ホグワーツの冷徹管理人   作:零崎妖識

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トロール・イン・ホグワーツ・ハロウィーン(アリス・イン・ワンダーランド風に)

時は流れハロウィーン。

鬼灯は教室に蕪で作ったジャック・オ・ランタンを置き、金魚なのか植物なのかまったくわからない何かを飾り付けていた。

 

「あの……何ですかそれ」

 

「どちらのことでしょうか、ポッターさん」

 

「植物の方です。温室にも植えられてましたけど……」

 

「これは金魚草と言いまして……金魚なのか植物なのかわかりません。交尾をして受粉し、稚魚と呼ばれる蕾をつけます。年に一度、春に開花して一日でこのような成魚になります。エサも食べますし肥料も摂取します。……一匹いりますか?」

 

「いりません」

 

鬼灯が差し出してきた鉢植えを押し返す。一ヶ月程度の付き合いとはいえ、ハリーはこの鬼神が滅多に怒らないことをわかっていた。ハグリッドの飼っているファングがナチュラル無礼をしていて、その上で彼がファングを撫で回しているところを目撃したからだ。

 

「蕪の方は、ジャック・オ・ランタンの元ネタです。元々、ハロウィーンはケルトの行事で、ランタンが南瓜になったのはハロウィーンがアメリカに伝わってからです。また、ジャック・オ・ランタンはジャックと言う地獄にも天国にも行けない亡者が持っている提灯です。つまり鬼火です。ついでに、鬼灯(チャイニーズ ランタン)は漢字で書くと鬼の灯。鬼は中国語で幽霊ですので、訳すと『亡者が持つ赤い提灯』となります。つまり日本においてジャック・オ・ランタンを訳すと私です」

 

「日本で、ハロウィーンってどんな感じなんですか?」

 

「もはやただの仮装祭ですね。多分ケンタウルスを連れていっても、『すっごいクオリティ高い人』という認識で済みます。本来の意味で言うなら百鬼夜行。ハロウィーンとは祖霊を迎える行事であり、収穫を祝う日であると共に地獄の釜の蓋が開く日です。それと同時に悪い亡者や魑魅魍魎(ちみもうりょう)がやって来るので、襲われないように仮装して百鬼夜行に参加するのが本来の和製ハロウィーンです」

 

そうこうしているうちに他の生徒が集まり、授業が始まった。今回はハロウィーンにちなんでケルト関係──いわゆる『影の国』についての説明だった。

 

 

 

大広間は綺麗に飾り付けられ、ところどころに藁人形やら不気味な仮面やら金魚草やらが付けられている。確実に鬼灯の仕業だろう。

何かの魔法なのか、わぁいわぁいとはしゃぎながら壁や天井を縦横無尽に走り回る女の子二人が時折見える。

ハリーたちが皮付きポテトを皿によそっていた時、クィレルが勢いよく駆け込んで来て、ダンブルドアの元でこう言った。

 

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って……」

 

クィレルはそのまま気絶してしまい、大広間は大混乱となった。

大声が飛び交う中、ハリーはダンブルドアが杖を出そうとするのを鬼灯が止めるのを見た。鬼灯はいつもダンブルドアが立っている場所に立つと、金棒を剣のように体の前に突き立て、息をゆっくりと吸い込んだ。

 

「喝っ!」

 

ピタッと全員の動きが止まり、静かになる。その視線は、闇のオーラを放っている(ように見える)鬼灯に注がれていた。

 

「まずは先生方の指示を聞きなさい。騒ぎたいなら安全な場所で、誰にも迷惑がかからないように。いいですね?」

 

全員が頷くしかなかった。

ダンブルドアの指示で寮へと帰る。その途中で、ハリーとロンはハーマイオニーが居ないことを思い出した。

パーシーや先生方にバレないように、ハッフルパフ生の列に紛れ込んで地下室へ向かう。途中、大広間の方からスパーンと小気味いい音と「起きなさい!それでも教師ですか!」と言う鬼灯の声が聞こえたが、ハリーとロンは無視することに決めた。今は恐怖を味わう必要はない。

ハリーたちが地下室に到着した時、トロールは何かのドアに入ろうとしているところだった。鍵はついたままになっている。

 

「閉じ込めよう」

 

「名案だね」

 

トロールが中に入ったのを見計らって、扉に飛びつき鍵をかけた。

トロールを閉じ込めた、と意気揚々と戻ろうとして、ふと気づいた。あのドアはどこの部屋のものだったのか、と。その答えは、甲高い悲鳴が教えてくれた。

 

「しまった。あのドアは女子トイレのだ!」

 

「ハーマイオニーの声だ!」

 

すぐさま二人はドアへ戻り、鍵を開け、突入した。トロールはハーマイオニーを襲おうとしているところだった。

 

「引きつけないと!」

 

「僕がやる!」

 

ハリーが壊れた蛇口を拾い、投げつける。トロールの興味はハリーに移ったようで、ゆっくりと振り向き、ニタニタしながら寄って来た。そして、棍棒を振り上げたところで動きが止まり、ゆっくりとハリーから視線をあげる。

次の瞬間、トロールは横向きに吹っ飛んだ。

 

「……え?」

 

ハリーは今見た光景を信じられなかった。あれだけ恐ろしそうで、重そうなトロールが吹き飛んだだって?

次に彼が見たのは、金棒を振り抜いた姿勢で着地した鬼灯だった。

鬼灯は振り向き、スタスタとハリーに近づく。そして、ゴンッとハリーの頭に重い拳骨を落とした。ロンとハーマイオニーにも。

 

「まったく。私がすぐに来たからよかったものの、そのままだと死んでいましたよ。友人愛は認めますが、貴方たちがやったことは『勇気ある行動』ではなく、『無謀』と言うものです。ですが、『蛮勇』ではなく、相手が自分よりも強いと認識していながら挑んだことは素晴らしい。今度鍛えてあげましょう」

 

「いえ、結構です」

 

「そんなこと言わずに。いずれ役に立つかもしれませんから」

 

その後到着したマクゴナガル先生から三人は処罰──ハーマイオニーに五点減点、三人それぞれに五点加点──を受け、ついでにハリーは鬼灯から五点もらい、寮に帰っていくのだった。

 

 

「──さて、このトロールは誰が入れたのか、調べなければなりませんね」

 

「お手数をおかけします、鬼灯先生」

 

「マクゴナガル先生は『石』の防衛の強化をお願いします。調査は座敷童子さんに手伝ってもらうとして……屋敷しもべ妖精にも手伝ってもらいましょう。では、私はこれで」

 

「鬼灯先生、非力な老婆に、トロールの後片付けをしろと?」

 

「いえ、本来私は女子トイレに入っちゃいけませんし……今回は緊急事態でしたが、クラスの女子に『変態』と言われてもおかしくありません」

 

「『クラスの女子』は今の貴方には居ませんよね?」




フィルチさんはちゃんと居ます。掃除と見回り、罰則場所への連行専門。書類仕事や罰則指定などは鬼灯様の担当です。

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