もし死に戻りの記憶がみんなに戻ったら re   作:なつお

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【今後について】

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第19話『姉妹①』と今後について

 

「ベアトリスも一緒に」

 

 

その言葉を、当の本人であるベアトリスは聞いていた。

 

 

「なんなのよ。

気付いていたのなら声をかけるべきかしら。

まったく、入るタイミングが

分かりにくいったらないのよ」

 

 

苦言を呈しながら扉を開けて

ベアトリスがエミリアとペトラの前に現れた。

そう、彼女は少し前から部屋の前で

待ちぼうけを食らっていたのだ。

 

 

いつものベアトリスであれば何の気無しに

エミリアの部屋を開けたかもしれないが

今回ばかりは違った。

 

 

「どうやらお前らも

ベティと同じ目的のようかしら」

 

「ベアトリスちゃんも...」

 

 

エミリアが頷き、先ほどまで困惑を顔に

貼り付けていたペトラも、ようやく理解し始める。

 

 

「ベティの居場所も、ロズワールの福音書も

ペトラの手がかりも、もう何もないかしら。

後残っているのは、しっかりと辿れるのは

……エミリア、お前の軌跡しかないのよ」

 

 

「うん。

ベアトリスの言っていること

すごーくよくわかったわ」

 

 

エミリアが神妙な面持ちでこたえた。

 

 

ベアトリスは禁書庫を捨て、ロズワールの福音書は燃え

ペトラの働く理由は消えた。

 

 

残っているのは、エミリアの"あの場所"だ...

 

 

「でも、どうすれば良いのかな?」

 

 

ペトラが尋ねた。

 

 

実際問題、エミリアの軌跡を辿ると言っても

彼女の人生のどこにスポットを当てれば

良いのかはわからない。

 

 

まさか全てを追っていく訳にもいかないだろう。

 

 

「どうするといっても取れる方法は限られるのよ。

その現場に……記憶の手がかりの

濃い場所に向かうかしら」

 

「その場所っていうのは?」

 

「まあ、大体は見当がついているかしら。

 

 

ベティの考えとお前ら2人の話を聞く限り

おそらく1番手がかりとして有力なのは……

 

ベアトリスが言い終える前に

エミリアが答える。

 

 

「聖域......ね」

 

「そういうことなのよ」

 

 

ペトラがメイドになった時期

ベアトリスが禁書庫を出た時期、そして......

 

 

「私が試練を越えられた理由。

もちろん自分を信じていない訳じゃないけど

あれだけ打ちのめされて、それでも

立ち上がれたのはきっと理由があるはず」

 

 

エミリアは何度も試練に敗れ

己の過去から目を背け続けた。

涙に崩れ落ち、ベッドの上で過ごし

また挑戦しては失敗する。

聖域の住人達からのプレッシャーも相まって

その繰り返しは着実にエミリアの精神を

疲弊させていた。

 

もし、そのままずっと変わらなければ

自分は廃人になっていただろう。

 

それを回避できた理由は、光は

希望は、必ずある。

 

 

「私は見つけたい。謝りたい。

感謝をしたい。"その人"に」

 

その言葉に、ベアトリスとペトラは

力強く首肯する。

 

最早3人の共通の見解として

忘れているのは

とある人物における

記憶であるという確信があった。

そしてその人物が3人にとって

とてつもなく大きな存在であることも

薄らと感じていた。

 

 

だからこそ気を引き締めていこうと

思っていた矢先のことだった。

ベアトリスがペトラに向かって、

 

 

「ただ、ペトラは残っているかしら」

 

「......え?」

 

 

突然の発言に目を丸くするペトラ。

 

 

「ベアトリスちゃんどうして?

あたしも行きたいよ」

 

「事情を知る者が1人、残っていた方が

都合が良いかしら。

それにお前はまず、メイドの娘達に

話を通すのよ」

 

「そんな......」

 

 

しょんぼりとするペトラに構わず

ベアトリスは歩き出した。

 

 

「善は急げ、かしら」

 

 

エミリアはペトラの頭を優しく撫で

「待っててね」と言ってベアトリスに続く。

 

 

「むぅ……」

 

 

ペトラは少し拗ねながらも2人の背を見送り、

 

 

「2人とも、無事に帰ってきてね!」

 

 

と出来るだけ元気に手を振った。

 

 

 

 

 

廊下を歩く音が響く。

 

 

振り向き、ペトラが居なくなった状況を

見計らって、エミリアはつぶやいた。

 

 

「行けば辛い目に遭うかもしれない

危険に晒されるかもしれない。

だから行かせたくなかったんでしょ?

素直に言ってあげれば良いのに」

 

「う、うるさいっ! 余計なお世話なのよ。

無駄口を叩く暇があったらすぐに向かうかしら。

その方がペトラも喜ぶのよ」

 

 

プイッと、そっぽを向いて歩く

ベアトリスの背中を見て、エミリアは苦笑する。

 

(聖域の件が終わってから、ベアトリスの態度が

なんだか少し柔らかくなった気がする)

 

それもまた、忘却した"ある人物"の影響によるもの

なのだろうかと薄らと感じながら

エミリア達は聖域へと向かっていった。

 

 

***

 

 

 

エミリアとベアトリスの背中を見送った

ペトラは今、広い廊下の真ん中で呆然としていた。

 

彼女達の帰りを待つ。

もっともらしい理由で余儀なくされたが

それの意味するところを、利口な彼女は

薄々感じていた。

 

今回の件は決して只事ではない。

ベアトリスの言葉は

ペトラを気遣ってのことだったのだろう。

だからこそ、ペトラはベアトリスの優しさを

無碍にすることができなかったのだ。

 

 

「とは言ってもなぁ……」

 

 

ことの全容を掴めないため、いったい

どの程度の期間でエミリア達が

戻ってくるかはわからない。

 

仕事を放棄して逃げ出そうとしていた自分が

一体どの面を下げてその間メイドを

続ければ良いのかわからない。

 

かといって忘れてしまった人物が彼女の

仕事を続ける原動力であった可能性を

捨てられない以上

村に引き返すこともできない。

 

 

「はぁ」

 

 

ゆっくりと、肩を揺らしながら

大きく溜息を吐く。

肺から出ていく酸素と一緒に

感情も追い出そうと試みる。

 

しかし、あまりにも急展開だった先程のやりとりと

やはり連れて行ってもらえなかったことへの不満が

ペトラの顔をしかめ面で拘束する。

 

 

「……トラ」

 

 

茫然自失。

 

何をすべきかを考え始める前に

少しの間遠くへと気を追いやっていた。

だから最近よく聞くあの声に気づかなかった。

 

遠くで何か音が鳴ったなという薄い認識は

すぐ背後

真上から掛かった空気の振動に

号令をかけられる。

 

 

「ペトラ!」

 

「えっ!?」

 

 

ようやく自分の名前が呼ばれていることに

気づいたと同時、その声音から一瞬で

相手を認識する。

 

 

そしてその相手が少し

怒っているご様子なことも……

 

 

(まさか......)

 

 

おそるおそる振り返ると

そこには仁王立ちで立つフレデリカがいた。

 

 

「まったく、何度も呼んでいるのに返事の

一つもしないなんて

一体どういたしましたの?」

 

「フ、フフフ、フレデリカお姉さま!?」

 

 

眉根を寄せていじけるような表情をする

フレデリカに、いつもなら謝罪が

すぐに口を出ただろう。

 

 

しかし、状況が状況なだけにペトラは慌てた。

 

 

両手を開き、否定するように小刻みに振る

大仰なジェスチャーとともに、後ずさった。

 

 

いったい何故か。

 

 

ーーペトラは仕事をサボっていたのだ。

 

 

それは今朝支度をしてから現在に至るまで。

時間にして2時間ほどだ。

 

その間一度足りとも

フレデリカとラムには会っていない。

 

だからきっと怒られると思った。

 

観念し、歯を食いしばりながら

身構えるペトラに

しかし、フレデリカはいつもと同じ調子で、

 

 

「何をそんなに慌てておりますの?

わたくしがあなたを見つけ

少しお仕事を頼む。

それだけですわ」

 

「......ぇ...ぁ、はい!」

 

 

どうやらフレデリカに

ペトラを咎める気は無いらしい。

 

ただ自分が無視されたことに少しショックを

受けていたというだけのようだ。

 

その対応を見て

じんわりと目頭が熱くなるのを感じた。

 

 

「やっぱり、エミリアお姉ちゃんの言った通り

お姉様達は......気付いて...」

 

 

ペトラの言葉にフレデリカは

 

 

「ラムはどうか知りませんですけどね」と微笑を

浮かべながら前置き、

 

 

「大体の事情は把握しておりますですわ。

だからベアトリス様とエミリア様が

帰って来られたら

少しだけ、お話をいたしましょう。

これまでの感謝と、そして

いつでもあなたが戻ってこられますように」

 

 

ニッコリと笑うフレデリカの温かさに触れて

ペトラはついに涙を堪えきれなくなった。

 

 

フレデリカは声を殺すように泣く

ペトラを優しく抱きしめ、

 

 

「ペトラはいつも頑張っていて偉いですわ。

今だって、出来る限りわたくしに心配を

かけないように、声を出さずに泣いている。

でも、そんなこと

今は気にしなくてもいいんですのよ?」

 

 

その言葉の一つ一つが

ペトラの身体に、心に染み渡った。

 

 

「わたくしは貴方のことを

本当の妹のように思っているのですわ。

だからわたくしの前で泣く時には

メイドも仕事も全部忘れて

しっかりと、大声で泣いてもいいんですのよ」

 

 

その言葉を全て聞き終わるや否や

ペトラは大声で泣き出した。

 

それは自責の念に狩られたことや

フレデリカ達への申し訳なさ

彼女の言葉への感謝はもちろん。

 

 

しかし、それだけではない。

 

 

自分が忘れてしまった重要なこと

ーーエミリアへの宣戦布告、

"想い人"への情愛、

夢の転機、沢山の感情。

 

その不安が、ペトラに

ずっとまとわりついていた。

 

 

その溜飲が下がる気配を見せずにずっと

彼女に前を向かせないでいた

正常な思考を阻害していた。

 

それをフレデリカの言葉が甘やかに解かし

一挙に解放したのだ。

 

まるで水の溜まった袋が弾けるように

少女の感情が嗚咽と涙となって溢れ出す。

 

 

「黙ってっ……逃げようと…して

……ごめんなさいっ!」

 

「それはもうとっくに許しましたのですわ。

どのようなことになっても

貴方のことは信頼しているのですから……」

 

 

フレデリカの腕に抱かれながら

ペトラはしばらく泣き続けた。

 

 

 

ひとしきり泣いて、少女が寝息を立て始めた頃

フレデリカは呟く。

 

 

「しばらく本業は厳しいでしょうから

貴方には少し看てもらうだけにしますわ。

 

 

 

 

"あのおかしな格好をした、黒髪の少年を"」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ちょっと、ベアトリス大丈夫!?」

 

 

聖域に向かう最中、不意にベアトリスが

くらりと肩を揺らし、頭に手を当てる。

 

何もないところで精霊たる彼女が体調不良を

起こすなどあり得ないことだったので

エミリアは只事ではないと感じた。

 

 

「禁書庫がなくなってマナの供給が

絶たれたからなのよ。

今はまだ軽い貧血みたいなものかしら」

 

「そ、そんな。

マナ……はっ!……じゃあ

私から何かできない......

 

「ダメなのよっ!」

 

 

ベアトリスの大声が響き渡り

エミリアの気遣いを払い除け、肩を震わせる。

 

怯んで驚きに目を丸くするエミリア。

俯くベアトリスを見て訝しげな表情を浮かべる。

 

 

「どうしてか聞いても良い?」

 

 

ペトラと話していたときと同様

できる限り優しい声音で話しかけた。

 

 

視線をベアトリスの高さに合わせ

彼女の反応を待つ。

 

 

 

「怖いのよ」

 

「............へ?」

 

 

それは予想だにしない答えだった。

 

以前のベアトリスであれば

何かにつけて文句を垂れてきたかもしれないし

エミリアに対して

良好とは言えない返事をしただろう。

 

それが心からの言葉かどうかはともかく

ベアトリスは良い意味でも悪い意味でも気高い。

 

 

それがエミリアの認識であった。

 

 

だからこそ絞り出すように零した

「怖い」という言葉が

ベアトリスの本音であることを

エミリアはすぐに悟った。

 

 

「ベティは契約者からしかマナを貰えないのよ。

つまり、もしお前から

マナを貰えてしまったら……」

 

「ーーーーっ!!」

 

 

ベアトリスの"その人"の存在が

まるまる否定されることになるのだ。

 

エミリアはパックと契約していて

マナの供給をおこなっている。

 

だからこそ、精霊にとってのマナの重要性は

ある程度把握しているつもりだし

今のベアトリスが危険な状況であることも

何となく察しがつく。

 

 

しかし、400年だ。

 

 

彼女のいう"その人"は、おそらくエミリアが

想像する重要性を遥かに上回っていることは

想像に難くない。

 

 

「…………」

 

 

だからこそ、エミリアはベアトリスに

何も言えなかった。

 

 

今は夜に差し掛かりパックが姿を表すことが

できないので、直接尋ねることはできないが

おそらくベアトリスのマナ不足を解消する

手立ては他にないだろう。

 

 

(気合を入れ直さなくちゃ)

 

 

 

 

 

そして2人はたどり着いた。

 

 

件の聖域、その墓所に......

 

 

***

 

 

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