カルデアに生き延びました。   作:ソン

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だから、ガチャの追加は教えてくれって言ってんダルルォ!?

沖田は欲しいけど、さすがに厳しいんで撤退します。本命の土方さん引けたから目的は達成。
いいか、作者もオリ主もホモじゃないぞ(迫真)!



次回で百重の塔編完結。ちょっと話を作りたいんで投稿が遅くなります。


After1 百重の塔 40~70階

 四十階到達。眺めを楽しむ余裕も出てきた。

 ちなみに未だあの二人は合流していない。

 

「おや……あちらの騎乗されている方は」

「アルトリア、か。ランサーの方の」

 

 ランサーアルトリア・オルタ。何でもセイバーオルタの霊基を起点に自然召喚されたサーヴァント。要するに気が付いたらカルデアにいたのである。

 召喚した覚えがないのに、マスターと言われた時の驚きと言ったら……。

 それをランスロットに話したら、すごく同情された。アレか、ギャラハッドを初めて見た時の心境なのか。

 

「ようやく来たか、マスター。私を待たせるな」

「いや、でもここ四十階だし……。と言うかあの二人遅いなぁ」

『あー……ちょっと喧嘩してるみたいだ。もうちょっとかかりそうだよ』

「仲がいいなぁ……」

 

 ランサー・オルタが構えた。アーチャーも俺を庇うようにして立つ。

 彼女は俺の知る中で最もサーヴァントらしいサーヴァントだ。離反するなんて思えない。

 

「……にしてもアルトリア。貴方がここにいるなんて意外だ。望みがあるわけでもない、生前に後悔を抱いているようでもない。だからといって酒に溺れる訳でもない。

 俺がマスターである事が、不服な――」

「――心外だ、貴方のサーヴァントである事に不満など無い。

 ただ、一つ貴方に返さなくてはならない借りがある」

「借り……?」

 

 そんなもの記憶が――

 

「私の諸事情をバラしましたね? それもカルデアのスタッフに」

 

 あっ(外伝参照)。

 

「いや、その……」

「マスター……さすがにそれは」

『これはちょっと庇えないかな……』

『うん、私も同じ女性として共感する。それはしてはいけない事だよ』

「ご、ごめんなさい……」

「いえ、私が言いたいのはそれではない。

 別にそれはいい。マスターがサーヴァントを誇るのは当然の事。

 ですが、ですが――貴方が話してくれたおかげで、私の部屋の事が――!」

『OH……』

 

 部屋……?

 ちょっと待って。さすがにそれは俺も把握してないけど。

 

『待つんだ、アルトリア。アラン君はその事情を知らない。

 部屋の件は芋づる式に分かった事だよ』

「! そ、そうなのですか……」

「部屋がどうかしたのか?」

「い、い、いえ! 何も! 何もありません! 無いのです、我が主!

 たまたま部屋を覗かれて、口封じに黒髭を名乗る男を湖にロンゴミニアドしたまでの事なのです!」

 

 黒髭ェ……。前はアーチャーにインフェルノされてたのに……。

 

「――ふっ、王の風上にも置けない女だ」

「セイバー」

 

 あ、二人が戻ってきた。

 

「いいか、マスター。そいつはな」

「黙れ、黙れ、黙れ! マスター、耳を塞いでください! 今生のお願いです!」

「えっ、えっ」

「片づけが出来ない女だ、部屋の中はゴミで散らかっているぞ。無駄にたまらせた脂肪は飾りではないという事だ」

「黙れェッ!」

『! ランサー・オルタ来るぞ!』

「何、この雑な理由!?」

『今まで一番ひどい戦闘だね!』

 

 

FGOバトルイベント

 

 

「うぅ……マスターにもバレてしまうとは……消えてなくなりたい」

 

 ランサー・オルタの威風堂々とした態度はどこにもない。今にも自然消滅して消えてしまいそうだ。

 さすがに今回ばかりは俺にも責任はあるだろう。本人のいないところでサーヴァントの事情を話すなど、無粋にもほどがある。

 

「……わかった、俺も一緒に片づける。それでいいだろ」

「……」

「別に自分に片づけが出来ないからって言って恥ずかしがる事は無いと思う。

 自分が出来るからって他人もそれが出来るなんて考えは残酷だし。比較なんて意味がないから、俺はしないよ」

「マスター……」

 

 それに片づける事自体は嫌いじゃない。

 整理整頓された部屋は見ていて気持ちもいいし。

 

『アラン君って結構尽くすタイプだね。いい旦那さんになるよ』

「尽くすって……。いや、まぁそうかもしれませんけど」

 

 奉仕体質なのかもしれない。

 旅が始まった頃なんて、本当に自己中心的だったのに。

 

『まぁ、自分の時間も大切にね、アラン君』

「貴方もですよ、ドクター」

『おや、これは手厳しい』

 

 

 

 

 ジャンヌ・オルタが酒に酔ってダウン。アルトリアもややきつそうだったので、二人ともカルデアに帰還させた。幸い、五十階と折り返し地点だし。ここで戦闘に支障が出て怪我するのを見たくない。

 今、いるのはアーチャーとランスロット。清姫の件も解決したそうなので、カルナも参陣してくれている。

 

「にしても、俺もアーチャーも全く酔わないな」

「確かに。折り返しにも関わらず、お二方とも変わらないように見えます」

「――あの鬼にとって、お前達に上がってもらう理由があるという事だ。それがこの塔を作り上げた理由なのだろう」

 

 階段を上がり――そこにいたのは、鋼鉄の白衣だった。

 

「うわぁ」

「その声は何でしょう。私も些か傷つきますが」

「……すみません」

「よろしい、言葉は心を容易く傷つける容易な手段です。言葉に出す内容を心の中で復唱してから話すように」

 

 ナイチンゲール、立香が召喚したサーヴァントの一人で北米神話大戦にて縁を結んだ者。

 鋼鉄の精神を持ち、近代看護の基礎を作り上げた超人。俺が思うに、星の開拓者を得ていてもおかしくはない程、熾烈な生前を歩んだ女性。

 

「アラン、手を出しなさい」

「は、はい?」

「貴方のバイタルチェックです。肉眼の方がより確実です。カルデアでは治療の優先度は低いと判断し、経過観察としていましたが。特異点に赴いたとなれば話は別。

 今ここで診察させて頂きます」

 

 瞬く間に腕をとられ、脈を測られる。

 カルナを見るが、首を横に振るだけでありどうやら交戦の必要はなさそうだ。

 

「失礼、少し眼瞼を……。やはり」

『どうかしたかい、ナイチンゲール女史』

「ドクター、採血はとっていますか? 貧血の兆候が見られます」

『……えっ? いや採血はしてないよ。特異点もシミュレーションも無かったから』

「――……いえ、確かに不要な検査は負担につながる。であれば彼がカルデアに帰還次第、検査を。首にも小さな傷が見られます。感染のリスクもありうる状態です」

「傷?」

 

 そっと触れると、確かにかさぶたのようなものがある。

 首の痛みの理由って、これか……?

 

「虫、じゃなさそうだな」

「えぇ、間違いなく人が噛んだものです」

「人?」

 

 吸血させた事なんて無かったけど……。いやさせる気もない。アレ、人間が体験したら病みつきになって逃れられないって言うし。

 精神力の弱い俺が受けてしまえば、きっと依存してしまう。

 

「……マスター、お前の近くには護衛をおいた方が良さそうだ。異質は異質を引き付ける。

 お前の在り方が、その何かを引き寄せ吸血させるにまで至ったのだろう」

「吸血……。でも、誰が……」

「――ドクター、鉄剤の補給を」

『ん、もう送ったよ。とりあえずこの塔を登りきるまでは大丈夫と思う』

 

 ポーチをあけると、カルデアから送られてきたビンが一つ。

 俺が手に取る前に、ナイチンゲールがそれを握りしめた。

 

「ふむ、フェログラですか……。

 アラン、食事はとれていますか?」

「うん、まぁ。エミヤが作ってくれてるから栄養バランスも問題ないと思うし」

「……専門家に一任するのは目を瞑りましょう。マスターの日々が多忙である事は理解しています。

 食事は欠かさないように。医食同源という言葉があるように、食事は天然の薬も同然です。何かあればすぐにいうように」

「はい、ありがとうございます」

「……」

「……」

 

 ナイチンゲールは俺をじっと見つめている。

 いや、アレはどちらかと言うと観察されていると言った方がいい。

 

「あの、何かついてますか……?」

「いえ、貴方の事はマスターから聞いています。自己犠牲――それを自ら選ぶ者は精神に何らかの影響をきたしていると思っているのですが。

 貴方はそうではなさそうです」

「……自己犠牲なんてガラじゃ」

「いえ、そちらではなく。

 貴方の精神に、治療は必要ないと判断しました。不要な治療は病の元になりかねません」

 

 ナイチンゲール。その苛烈な性格は、ある復讐者ですら、瞬く間に退散する程。

 そんな彼女が、治療は必要ないと言ったのだ。

 

「もし自暴自棄であれば、矯正しなくてはならないところでしたが。

 貴方は生まれつき、その精神を持っている。何かに尽くす、奉仕する、その対象を貴方は強く求めている。必要としている。

 貴方にとって、それは異常ではない。ならば無理やり治療する必要はありません」

「……」

「心から笑えているのがその証拠。病に伏せた者は笑えない。だから誰かが寄り添わなくてはならない。

 薬で体は治っても、心は治りません。そもそも薬、点滴自体に病を治す力は無いのです。所詮それらは人の免疫に働きかけている材料にすぎない。

 治りたいと願いながらも、その心を折られかけている者。立ち上がりたいと願いながら、膝を屈してしまう者。それこそ、私達が傍にいなくてはならない者達――即ち、患者です」

 

 そういって、彼女は微笑んだ。

 それはまるで、天使のようで。

 

「貴方は笑えている。だから大丈夫。

 進みなさい、進んで貴方の行くべき道まで、走りなさい。

私もそうします。疲れたのなら、そっと誰かに肩を借りなさい。人は一人では生きられないのですから」

 

 そう告げて、ナイチンゲールはカルデアに帰還した。

 ただ俺に告げる事を言い放って。

 心が、少しだけ軽くなる。俺がカルデアにしてしまった罪は消えないけれど。でも僅かにその重さが減ったように思えた。

 

『いやぁ、一方的なカウンセリングだったね。アラン君、大丈夫かい?』

「……ちょっと圧倒されましたけど、何とか。治療対象にならなくてほっとしているというか、気が抜けたと言いますか」

『治療は受けなくて正解だったと思うぜ。だって今、私達の後ろから立香君の悲鳴が聞こえているからね。ついでにアルコール臭さも』

『あれかなぁ、全身消毒されてるのかなぁ……。粘膜にアルコールは刺激にしかならないんだけどねぇ』

 

 マジで頑張れ、立香。

 

 

 

 

 六十階に到達。眺めもちょっと良くなってきた。

 ちょっとしたスカイツリーみたいだ。

 

「マスター、次のサーヴァントだ」

 

 ランスロットとカルナもいるし、この二人がいれば不安は無い。それに加えてアーチャーもいるのだ。

 どんなサーヴァントだろうと、勝利をもぎとれ――。

 

「うふふ、殺生院キアラここに」

 

「――おうちかえる!」

 

「それは出来ない。諦めて現実を受け入れるがいい、マスター」

『あちゃー……幼児退行しちゃった』

「あの……キアラ殿とマスターに一体何が……?」

 

 聞かないで、アーチャー。

 心臓を貫かれた相手なんだから。どうにも彼女は苦手なんです。

 

『ただねぇ、セラピストとしても超一流だからね、彼女は。

 現にカルデアスタッフの何人かもお世話になってるし』

「マスターったら、女心が分かっていないご様子。私も傷ついてしまいます」

 

 あぁ、そうだよなぁ。

 バレンタインで食われかけた事(物理)、まだ覚えてるからなぁ! しっかり受け取ったのによお!

 ランスロットが駆け付けてくれなかったら、いろいろと失ってビースト顕現してたからなぁ!

 

「キアラ殿、さすがにバレンタインの一件はマスターも傷を負っておられます。

 そのお気持ちを察してはいますが……」

「同情は不要だ、湖の騎士。アレは二面性の強い女だ。本質を突かなければ、変わる事は無い。古代ウルクの王ですらその本質を見誤った程だ」

「むむむ……どうにも私めに心の機微と言うのは……」

 

 アーチャーには難しいよなぁ。女と恋の世界(CCC)の話は。

 咳ばらいを一つ。

 

「キアラ、何でここに? 酒におぼれるような性格じゃないと思っていたけど?」

「マスターのために、待っていた――と言えば信じていただけますか?」

「信じるけど」

「えぇ、そうでしょう。私のような女を……はい?」

「いや、信じるけど。

 貴方の事はまぁ、何となくわかってる。自己愛と言うか承認欲求が強いから」

「……酷いお方。女の内面を、大衆の面前で告げるなんて」

 

 ははは、色々とさらけ出しているやつが今更ナニを。

 お前の宝具を初めて見た時の衝撃は忘れてないからな。

 

「で、戦うのか」

「いえ、ただ貴方様と――お茶をしたいだけです」

「……はい?」

 

 ちょっと何言っているかよく分かんない。

 

「酒の香りもそろそろ体に充満してくる頃。ここにお茶とおはぎを用意してあります。

 それを肴に、貴方様とお話が出来ればと思いまして」

「……うーん」

 

 確かに、どこかで休憩はとりたいと思っていた。俺もアーチャーもここまで休みなしで駆け上がってきたのだ。

 さすがに彼女に休息をとらせてあげたいとは思っていた所ではあった。

 ……まさかそれを見越していたとか? ははっ、まさか。

 

「アーチャー、どうする?」

「……御心のままに。私はまだ頑張れますとも」

 

 カルナを見る。首を横に振った。

どうやらアーチャーは無理をしている様子では無さそうだ。

 

「それじゃあお言葉に甘えよう。酒は急に回ってくるから」

 

 

 

 

「……いいもんだなぁ」

『平和だねぇ、いいなぁ。ねぇ、ロマニ。後でイタリアにレイシフトしてもいいかな。ヴェネツィアが懐かしくなってきた』

『またその時にね、レイシフトもタダじゃないから……』

 

 回廊に腰かけ、景色を眺めながらお茶を啜る。ランスロットが毒見をしてくれたところ、特に問題は無いとの事だった。

 ランスロットとカルナも、アーチャーとお茶をしながら談笑している。こんな機会、あまりなかったしなぁ。

 

「アラン様」

「どうした?」

「……あまり、大きくは言えませんがお礼を。貴方様には返しきれない恩があります」

「恩? セラフの一件なら、別に他意は無かった。立香を助けるためにやった事だから」

「確かにそうかもしれません。ですが、貴方様のおかげで、私は奪われた筈の二十五年を取り戻せた。

 取り戻せて、今こうしてカルデアにいる。それがただ嬉しいのです。私はまだ人でいられたから。周りが虫に見えたその、恐怖は……。私が私であった頃が潰されていく感覚は」

「……」

 

 あの時、俺は点を二度突いた。

 どうにもそれが、彼女の本質を取り戻したらしい。

 並行世界の自分がやらかした事を、見てしまったのだろう。多分それを、彼女は気にしすぎている。

 

「……」

「貴方はただ環境が悪かっただけだ。……もし普通に生まれていたのならきっと。

 小さな欲を満たせる未来が待っていたと思う。小さな幸せを、少しずつ噛みしめていく人生があったと思う」

「……」

 

 ――貴方はそれを奪われた。だからきっと、貴方も被害者なんだ。

 その言葉を、飲み込んだ。下手な同情は相手を傷つけるだけだ。

 

「――ん、そろそろ行くよ。気持ち的に楽になってきたし。

 早くカルデアに帰ろう」

「人手は足りていますか?」

「ん、十分。これ以上はさすがにな。あの二人にはまだ聞きたいことが残ってるだろうし」

「お気をつけて。お帰りをお待ちしてます」

 

 それがずっと続くといいんだけどなぁ……。

 たまに快楽天のスイッチ入るからなぁ……。

 

 

 

 

「やあ、ミスターアラン。壮健そうで何よりだ」

「ホームズ……」

 

 七十階について、現れたのはカルデア顧問の席に着いていた筈のサーヴァント。

 立香達が第六特異点で出会った、シャーロック・ホームズその人。

 

「面子も予想通りだ、施しの英雄と名高い彼がいるのなら、興味本位の問いも意味がないな」

「心外だ、探偵。オレはただ真偽を見抜くだけ。お前のように洞察に優れているわけではない。

 何より――今のオレは空気が読めるようになった。ネタバレは楽しみを奪うとジナコからしつこく言われたからな。読めるようになった筈だ。……読めるようになっているか? マスター」

「大丈夫、言葉は足りているよ」

「そうか……。そうか」

『で、魔術協会に出すレポートはどうしたんだい、ホームズ。量は膨大だ、いくらキミといえど、簡単に終わるとは思わないけど』

「あぁ、その事なんだが、さすがに飽きてきたのでね。気分転換にこうしてワインを楽しんでいるというワケさ。

 カルデアには酒の貯蔵が少ない。大吞みがいるからと言って、安酒ばかりそろえるのは感心しないがね」

 

 キミもどうかな? とグラスを差し出されるも首を振って断る。

 まだ飲める年齢じゃないんですってば。

 

「つまり、ホームズ殿。貴方は……お酒を作ってもらう代わりに、酒呑童子に協力したという事でよろしいですね?」

「イエス、その通りだとも!」

『マーリンと言い、ギルガメッシュと言い、ホームズと言い……何でこんな奴ばかり頭が切れるんだろうね』

『よし、アラン君。叩き潰せ、ぶん殴れ、私が許可しよう。ここにいる技術者諸君も同じ意見だよ。酒につられたサボリ魔に制裁を与えたまえ』

『ヤるんだ、ボーイ! ヤツの腰を砕いてやれッ!』

 

 何で、プロフェッサーまでいるんですかね……。

 

「カルナにランスロット卿、アーチャーか。確かに一流のサーヴァントばかりだ。

 だがキミ達が駆け上がってくるまでの間、私がただ酒を楽しんでいたと思われるのも心外だな。

 ――現在のキミ達の力と私のバリツ。既に頭の中でシミュレーションはくみ上げてある。そうだね……ホームズ・ビジョンってヤツさ」

 

 お前、あの映画見ただろ。

 

「ワトソン、どんだけ苦労してるんだ……」

『ボーイ、探偵ってヤツは皆、ロクデナシなんだヨ』

「ははは、ひとでなしのキミに言われたくないな教授。それに私はワトソン君に吹き矢を当てたり、彼の奥さんを列車から投げ出したりはしないとも。爆破物をファラオの墓に入れて処理するのは、やりすぎだと思うさ」

 

 お前やっぱり、シャドウゲーム見ただろ。

 

「アーチャー、令呪を以て命ずる。――探偵を放り投げろ」

「承りました!」

「……何?」

 

 まさか令呪を使ってくるとは思わなかったのか。

 意気軒高とロープを構える。

 

「カルナ、退路を塞げ」

「承知した」

 

 カルナが槍を振るうと共に空間が炎に包まれる。視界を遮るほどの火柱が僅かな時間の間、燃え盛る。

 酒呑童子の酒気は何でも引火しないようになっているらしい。まぁ、それはそうだ。

 であれば、この百重の塔を放火するだけで解決してしまうから。

 

「っ……!」

「悪いがアラン君、彼女の腕は決めさせてもらった。あまりバリツを甘く見ない方がいい。

 さぁ、次はどうするかな。カルデアのマスター」

 

 炎が収まり見えたのは、アーチャーの腕を掴んでいるホームズの姿。

 それはそうだ。ケツァル・コアトルのルチャをかいくぐって、関節技を決める程の彼が、アーチャーに後れを取るはずがない。

 でも、そんな事とっくに想定済み(・・・・)だ。

 

「ホームズ、貴方こそ俺のサーヴァントを甘く見ないでくれ」

「……むっ?」

 

 ホームズが違和感に気づいた。

 今、俺の傍にいるのはカルナだけ。――ランスロットがいない。

 

「アーチャー、設置は終わった?」

「はい、滞りなく」

 

 ホームズの背後(・・)から、アーチャーの声がした。

 ――ホームズの顔が怪訝に染まる。ならば彼が今掴んでいる彼女は誰なのか。

 

『彼は世界を救ったマスターの一人だよ、ホームズ。サーヴァントの運用なら、彼と立香君はキミに匹敵するよ?』

『素晴らしいネ、アラン君。私と一緒に悪だくみでもしないかい?』

「!」

「さすがの御手前です、ホームズ殿。私も鍛錬が足りないようだ」

 

 彼女の姿が変化する。

 ――アーチャーに変装していたランスロットが、姿を現した。

 彼の宝具『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グローリー)』。その完成度はとある聖杯戦争で、完全にアルトリアを騙して見せた程。

 

「そうか……! 変装能力……。カルナの炎で場を攪乱させたのか。

 錯誤を利用したトリックとは、実に面白い」

「令呪を以て命ずる。脱出しろ、ランスロット。

カルナ、炎を消してくれ。ロープが切れてしまう」

 

 令呪の力を得て、俺の下にランスロットが帰還する。

 カルナが槍を振るい、風圧で燃え盛った炎を鎮火させた。

 

「……ところで、先ほどの放り投げろとはどういう事かな」

「いや、ホームズが抜けだしたのは気づいてたから。どう説得するか考えてたら、教授とダヴィンチちゃんから助言をもらってさ」

『せっかく、アーチャーがいるんだ。本場の格闘術を体験させてあげるといいとね!』

『ついでに外に放り投げてしまえともネ!』

「あぁ、少し待った。探偵らしく忠告をさせてくれ。

 アラン君、この先にキミのサーヴァントが待ち受けている。彼女はそこでキミにある事実を告げるつもりだ。

 ――そこでキミは思い知るだろう。女性は完全に信用に値する者ではないとね」

「……まぁ、それは俺が決めますよ」

 

 自分の目で見て、英霊を判断する。

 立香から習った事だ。生前の逸話、伝説に惑わされることなく英霊を理解する事。

 要するに百聞は一見に如かずという事だ。

 

『遺言は終わったかい?』

「忠告だと言ったのだが……。フッ、いいだろう。英国紳士はこんな事では動じない。

 ライヘンバッハに比べれば――あぁ、いや待った。あの時は教授と言う肉シートがあったからであって」

「アーチャー、ゴー」

「御下命のままに!」

 

 ――まるでどこぞの芸人のように、全世界屈指の知名度を持つ名探偵は空へ放り投げられた。

 

「あああああ、あああーーーー!!」

『ぶははははははは!! ザマァみろ、ホームズ! ははははは!!』

 

 教授は嬉しいだろうなぁ。生前の意趣返しが見れたんだもんなぁ。

 

『あれ、急に静かになったねプロフェッサー』

『ま、マズいぞ。笑いすぎて、霊基が消滅しかけてる!』

『婦長を呼べぇっ!!』

 

 残るは三十階。

 よし、あと少しだ。

 




でもガチャで課金したのは男キャラの方が多いんだよなぁ(白目)。

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