天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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ナイトレイド

 誰一人動ける者はいなかった。

 少女の悲鳴さえ聞こえていないように、淡々とした作業のように人を殺した正邪にある者は怯え、ある者は興味を覚えた。

 

「……で、答えは?」

 

 小槌についた血を拭き取りながら返事を待つ。

 金髪は黒髪と目を合わせて合図を送っていた。

 

「あぁ、お前は帝具も持っているしこちらとしては戦力が増えて嬉しい」

 

「アカメに賛成。ついでに、そこの三人も一緒に連れて行っていいか?」

 

 三人のことを正邪に質問され、どう返すべきか困ってしまう。

 この三人がどうなろうが正邪には知ったことではない。

 ない、が……。

 

「……こいつらは強い。育てればナイトレイドの主戦力になれるだけの潜在能力を秘めてる」

 

「なら、決まりだな」

 

 戦力は多いほうがいいに決まっていた。

 世界をひっくり返す為に必要な駒は増やし、後々に役立ってもらう。

 使えない駒は適当に利用し、使える駒はしっかりと磨き、利用する。それが正邪のやり方だ。

 

「ちょ、俺たちはなにも言って……」

 

「ブラっち、男二人はよろしく!」

 

 タツミとイエヤスは目の前の状況をしっかりと理解できないままブラっちと呼ばれた鎧の人物に担がれる。

 

「あ、私は飛べるからサヨだけ任せた」

 

「そうかそうか。飛べるなら問題……」

 

 全員の動きが止まる。

 今までは飛べることも含めて自分の手の内を隠してきたが、今後は問題ないだろうとあっさり飛ぶことを教えたのだ。

 

「え、正邪って飛べるの?」

 

「他にも出来ることは沢山ある。聞けば聞くほど私を仲間にしたのは正解だと思うさ」

 

 そう言って何でもないように飛んでみせる。

 それに金髪と黒髪は目を輝かせて見ていた。

 

「……っと、色々と聞きたいことが増えたけど、とりあえずアジトに戻ってからだな」

 

「そうだな、私たちも急ごう」

 

 正邪たちは帝都を離れ、アジトと呼ばれた場所に向かった。

 

 

■ ■

 

 

「正邪〜! もう一回だけその布見せてくれないか?」

 

「しつこいな……。ひらり布の魔力だって有限なんだ」

 

 ナイトレイドにアジトに着いた。そこまではよかったが、肝心のボスと呼ばれる人物が外出しているためにアジトで待機をさせられていた。

 その間に正邪は金髪と呼んでいた女、レオーネと呼ばれている彼女から田舎者ということを利用して危険種のことや帝都のこと、帝具のことを学んでいた。

 ナイトレイドのことはボスから聞くといいということでまだ詳しいことは知らなかった。

 

「ちぇ、また魔力か」

 

「一昨日も言ったが、ボスとやらが来るまでは教えられない。何度も同じことを言うのは面倒だからな」

 

 そうレオーネには説明するが、正邪には一つだけ確認すべきことがあった。

 それに確信が持てるまでは何も話せないと自身の持つ道具の名前と効果以外は何も話してはいなかった。

 

(……道具も全員からの質問責めがなければ話そうと思わなかったけどな)

 

 そんなこんなで既に三日も経っており、今日は事情を理解できたタツミたちを連れてナイトレイドの紹介をする予定になっていた。

 

「……お、いたいた」

 

 アジトから少し離れた場所にタツミたちはいた。

 イエヤスとタツミが組手をしていたが、あと少しで決着が着こうとしていた。

 

「……なるほど、腕は確かだな」

 

 レオーネも二人の動きには感心し、タツミの勝利が決まったところで三人の元に駆け寄る。

 

「うおっ!? ……れ、レオーネさん?」

 

「昨日話したけど、今日はアジトの案内だ!」

 

 レオーネがサヨを担いで歩いていき、タツミとイエヤスは「入るって決めたわけじゃ……」とブツブツ言っている。

 正邪もその後を追うように歩くが、その時に僅かな違和感を感じた。

 

「! ……やっぱりそうか」

 

 正邪は、あることに関しての疑問を確信に変えていた。

 

 

「先ずここが会議室だ。あそこに座ってるのはシェーレな」

 

「……あら、皆さんどうしましたか?」

 

 シェーレと呼ばれた女はかなりボーッとした感じだが、これでも殺し屋だと考えると要注意人物だと思った。

 

「それがさー、タツミたちはまだ仲間になる決心ついてないんだ」

 

「……そもそも、アジトの位置を知った以上仲間にならないと殺されますよ?」

 

 ごもっともである。

 どれだけ駄々をこねようが彼らは二度と帝都で軍としては働けないことが確定している。

 

「……まあそりゃそうだよな」

 

「なんでこんなことに……」

 

 その後、マインと呼ばれるピンク髪の女と出会ったが、彼女はタツミたちにだけ突っかかっていたため、正邪は軽い挨拶だけで会議室を後にした。

 

 その後も訓練所にいるブラート(ホモ疑惑野郎)ラバック(変態)に会ったが、彼らもタツミたちとばかり話をしていたため、軽い挨拶だけで済ませた。

 

 

 最後に紹介されるのはあの黒髪だったが、今回の紹介はタツミたちを仲間に引き込むためのものだと分かっているため早く終わってほしいと思っていた。

 

「ほら、あそこにいるのがアカメだ」

 

「……あれってエビルバードだよな?」

 

「もしかして、エビルバードを一人で?」

 

 アカメが食べている肉を見て三人が驚く。

 その様子からしてあれも相当強い危険種なのだろうと判断できた。

 

「アカメはあれで野生児だからな。……にしても、今日はやけに奮発してるな」

 

「……ん、レオーネか。レオーネも食え」

 

「お、サンキュー!」

 

 アカメから渡された肉をレオーネは美味しそうに食べる。

 

「……正邪は仲間になるんだな」

 

「いや、私は遠慮しておく。そんな腹減ってねえし」

 

 ちなみに、アカメは仲間以外には肉を渡さないらしく、まだ迷っている三人には渡すことはなかった。

 

「なあアカメ、今日は奮発してないか?」

 

「ボスが帰ってきてる」

 

 アカメの視線がエビルバードの奥を見る。

 その視線の先にはボスと呼ばれる人物がいる。

 

「……やっとボスとやらの顔が見れるな」

 

 正邪は一人でボスの顔を覗きに行く。

 

「……お?」

 

「……!!?」

 

 そこにいる人物を正邪はなんとなくだが、覚えていた。

 白髪の女は目を見開き、凄いものを見たかのようにこちらを見つめていた。

 

 彼女の名はナジェンダ。

 そう、彼女は……

 

「……あの時の……しかし、あの時と全く容姿が変わっていないのは一体……」

 

「誰かと思えば、あの時の女か」

 

 正邪がこの世界に来た時に出会った人物だった。


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