「それじゃ、次はサキの番だなっ」
「え!? わ、私は別に……」
「そーゆーのはもういいからっ。さっさとすばるんに気持ち良くしてもらってこいよっ!!」
「おー。おにーちゃんのはとっても気持ちいーよー」
真帆とひなたちゃんの二人掛かりで両手をひかれ戸惑っている紗季がどんどん俺の前まで引っ張られてくる。
まぁせっかくだし二人にあやかって俺も少し強引に誘ってみてもいいかもな。
抵抗しようと思えばできるはずなのに、しないってことは多分恥ずかしいだけなんだろう。
俺は下で動いてるだけだから、あまりみんなの最高の瞬間を目にすることはできないけど、あれだけ何度も見てれば紗季だって興奮が抑えられなくなっているに違いない。
「紗季だって本当は興味あるんだろ? ……だったら、ちょっとくらい自分の気持ちに正直なってもいいんじゃないかな?」
「は、長谷川さんっ!? で、ですが……その……」
まさか俺まで真帆たち側に加わるとは思ってなかったのだろうか、彼女にしては珍しいくらい動揺している。
嫌なら控えめながらもきっぱりと答えてくれる紗季が、答えずらそうにしているということは、やはり本当はしたい。と思っているはずだ。
だったら俺だって、コーチとして最後のもうひと押しをしてやるだけだ。
すごく真面目でいつだってみんなをまとめようと尽力してくれてるんだ。そんな子がほんの少しだけハメを外してはしゃいだってバチは当たらないだろう。
「大丈夫だよ。紗季にとっては少し恥ずかしいことかもしれないけど、俺と紗季がこれからすることは、俺たちしか知らない秘密だ。ほんの少しだけ俺を信じて身を任せてくれないか?」
「えぇぇぇっ長谷川さんっ!? と、トモもいいのっ!?」
「ど、どうして私が出てくるのっ!? え、えぇっと……う、うんっ。ちょっと恥ずかしかったけど、昴さんすごくお上手だったから、紗季にも昴さんの良さ。知ってもらいたいな」
はは。確かに(俺は見れなかったけど)智花の後じゃ、尻込みしちまうかもな。
ってか、智花が絶賛してくれるほど俺は(肩車が)上手かったのか?
それなら、いっそ毎日みんなにしてあげるのも悪くないかもな。……いや、葵やミホ姉に見つかったら、なに遊んでるんだと怒られるか。
「ほら、紗季。早くしないと時間なくなっちゃうぞ」
「そ、そうですね……それでは、失礼しますっ」
背中を向けて早く俺に乗ってくれと促す。どうやらこちらが折れる気がないことを察すると観念したようだ。
俺にあまり重さをかけないようにしているのか、かなり慎重に肩に両足を掛けてくれた。
「お、重くないですか?」
「全然。ちょっと軽すぎて心配になっちゃうくらいだ」
俺の上ですっかりしおらしくなってしまい、どこか居心地悪そうにしている。
「くふふ。紗季もすばるんにしてもらうの大好きなくせに、スナオじゃないなー」
「うっさいわねっ! 嬉しいに決まってるでしょうがっ!!」
「おー。さきもお顔まっかー」
「ちょっと恥ずかしいけど、昴さんすっごく優しくしてくれるから大丈夫だよっ」
「えへへ、良かったね。紗季ちゃん」
もしかしたら無理強いをしすぎてしまったかと思ったが、どうやらそれも杞憂だったようだ。
自身の羞恥心を誤魔化すためか、確かめるように俺の肩や首回りを触っているが、それが少しくすぐったくもあり、どこか心地良さを感じる。
「……こう言っては失礼なんですが、は、長谷川さんも意外ととても大きくてたくましいんですね。触らせて頂いてちょっと驚きました」
「これでも毎日筋トレを欠かしてないからね。だから絶対に紗季を落としたりもしないから、安心していいよ」
「あっ。いえ、そういうつもりで言ったわけでは……その、男の人の体をこんなに触らせて頂いたのは、初めてでして……」
「はは。男の体を触ってみた感想は?」
うっかり思ったことをそのまま口に出してしまうと、紗季はたちまち言葉を詰まらせて自分の顔をおさえてしまったようだ。
「あぁ、ごめん。変なこと聞いちゃったね」
「い、いえっ……その、ど、ドキドキしまし――」
「サキ、あんまりすばるんにベタベタしてっと、もっかんがおこんぞー」
「そ、そうねっ。ごめんねトモ。早く終わらせるからねっ」
「怒りませんっ!! ――って、お願いだから紗季まで変なこと言わないでぇーーっ!?」
俺の失言が何故か智花にまで飛び火してしまったようで、彼女まで悶え始めてしまっている。
どうやら紗季もあまり経験がないみたいだし、これ以上慣れないことをさせちゃうのもかわいそうだな。
「長谷川さん、その不躾で申し訳ないのですが……そろそろお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんっ。智花のを見て尻込みしちゃったかもしれないけどさ、紗季には紗季の良さがあるんだ。だから智花に負けないつもりで思い切りやってみるといいよ」
そんな言葉を掛けながらボールを渡すと、小さく頷きながらボールを受け取った紗季の気配に変化を感じた。
何度か深呼吸をしていく度に彼女の羞恥心や緊張が徐々に解れ、彼女をよりベストな状態へと近づいていく。
その様子を見て、みんなが心からバスケが大好きなバスケ選手へと成長してくれたのだと強く感じられ、それがとても嬉しかった。
「行くよ、紗季っ」
「はいっ。今の私の想い全てを込めさせて頂きますっ」
彼女の力強い意志を体で感じながら、俺もまた彼女と繋がれたことに心から喜びを感じながら、俺たちのゴールへと駆けだした――
「――ど、どうだったでしょうか?」
「うん。紗季の強い想いがしっかりと込められていた最高のプレーだったよっ」
確かに力強さという点では智花や真帆と比べると勢いでは劣ってしまうかもしれないが、紗季の動作の一つ一つに込められた強い意志は彼女たちにだって負けないくらい確かな想いが込められていた。
彼女の躍動を肌で感じた俺が言うんだからそれだけは間違いない。
ここまで開放的になった紗季を見ることができたのはなかなかの収穫だったのだが、行為後はちょっとだけバツが悪そうにすぐに俺から離れてしまったのが少し残念……いや、決して終わった後も紗季をずっとこのまま離さないでいたかったというわけではない。
俺が勝手に紗季との行為後の余韻に浸っていたいと思っているだけで、そんな俺の都合でただでさえも慣れないことをさせてしまった紗季をこれ以上辱めるわけにもいくまい。
「とても貴重な経験をさせて頂き、本当にありがとうございますっ」
「そう言ってもらえるなら俺もした甲斐があったよ。この経験は絶対に今後の紗季にとっても、いい影響になってくれるって信じてるよっ」
――さて、これで四人の初体験は無事に迎えさせてあげられることができたわけだが……
俺との行為を終えた四人を慈愛に満ちたとても温かな瞳で優しく見つめている少女を見る。
「お待たせ、愛莉。今度は君の番だよ」
他の子たちとした時点で、すでに俺の覚悟も決まっている。
愛莉一人だけ仲間外れにすることなんて絶対にできない。
いつだって俺を信じ、その大切な体を委ねてくれている五人の少女たちには返しても返し切れないくらいの恩があるんだ。
愛莉にも同じ経験をさせてあげたい。
あ、わかってると思うけど、一応はっきり明言させてもらうが、愛莉は決して重いわけではない。彼女を何度も抱いてる俺が言うのだから間違いない。
確かに他の子たちと比べれば体が大きいのだから、その体格差分の体重はあるが、あくまでもそれは彼女が自分の身体を維持するのに必要な分だ。
他の子たちもだが、みんなはっきりいってそれぞれの身長に対してウェイトが逆に少なすぎるのではないかと心配してしまうくらいなのだ。
「その……長谷川さんからのお誘いはすごく嬉しいですけど……よ、良かったら私が一人でするところを見ていてくださいっ」
「え? でも、愛莉だって――」
本当はして欲しいのはわかっている。俺が他の子たちにしている間も、彼女たちに羨望の眼差しを向けていたことにも気づいている。
「は、はい。本当は私もして欲しいです。……でも、気づいたんです。長谷川さんにしてもらうよりも、長谷川さんに私が成長したところをしっかりと見て欲しい。って、だからお願いします。私のするところ……ちゃんと見ていて下さいっ」
「そっか。うん、わかったよ。愛莉が綺麗に飛ぶところ、最後までしっかりと見せてもらうから、思いっきりいくんだよっ」
「はいっ。せっかく長谷川さんに見て頂けるんだから、私の全部出し切れるように……精いっぱいがんばりますねっ」
愛莉は胸の前で両手を強く握り、強い意志の宿った双眸でしっかりと俺の目を見つめながら頷いてくれた。
――おっと、そうだ。
「今回は愛莉が俺を気遣ってくれたけど、いつか絶対に愛莉のことも肩車してあげるからね」
「え? わ、私そういうつもりじゃ……」
「そういうことにしておいてよ。俺のためにさ」
「あ……えへへ。ありがとうございますっ長谷川さん!」
もちろん今だって愛莉を肩車することぐらいできるとは思うが、さすがに無茶をしてケガをしたり彼女の大切な体に傷をつけては元も子もない。
俺の体質的に万里並みは無理かもしれないが、それでも大切な女の子一人くらい、簡単に抱え上げられるようにならないとな。
これからは日課の筋トレに『愛莉を安全に肩車するため』という新たな大きな目的も加わり、いっそう身が入るものとなることに喜びを感じていた。
「愛莉っ。――ここでしっかりと見せてもらうよ」
「はいっ。――えへへ、まだみんなの前でするのは、ちょっぴり恥ずかしいけど、私が飛ぶところみんなに見てて欲しいから……行きますっ!」
俺からのパスを胸の前でしっかりと受け止め、一度だけ照れたような表情でみんなの方へと振り返る。が、それも一瞬。
目指すべきゴールを見据えると、表情を引き締め、力強いドリブルを始めながらハーフラインから一気に駆け出した。
おそらく部活が終わった後も、兄である万里の指導のもと何度も何度も繰り返し練習を続けたのだろう。
フリースローラインを越えた辺りで、ボールをしっかりと両手で抱え込むと更に二歩分の加速を付けて一気に跳躍する。
両手で高く抱え上げたボールがリングの高さを超え、目前まで迫ったところで両手で叩き付けるように振り下ろした。
があんとゴールリングを叩く音と、ネットを潜り抜けたボールが力強く床に叩きつけられた音が、しんと静まり返った体育館中に響き渡る。
流れるようにダンクシュートモーションへ移行していく愛莉の姿に目を、心を奪われた。
俺も智花も、今までずっと愛莉のこれが見たかったのだ。そう確信させるだけの、完璧なまでのダンクが俺たちの目の前で繰り広げられたのだった。
両膝を曲げてしっかりと着地の衝撃を流してから立ち上がり、照れくさそうな表情をしながら、ゆっくりとこちらを振り返る愛莉。
「すっっっっげぇぇぇぇぇぇーーーーっ!! アイリーンマジですげぇーぞっ!!」
そんな姿を見て真っ先に真帆が賞賛の声を上げながら、興奮そのままに彼女に駆け寄る。
「おーっ。あいりカッコいいー」
ひなたちゃんも全身で彼女の雄姿を称えるように両手を大きく広げている。
「こんなにすごいことができるのなんて愛莉くらいよね」
「愛莉すごいよっ。私じゃ絶対にできないから、すっごくすっごく羨ましいし、愛莉がダンクを見せてくれたこと……とっても嬉しかったよっ!!」
気づくと愛莉はすっかり彼女の大切な仲間たちに取り囲まれ、賞賛の嵐に包まれていた。
恥ずかしそうに頬を染めながらも、一人一人に頷き返し、五人の温かな笑顔がみんなを包み込んでいた。
五年生たちには申し訳ないが、この五人がやはり女バスのベストメンバーのように思えた。
こんな些細な余興にだってみんな全力で向かい合い、喜び合うことができるのだから。
ここまで固い結束で結ばれたチームなんてそうそうあるもんじゃないぞ。
「ほんじゃ、次はすばるんねっ」
「え? 俺もやるの?」
真帆からの思いもよらない発言に間抜けな声を出してしまった。
「昴さんのダンク、見せて欲しいですっ」
「私たちにはまだ早いかもしれませんが、後学のために是非」
「私も長谷川さんのダンクを参考にして、もっともっと上手くなりたいですっ」
「おー。ひなもおにーちゃんのダンクみたいー」
正直愛莉のダンクでみんなも満足しただろうと思っていたのだが、どうやらみんなの中では最後に俺が実演するまでが予定に組み込まれていたようだ。
ふむ。みんながみたいというのなら、やらないわけにもいくまい。
ダンクって、何気にただゴールに直接ボールを叩き込めばいいってもんじゃなかったんだよな。意外と難しかったし。
一人の時にこっそり何度も練習したことがあるから多分ミスはしないだろうけど、あとはどれだけ勢いを乗せて決められるかだ。
ただ、まぁ……問題があるとしたら、ミニバスのゴールに高校生が小学生たちの前でドヤ顔でダンクを決める。という他の人間には絶対に見せられない恥ずかしい醜態を晒すことになるが、幸い今は俺と彼女たちしかいない。
やるなら今しかない。
「それじゃ、一回だけね」
『やったーっ!!』
期待の眼差しを向けていた五人の少女たちも俺が了承すると一斉に喜びはしゃぎ出す。これは絶対に失敗できないな。
ある意味試合中のフリースローのとき以上のプレシャーを感じながら、ハーフラインでボールを突き、感触を確かめる。
息を飲みながら見守ってくれてる少女たちの視線を感じながら、目測とタイミングを計り、ゆっくりと動き出す。
徐々に加速させていき、事前にそこと決めていた跳躍ポイント手前でボールを片手で持ち、一気に踏み切り――跳ぶ。
肩を基点に背中側から腕で半円を描きながら、ボールを思い切りゴールに叩き付ける。
――よし、無事成功。やっぱ見られてると恥ずかしいけどすごい気持ちいいな。
一瞬ゴールリングがぎしりと鈍い音を立てたことに本気で焦ったのは内緒にしておこう。
さすがに学校の備品を壊してしまうのはマズいし、その原因を聞かれたときに俺が憤死する。
「どうだったかな?」
「すっげぇー……」
「ふぁう……昴さん……」
「意外な一面を見せて頂いちゃったかも……」
「長谷川さん……すごいなぁ……」
「おー。おにーちゃん、とってもかっこいいー」
さて、みんなの評価はどんなものかな? と、ゆっくりと彼女たちの方を振り返るとみんな目を丸くし、感嘆の声を上げていた。
もしこの場に他のコーチやオトナがいたら、何ムキになってんだ。と絶対に冷ややかな視線を向けられていたに違いない。
そりゃ俺だって愛莉のあんなすごいものを見せられちゃ、張り合わずにはいられないって。
俺の体格や体質的にパワープレイは分が悪い場面が多いことくらいわかってるんだ。
だからこそ無い物ねだりってわけじゃないけど、こういうプレーにだって憧れを感じてしまう。
俺にとっての一つの理想みたいな動きを目指してやってみたのだが、彼女達からも予想以上に好評だったようでなにより。
「ふふ。トモも長谷川さんに惚れ直しちゃったんじゃない?」
「もっかんはずっとほれっぱなしだろ」
「ふぇぇ!? そ、そそそんなこと……はぅぅぅ……」
「私も長谷川さんの動き方……真似できるようがんばろうかな」
「おー。ひなもいつか絶対にダンクするぞー」
何故か智花が一人だけ頬を染め恥ずかしそうにしているが、前に俺が智花のスクープショットを見たときに自分の姿を重ねてしまったけど、もしかしたら彼女も自分がダンクしてる気分になれたのかな?
内心ドキドキものだったが、結果的にみんなのやる気に火がつくいい着火剤になれたようだ。
「よしっ。みんなのやる気も十分みたいだから、さっそく始めるよっ!!」
『はいっ! よろしくお願いしますっ!!』
今日も俺たちは大好きなバスケを思う存分楽しむのだった。