クリス先輩がこんなに可愛いわけがない! 作:TearDrop
ここのところ用事が立て込んで忙しかったので投稿出来ていませんでしたが、ようやく投稿出来ました。
AXZ5話にウェル博士出て来たけど、あんたまたやらかすだろ。
そしてクリスちゃんマジ可愛い。尊い……!!
放課後。
クリスは近くのスーパーで風邪に効く食材やスポーツドリンクを買い、佐倉家の前まで来ていた。昼休みに電話した時、律の声は苦しそうだった。
お見舞いに来たのはいいものの、電話越しに言われた律の言葉が、頭から離れなかった。
ーーークリスに会いたい
その時の言葉を思い出し、クリスは頰を染める。
異性からそんな事を言われたのは生まれて初めての事だった。
変に意識している自分に気づいたクリスは冷静になる為、深呼吸する。一呼吸置き、佐倉家のインターホンを押す。
待つこと数秒。ガチャっと玄関のドアが開き、そこにはマスクをし、今にも死にそうな表情を浮かべる律が立っていた。
「あぁ、クリス先輩……こんにちは〜……」
「お、おい、無理すんな。ほら、早く中入れって」
クリスは律を家の中に戻し、靴を脱いで律の自室へと向かう。
今にも死んでしまうではないかと勘違いしてしまいそうな程、律の表情は辛そうに見えた。
律をベッドに横にさせ、毛布を掛けると手に持っていたスーパーの袋からスポーツドリンクを渡す。
「ほら、これでも飲んどけ」
「あ、ありがとうございます……ごめんなさい、お見舞いに来てもらっちゃって……」
「気にすんな。ほら、暖かくして寝てろ。あたしは下でスープ作って来るから、大人しくしてろよ」
そう言ってクリスは、一階のキッチンへとスーパーの袋を持って出て行った。
こんな時、普段の律であれば〝クリス先輩がスープを作ってくれるヤッター!〟と喜ぶのだが、何せ夏風邪を引き、熱で頭がボーッとしている為、そんな事をする元気がないのだ。
クリスに言われた通り、大人しく寝ることにした律は目を閉じ、眠りにつく。
ふと、まるで走馬灯のようにクリスとの思い出が浮かび上がる。
不器用だが、心優しいクリスに一目惚れしてから色々な出会いや出来事があった。こんなに幸せでいいのだろうかと思いながら、ふと気づく。
(あれ……これ、僕が死ぬみたいじゃないか。なんか走馬灯も見えてるし……やばい、このまま死ぬのは惜しい。せめてクリス先輩のスープを飲むまでは死ぬわけにはーーーーいや、死にたくないけど)
そんな事を思っているとドアが開く音が聞こえた。
何故かは分からないが寝ているフリをしようと、考えてしまった。別に
しかし、寝ているフリをしてしまうとやましい事を隠しているかのようだった。クリスは律が寝ている事を確認すると、近くに置いてあった椅子に座る。
「……寝てるな。ったく、無理して動くなっての」
クリスは溜息を吐き、律の部屋の中を見渡す。
一般的な男子高校生の部屋がどういう風なのかは知る由もないが、これが一般的なのだろうとクリスは部屋の中を見渡しながら心の中で納得する。
マンガやゲームが収納された棚の上には小さなフィギュアが並べられており、その横にはクリスの先輩である〝風鳴翼〟のCDが収納されていた。
「風鳴先輩のファンなのか……先輩が聞いたら喜びそうだな。そういや、響《アイツ》もファンだったな」
クリスの後輩である響も、翼のファンであった。
同じ翼のファン同士、仲良くなれるのではないかと考えていた時だった。
ふと、律に視線を移すと熱がどれぐらいあるのか確認しようと、律の額に触れる。
突然の事に驚く律だったが、寝ているフリがバレてしまってはクリスに怒られてしまうと思い、心の中で驚く事にした。
しかし、それだけではなかった。普段触れる事がないクリスの手が自分の額を触れている。それだけで内心ドキドキが止まらない。
「熱、まだあるみたいだな……寝てるよな?」
(ごめんなさい、寝てないです……!)
「……怪しいな。まぁいいか。お前さーーーあたしに会いたいってどういう事だよ……?」
一瞬、理解できなかった。
クリスは何を言っているのだろうか。クリスに会いたいとは何時も思っている律だが、人前やクリスの前で一度も言った事はない。
果たして、クリスは何を言っているのかと必死に考えているとーーー。
「熱で頭が回らずに言っちまったならしょうがないけどよ……本当に、あたしに会いたいって思ってくれたのか?」
(えっ……僕、クリス先輩にそんなこと言ったの? 全然覚えてないや……謝った方がいいかな……でも、寝ているフリがバレちゃうし……でもクリス先輩が今どんな顔してるのか気になるし、起きようかなとか思ってたけど今そんな状況じゃないよね……)
冷静になれ、僕。
そんな事を内心で囁きながら、律は寝返りを打とうとした時だった。ふと、クリスがベッドの下に雑誌が落ちている事に気付いた。
なんだこれと、疑問に満ちた声でベッドの下の雑誌を拾った。拾ってしまった。律はこの時、部屋の掃除をしておけばよかったと後悔する。
拾った雑誌の表紙を見て、クリスは顔を赤くしながらワナワナ震えていた。
「な、な、な、な……なんじゃあこりゃああああああああっ!!!!」
クリスが拾った雑誌は簡単に言えば〝エロ本〟。
表紙には豊かな果実が実った女性がプリントされており、雑誌を開くと様々な女性が〝あんな事〟や〝こんな事〟をしており、そんなの見た事もないクリスは顔を赤くして雑誌を床に叩きつけた。
「オ、オメェ……まさかこんなの見てたとはなぁ……あたしに会いたいって言ったのは、このエロ本の表紙の女があたしに似てたからかぁ……?」
「ち、違います! 確かに表紙の女の人はクリス先輩に似てるかなぁと言われれば似てますけど、そんなやましい気持ちで買ったんじゃないんです! 本当なんです信じてくださーーーーあっ」
「起きてるじゃねぇかっ!!!」
「ごめんなさいっ!!!」
まさかの出来事で起きてしまった律は、必死の弁解も虚しくクリスに重いパンチを顔面にクリーンヒットされてしまい、土下座する事になった。
以降、律はエロ本は買わないと約束した。というより無理やりさせられた。ちなみにこの約束は、この先ずっと二人の間で絶対に破ってはならない約束となるのであった。
◇◇◇◇
「ったく……寝てるかと思ったら起きてたとはな。大人しく寝てろって言ったろ」
「ご、ごめんなさい……」
リビングではクリスが先ほど調理に使った器具や食器を洗い、病人である律はソファに座り、クリスの野菜スープを食していた。
温かく、身に染みる野菜スープの美味さ、律の身体の事を考えたクリスの優しさを感じる。律は野菜スープを飲みながらふと、キッチンに立つクリスを見て思ってしまった。
いや、誰でも想像してしまうだろう。好きな女の子が自分の家に来て、料理や洗濯してくれる姿を見てしまえば誰でも想像するだろう。
(なんかこれ……夫婦みたいじゃない?)
新婚ホヤホヤの二人。風邪を引いた旦那に温かいスープを作ってくれる妻。
不器用ながらも優しさを兼ね備える素敵な妻を迎えた旦那は幸せを噛み締める。
そんな想像をする律は、いつかそんな日が来ればいいのにと、スープを飲みながら思ってしまう。
「クリス先輩って、料理得意なんですか?」
「得意っつうか、人並み程度だな。昼はあんパンと牛乳だし、弁当作るのめんどくさいんだよ。お前はどうなんだ? 料理の一つくらい出来んのか?」
「僕は、殆ど出来ないっていうか……母さんがキッチンに立たせてくれないんですよね。なんか、自分の聖域を汚されたくないみたいな感じで……」
「へぇ〜……なら、今度教えてやろうか?」
「えっ、いいんですか?」
「別に構わねぇよ」
クリスの言葉を聞き、律は何を作るかを考え始めた。定番なのは卵焼きや肉じゃが、カレーなど。
材料はクリスと買えばいいかもしれないが、隠し味は何がいいだろうか。そんな事を考えている内に、すっかり野菜スープは冷えてしまった。もったいない。
如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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