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「あれ?」
その日の朝はいつものように屋敷の庭園でラジオ体操を行っていた。この習慣も始めてからもう随分と時間が経ち、日課となっていた成果が出てかなり身体の柔軟性が増した気がする。
そんな毎日の、いつもの光景といつものポーズ。しかし、今日はそんないつもが少し違ったようにエミリアは感じていた。
それは違和感、というにはあまりにも薄く浅い感覚で、気のせいかもしれないとも思った。
だが、エミリアの感覚が間違っていなかったことを証明するように、隣に浮かぶパックもまた一緒になって
『ビクトリー』の体勢で固まっている。
毎朝行うルーティンのはず。
しかし、彼女らはこの一連の動きに"初めて"疑問を抱いた。
「ねぇパック、そういえばこのラジオ体操っていつから始めたんだろう? 結構前からやっていたことは分かるんだけど」
エミリアの質問にパックは少し考えるような素振りを見せたあと
「んー、分かんない。僕的にはこの奇怪なポーズの方が気になるかな。どうしてリアはそんなことを聞くの?」
「それはね、ふと思ったの。朝にこうやって身体を動かしていると1日の始まりみたいなものを実感できるし、何よりすごーく気持ちが良いじゃない? 考えた人は素晴らしい人だなって。ごめんね、だから別段なんでもないんだけど」
エミリアの言葉にパックは「そうだねぇ」とつぶやいたあと
「でも、今のリアは言葉で言うほど気持ちが良さそうには見えないけど何か悩み事でもあるのかな?」
パックの言葉にエミリアは「ううん」と首を振り
「本当に何にもないの。ただ少し……こんなにこの屋敷って静かだったかなって」
「僕にとって静かなのは好都合だけどねぇ。平和が1番だよ」
「そういうパックもなんだかソワソワしているように見えるけど?」
「んー、昨日のお昼頃にさベティとちょっとねぇ……」
「えぇ!? いつもあんなに仲良さそうにしているのに、一体何があったの」
ベアトリスとパックといえばともにエキドナが創り出した人工精霊であり、お互いを兄弟のように思い合うほどの仲である。エミリアは彼らが喧嘩したところを見たことがなかったのでまさに青天の霹靂《へきれき》であった。
「喧嘩って訳じゃないんだけど、ベティがね……どうして自分が禁書庫を出る気になったのか思い出せないって言うんだよ。気にすることじゃないって僕は言ったんだけどベティは泣き出しちゃってね」
「そ、そうなんだ」
「……リアも何か心当たりがあるんじゃないの?さっきから何度もしつこく聞いてるけどそれは君がいつもと目に見えて違うからだよ」
「ーーーー」
エミリアは押し黙った。
自分はいつもと同じように過ごしている気でも苦楽を共にしてきたパックには、彼女が平常運転でないことは容易にわかった。だが、何か違うということを理解しつつも彼女らはその真相がわからない。
言い表せない気持ち悪さを抱えたまま、何と答えれば良いかわからない彼女にパックは提案する。
「そうだリア、一度目を閉じてゆっくりと呼吸をして。自分の中に流れ込むマナ、そしてオドを思い浮かべてみるんだ。オドには今までの記憶や経験が付着しているからこの状況を説明する"ナニカ"があるかもしれない」
「うん、そう...だねわかった。やってみる」
パックに全幅の信頼を置くエミリアは言われるままゆっくりと目を閉じ、深い呼吸と共に自身を顧みた。
身体中に流れるマナをゆっくりと辿り、まるで登り棒のようにその経路を手繰りつつ中心へと向かう。
その最中、今まで過ごしてきた他愛もない日々の数々が薄らと浮かび上がっては消えていった。そうして一際輝く光を見つけ、それが“オド”だということを確かに感じとり、エミリアは両手を椀のように広げて包み込んだ。
優しく、魂の核とも言うべき自身の結実にゆっくりと問いかける。
そうしてオドを感じながら雑駁《ざっぱく》とした出来事を一つ一つ並べて、エミリアという人物を形作っていった。
すると、記憶の断片にところどころグレアが生じていることに気づく。フラッシュバックする過去の中、それも取り分け最近の出来事があまりにも都合よくできている。
その一つ一つの経験に、どうして?を問いかけるも靄のように広がるアーチファクトが邪魔をして今ひとつ要領を得ない。
「ラジオ体操は、"なんで"始めたの?」
ーー漠然と。
なんだか少し、この屋敷が変わったような……自分の今までの軌跡が……靄がかかったようになっている……昨日までの景色の一部が、それ以上の発掘を許さないほどに完璧に……おぼろげに……
大切な何かを、知らぬ間にどこかへと落としていってしまったような。
取り返しがつかないことが現在進行形で起きていて、もしそれを放置していたら
この先ずっと後悔するような。そんな深い惑いの中に、ポツリと一筋の雫を感じた。
「……リア、もしかして泣いてるの?」
「ーーーーーぇ?」
パックに言われて意識が現実へと引き戻された。
ーー私が、泣いている?
指摘されて頬を指で攫うと水滴がつたった。信じられないと思いながらも
今度は手のひらを押し当てて離すと、確かに眦《まなじり》が濡れているのがわかる。それを理解した瞬間、雷に打たれたように全身が轟いた。
「あれ、え……どうして……だろ?」
悲しい。とても悲しい。
なんで? どうして?
私どうなっちゃったの?
自分の感情はしっかりと理解できる。
深い、苦しい、耐え難い悲しみが突然堰を切って押し寄せてきた。だが、いったいどうして、その底の見えない悲しみを抱いて今にも爆発しそうなのか理由がわからない。
求めても求めても空振りを繰り返すだけで、欲しい答えがない、救いがない。
「ぇぐっ……ぅうぅ……ぅ」
遂に堪えきれなくなって嗚咽をこぼし、涙をこぼし、咽び泣いた。
「なん…で……とまんない……っ」
胸が痛くて、呼吸が制御できない。表情筋が自分の意思に背き目頭を圧迫するほどに熱くする。
「っ……ぅ…ぁ……」
集中して、言葉を絞って、頭を回して、それでも分からない、気づけない
"思い出せない"。
「ごめんなさい……ぁ…ぅ……ありがとうぅ……ぁ……」
思い出せないことを謝りたい。
数え切れないほど沢山の感謝をしたい。
しかし、何に対してか全くわからない。
エミリアの精神は今、吹けばすぐにでも消えるか弱い火のようだ。事態の重さに気づいたのだろうか、その場に泣き崩れるエミリアに駆け寄るパックからはいつものおちゃらけた雰囲気が消え、
「ご、ごめんリア! なんだか逆効果なことを勧めてしまったみたいで」
頭を下げるパックに、エミリアは縋るように震える声で訴えかける。
「ねぇパック……私…私、きっと何か……」
「お、落ち着いてよリア。ベティに続いて君まで、一体どうしちゃったって言うのさ」
「うん、うん……ごめんね。でも、私…きっと何か大切なことを忘れてしまっている気がするの。それ無しじゃ絶対にここまで来れなかった。希望の光だった……それだけは何となくわかるのに。感謝しないといけないのに」
震えるエミリアに、パックは身を寄せる。
「わかった。わかったよリア、大丈夫だから。しばらくの間、寝室で休んでおいで」
「ありがとう、ごめんね。少しの間だけそうさせてもらう……」
顔には精一杯の笑みを浮かべながら、その足取りは重く、彼女の精神の疲弊を如実に表していた。
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