ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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智花二回目のお泊り8

 智花の風呂上りを待ちながら、これから過ごすであろう二人の長く熱い夜のための準備を再チェックだ。

 と言ってもお互いの事を良く知り尽くしている俺達だから、最低限の準備だけですぐ始められるだろう。

 

 智花を初めて誘う時は、本当はお互いに大好きだっていうのがわかってるのに、変に緊張してしまって、なかなか回りくどい誘い方になってしまったのが懐かしいな。

 今となっては始める前に少し会話を交わすだけで、お互いにすぐにその気になれるくらいの関係になれたんだから、前に思う存分する智花とするつもりだったことを今日こそいっぱい楽しませてもらうとしよう。

 

――智花が眠くなるまでずっとずっとバスケの試合映像を見ながら、バスケ談義だ!!

 

 ちょうど確認が終わったのを見計らったかのように、控えめにドアをノックする音と待ち望んでいた少女の声が聞こえてくる。

 

「昴さん。お待たせしました」

「あぁ。遠慮しないで入っておいで」

 残念。できれば今回も満面の笑みを浮かべながらドアを開け放って欲しかったのだが……

 いや、確かに突然勢いよくドアを開けられればびっくりするし、これがミホ姉だったら即戦闘開始の合図となるが、

 普段はとても礼儀正しく物静かでお淑やかな少女がするのであれば、そのギャップがまたなんとも微笑ましく思えてしまう。

 

「失礼しますねっ」

 彼女が俺の部屋に踏み入れると、いつものように彼女愛用のミルクとせっけんの混ざったような甘い香りが部屋中に漂い始める。

 そして、これもまたよく見る機会が増えてしまっているが、未だに見慣れない――というか、極力意識しないようにしている彼女の寝巻姿。

 彼女がシャワーを浴びること自体はいつも通りなのだが、夜という普段とは異なった環境のせいなのか、火照りで赤く染まった頬や首回りが普段から見慣れているはずの少女を強く意識させようとしているかのようだった。

 

 当の本人もおそるおそる部屋に入って来たものの、どうしようかと迷っている感じだが。

 まぁ、それもそうだよな。湯上り直後の女の子が俺の部屋に入ってくること自体がそもそもの間違いだし。

 

「とりあえず、ベッドにでも座っててよ。今日はここが智花の寝床なんだからさ」

「は、はいっ……なんだか緊張してしまいます」

 俺の言うとおりにベッドに腰を下ろしたが、まだまだガチガチに固まっちゃてるな。

 

「俺も風呂に入ったらすぐに戻ってくるから、それまでゆっくりしててよ。テレビとか観たいものがあったら自由に観ていいし、俺の部屋にあるものだったら、なんでも自由に使ってていいよ」

 別に智花ならガサ入れみたいなことをするわけがないし、見られて困る物も別にないから大丈夫だろう。

 強いて言うなら、晩飯前に作った俺の若気の至りが書き記されたノートがあるが、それこそ夏休みの頃の真帆みたいに興味本位であちこち調べまわさない限り、見つけることも興味を引くこともないだろう。

 

「ふぇ!? い、いいんですか? ありがとうございますっ! それでは、お待ちしてますねっ」

 俺の言葉に直前までの緊張を忘れ去ってしまったかのような反応の速さだ。

 驚くくらい目が輝いて活き活きとしてるけど、もしかして俺の部屋の物でそこまで興味を引くものがあったのだろうか?

 とは言え真帆やひなたちゃんみたいに突飛な思いつきや行動で無茶な事をするわけもないかと判断し「それじゃ入ってくるね」と言いながら、部屋を後にした。

 

 

「昴くん、お待たせ。ゆっくり入ってきてね」

「はいはい。ってか、なんかすごい嬉しそうだな」

風呂場に向かう途中で母さんとばったりと遭遇してしまったが……どうやら思う存分智花との入浴タイムを満喫していたみたいだな。

普段からやたらと誰かと一緒に入りたがってるし、智花のおかげでその欲求がようやく解消されて満足したのだろう。

 

「智花ちゃんとのお風呂。本当に楽しかったわぁ。やっぱ若い子って良いわよねー。すっごい柔らかくてふわふわのプニプニでお肌もすべすべ。私も若返った気分だったわぁ」

「それは良かったな」

 ってか、いちいち感想を言わないでくれ。思わず智花で変な想像をしてしまいそうになってしまったじゃないか。

 

「あ、智花ちゃん大丈夫だった? 長湯させちゃってなければいいんだけど……」

「んー? 別にいつも通りだったと思うぞ。特に疲れてそうな感じでもなかったし」

 もしそうだったとしても部屋でゆっくり休んでもらってるから大丈夫だろう。

 

「それなら良かったわ。つい話に夢中になっちゃったから」

「ずいぶんとお楽しみだったようで……いったいそんなに何を話していたんだ?」

 あまり女の子の話にズカズカと踏み込むのもどうかとは思ったが、母さんと話す程度の事だったら別にそれくらいならいいだろう。

 散々俺の恥ずかしい過去を暴露して手に入れた情報なんだ、俺にだって少しくらいは彼女の事を知る権利があるはずだ。

 

「昴くんには内緒。きっとヤキモチ焼いちゃうわよ」

「なんだよそれ」

 ヤキモチって、何を言ってるんだか……相変わらず感覚がずれているというか、まぁ問い詰めたところで望んだ答えが返ってくることはなさそうだな。

 

「昴くんがどうしても知りたいなら、ちゃんと智花ちゃんから聞いてあげてね」

「はいはい。そうさせてもらうよ」

 早々に会話を打ち切り、そのまま風呂場へ。

 

 

 あ……どうせなら、先に母さんに智花と楽しい夜を過ごすために飲み物とかお菓子の用意を頼んどけば良かったな。ま、上がってからでいいか。

 

「はい。せっかくだから智花ちゃんから頂いたお菓子もいれちゃったから、これ持って行ってあげて二人で仲良く食べてね」

 風呂を済ませて、一度リビングに寄るとまるで俺の考えがわかっていたかのように、準備してくれていたわけだが。こういうところは本当に察しが良いよなぁ。

 

 

「智花。入るよ」

 飲み物とお菓子を乗せたお盆を手に、声を掛けながら数回ドアをノック。

 自分の部屋だから必要はないとは思うんだけど、やはり智花がいると思うと無意識に一応確認しなくてはと思ってしまう。

 彼女の事だから、例えいきなりドアを開けたところで油断している姿を拝めるとは思ってはいないが。

 

「ふぇぇ!? す、すみませんっ! い、今は……あ、いえっ。ど、どうぞ!!」

 入ることを許可してくれたものの、なにやらひどく慌てているような……ほ、本当に入っていいのだろうか?

 わずかな逡巡の末に、入っていいと言われたのにいつまでもこのまま棒立ちしていても埒が明かないと、意を決してドアを開ける。

 

 俺のワイシャツを羽織ながら怯えた瞳で俺を見つめる智花がいた。

 

 俺に怒られるのではないかと、ひどく怯えてしまっている彼女になんて声を掛けようか考えつつ、とりあえず持ってきた二人の夜を盛り上げるための品々を並べていく。

 

「す、すみませんっ。私、また昴さんのワイシャツを勝手に……はぅぅ……」

「せっかくだからさ、ネクタイとかも付けてみる?」

「ふぇぇ!? あ、あの……お、怒ってないんですか? 私、昴さんのワイシャツを勝手に着てしまっていたのに……」

 なんか前にも似たようなやり取りしたような……あぁ、智花を抱かせてもらった時か。

 慎ましやかな少女が勝手に人の衣服を着るというのは確かに意外な事ではあったが、別段怒るような事でもない。

 むしろ大人びて見えている少女が年相応に背伸びしたがる仕草に微笑ましささえ感じてしまう。

 もう少しで中学生なのに、俺の制服を着て一気に高校生気分か。

 

「かわいい智花に男の格好をさせるのはちょっとなぁ……って思うけど俺の制服しかないからね」

「か、かわっ!? ……その……い、いいんですか?」

「俺ので良ければね。本当は女子の制服の方が智花には似合うんだろうけど……今度葵に相談してみようか?」

「い、いえっ。昴さんの制服を着させて頂けるだけで十分ですっ。私はきっとみんなとずっと慧心の方へ進んでいくと思いますので」

 となると、彼女がワイシャツに袖を通す機会があったとしても当分先の話かな。

 それならワイシャツに憧れるのも無理もない。男には堅苦しいイメージしかないが、何故か女の子には不思議な魅力を感じさせてしまう物らしいし。

 

「それじゃ、ボタンを留めていってくれるかな。ネクタイは俺が付けてあげるからさ」

「は、はいっ」

 恥ずかしそうにしながらも、しっかりと返事をしてくれたことに、やはり彼女は高校の制服を着たかったのだ。という自分の判断が正しかったと安堵する。

 彼女がしっかりとワイシャツのボタンを留め終わったところで、しゃがんで目線を彼女と同じ高さに合わせネクタイを首に回していく。

 あれ? 正面からだと上手く結べないな。

 自分でするのは慣れてるけど人にしてあげるのって意外と難しいな。

 

「ごめん智花、ちょっと後ろに回るね――っと、どうかな? 苦しくない?」

「ふぁっ、ふぁい!!」

 やっぱ初めてのネクタイで緊張してるのかな? 声が少し上擦ってしまっているな。

 俺も初めてネクタイを締めた時は、なんか大人の仲間入りをしたみたいな感じがして、生意気にも誇らしげに感じちゃったっけなぁ。

 

「よしっ。それじゃ、はい。最後にこれを着てね」

 俺から手渡された上着を羽織ったところで、七芝高校の湊智花(男子制服版)の完成だ――下は履いてない。

 ワイシャツも上着も肩幅が大きすぎたり、袖がかなり余ってしまって手が隠れてしまっているが、ちゃんと首元から上はしっかり着込んでいるから写真を取ればそれっぽく見えることだろう。

 

「は、はぅぅ……わ、私、昴さんの制服着ちゃってるよぉ」

 顔を真っ赤にして照れちゃって、すごくかわいいな。

 

「それじゃ、智花こっち向いて」

「ふぇ? ……ふぇぇ!? だ、ダメですっ!! お願いしますっ。しゃ、写真は撮らないでくださいっ!!」

「でも、それだと智花が自分の姿確認できないだろ」

「だ、ダメですっ! 私、今、絶対すごく変な顔しちゃってますからっ!! だ、だから、撮らないで下さいっ!!」

 本音を言うと、智花に見せるだけじゃなくて俺がいつまでも彼女のこの姿を楽しめるように残しておきたかったという欲望もあったのだが、

 さすがに本人が嫌がってるのに、無理矢理撮るのもかわいそうだよな。

 

 彼女の気持ちが落ち着いた後、一通り高校生気分を堪能してもらったところで、はにかみながら彼女が俺の制服を脱ぎ始めたわけだが……

 

 まずは上着を受け取りハンガーに掛け、続いてネクタイを解いてあげたところで――とっさに目を逸らす。

 ワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく度に、少しずつ彼女の白い柔肌が曝け出されていく。

 脱ぎ終わったワイシャツを丁寧に畳んで俺に返しくれる薄桃色のキャミソールとショートパンツのみを身に纏った少女。

 彼女からしたら、普段通りの寝巻姿に戻っただけなんだが……

 あえて意識しないようにしてたけど……やっぱりこれ、男が見ちゃいけない姿なんじゃ……

 

 正確には違うのかもしれないけど、男から見たらほとんど下着同然のような姿に思えてしまう。

 無自覚に晒されてしまっている彼女のそんな姿を見てしまっていいのだろうか?

 

――い、いや深くは考えないようにしよう! 何も知らない男が女の子の服装についてとやかく言うわけにもいかないし!!

 

 ここで変な事を口走ってしまい、不本意に彼女に身の危険を感じさせ怖がらせてしまっては元も子もない。

 もしかしたら、このあまりにも男に対して無防備すぎる彼女達に少しは警戒心を持ってもらうためにはいいのかもしれないが、

 わざわざ好き好んで彼女達に嫌われるような事をする覚悟は俺にはない。

 まだ俺、大好きな小学生に嫌われるような事はしたくないしな。

 

「智花。見た感じ大丈夫そうだと思うけど、まだ眠くないよね?」

「はい。大丈夫です……そ、その、色々あって余計に目が冴えてしまったと言いますか……」

 よし、それなら今日一日色々とあったけど、そろそろ俺と智花らしいことを始めさせてもらうとしよう。


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