聞こえるか、この鐘の音が() 作:首を出せ
……キャラ崩壊しておりますので、そう言ったことが苦手な人はブラウザバックをお願い致します。
「はぁ……ハァ……ハァ……ぁっ!!」
すっかりと夜も更け、街中には所々に設置されている街灯しか光源がないような時間帯。ローブ姿の人物は自身の息が上がっていることもいとわずにただひたすら街中を駆け抜けていた。まるで何かに追われているかのように。
「くっ……!こんなところで……!」
足が縺れ駆け、地面に倒れそうになるが何とか態勢を立て直して再び一心不乱に走る。脇目もふらず、自身を追い立てる恐怖から逃れるように。ローブの人物はどうしてこうなったのか理解できなかった。只普段と同じように仲間たちと仕事をしていただけのはずだ。なのに、今日だけはそういつも通りに行くことはなかった。
何処からともなく現れた男が自身の日常を脅かしたのだ。そのことにローブ姿の人物は言い様のない怒りを覚える。しかし、同時に感じていた。自分のことを追いかける人物には決して勝てないことを。故に彼はこの状況を脱し、別の仲間の所へ行くことにより、次の機会その人物へと報復することを決断した。
だが、そんなローブ姿の人物の願いは叶わない。
「―――っ!」
何故なら、自身の目の前には既にその男が立っていたからだ。自分と同じように全身を包み込むような大きさのローブを身に纏い、詳しい体格は分からない。只全体の大きさから男性であるということだけは読み取ることができた。
「な、何なんだお前は……!」
思わず叫ぶ。
何故自分が、どうして仲間たちが、そんな思いが彼の脳内を駆け巡っては声になることなく消えていく。
一方、ローブ姿の人物の激情を言葉と共にぶつけられた男は何も答えない。動きもしない。深くかぶっているが故に表情は見えないが、頭部と思われるところから覗かせる視線は何処までも淡々としていた。
そして、ローブ姿の人物は覚悟を決めることにした。先程の状況、仲間が必死に稼いでくれた時間をこうして無駄にするほどの人物だ。自分では到底逃げることはできないと悟ったが故である。
静かに魔術式を構築すると共に、その魔術式に自身のマナを注いでいく。マナという名のエネルギーを取り込んだ術式は起動し、そのまま自身に秘められた力を開放していく。
結果―――轟音と閃光が程走り、目の前の男をその術式は見事に喰らった。
凄まじい轟音と黒い煙幕が男を包み込む。
ローブ姿の人物は自身の前に広がる光景を見て、先程まで浮かべていた印象すらも忘れてただひたすらに仕留めたと思った。
今の術式はローブのオリジナルであり、その威力はそんじょそこらの魔術とは比べ物にならない。文字通り自身の半生をつぎ込んで作りだした自慢の魔術なのだ。
悠々とその場を後にしようと未だ黒い煙が上がっており、先程まで自分の仲間を殺した男がいた所へ背を向ける。それは紛れもない慢心だった。
だからこそ、その結末は至極当然のものだったのだろう。
「――――――――っ!!??」
自身の身体に何かが突き抜ける感覚。
己に流れる血が外へと出ていき、体温がどんどん低下して言っていることがローブの人物には理解することができた。ゆっくりと、自身の身体に視線を向ける。するとそこには、自分の身体から人の拳が生え、見事に自身の身体を射貫いている光景だった。だが、それだけでは終わらない。自身が仕留めたと思っていた男はいつの間にかローブの人物のすぐ背後に回っており、そのまま耳元に口を近づけ、こうつぶやいた。
「
瞬間、ローブの人物は違和感に気づいた。
体の中を電撃が走りまわるような感覚を覚え、動かそうともしていないにも関わらず自分の身体が勝手に動き始める。そしてそれは体だけにとどまらず、自分の脳内にまで侵食していき―――
「iiiakaiaajjokakkakaghpiap,agoirjg[a,g@ajgihia[al@gajpaj@gakitgpgra!!??」
そのまま息絶えた。
✖✖✖✖
「貴方、世紀末救世主か何かなの?」
「いきなり何の話だ」
所変わってここは帝国宮廷魔導士団特務分室の室長室。
この部屋の主である女性が男の報告を受けて呆れたように言葉を溢した。それに対して男は小首をかしげるばかりである。
この部屋の主―――執行官におけるトップであり魔術師のアルカナを冠する女性、イヴ・イグナイトはなんとも思っていない男に対して彼が自身に持ってきた報告書を投げ渡した。当然、報告書は紙媒体で綴られており、投擲などしようものなら空中へと霧散するのだが、そこは男が全て回収するに至り大事にはならなかった。
「はぁ……というか、ここではその鬱陶しいローブと仮面を脱ぎなさい。見ていて暑苦しいのよ、ソレ」
「それは断る。ローブは確かに熱いからいいとして、仮面まではいだら何をされるのかさっぱりわからない」
「貴方は私のことを何だと思っているのかしら……?」
「
「………(ピクピク」
何におけるリーチなのかイヴにはわからない。だが、碌でもないことなのははっきりとわかっていた。そして、同時に思う。この遠慮なしにズバズバと物を言ってくる無礼者を今すぐにでもノしたいと。もちろん、そんなことをこの男にできるわけもない。戦おうにもここは既に男の距離だ。手を出そうとした瞬間にはこちらがやられる。長年同じ職場で共に居たためにその程度のことは嫌でも理解していた。
「……ハァ。貴方といるとストレスが溜まってしょうがないわ。―――さて、ネームレス。貴方にまた新しいお仕事を上げるわ」
「間髪入れずに新しい仕事とは本当にこの職場どうなってるんだ……」
「まともじゃない連中が集まるとっても楽しい仕事場よ。今さら気づいたの?」
「いや、知ってた。……で、取り敢えずどんな内容の仕事だ」
深紅の髪をなびかせて若干ドヤ顔を決めるイヴ。その様子に今まで対峙していた男―――ネームレスは今度は自身が呆れるように息を吐いて先を促した。
イヴはそのネームレスの様子に満足したようで、先程よりも明るい雰囲気で彼に与える仕事の内容を話し始めた。
「仕事の内容は長期任務。目的は
ネームレスは告げられた仕事の内容に対して眉をひそめた。もちろん、その様子は仮面越しに見ているイヴには伝わっていない。彼の反応はもっともだ。長期任務の場合それに伴いそれ相応の準備が求められる。潜伏先はもちろん内容によっては職種や、自身の身の上の捏造など様々な根回しが必要となるのだ。
けれど、今回の場合は違う。実行までの期間が極端に短すぎるのだ。これは明らかに彼女の嫌がらせであるとネームレスは気づいた。実際その通りである。
「汝は過去の失敗から何も学んでいないのか」
「……何を言っているの。過去の失敗を学んだからこそ貴方を送り込むのよ。彼女は餌として極上の物。何度口にしても飽きられることのない味を持つの。それを長く使用するにはそれ相応の物を用意する必要がある。―――此処まで言えば流石に理解できるでしょう?」
「………了解。その任確かに請け負った」
「潜伏先はアルザーノ帝国魔術学院。目的は今言った通り餌を守りながらそれにつられた連中の排除。入学の手続きだけは既に整えてあるわ。住処は自分で何とかしなさい」
「面倒な……」
それだけ言い残してネームレスは姿を消した。
まるで最初からいなかったかのように自然に姿を消した彼に、イヴは自身が座っている椅子に深く腰掛ける。
「魔術を使った形跡はなし……ね。……本当に、どうしたらあんな化け物が生まれるのかしら」
✖✖✖✖
コツコツと音を鳴らしながらネームレスは特務分室内の道を歩く。すると、彼は同僚のアルベルトに遭遇した。
「どこへ行くつもりだネームレス」
「これから長期の仕事」
「……詳しい期間は」
「恐らく三年だろう」
アルベルトはすれ違いざまにネームレスを引き留めて問いかけた。彼もアルベルトのことを無視することなく足を止め彼の質問に答えていく。ネームレスが告げた内容にアルベルトは眉間にしわを寄せ、そのまま自身の指をあてて天を仰いだ。
「その仕事をお前に寄越したのはあの女か」
「それ以外に居ないだろ」
「―――少々直談判してくる」
短い返答。だが、それに反してアルベルトの強い意思がしっかりと読み取ることができた。彼が何を思ってそのような行動に出るのか予想ができたネームレスは先程まで自分がいた場所に向かおうとするアルベルトの肩を掴んだ。
「落ち着けアルベルト。冷静になるんだ。言いたいことは分かるが……」
「止めるなネームレス。お前までいなくなったらリィエルの相手は本格的に俺だけとなる。あのバカも何も告げずに消えたばかりなのだからな」
普段の冷静沈着な様子はその姿から見て取れることはない。どうやら今の彼は少しご乱心のようだった。だが、ネームレスもその気持ちが理解できるのか止めはするものの彼自身の言いたいことを否定するわけではなかった。
リィエル・レイフォード。それが今アルベルトを苦労のどん底へと叩き込んでいる人物の名前である。彼らと同じ執行官であり戦車のアルカナを冠している。その姿はまさに戦車の名にふさわしく。彼女にとって「作戦」とは、どの人物がどの順番に真正面から突撃していくかというだけである。
まさに戦車が擬人化したような少女、それがリィエル・レイフォードだった。そんな彼女を引き連れて偵察任務をこなすアルベルトの苦労をネームレスは理解していた。だからこそ、彼は一番の保護者であるグレン・レーダスが居なくなってから彼の穴を埋めるようにアルベルトのフォローを行っていたのだ。
「汝の気持ちはよくわかる。が、イヴは絶対に言うことを聞かないだろう」
「あの女も少しは俺の苦労を味わったほうがいい。……グレンと共にライトニング・ピアスをぶち込んでやる」
「マズイ、アルベルトが普段よりもご乱心だ……」
結局、その場は何とかネームレスが収めたのだった。
こうして『彼』はアルザーノ帝国魔術学院に入学することとなる。
予告編からの変更点。
名乗っている名前は生前の物ではなく、ナナシという意味でネームレスとありふれたものに変更。
―――『彼』改めネームレス――――
宮廷魔導士団特務分室に入った後の彼が成長した姿。アルカナはNo.20審判を冠する。
普段はローブ姿に髑髏の仮面をつけており、その外見は完全に呪碗のハサンっぽい。ちなみにイヴ以外の人物は全員素顔を知っている。彼女が知らない理由は上記の通り。
既に晩鐘を10回ほど消費しており折り返し地点を過ぎている為に、口調が少しおかしいことになっている。
ほぼ完全に物理系統型であり、ショック・ボルトすらも使えない。しかし触れられさえすれば自分の身体を介して他者に電撃を送ることは可能。初代様からのフィードバックを多大に受けている為、暗殺に関して右に出る者はいない。基本的に相手が気を逸らす、もしくは集中力が途切れた一瞬の内に相手を殺すのが彼の主体的なスタイルである。
――『操想電葬(ザバーニーヤ)』―――
『彼』オリジナルの業。自分の身体を伝って電流を流し、相手の命令系統を滅茶苦茶にする。短期間であれば相手を意のままに操ることも可能。ただし、相手にかかる負担が大きすぎるために大体人形にする前に発狂する。というよりも、そんなことをすれば自身の首が飛ぶために操るようなことはしない。
―――ローブの人物――――
アルザーノ帝国に潜伏していた魔術師。なんとなくいい人っぽい感じで語られてきたが、そんなことはない。彼にとって仕事とはいい素体を誘拐して実験することであり、彼の仲間達とは自身の御同輩である。ちなみに、命懸けで時間を稼いでくれたわけではなく彼が普通に生贄にしただけだったりする。でも鐘は鳴らない。