天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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八雲紫とエスデス

 新将軍八雲紫が襲われていた文官の人間を救出し、同時に革命軍の人間を次々と倒しているという情報は瞬く間に広がっていった。

 

「元大臣チョウリとその娘が三人の帝具使いに襲われた際に現れ、三人を立てなくさせてから救出したと逃げのびた革命軍の一人から報告があった。しかも八雲紫は無傷でだ」

 

「帝具使い三人を相手に……」

 

 その報告に改めて将軍を名乗るだけの実力があると理解する。

 

「最近良識派の文官が次々に殺されるという事件があったが、おそらくその三人が元凶だったのだろう」

 

「……でもよ、立てなくさせただけならまた誰かを襲うってことはないのか?」

 

「そこだ。おそらく行動は見せないと思うが、それを狙ってまた来る可能性もある」

 

 そこで正邪は気付く。

 これは、選択を迫られているのだと。

 

「……良識派に限定されてるってことは他にも殺されるかもしれないって人間がいるんだな」

 

「候補は五人程。そこからさらに宮殿の外に出る者となると候補は二名に絞られる」

 

「それなら私たちの出番ってことか。帝具の回収と良識派の文官の護衛が出来るしな」

 

 正邪の言うことはナジェンダも考えてはいたことだった。

 そこに一つだけ正邪の欲が出ていることを除けば。

 

「……八雲紫がいたなら戦わずに撤退しろ。今は戦う時じゃない」

 

 ナジェンダを睨みつける。

 しかし、数分で諦めたように睨むのをやめた。

 

「……私だってまだ魔力が回復しきってないんだ。万全じゃないと勝てないことはよく分かってる」

 

 実際、現在の魔力総量は以前八雲紫から逃げ切った時よりも少なかった。

 それも考えて今回は何もしないと改めて自分に言い聞かせた。

 

「俺だって、政治とか分からねえけど民の為に頑張ってる人間を見殺しになんて出来ねぇ!!」

 

「俺もだ。そういう人が一人でも多く生きてりゃ俺たちの村も良くなるんだろ?」

 

「二人と同じ、私たちの村のためにも今回は行くべきだと思う」

 

 タツミ、イエヤス、サヨの後押しもあってナジェンダは笑みを浮かべ、席から立つ。

 

「エスデスが既に帰還したということもある。レオーネ、奴と隙あれば八雲紫の動向も探ってほしい」

 

「了解!」

 

 正邪はラバック、アカメと共に、タツミはブラート、サヨと共に、それぞれ護衛対象のもとに向かう。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「あら、何の用かしら?」

 

「なに、新しい将軍に興味が湧いてな。こうして来てみた」

 

 帝都の和菓子店に、二人の将軍は座っていた。

 お互いに笑顔だが、その殺気は誰一人として寄せ付けないというオーラだった。

 

「ふふ、部下の敵討ちにでも来たのかと怖かったわー」

 

「どの口が言う、化物め」

 

 お互いに団子と茶を飲むだけで言葉はない。

 

 

「……ハァ、ハァ……」

 

 

 この状況が、何よりも恐ろしいとレオーネは感じた。

 

「あ、あの殺気……私に向けられてるのか……!?」

 

 レオーネは即座にその場から立ち去った。

 あと少しでも長くいれば、間違いなく殺されると本能が判断したのだ。

 

 

「あら、貴女が殺気を出しすぎるから逃げたじゃない」

 

「バカ言え。貴様がわざと逃がすように殺気を放っていたではないか」

 

 レオーネが去り、二人は一口団子を頬張った。

 

「んー! 美味しいわ〜」

 

「……確かに美味いな。任務が終わったらあいつらにも食わせてやるか」

 

 二人は何事もなかったかのように食べ続ける。

 

「……やっぱり彼らは動いたのね」

 

「ナイトレイドに罪を着せるというやり方は貴様が全ての紙を回収したせいで出来なかったが、これも任務だからな」

 

 八雲紫は笑った。

 そして、最後の団子を食べ終える。

 

「つまり、予定より早く今の正邪がどうなっているのか見れるのね」

 

「……なに? 八雲、貴様何を知って……」

 

 エスデスが言い終える前に八雲紫は不気味な空間の中に消えた。

 

「……せめて、金は払っておけ」

 

 結局納得はいかないまま自身の分と八雲紫の分まで払うことになり、うさ晴らしに拷問しようと考えた。


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