カルデアに生き延びました。   作:ソン

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おかしい……俺は新選組を召喚するためにこの話を書いたと言うのに、何故沖田さんは来ない……?

と言う訳で、百重の塔編終了でございます。また実装されたサーヴァントが来れば、召喚祈願で投稿するでしょう。


これ、異伝形式で書いた方が楽だったんじゃ……。


After1 百重の塔 80階~100階

 

 

 

「あら、いらっしゃいマスター」

「……」

「ふふっ、予想通りの反応をありがとう」

 

 笑顔で待っていたのは、「」の姿。しかもご丁寧に日本刀まで携えている。

 何で俺の周りって爆弾ばかりなのかなぁ。あ、俺が一番ヤバいからか。

 

『ん、んん?? ……おかしいな』

「どうかしたんですか、ドクター」

『いやね、そこのセイバーの反応なんだけど……いつもよりかなり強いんだ。

 最終強化と言った方がいいかな。霊基が限界まで強化されてる』

「え?」

 

 サーヴァントを強化した記憶は無い。スキルも霊基も、十分強い範囲までは上げたはずなのだが……。

 聖杯はまだカルデアに切り札として、厳重に保管されている筈。無断での使用はいくらマスターやサーヴァントと言えども処罰の対象になる。ちなみに罰の内容はエリザベートの手料理フルコースにネロ皇帝のライブ付きだ。さすがにこれを破るようなヤツはいない。

 

「……種火はしばらく使ってないしなぁ」

 

 立香に三桁ぐらいは渡したはずだ。もう俺のサーヴァントは充分な強さを持っているし。

 一体何をしたら、強化されるのか。

 

「あら、簡単な事よ。貴方の血を飲んだの。こう、夜中に忍び込んでね。

 まず貴方の寝顔を堪能してから、首の所を小さく切って。貴方を味わったら、また寝顔を見て、時々寝床に一緒に入ったりして。夜明けが近くなったら、また出ていく。

 私にとって、何の変わりもない日常よ?」

「――」

「――」

「――」

『――』

『――』

 

 ――。

 

『通りすがりのオリオン君、何か一言を』

『だから、女神はやめとけって』

 

 サンキュー、オリオン。ちょっとフリーズしてたようだ。

 あぁ、道理で。首が痛かったわけだ。

 

「……で、何で俺の血なんかを」

「気づいてないの、マスター? 貴方の血はね、サーヴァントの霊基を強化させる力があるのよ」

「……何ですと?」

 

 ちょっと何言ってるかよく分かんない。

 そんな俺の表情を見て、彼女はくすりと笑った。

 

「今の貴方はちょっと特殊な体質。聖杯の願いによって生まれた――ホムンクルスに近い。

 純粋な魔力によって、貴方の体はもう一度作り直された。……真エーテルの体から生み出される体液。魔術師さんなら、喉から手が出る程欲しい一品よ?」

「三行で分かりやすく」

「マスターの体液で

 レベルマスキルマフォウマ宝具凸し放題

 QPと種火と素材はいらない子」

 

 カルデアの設備全否定してませんか。

 

『……ほう。じゃあアラン君と契約しているサーヴァントは皆、ブーストされていると考えていいのかな?』

「体液を飲んだサーヴァントなら」

 

 それ、貴方だけだから。

 サーヴァントとそういう事はしないって、心に決めてるし。

 

『あー、うん。ドクター、あとは任せるよ。ちょっとオルタとセラピストが暴走しそうだから』

「……なぁ、セイバー。何でいきなり俺の血を?」

「ただ貴方と一つになってみたかっただけ。そうすれば、どこに跳んでも、貴方を追跡できる。

 あぁ、でもまだ粘膜接触はしてないわ。私だって、さすがにそれは恥ずかしいもの。時と場合を弁えてからね」

 

 そういって顔を赤らめる彼女。

 そうしてると女の子らしいけど……。

 

「……待った。俺の部屋のロックは起きた時にはしっかりかかってた。キミがもし入ってきたなら鍵を壊すしかない。

 それは、どう説明する?」

「簡単よ、鍵を一度殺すの。そうしてまた出ていくときに、新しい鍵に書き換える。それだけよ?」

 

 夜這いに根源を使わないで。

 魔術師が聞いたら卒倒するから。

 

「それに、マスターの生き血を啜りたいと思ったのは私だけじゃないわ。

 そうでしょう? そこのアーチャーさん」

「――」

 

 彼女の視線は、アーチャーを見ていた。

 

「だって貴方、時々マスターの事を壊したいような目で見ているもの。さすがの私でもちょっと看過出来ない事は何度かあったわ。

 鬼の血が流れるお人は、みんなそうなのかしら」

「……否定はいたしません。それは事実でございます。反転衝動、それが鬼の血を引く者の定めなれば」

 

 カルナもランスロットも幸い、アーチャーに視線を向けるだけだ。彼女の事を信頼してくれているのだろう。

 

「なら――」

「――ですが、そんなのは抑え込んでいます。気合です、気合。

 所詮は気持ちの問題。僅かに溢れてしまう事もしばしばありますが、それはそれ。

 鬼の宿命など、既に塗り潰しております故」

「アーチャー……」

「そう……。それが事実である事を願いましょう。そして証明は出来る? 貴方に、彼を守る事が出来ると」

「当然の事。それが、アーチャーである巴の為すべき事。そして果たし続ける事。あの方との、約束でありますから。

 さぁ、マスター。ご指示を!」

「あぁ、分かった!」

 

 

FGO的バトルイベント

 

 

「あいたたた……。せっかくの着物が」

「あっ、し、失礼しました! 後でお召し物を……!」

「ふふっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪してみたの。

大丈夫よ、マスターが選んでくれた着物があるから」

 

 おっと、カルデアの通信から視線を感じたぞ。

 見なかったことにしよう。

 

「さぁ、塔も残るところ二十階。上にいた鬼の子なんだけど、私が近づいたら逃げちゃったのから、残る戦いは実質一回ね」

 

 茨木ェ……。いや、まぁ吸血の下り知ったらそうなるよなぁ。

 

「マスター、帰ってきたらまた貴方の話を聞かせてね」

「うん、終わったらね」

 

 

 

 

 

 百階――。酒気の影響がかなり強くなっており、カルナとランスロットは下の階に待機させた。何かあればすぐ令呪で駆け付けられるようにはしてある。

 

「えぇ、眺めやわぁ。ようここまできはったなぁ」

「ふははははは!!!」

 

 茨木の笑いも何故か、やけくそ気味に聞こえる。

 何か苦労人の雰囲気を感じるなぁ。

 

「旦那はんもようあがってこれたねぇ、ええ子ええ子」

「戯言はそこまでです。この塔を早く解体なさい。

 約束通り、上がってきたのですから」

「なんや、遊び心が無いなぁ。――まぁ、ええわ。

 それよりあんたはんに聞きたい事があってな」

「……何でしょうか」

「――あんたは鬼なん? それとも人なん? まぁ、ウチからすれば答えはもうみえとるんやけどね」

 

 怪力、炎――それらから導き出される答えは一つ。現代に生きる者でも、その血を引く者はいる。とある山の中で仙人のように生きる男や、名家の当主の少女などが当てはまる。男の方は俺も出会った事があるからだ。

 

「それに旦那はんも気づいてるようやし。そろそろ答えを聞きたいと思うてなぁ」

「……そんな事のために、わざわざこんな塔まで。

 あぁ、ですが。私なら既に答えは得ています」

「ふぅん、なら聞こうか」

「私はアーチャー、巴御前。鬼の血を引く人間であり、人の形をした鬼でもあり。

 そして――マスターであるアラン様にお仕えるサーヴァントに御座います。ただ、それだけです」

「……アーチャー」

「――なら旦那はんにも聞こうか。あんたはどっちに見える?」

「……どっちもだよ。彼女が言ったように、人にも見えるし鬼にも見える。けど、彼女は彼女で。俺の召喚に応じてくれたサーヴァントだ。

 俺にはそれで充分」

 

 俺とアーチャーの問いに、酒呑童子は小さく息を吐いて。器の酒を飲みほした。

 その行為に到底、戦いの気配は感じられない。

 

『――おや、魔力の気配が弱くなったね。牙はしまってくれたようだ』

「なっ、しゅ、酒呑!?」

「茨木は、はよカルデアに戻り。ウチはまだやる事があるさかい」

 

 酒呑童子が屋根に上がっていく。

 アーチャーは俺を一瞥し、彼女を追った。

 屋上に上がったアーチャーから退避の言葉が聞こえてきたのと、酒呑童子が地上めがけて飛び降りていく光景を見えたのは、それからすぐの事だった。

 

 

 

 酒呑童子があんなにもたおやかに見えたのは、初めての事でしょう。

 きっと人を信じられないのだと。人と鬼が共に生きる事を信じられず、それでも心の片隅で願っているようにも見えました。

 

「気持ちの良い、青空ですね。

 ……そういえば」

 

 見覚えのある青空に息を吐いて。脳裏に蘇った別れの記憶を思い出す。もうそれは報われたことだ。だからいつでも抱え込む必要は無いのだと。

 屋上で、空を見上げながら私は一人言葉をこぼしました。武者らしからぬ行為ではありますが、胸の奥にまだ鬱屈した感情が残っていることを自覚したからです。

 思えばここに来るまで、長い道のりを歩んできたものだと。

 

“長い旅と永い時間でした”

 

 塔を登る度、マスターは時々困ったように、でも心の底から楽しそうに笑っている風景。それに何度穏やかになれた事か。

 えぇ、そうです。私は――アーチャー・インフェルノは最初の彼に呼び出されてから全ての記憶を持っています。この世界では剪定事象に区分されるであろう世界で。

 

「マスター……」

 

 召喚された最初の世界では彼を救えなかった。令呪の祈りを受け取り、私は世界中を旅したのだ。

 目的はただ一つ。彼を救うために。けれど死者は決して蘇らない。あの方は世界を救ったにも関わらず、それだけで英霊に昇華された訳でもない。

 だから世界を渡る事を決めた。とある異界の神を名乗る者の誘いを受けて。

 

“初めまして、俺は……アランって言います”

 

 世界を渡り、その都度彼に出会った。挨拶の言葉に心を抉られる事もあったが、私の知るあの人とほとんど変わらない。

 救うために何度も戦った。何度も刃を振るった。

 ――でも。

 

“……俺はここで終わるみたいです。何も返せなくて、こんなマスターでごめんなさい。

 どうか、貴方は生きて。幸せに、なってください”

 

 そう泣きながら私に謝り続けた。その光景を何度も見せつけられた。

 私に、貴方を救う事は出来なかった。一度たりとも、生きて別れる事は叶わなかった。

 十回を超えてから、世界を超えた回数は忘れた。そうして異界の神にこう言われたのだ。

 

“お前の存在だ。お前がもしその世界に入れば、彼の死はその時点で確定する。

 ――お前が足掻けば足掻く程、救いたいと強く願う程。その全ては彼を死に追いやるのだ”

 

 その言葉にただ発狂し、我武者羅に足掻いた。何度も手を伸ばしたけど、それが届くことは一度もなかった。

 ただ彼には幸せになってほしいだけだった。あの日々に報いる何かを返したかった。

 あの顔が、あの手が、遠いばかりで。何度手を伸ばしても――。

 

“世界を作り変える。それなら私も手を貸す”

 

 異性の神はそういった。所業に手を貸すのならば、彼を救うと。

 ――だが、その言葉に私は決して頷かなかった。

 それは裏切りだ。彼が生きる世界を、彼が生まれた世界を否定する事に他ならない。

 そうして、最後に辿り着いたのが、あの場所だった。汎人類史の中に分類される世界。

 霊基も擦り果て、燃え尽きる寸前で私は彼が生きる世界を見たのだ。

 

「……」

 

 しかし、それも彼の生きる世界にはならず。彼は獣に落ちた。

とある異邦のマスターを生かすために、私は彼と対峙して敗れた。そうして、私は消滅した。消滅した筈だった。

 ようやく終われると言う身勝手な安堵と、最期まで彼を救えなかったという後悔を胸に抱いて。

 

「不思議なものですね、運命とは」

 

弓に矢をつがえる。

 ただ青いばかりの空が、どこまでも広がっていた。

 

「――」

 

 消えて、目が覚めたのはカルデアの天井。不思議な事に記憶だけが残っている。

 彼と共に歩んだこと。そして彼に敗れた事。

 ――カルデアの人々に詳細を聞き、そこで私はようやく事態を呑み込めたのだ。そして帰ってきた彼を見て、初めて。自分の旅に一区切りがついたのだと悟った。

 

「今度こそ守り続けて見せましょうマスター。それがサーヴァントの務め。そして私自身の願いなれば」

 

 中天に浮かぶ太陽。その輝きはいつも変わらない。

 眩しい光は、あの方を思い出す。

あの方(義仲様)が、彼を守っていると願って。あぁ、そうだ。だから私はずっと、旅の最中にこの言葉を唱え続けてきたのだ。今までも、そしてこれからも。

 旭の輝きが彼の闇を照らしてくれる事を祈って。

 

真言・聖観世音菩薩(オン・アロリキャ・ソワカ)!」

 

 放たれた矢は火炎を迸らせながら、空へと昇っていく。今まで幾度となく放ってきた宝具。このような気持ちで放つのは、初めてかもしれない。

 私の旅路を思い出し、これからの未来に思いを馳せる。

 どうか彼が、健やかに穏やかに、幸せに――長生き出来るように。

 

「――アーチャー! 離脱を!」

 

 下から声が聞こえる。

 見れば、マスターはカルナ殿に抱かれて。既に塔から飛び降りていた。

 その姿を追うようにして、私も飛び降りる。

 今の彼は立派な大将の目をしている。だが、まだ年若い身。これから彼は青年として育っていくのだ。これからの時代を担い、未来を生きる者として。

 ならば私は陰から支えよう。荷物を一緒に抱える事は出来ないが、それでも。崩れ落ちそうになる体に手を添えるぐらいは出来るだろうから。

 

“義仲様――早く来てくださらないと、マスターはどんどん成長していきますよ”

 

 

 

 

 俺が初めて単独で特異点修復を果たした次の日の事、レクリエーションルームに入るといつもより人混みが目についた。

 どうやらテレビの前に多くのサーヴァントがいるらしい。

 

「あっ、ちょっ、アンタねぇ……!」

「ふっ、これだから突撃するしか能のないサーヴァントは」

 

 アレはジャンヌ・オルタとアルトリア・オルタの二人。

 ゲームをしているのはインフェルノと……孔明か。

 

「おはよう、アランちゃん。あら、やだ。買ってきた服を早速着るなんて、女心が分かってるわね」

「おはようございます、ペペさん。……これは」

「ふむ、来たかアラン。よし、変わろう」

「えっ?」

 

 孔明からコントローラーを握られるも、まだ事態が呑み込めない。

 周りのサーヴァント達やマスター達も声援を飛ばすか、見守るかに徹している。

 

「マスターならばサーヴァントと交友を深めるのも、役割の一つだ」

「マスター、私とチームですよ! さぁ、ドン勝を目指しましょう!」

 

 いつもと変わらない一日。

 何てことはない。長い旅の末に、俺が得た穏やかな日常があるだけ。

 今日も俺は、カルデアに生きている。

 

 





「あの、アーチャー」
「はい、如何されましたか?」

 シミュレーションを目前にして、彼女に声をかけた。今から彼女が赴くのは、マスターが不在の戦闘訓練である。
 いつもなら、簡単に声をかける筈なのに。どうしてか、今の彼女とはしばらく会えないような気がしてしまって。
 なんだか、親離れ出来ない子供のようだ。

「いや、その。無事に帰ってきてほしい。貴方の声を、また聞きたいんだ」
「……はい、無事に帰って参りますとも。ですからどうかマスターも、不安な表情をなさらないでください。
 まるで、今生の別れのようではありませんか。大丈夫です、私は必ずまた会いに来ますから」
「……アーチャー」
「はい」


「行ってらっしゃい」


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