さて、クリスマスも過ぎ年も明け、新学期が始まった。
異界学最初の授業は、何かを学ぶのではなく鬼灯による実験の実演となった。
「異界に関わるのであれば、いつかは
悪魔の召喚。それの危険性がわからないホグワーツ生はいない。一年生を除いて。
「悪魔は非常にずる賢い。虎視眈々と、貴方たちを堕落させようと狙ってきます。己を知り相手を知れば百戦危うからず。何かあってからでは遅いですし、今のうちに慣れておいた方がいいです」
召喚に、いくつかの貴重な材料を使うため、スネイプが補佐として立ち会っている。決して地獄産の珍しい素材が欲しいわけではない。多分。
鬼灯が魔法陣を描き、スネイプが素材を並べていく。部屋の暗さも相まって、
準備が終わり、鬼灯が悪魔を呼び出すための詠唱を始める。ただし、内容はほとんど適当なようだ。
不安になるハリーたちだったが、無事に召喚は成功したようで、魔法陣から煙が噴き出した。その中に、一つの影が見える。
「ククク……俺を呼び出した愚かな人間はお前か。さあ……何を望む?」
「お久しぶりです、ベルゼブブさん」
「お前かよ!久々に誰かが召喚したと思ったらお前かグハァッ!?」
五月蝿い、と鬼灯が最上級悪魔──ベルゼブブを金棒で殴る。その光景に、ハリーたち三人はやっぱりと思い、他の生徒は少し引いていた。また、スネイプはベルゼブブを殴ったことに呆然としていた。
「何でお前が俺を呼び出してんだ!そんな必要ないだろ!」
「いえ、生徒たちに悪魔に慣れてもらおうと思ったので……そうすると、私が知っている悪魔は貴方かサタン王、レディ・リリス程度でして、リリスさんは教育に悪いですし、サタン王を呼び出すのはどうかと思いまして、殴っても問題なさそうな貴方にしました」
「普通殴ってもいい奴だなんていないからな?わかってるか?」
「おや、悪魔の貴方が常識を説くのですか」
「そろそろ黙ってくれ!」
そろそろベルゼブブが可哀想になってきた、と思い始めた生徒たち。スネイプはベルゼブブと共に召喚されていた白山羊スケープに地獄産の薬草、毒草を貰いさっさと帰った。
「それで、召喚自体が目的だったのでもう帰ってもらっても結構なんですが」
「あー……それがな、サタン様が『一度召喚されたら最低でも一時間は召喚者と共にいろ』って言い始めたんだ。しばらくは地獄には戻れない」
「では、奥の部屋にいてください。決して倉庫に入ってはいけませんよ。あの
ベルゼブブは頷くと、鬼灯の自室へと消えていった。彼は無駄に高いプライドを持っているが、さすがに白澤のような目にあうのは嫌なのだ。
「悪魔は万能……とまではいきませんが、非常に高い能力を持ち、召喚者の指示に従います。しかし、契約の対価として大切なもの──例えば、寿命や魂、伴侶や子供など──を求めてきます。悪魔を呼び出すのは最終手段、呼び出した場合は値切り交渉を頑張ってください」
普通悪魔相手に値切りなんてできない、と言う生徒たちのツッコミは届かず、授業は終了した。
「なあ、一ついいか?」
「はい、何でしょうか」
「いやーな感じがするんだよな。悪霊、それもサタン様の僕ではなく、悪意を持って自分からそうなったタイプの気配が……」
「それは、どこから感じますか?さっさと吐け」
「わからねぇよ!何となく感じるってだけだ!」
「お前の触角は何のためにある」
「蠅モチーフだ!チッ……確か、今ここには賢者の石があるんだろ?」
「おや……どこでそれを?」
「リリスがどっからか情報持ってきたんだよ。ちゃんと守っておけよ?じゃないと、この学校がヤバいことになる」
それだけ言うと、ベルゼブブは消えた。地獄へ戻ったようだ。
鬼灯は少し考え込み、校長室へと足を向けた。