『業証山』の迷路を彷徨うこと十五分。どんな道を通っても、壁伝いに歩いてみても、出口が見つからない。
壁に隠し扉が有るんじゃないか、とハリー達は思案したが、それも見当たらない。
「ねぇ……」
「まさか、とは思うけど……」
「それは迷路にとって邪道よ……」
ハリー達に思い浮かぶ出口はあと一つ。それをハーマイオニーは否定したいが、否定できる要素がない。ついでに、怖い話が鬱陶しいため早く逃げ出したいのだ。
入り口へ戻った三人は、その周りを調べ始めた。すぐに、細い道が見つかった。
「…………やっぱり」
「鬼灯先生、性格悪い………」
ベチャッと、ハーマイオニーの目の前の壁に赤いインクの文字が現れる。
『見つかっちゃった。けど、遅かったね』
『次はもっと難しいの作ろうか』
ついでに、青いインクの文字も現れた。
ハーマイオニーは文字を無視して、通路を進み始めた。ロンがその横顔を見たとき、彼女の表情は『無』だった。ロンはハーマイオニーには逆らわないようにしておこう、と心に誓った。
ハリー達は進み、さらにいくつかの部屋を突破した。その途中でロンが脱落し、最後の部屋でハーマイオニーはハリーを先に進めるために、前の部屋へと戻って行った。
そして、鏡が置かれた部屋で、ハリーは一人の男と対面していた。
クィリナス・クィレル。
ハリーが予想していなかった人物だ。
「手短にしよう、ハリー・ポッター。彼に見つかる訳にはいかないからな。さあ、『みぞの鏡』の前に立て。何処に『石』があるんだ!」
何処からともなく現れた縄が、ハリーを拘束する。鏡の前に引きずり出され、そして──ハリーは賢者の石を手に入れてしまった。
一瞬、驚いた顔をするハリー。それを、クィレルは見逃さなかった。
「ほう、手に入れたようだな。何処に持っているのかはわからんが、石を渡してもらおうか……その前に、ご主人様がお前とお話しになってくれるそうだ。感謝するがいい」
クィレルは歪んだ笑みを浮かべながら、ターバンを解いていく。そして、後ろを向いた。彼の後頭部があらわになった。
そこには、もう一つの顔があった。
蛇のような、青白い顔だ。眼は真っ赤に染まっている。
「俺様が誰かは、言わなくてもわかるだろう……?ハリー・ポッター……俺様に石を渡せ。そうすれば、命乞いする時間ぐらいはやろう……そのポケットにある石をよこしたなら」
ハリーは後ずさりしながら、ポケットの上から賢者の石を掴んだ。そして、クィレルに──彼に取り憑いたヴォルデモートに言い放った。
「これは『蛮勇』だ。『無謀』な行動だ。だけど、今はそれで構わない。僕は──お前に──この石を──渡すつもりはない!」
ニタリ、とヴォルデモートが笑う。
「俺様は勇気を称える……確かに、お前の行動は『蛮勇』だろう。だが、それも一つの『勇気』だ。その勇気を称え、この身体で出せる全力で戦わせてもらおう……捕まえろ!」
バッとクィレルが襲いかかってくる。捕まる、とハリーが思ったその瞬間、
「どうもこんにちはそしてさようなら」
クィレルの顔面に太く黒く、硬い金属の棒がクリーンヒットした。
「ウグォッ!?」
金棒がぶつかった反動で、後頭部を地面に強打するクィレル。哀れ、ヴォルデモートは石の床とキスするはめになってしまった。
ハリーは後ろを振り向き、金棒をぶん投げた人物を見つめた。
「お疲れ様です、ポッターさん。説教などは無事に帰ってからにしましょう」
その言葉に、「ああ、結局説教はされるんだな」と思いながらハリーは意識を手放した。
入れ違いに、起き上がったクィレル/ヴォルデモートが血走った目を向ける。
「また……また貴様が邪魔をするのか、『鬼神』鬼灯ィィィィッ!」
「うわ、キモ」
怒り狂うヴォルデモートとは対照的に、鬼灯はヴォルデモートの見た目の感想を端的に述べただけだった。しかも冷ややかな目で。
次回、鬼灯様の貴重な戦闘シーンが!?
ただし更新日未定。