もし死に戻りの記憶がみんなに戻ったら re   作:なつお

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〜プロローグ〜
第1話『イレギュラー』


《ロズワール邸にて》

 

「もうすぐ、みん……なに、記憶が……もどる。あなたの身近な人達に…死に戻りの……記憶が」

 

 それはスバルにとって狂おしい程に愛しく、優しい声だった。闇の淵から聴こえるその声は、いつも彼が禁忌を犯した時に現れる。

 しかしどうやら今回は、いつもと様子が少し違うみたいだ。

 

 ーーみんなに、死に戻りの記憶が?

 

***

 

「どしたの? スバル様」

 

 突如目の前で固まった俺に、大きな瞳をパチクリとさせ、不思議そうに声をかけてくるペトラ。

 

「……あ、いや、なんでもねぇよ? ーーっでもわりぃ。ちょっと用事ができたから、また後でな!」

 

 用事、というのは確かに嘘ではない。

 一応はラムから街へ買い出しに行くよう頼まれてはいるのだ。まあペトラと世間話に花を咲かす余裕は十分にあるのだが、不穏な空気を感じたスバルには、少しばかり1人になる時間が必要だった。

 ぷくぅーと頬を膨らませるペトラを尻目に、スバルはすまん、とだけ言い残し、そそくさとその場から退散する。

 

 もう幾度となく繰り返したサテラとの邂逅。彼女が何故死に戻りの公言を規制するのかは分からない。……が、今回に限って言えば、スバルは死に戻りを口にしてはいなかった。

 

 頼まれていた芋とリンガを購入し、帰路へと就くスバル。しかし、不安は拭えない。

 

 ーーさっきのは一体どういう意味だったんだ。もうすぐ俺の身近な人間に、死に戻りの記憶が戻る? それって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないか。

 

 いつか起こるんじゃないかと、そんな気はしていた。現に以前のスバルは、自ら死に戻りをしている事を明かそうと試みた事もあった。

 しかし今はそう思わない。スバルが死に戻りをした、そのあったはずのパラレルワールドを知った人々はいったい何を思う?

 

 イレギュラーな事態に困惑するスバル。

 そんなスバルの横顔をチラチラと確認しながら、隣を歩くベアトリスが意を決したように口を開いた。

 

「ーーーースバル」

 

「…………ん?」

 

「一体なにを悩んでいるかしら。水臭いったらないのよ。スバルが悩んでいるなら、当然ベティーにも伝えるべきなのよ。……その、ベティーも一緒に悩んでやるかしら」

 

 ーーベア子も可愛くなったもんだなぁ。

 

 契約を交わしてからというもの、彼女のスバルに対する態度は180度変わった。少しばかり気恥ずかしいと思う反面、それはとても心地のよいものだ。

 おでこが眩しい金髪ドリルロリに癒され、フワフワした気持ちになったスバルは、

 

「いや、実は俺の死に戻っ……」

 

 ……途端に恒例の暗転が始まった。

 

 ーーしまったあああああ!! なんてミスだよ、やっちまった。

 

 スバルらしいといえばらしいのだろうか、調子に乗ったそばから崩れ落ちていく。バルスは軽率にも程があるわ、とお姉様に叱られても仕方がないだろう。まあ今回に至っては、彼の精神面が少し不安定だったという点も考慮せしめるべきなのか。

 

「戻った。……貴方の……親しい人達にーー」

 

 心臓を撫でられる様な感覚を覚えながら、暗闇に光が差し、世界に色が戻っていく。

 

 ーー俺は馬鹿なのか。いくらベア子と仲良くなってきたのが嬉しいからって、さっきの今でこれはないだろ……

 

「ご、ごめんベア子。この件についてはたとえお前でも話せないんだ」

 

「ーーーー」

 

 顔を伏せたまま黙り込むベアトリスを見た時、まさかと思った。

 

「……おい? ……ベア子?」

 

 問いただす俺に対し、ベアトリスは弾けるように顔を上げて、

 

「……こんな事をして、ベティーは……ベティーはスバルを1番に出来ない……スバルを選ぶ、その資格がないかしら!!」

 

 そしてもちろん、スバルの1番になることも。

 

「な、何言ってるんだよベア子。俺とお前の仲じゃねえか」

 

「でもベティーは今までずっと、ずーーーっとスバルを拒絶してきたのよ。そのせいで助けられたはずのスバルを見殺しにしてきたかしら。これは……これはベティーが殺したのと同じなのよ!」

 

 待ってくれ、とスバルが手を伸ばすも少し遅く、ベアトリスには届かない。

 自慢のおでこまで真っ赤に染め、泣きながら彼女は空間に消えて行った。

 

 スバルの手が自身への怒りでわなわなと震える。もし先程の失策が記憶を戻す引き金となってしまっていたとしたら……そう思うとスバルは情け無さのあまり、自傷行為に及んでしまいそうだった。

 しかし先程のベアトリスの反応から事の確信を持てた今は、そんな事をしている暇などない。

 

 ーーやっぱり死に戻りの記憶がみんなに戻ったんだ。つまりみんなは死んだ俺を知っている。

 

 ……そしてそれと同時に、事情も知らずにスバルに対してひどい事を言った、疑った、殺した自分を思い出した。そしてその事実を呑み込んだが故、起こした行動が先程のやり取り。

 

「間接的に助けてくれたベアトリスでさえあの反応。王選の時から俺と何度も言い合いになったエミリア。そしてなにより、直接その手で俺を疑い、あまつさえ殺したレムはいったい……」

 

 ーーはやくみんなのところにいかなきゃならねぇ!

 

 これはナツキ・スバルの為に起こった、ゼロから始められなくなった物語。

 

 




 
*設定改変について
時系列は4章終わり。
レムは暴食によって存在を奪われていない→普通にいる。
舞台はロズワール邸のまま。
この回のスバルは馬鹿。

以上の設定改変をしています。
筆者はWeb原作4章終わりまで読んでいます。

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