ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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みんなの憧れの初体験

「ねーすばるん。一回だけでいいからさー」

「おー。ひなもひなもー。おにいちゃんにしてほしいなー」

 それぞれで俺の手を左右に引きながら、俺にして欲しいと甘えるようにおねだりをしてくる真帆とひなたちゃん。

 

「こらっ。二人とも、長谷川さんにそんなことお願いしたってご迷惑でしょうが。何よりトモが怒るわよっ」

「ふぇぇ!? なんで私が!? べ、別に怒らないよ!?」

 紗季が二人を窘めつつ、なぜか引き合いに出され戸惑う智花。

 

「みんなケンカしちゃだめだよぉ」

 困り気味に苦笑をしながら、事の成り行きを見守る愛莉。

 

 それぞれで主張が異なってしまっているものの、慧心学園女子ミニバスケ部の六年生五人組みのいつもの風景だ。

 当然みんな本気でケンカをしているわけでもないので、コーチとしても、この場の年長者の立場としても、少女たちに深く干渉する気もない。

 ただ彼女たちを微笑ましく見守りながら、この場が平穏に収まるのを待っていたい。というのが本音だ。

 

――とはいえ、二人の少女が俺の身体を求めているのが今回の原因なのだ。さすがに無干渉を貫くわけにもいくまい。

 

「別に俺は構わないよ。ちゃんと仲良く順番を守れるなら何回でもしてあげるよ」

「やったー! ほらみろサキ。すばるんだっていいって言ってんじゃんかっ」

「おー。やったー。ひな、おにーちゃんにいっぱいして欲しいー」

「もぅ。長谷川さんは少し甘すぎですよ。すぐに調子に乗るんですから」

 両手を上げて大喜びの真帆とひなたちゃんに対して、両手を組んで諦めつつ俺に申し訳なさそうな表情をしている紗季。

 紗季には甘いと言われてしまったが、それでもこの二人がここまで喜んでくれるのなら、この二人のおねだりに負けてしまって正解だと思ってしまえるのは、やはり甘いのだろうか?

 

 特に理由もなく俺の方から彼女たちにしてあげるよ。なんて持ちかけるのは確かに問題かもしれないが、彼女たちの方からして欲しいとねだってくる分には問題ないだろう。むしろ大歓迎だ。

 俺だって小学生と触れ合える数少ない機会は大切にしたい。

 

「そんなこと言ってサキだって、ホントはすばるんにして欲しいくせに」

「なっ!? ……わ、私は、別に……して欲しいだなんて……それに、トモの目の前で……」

「だからどうして私にふるの!? そ、それは私も、前に初めてしてもらって以来して頂いてないけど――はぅ!? い、いえっ! 昴さんのご迷惑になりますし、さすがにわがままなんて言えませんっ」

「え!? 智花ちゃんもしてもらったことがあるの!? ……いいなぁ」

「おー。ともか、おかおまっかー」

 あれ? もしかして真帆とひなたちゃんだけじゃなくて、実はみんなもして欲しかったのかな?

 真帆とひなたちゃんはやっぱり大好きみたいだから、可愛らしくねだられてしまう度に、ついついやっちゃうんだよな。

 

 智花にも初めてした時は、どうしてもと俺がお願いしちゃったんだけど――慎ましやかな少女に両足を広げさせ男の上に跨らせるなんて、今考えると彼女には中々ハードルが高いことを要求してしまった気がする。

 挙句、離さないといけない場面で、緊張していた彼女にしっかりとしがみ付かれてしまい、離すタイミングを逸してしまった時は本気で焦ったよな。

 幸い何事もなく済んだのは本当に運が良かったとしか言いようがない。

 もし万が一彼女の身に取り返しのつかないことが起きてしまっていたら、俺を信じて預けて下さっているご両親に顔向けもできないし、俺も大切な恩人を傷つけてしまったことに対して、自分自身を許せなくなってしまっていたことだろう。

 顔を真っ赤に染め上げてしまっているのも、おそらくその時の失敗を思い出してしまったのが原因なのだろう。

 

 そんな過去の失敗を思い返しつつ、ふと気づく。

 ふむ。この場で俺がしたことがないのは紗季と愛莉か。

 俺からはあまり積極的に誘うことは憚られるが、もしかしたら、俺が他の子たちにしているのを見て、実は羨ましがっていたのかもしれない。

 この二人も智花と同様に、なかなか自分のわがままを俺に言ってくれないし、もし二人が望むのならば是非とも経験させてあげたいな。

 

 しかし少々問題があるのも、また事実……

 

 紗季ならば他の経験済みの子たち同様に俺もすぐに立つことができるだろうが、愛莉が相手となると、他の小柄な子たちと比べて立つのが難しいかもしれない。

 当然、愛莉だって他の子たちと同じく可愛い大切な教え子だ。

 男としてのプライドもあるし、できることならみんなと一緒の方法でしてあげたいのだが、俺としても不本意ながらやり方を変える必要があるかもしれない。

 実際、他のやり方でなら愛莉だろうと誰であろうと簡単に立てるどころか、余裕で立ちっぱなしでいられる自信はあるのだ。

 さすがに二人以上同時はきびしいが、一人ずつならいくらだって、俺の体力が持つ限りは付き合ってあげられることだろう。

 

 ……まぁ、そもそも愛莉は一人でも。というか、多分一人の方がすごく綺麗にいけるんだよな。

 前に偶然目にした時も、すごかったし……正直、小学生であそこまでいけるのは、さすがとしか言いようがない。

 それに下手に俺が男の意地だ。とか言って愛莉に無理矢理したら、後で万里にメチャクチャ怒られそうだ。

 

 とりあえず一人ずつ順番にしていけばいいか。と楽観的に考えながら、みんなに提案してみる。

 

「それじゃ、最初は真帆からで、次にひなたちゃん。それで智花と紗季と、最後に愛莉の順番で一回ずつでいいかな?」

 名乗り出てくれた順番と、口ぶりからして実はして欲しそうな気がした三人も勝手に加えてしまったが、どうだろうか?

 すでに俺と経験済みの三人がしているのを見れば、今回が初めての紗季と愛莉もいくらかは緊張も薄れるはずだ。

 この二人は真帆やひなたちゃんみたいに何事にも物怖じしないタイプというよりは、いざ始めるとなると、不安や緊張を感じてしまう智花と同じタイプだろう。

 それでも、どうしても怖い。と感じてしまうのであれば、別に無理強いする必要はない。

 今回は見学に回ってもらって、いつか俺におねだりしてくれた時に笑顔でお相手をさせてもらばいいし。

 

「やったーっ。あたしが一番だーっ!」

「おー。ひなもおにーちゃんにしてもらえるー」

 そんなに喜んでもらえるなら、俺もやりがいがあるってもんだ。

 

「ふぇぇ!? ……その、い、いいんですか?」

「もし智花がイヤじゃないなら、俺はしてあげたいな。久しぶりにさ。せっかくの機会だし智花だってやりたいだろ?」

 まだ遠慮しようと考えていたのか、伏し目がちにしている少女に優しく話しかけると、控えめながらも嬉しそうにこくりと小さく頷いてくれる。

 

「えぇ!? わ、私は別に……」

「はいはい。そーゆーのはいいから。最後には自分から喜んですばるんにお願いするくせに」

「おー。そーだそーだー。さきもひなたちといっしょにおにーちゃんにしてもらお?」

「あぁ。もぅ……わかったわよ。私も長谷川さんにして欲しいわよっ!」

 俺が智花の説得に成功するのとほぼ同時に二人も紗季の籠絡に成功してくれたようだ。

 いいぞ、これであと一人で完全攻略達成だ。

 

「愛莉はどうかな?」

「わ、私は……その……」

「ぶっちゃけ、アイリーンはひとりでよくね?」

 あ、みんながあえて思ってても言わなかったことをあっさり口に出しちゃったよ。

 確かに今回みんなにするのは手段であって、あくまで目的は別にあるのだ。

 

「そ、そう……だよね。私も長谷川さんにして頂ければと思ったけど……危ないもんね……」

 そして、愛莉はすでにでできているので、わざわざリスクを冒して俺がする必要はないのだ。

 

「でも、アイリーンだけ仲間外れにすんのもイヤだしな……」

「おー。ひなもみんないっしょがいいー」

「だけど、長谷川さんに相当無理をさせてしまうかもしれないわよ?」

「昴さん……」

 一人寂しそうにしている愛莉と、俺ならきっとできる。と淡い期待を込めた視線を送る四人。

 こんな状況で、できない。なんて言えるわけないよな。

 俺がそんなことを言えるような奴だったら、ここで大切な彼女たちのコーチする意味なんてないも同然だ。

 だが、事前に考えていた妥協点の提案はお互いの信頼関係を維持するためにも必要だろう。

 いくら俺がつまらない意地を張って無理をしたところで、お互いが深く傷ついてしまうだけで終わるようなことがあってはならない。

 俺と愛莉だけでなく、俺たちを見守ってくれているみんなのためにも、そんな最悪な結果だけは絶対に避けなくてはならない。

 なにより変な強がりや誤魔化しで、愛莉を騙すようなことは、二度と言いたくないんだ。

 

「……愛莉。もしかしたら、君を肩車することは俺には無理かもしれない。――でもおんぶならいくらだってしてあげられるよ」

「長谷川さんっ」

「もちろん最初から肩車を諦める気はない。だけどお互いの安全のために、無理だと判断したらおんぶで我慢してくれるかな?」

「はいっ! 私、長谷川さんにして頂けるのでしたら、肩車でもおんぶでもなんでもいいですっ。私もみんなと一緒に長谷川さんにして欲しいですっ」

 なら決まりだ。

 

「良かったね。愛莉っ」

「ま、そこらへんが妥当なところよね」

「さすがすばるんっ。あたしが見込んだ男だっ!」

「おー。かたぐるまもいいけど、おんぶもいいなー」

「ありがとうございますっ。長谷川さんっ」

 そして、俺は少女たちを一人一人順番に肩車をして彼女たちに初めてのダンクシュートを決めさせてあげることになったのだった。

 


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