天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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秘密のアジト

 ナジェンダが一時的にとはいえアジトを留守にした今、アジトを指揮するのはアカメだった。

 

 八雲紫の仕業で手配書が貼られてしまった正邪だが……。

 

「まさかこんな近くにいるなんて思わないよな……」

 

 自分の顔が描かれた手配書を見つけては愚痴をこぼす。

 帝具ではないらしい正邪の持つ道具の一つには一時的に姿を消せるものがあるとは聞いていた。

 しかし、その透明化はインクルシオの透明化と同等の性能であり、一つの帝具と言っても過言ではなかった。

 

「はあ、やっぱり正邪の道具って何でもありだよな」

 

「そんなことはない。それに、強い力を自分で使うのならその代償も自分に返ってくる」

 

 話をしているうちに正邪の透明化が消えかかる。

 正邪曰く一度きりの使い捨てアイテムは量産が可能な反面質はかなり悪いのだと言う。

 近くで見るとしっかりと正邪の姿が確認できるほどに効果が切れ始めた頃、俺と正邪は目当ての場所に到着した。

 

「……げ、効果切れかかってんじゃねえか」

 

「そのタイミングで無事に着いたのだからいいだろう?」

 

 店の前でラバックが立っているということは、つまりそういうことなのだろう。

 ここが、ナイトレイドの秘密基地なのだろう。

 

 奥にはマインと姉さんがくつろいでいて、その隣に正邪が座る。

 

「見ての通り、正邪を除けば帝都を堂々と歩けるのは俺達四人だ」

 

「それだけいるなら十分だな。これだけ暴れて四人も自由に動けているとは帝都も甘い」

 

 近くに置いてあった酒を手に取り、一枚の紙を見せる。

 そこには人物名と帝具の名前がいくつか書かれていた。

 

「私が集めることの出来た情報はそれで全部だ。中にはヘカトンケイルの姿もあったことから新しい適応者が見つかったか、あの時の女が生きている可能性が考えられる」

 

「生きてるってことも考えられんのか……」

 

「こればっかは俺たちも確認出来てたわけじゃないからな。ただ、暫く戦場に立てない程には重症だと読んでたんだけどなー」

 

 ヘカトンケイルの所持者、セリュー・ユビキタス。

 彼女かどうかは不明だが、ヘカトンケイルの所持者がイェーガーズの組織の一員であることは確定していた。

 

「何にせよ、ヘカトンケイルの咆哮対策で耳栓を作る必要があるってことか」

 

「それはいい考えだな。他にも確認出来たものじゃ死者行軍八房の死体操作も厄介だな」

 

 正邪は気になるヘカトンケイルと八房だけ説明をし、他は気にする必要もないのか、はたまた文献に載っていないから説明出来ないのか、説明はなかった。

 

「他に聞きたいことはあるか? 一応その紙に書いてあるものの中から厄介そうなのだけ挙げてみたが」

 

「いいや、少ない時間でここまで情報を集められてるなら上出来だ」

 

「さすがは鬼人正邪って感じね」

 

 ラバックとマインが先にリストを確認する。

 ……本当に正邪は凄い。

 たった数時間の敵本拠地視察だけでここまでの情報を盗み出すことが出来たのだから。

 

 俺も、負けてはいられない。

 

「なあ、行く途中で見たんだけどよ……」

 

 

■ ■

 

 

「……おい、これで大丈夫なのか?」

 

「おう、ある程度の変装は出来てるぜ」

 

 今、私たちがいるのはつい先程話していたイェーガーズがいる武芸大会だ。

 元々顔が知られていない四人なら理解できる。

 

 ………なぜ私まで連れられた?

 

「私は顔がバレれば一発アウトだぞ。バカなのか?」

 

「とかなんとか言いながら付いてきたし、正邪なら最悪その陰陽玉で逃げられるだろ」

 

 ラバックは他人事だからか軽く言う。

 いや、出来ないわけではない。

 だがしかし、こんなところで魔力の無駄使いはしたくないというのが本音だ。

 

「なんなら正邪も出ればよかったのにさ」

 

「レオーネは……まあバカだったな。私はエスデスに顔バレしてるんだぞバカ」

 

 現に、こうやって堂々と出来ている理由は子供が被りそうな帽子に可愛らしい眼鏡、更には小槌で身長を小さくして完璧子供状態でいるからだ。

 

「……兎に角、これが終わればさっさと………」

 

 一瞬息が止まった。

 なぜ気付かなかったのだろうと後悔した。

 奴は、帝都側の妖怪。

 こんな大きな催し物に来ないはずがなかった。

 

 

「あら、小さなお子様ね。可愛らしいわ」

 

 奴の姿に全員が動揺していた。

 無理もない。彼女は突然目の前に現れたのだ。

 だが、それこそが奴の能力を利用した主な移動方法だ。

 忘れるわけがない、奴の能力を……。

 

「ふふ、安心なさい。今は危害を加えるつもりはないから」

 

 超えなければならない壁(八雲紫)の存在を。


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