えぬ傷を与える二槍は脅威。加えて本人の白兵戦も極めて高い。エミヤ・オルタが魔術師である事を考えると、現状では最も戦いたくない相手。もしやり合うとすれば、一撃一撃が膨大な威力を持つサーヴァントがベストだろう。或いは彼と拮抗する技量を持った者か。

 ギルガメッシュ――英雄王。最早その強さは語るに及ばず。今の戦力で戦えば間違いなくこちらが死ぬ。

 ランスロット――円卓最強と謡われる騎士。それは今のカルデアのスタッフで誰よりも俺が知っている。バーサーカーではあるが、その技量は尚も健在。勝ちは到底見込めない。

 イスカンダル――世界史に名高き征服王またの名をアレキサンダー大王。知名度なら世界有数。ライダーのクラスで限界しており、あの戦車は紛れもない宝具だ。今のこちらでは逃げる事もままならず、戦えば瞬殺されてもおかしくない。

 そして何よりエミヤ・オルタの戦い方を俺はまだ熟知しているとは言えない。立香ならすぐに戦術を組み立てられるだろうけれど。この場所にカルデアからの支援は届かない。

 ひとまず誰かを撤退させるしかない。この中で言葉が通じそうなものと言えば――いやでもやるしかないだろう。マスターが直接いないのは彼しかいない。

 唾を呑み込む。どうせここで言わねばいずれ死ぬのだと、自分に啖呵を切った。

 立香、丸くなっていた時代とは言えあの王様にバーカバーカと言えたのは、多分お前とシドゥリさんぐらいだよ。

 

「ギルガメッシュ王、まさか貴方はここで剣を振るわれるつもりで?」

「――ほう、諫言か。良いぞ、赦す。申してみよ、下らなければその場で手打ちにするがな。一言一句、己が魂と語りながら、我に告げて見せるがいい。

 無論、口を閉ざそうものなら我が宝剣で体ごと縫い止めてやるぞ?」

「っ……。貴方が軽く力を振るえば、それだけでこの聖杯戦争が終結します。

 俺は貴方を知っている。かつて古代バビロニアで、俺はその力をしかと見届けました」

「……それで? 確かにウルクでの貴様ら星見の功績は認めよう。未来を繋げた事もな。

 だがここにいる我とその王は別人だ。既にウルクは滅亡した。――故に我が裁定するはこの時代に他ならぬ。この時代の者が生きるに相応しいかを見定める。ただそれだけよ。

 ――暇潰しにもならんな、戯けが。やはり貴様は道化よ。己が人生を愉しむ事すら知らん愚者に、我が耳を貸すとでも?」

 

“さっき赦すって言ったじゃないですかぁー!”

 

 何だこの理不尽と、内心舌打ちする。

 この王は人類にとって北風のような存在。成長させるために、輝かせるために、超えられる苦難を与え、乗り越えようと足掻く人々の価値を認めるモノ。――それが俺の知るギルガメッシュ王と言う人物だ。

 俺にとってバビロニアでの日々の記憶は夢で見たようなモノ。はっきりとした光景が浮かんでいる訳ではない。けれどそれでも言葉を濁さず、伝えるべき事を伝えた。

 それらを総動員して、この結果だ。

――ギルガメッシュの目は変わらない。彼は何一つ表情を崩すことなく、展開していた宝具を、俺に向けた。

 

「だが、しかし。貴様が今の我に向けるその敬意は紛れも無い本物だ。貴様がマスターであれば、手慰み程度はくれてやったものを。

 凡庸のサーヴァントにすら、至上を尽くすその姿勢は認めてやろう。手心は加えてやる。無論、児戯程度だがな。

 七挺だ、上手く避けろよ?」

 

 ギルガメッシュの背後に七つの宝具が出現する。

 ――射出される。その速度は回避不可。

 怖い。目の前に突きつけられた殺意に、腰は引けそうになってしまう。英雄王ギルガメッシュ。彼が本気の殺意を放てば、俺は息をする事すら困難に陥るだろう。

 今だって十分に怖い。オケアノスで出会った時のヘラクレスすら比べ物にならない。

 だがそれでも唇を噛んで。その輝きから目を逸らず、震えていた足を叱咤する。

 

「――arrrrrrrr!!!!」

「バーサーカー!?」

 

 瞬間、バーサーカーが俺の眼前に立ち――雷の如き速度で飛来する宝具の群れを迎え撃つ。

 まるで、俺を守るかのように。

 その後ろ姿に、酷い既視感を覚える。

 

“――貴方、は”

 

 飛来する二つの宝具を手にしていた剣でどちらも叩き潰す。さらに迫る二発。その内の一つを剣を投げて打ち落とし、残る一本を掴み留めた。

 さらに迫る三つ。それぞれ別の軌道を描きながら迫る必中――。先ほどのように単身での対処は不可能。

 一つをエミヤ・オルタが、一つをバーサーカーが、もう一つは――

 

「間に合ったか、無事だなマスター」

 

 俺の傍に立つ黒の騎士王――幾度となく俺の道を切り開いてくれたその剣が、飛来する死を叩き落とした。

 今、彼女はオレをマスターと呼んだ。その雰囲気と口調の柔らかさを知っている。つまり彼女はカルデアから来たサーヴァント。

 アルトリア・オルタ――火力において俺が信頼を置く一人。そして幾度となくその輝きと在り方に救われた。

 

「なっ……! 黒いセイバーだって……」

「ほー、また随分変わるモンだなぁこりゃ」

「……アイリスフィール、気を付けて。あの輝きは確かに……!」

「セイバー……」

 

 完全武装――いや、バイザーだけしていないが。それでもやはりその姿は頼もしいの一言に尽きる。

 震えていた足は自然と落ち着いていた。英雄王の在り方に弱気になりかけていた心に火が灯る。

 

「アル……オルタ」

「詳細は後で伝える。今は傍から離れるな。

 ――随分と我がマスターを可愛がってくれたようだな、英雄王」

「フン、堕ちた聖剣か。また随分と狂った女を躾けたものだな、雑種。そうでありながらモノにすらせんとは……。愉しみが無い生に価値を見出すとは、苦行を好む輩か貴様は」

 

 何とも言い返せないから、実にタチが悪い。

 アルトリア・オルタ、エミヤ・オルタ、バーサーカーの三騎ならば。かろうじて勝ちは拾える所。撤退させるまで追い込む事も可能だ。

 だが、ギルガメッシュ王はさもつまらなさそうにため息を吐いた。いい所で水を差された子どものように。

 

「――ちっ、時臣め。令呪など使いおって……。まぁいい。

 精々、無様に足掻けよ。尤も、この戦に報酬など無いがな」

 

 そう言い残して。ギルガメッシュ王は姿を消した。――俺がサーヴァントの真名を明かした以上、それ以上情報がこの場で漏らされると不味いと考えたのだろう。余程慎重な性格のマスターか、或いは実戦慣れしていない。そもそもサーヴァントの扱いに長けていないと見えた。

 場の重圧が僅かに和らいだような気がする。この場で一気に味方が増えた事に強い安堵がある。

 残ったのはライダーとセイバー、そしてランサーだ。

 バーサーカーは、恐らく味方と判断していい。でなければ先ほどの行動に説明がつかない。

 誰と誰をぶつけるか――。いや落ち着け。状況を見ろ。

 

「サーヴァントを三騎も従えるか。いやはや、ただのマスターではないなお主?」

「まさか……。ただ守られてるだけの飾りですよ。真っ当なマスターでも、魔術師でもないです」

「嫌味のつもりかしら、年若いマスターさん。魔術師でも無いのに、それほどサーヴァントを従えるなんて」

「本心ですよ、セイバーのマスター」

 

 その言葉に、セイバーのマスターであろう女性は不敵に笑んだ。まるで引っかかったと言わんばかりに。

 貴腐人、失礼。貴婦人らしからぬその挑戦的な笑みに、これがマスター戦なのだと気づかされる。マスター同士の諜報。矛を交えない戦いは、局面を優位にするための盤石だ。

 そこに俺達の真価が問われる。

 

“――お待たせしたわね”

「!」

 

 脳裏に声が聞こえると共に傍らに彼女が降り立つ。それも刀を携えて。

 白の着物――俺が初めて彼女と契約した時の衣装であった。

 

「ごめんなさい、マスター。遅くなったわ、ちょっと覗き見してる人がたくさんいたから斬り捨ててきたの」

「相変わらず言う事が物騒で安心したよ……」

 

 ――これなら、まだ何とかなる。

 完全に信頼のおける者がここに二人もいるのだから。

 

「ほう、まさかの四騎か! これはこれは。猶更頭も回るわい!

 お主、余の軍門に下るつもりは無いか?」

「ははは、申し出は有難いんですけど。骨はある場所に埋めるって決めてるんで」

「うむむ……待遇は応相談だが?」

「ライダー! こいつは敵だぞ! 倒すべき相手なんだぞ!

 何悠長に勧誘なんかしてるんだよ、お前――ぎゃわん!」

 

 またデコピンされてる……。あれ、絶対痛いぞ……。

 オルタ達に足踏まれた事はあるけど、アレは手心を加えてくれたのだろう。で無ければ確実に骨が砕けていた。

 

『ランサーよ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪を以て、貴様に命ずる』

「はっ、何也と」

『そこの小僧を始末しろ、お前の槍を以て、傷を負わせるのだ』

 

 ――ランサーのマスターであろう男の意図が読めた。要するにサーヴァントを多く有する俺を先に潰すつもりだ。

 ディルムッドの宝具には、癒えぬ傷を負わせる力がある。それでじわりじわりと削っていく戦法へと切り替えるのだろう。

 確かに、それならば。各個撃破が現実的となる。ディルムッドの技量ならば不可能ではない。

 

「――悪く思うな、少年。その命貰い受けるぞ」

 

 ディルムッド・オディナ。二槍を扱うランサー。一度でも傷を受ければ、回復不可能。加えてフィオナ騎士団でも一番槍を担う技量の持ち主。

 その槍先が俺に向けられる。けれどそれを遮るように、オルタが立ちふさがった。

 

「……頼む。一番相性がいいのは、恐らく貴方だ。指示は念話で送る」

「いいだろう。任せておけマスター」

「アーチャー、セイバーを任せたい。ランサーとの戦いでそれなりに消耗している筈だ。必要と見れば、支援する」

「……やれやれ、見ているだけの楽な仕事だと思ったんだが、仕方ない。契約は契約だ」

「バーサーカー、貴方は撤退を。本当のマスターの所に戻って、貴方のしたい事を為してくれ。

 守ってくれて、ありがとう」

「mas……ter」

 

 消失した彼の姿を見てどこか安堵した。

 あぁ、やっぱり。彼の霊基には間違いなくカルデアの――。

 

「私はどうしたらいいかしら、マスター」

「俺の傍に。いざという時に」

 

 これでいい。守りは彼女に委ねれば間違いない。

 俺の周囲にサーヴァントがいなければ、ディルムッドはオルタを強引に振り切って、俺を狙いに来ていた可能性も否定できない。

 何しろ令呪がある。カルデアのような自動回復ではなく、大聖杯から直接与えられるそれは、サーヴァントの体ですら強制使役せしめる程。

 たとえそれが、ディルムッド・オディナの殉ずる道に反していたとしても。

 

「おうおう、余にはあてがわんのか小僧?」

「いや、多分貴方も僕と同じだと思うので」

「……ほう、それは何がだ?」

「いや、ほら。だって心躍るでしょう。サーヴァント同士の決闘って」

 

 無理に虚勢を張る。本当は出来れば見たくない。でも戦う事を本分とするのがサーヴァントだ。であれば俺は彼らの意志を尊重する。それがマスターの役割だ。

 俺の言葉に、ライダーは破顔して満足げに頷いた。

 

「ならば観戦としゃれこむとするかの! いやあ、良い! 実に良い!

 良いか、坊主。よく目に焼き付けておけ。サーヴァントの戦いってヤツをな。そうすりゃ余の気持ちも分かるだろう?」

「……帰りたい」

 

 

 

「舞弥、あのセイバーが言っていた事は」

『アサシンの姿がありません。事実です』

「ならこちらも見られていたという事か」

 

 戦況は余り宜しくない。切嗣はただ淡々と分析し、次の一手を思案する。

 あの着物を着たサーヴァント、セイバーは恐らく一番危険だ。アサシンに気づき、それを始末した。であれば間違いなく切嗣達には気づいている。そうでありながらこちらには何もしてこなかった。

 アレはただマスターの指示が無かったから、何もしなかった。もしあのマスターが始末しろと告げていれば、切嗣も舞弥も確実に仕留められていた。

 サーヴァントを三騎も有する――それだけで聖杯戦争にとっては大きなアドバンテージだ。だが、同じクラスが二騎いるという事実がどうにも腑に落ちない。

 あの着物の少女が本当にセイバーだとすれば、この聖杯戦争にはセイバーのクラスが三騎存在する事になる。

 聖杯には予備システムも存在すると言う話こそ聞いてはいたが、それが作動したとも考え難い。そうであれば、同じクラスが三騎――サーヴァントの総数が二十一体など、冬木の被害が目も当てられない事になる。

 それよりも、あの黒いセイバーはステータスが全く読めない。それは何かの隠蔽工作を施しているからか或いは全く別の――。

 

「……どう、処理するか」

 

 この冬木での流血を以て、人類の悲劇を終わらせる。

 その意志と願いこそが衛宮切嗣を稼働させるモノに他ならない。

 

“いや、今はただ見定めるだけだ”

 

 何せよ、あのランサーを潰してくれるのであれば好都合だ。こちらが手を尽くす間も省ける。

 予期せぬ八人目のマスター。その姿と瞳に、かつての自分を垣間見る。

 だがそれがどうであれ、願いを阻むのであればただ斃すだけだ。

例えその事実に自分の心がどんなに軋みをあげたとしても。そんな当たり前の苦痛は、とうの昔に慣れている。

 

 




今回のまとめ

デミヤ氏、ナビゲーター枠で参戦。FGO的にいうとサポートで、レベル100スキルマ宝具マの状態。

ランスロット氏、執念のレイシフト。

時臣氏、英雄王VS「」という大惨事を回避するファインプレー。
トゥリファス「ふざけんな」
スノーフィールド「そっちの金ピカ、こっちと交換してくれません?」

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