聞こえるか、この鐘の音が()   作:首を出せ

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どうしてヒロインの異性の幼馴染はこうも揃って闇落ちするんでしょうか……。


幼いころに将来を誓い合った人が闇落ちして私の地位だけを狙ってくるなんて……

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれたねぇ!ささ、遠慮なく食べてくれ!」

「まだまだ用意してあるわよ~」

「ローストビーフはお好きかな?他に欲しいものがあれば何でも言ってほしい」

 

 ある屋敷の中で気のいい男性の声と穏やかな女性の声が響き渡る。彼らが座っているのは食事をするテーブルであり、そこに座っているのは五人の男女だった。まぁ、ありていに言ってしまえばフィーベル家の食事風景である。

 今日からリィエルがルミアの護衛として彼女が住んでいるフィーベル家に居候するらしく、システィーナの両親は新たに増えたリィエルに対して嫌な顔をすることなくこうして歓迎しているのだ。だがしかし、あまりにも高いテンションと来たこともない場所に居る為かリィエルは困惑気味だった。

 ここで彼女の困惑を感じ取ったシスティーナが両親を止めに入った。彼女には両親のテンションはきついだろうからやめてやって欲しいと。

 捉え方によってはとても酷い言葉だが、それでも彼らはめげることはない。むしろ料理が口に合わないわけではないと知って大喜びした。結果的にテンションは下がらなかった。これにはシスティーナもルミアも苦笑いである。

 

「そういえばリィエルさん。ここ最近システィーナとルミアはグレン先生という方の話ばかりするけど貴女も好きなの?」

「……グレンが居ないと始まらない。……でもシスティ、ルミア。サンの話はしてないの?」

 

 恐らくリィエルの純粋な疑問だったのだろう。彼女にとってグレンはかけがえのない存在だ。そして、彼女もまた彼がこの二人に何をしてきたのか知っている。だから、彼女たちがグレンの話をすることは理解できた。だが、ここで同じくらいに仲良くしているサンのことは話さなかったのかと思ってしまったのだ。……この前一緒に昼食を取った仲だからだろう。恐らくそういった関りの人の話をしていると思っているのだ。

 これによって冷や汗をかいたのは当然システィーナとルミアだ。彼女達は自分達の両親がどれだけ愛情を注いてくれているかを知っている。…それと同じくらいどれだけ溺愛しているかもまた知っているのだ。

 グレンは別にいい。魔術講師と生徒と言う普通であれば危ない組み合わせは二人にとって決して他人事ではなかったからだ。だが、サンは同級生だ。これを耳に入れてしまってははっきり言って親ばかと表現してもいい両親―――主に父親のレナードだが―――が暴走する可能性があったのだ。

 

「―――――リィエルさん。その、サンと言う子は女の子かな?」

「違う、男」

「――――システィーナ、ちょっと」

 

 案の定である。レナードの表情がリィエルに料理を勧めた時のままなのが彼の心情を的確に表していた。

 苦笑し、溜息を吐いたシスティーナは観念した様子で彼のことを話した。内心、レナードがどういった反応を示すのかわからなかった為にただひたすらサンに侘び続けた。そして面倒事になったら真っ先に謝ろうと思っていた。

 

 しかし、意外なことにシスティーナが謝罪するということにはならなかった。全ての話を聞き終えた後、彼はサンのフルネームをもう一度聞きいくつか質問をするとそのまま少しの間だけ黙り込み、笑いだした。この反応にはシスティーナはもちろんルミアまで首を傾げていた。

 

「―――ハッハッハ!なんだ、ローディスの子息だったのか!なら、よし!むしろあいつに対する丁度いい首輪になるかも知れないな!」

 

 どうやら知り合いだったらしい。

 ローディスとは何を隠そうサンの父親の名前である。意外なところから出て来た名前に両名は眼を見開いた。すると、事情を把握できていない娘の心境に気づいたのだろう。母親であるフィリアナが口を開いた。

 

「実はねぇ、ローディスさんはこの人の部下なのよ。とっても優秀な方なのだけど、ちょっと自由過ぎるのが玉に瑕でねぇ」

「この前の競技祭なんて私達を脅してまで休みを捥ぎ取っていったからね!システィーナも競技祭に出場していたというのに……『無駄に地位を持っているとそうなるんですよ』なんてことも言ってたな。アッハッハ……思い出したら腹立ってきたな」

 

 何やら自爆で気分を害したレナードを軽く無視しながらシスティーナは考える。サンはこのことを知っていたのだろうかと。だが、すぐに知らないのだろうと結論を下した。何時だったか彼は自分の父親が何処で働いているか知らないと言っていた。それはそれでどうかと思うのだが……あのゆるっゆるな家族ならそれもあり得るのだろうと考えた。それと同時に少しほっとする。ほんの僅かだが、彼があの時助けてくれたのはシスティーナがレナードの娘だからと言う可能性がなくなったからだ。

 

「なら今度サン君を呼んでみなさいな」

「そうだな。私もあのローディスの息子には興味がある。システィーナ、私達はまた帝都に赴くが、その期間が終われば是非招待してくれ」

「お父様!お母様!!」

「あ、あはは……」

 

 システィーナの内心をなんとなく理解しているルミアはテーブルをバンと叩いて立ち上がり、顔を真っ赤にする彼女を見てこの時間ずっと浮かべていた苦笑を更に深めるのだった。ちなみに殆ど会話に混ざることのなかったリィエルはシスティーナの両親が言う通り遠慮なく目の前の食事にありついていた。

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

 

 時刻は昼休み。久しぶりにボッチ飯を済ませた俺は、この前システィ達と一緒にご飯を食べたところでなんとなく思いついた魔術の実験をしていた。ここ最近何故かインスピレーションがインスピスピしているので色々と思いつくのである。

 早速適当にそれっぽい詠唱をして術式を構築、マナを流し込んでみる。すると俺が放ったショック・ボルト(もはや原型なし)は真上に飛んでいき、少し上がったところで弾けた。……うん、花火だね。電撃だから派手さは欠片もないし、夜でもないから綺麗じゃないけど。

 

「……思いついたはいいけど何処で使おうか」

 

 ―――まぁ、こういうこともあるさ(震え声)

 適当に狼煙とか、自身の居場所を伝えるときの信号にでも使おうかと考えるとそろそろ時間も近づいてきたのでその場を後にする。

 

 そうして教室に戻る途中で何故か生徒たちが外の方へと足を運んでいる光景が目に入った。もう少しで講義が始まるというのに不思議なこともあるな、と思いつつ気にせず教室に向かおうとした―――その時、

 

「……オ、オールドマンか。ちょうどいい、ちょっとこっち来い!」

 

 何故か外の方へと向かおうとしているウィンガー君に捕まった。おかしい、彼と俺はそこまで仲が良くなかったはずだ。表立って俺のことを罵りはしなかったが関わろうともしなかったはず。

 しかし、そんな彼がこうして俺の手を引くにはそれなりの理由があるのだろうと考えた為に大人しくついて行くことにした。

 

 外に近づくにつれて俺への視線が増えていく。確かに俺は何故か避けられてはいるが、このように露骨に注目をされることはなかったはずだ。首を傾げつつ大人しくついて行くこと数分。俺はその光景を目にした。

 

「誰が人生の墓に突き落とす者よ、この馬鹿ー!」

「うぉぉぉぉぉおおあああああ!!」

 

 システィがゲイル・ブロウでグレン先生を空中へと送り込む姿を。……なんだ、つまりいつも通りじゃないか。ぶっちゃけ今更俺の手を取ってみせたい光景には見えないな。

 

「……ウィンガー君。これを見せたかったの?」

「いや、違くって。あそこの男が見えるか?」

 

 そう言って彼が指さすのはシスティの近くに居る金髪のイケメン。片眼鏡……いわゆるモノクルを付けていることと、上品な恰好から貴族階級の誰かだろう。そこまでわかったけれどもやはりウィンガー君が俺を此処に呼び寄せた意味が分からない。

 

「見えますけど……あのイケメンがどうかしたんですか?」

「あれ、システィの婚約者なんだって」

「へぇ……」

 

 だから何なんだよ。

 彼は俺にどんなリアクションを期待してその話をしたのだろう。ぶっちゃけると、ふーんとしか言いようがない。それにシスティはこの学院の運営にも関わっている貴族の娘なのだ。許嫁という婚約者が居てもおかしくはない。俺の反応が信じられないのか、ウィンガー君が思わずと言う風に声を上げた。

 

「お前それでいいのかよ!?それでもシスティの夫か!?」

「は?」

 

 何を言ってるんだこの馬鹿。余りにも唐突に放たれた言葉に思わず固まる。尚且つその声が大きかった所為で野次馬根性丸出しでシスティ達の様子を見ていた生徒たちと、話の中心であるシスティ達がこちらに注目しだしていた。特にシスティはこちらを見るととても慌てたように手を振っている。……なんとなく手を振り返してみた。そういう意味ではないと怒られた。ですよね。

 

 それはともかく、このような注目に晒されてしまったのはマズイ。彼の夫婦発言は後程問い詰めるとして今はこの場を去る方が賢明だろう。

 しかしここに来た段階で俺に逃げ場などは用意されていなかった。ウィンガー君は俺の両肩を掴むとそのまま自分の方に向かせる。恵まれた体格故に俺はその力に逆らえずに彼の方を向かされてしまった。

 

「待て。確かに、婚約者が現れたら諦めたくなる気持ちも分かる……けどな。其れでも男なら奪い取るくらいの気概を見せろ……!」

 

 ――いや、待って彼は本当に何を言っているんだ。

 耳を傾けれ見れば、野次馬と化した生徒の中にも「二人はお似合いだよ」とか「略奪愛とか萌えますわー」とか聞えてくる。何でいつの間にか俺とシスティが夫婦になっているんですかねぇ……。

 

 と最初から最後まで混乱の極みに居た俺だが、これだけ騒いでいれば当然、話題の中心に居る人物達にも聞かれてしまう。そのおかげでシスティと話題の金髪モノクルイケメン、更にここ最近はずっと一緒に居るらしいリィエルに申し訳なさそうにこちらを見るルミア、最後に面白くなってきたといわんばかりのグレン先生までやってきた。これにより一気に話の中心人物である。やったねサンちゃん、話題に成れるよ!おいやめろ。

 

「貴方が先程話題に出ていたサン君……ですか?」

「どんな話題かは存じませんが、サン・オールドマンという人物を指しているなら、それは自分の事です」

「………そうですか。では自己紹介を。私は特別講師として呼ばれ、システィーナの婚約者でもあるレオス・クライトスと申します。以後お見知りおきを」

「ご存知かもしれませんが、サン・オールドマンです。何故ここでシスティとの関係を強調したのかは甚だ疑問ですが、よろしくお願いします」

 

 差し出された()()を握って自己紹介を済ませる。向こうはこっちのことをよく思ってないみたいだけどね。なんというか、顔は笑っているが目が笑ってない。ついでにこちらに対する敵意も隠せていない。……一体さっきまで何を話していたのかは知らないけど恨みを買うようなことはしてないはずなんだよなぁ。

 

 しっかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。流石に此処まで来れば俺でもわかる。絶対にいいことは起きない。実際にあの時行った白金魔導研究所は欲望渦巻く実験施設だったわけだし、この感覚は何故か正しいと()()()()()。出所は、クライトスという人物かもしくは―――

 

 そこで俺は視線を目の前のクライトスから彼が乗って来たと思われる馬車の御者に向けた。ハットの角度で顔を確認することはできないが、彼からも白金魔導研究所と同じ気持ち悪さを感じた。つまりは厄介事の到来である。

 握手を終えて再びシスティの所に向かったクライトスを見ながら俺はニヤニヤしているグレン先生のもとに向かった。

 

「よう、サン。白猫に男ができて焦ってるか?」

「何寝ぼけたこと言ってんですか首かっ切りますよ。そうじゃなくて、先生は何か嫌な予感とか、しませんか?」

「別にしねえな。むしろ、あんな男は今どき居ないぜ?白猫のことを懇切丁寧に説明したら将来の妻を馬鹿にするなって怒られちまったしな」

「………」

 

 グレン先生が気付いていないなら気のせいか……?

 うーん、ぶっちゃけ今の段階では何とも言えないな。恐らくここで彼に悪い予感がしますとか言っても醜い男の嫉妬とか思われてからかわれるだけだろう。かと言って、こっちから何かできるわけでもない。暫くは様子見と言うところだろう。できれば気の所為や昔の病気(中二病)で片付けたいんだけど、そんな感じで茶化せるレベルじゃなかったし。とりあえず俺だけは気を付けておこう。

 

 

 

 

 レオス・クライトスの講義は実に分かりやすかった。面白さこそグレン先生に負けているが、むしろ授業の形態としてはこちらの方がスタンダードだ。しっかりとした内容を把握させつつ、尚且つ頭に残りやすいように簡潔に済まされている。内容は彼の専門なのか軍用魔術のことについてだったけどね。その辺グレン先生はあまりいいとは考えてないみたいだけど。

 まぁ、彼の過去と新任してきたばかりの時のことを思えば当然か。人を殺す魔術を嫌っているあの人はこういった講義は好きじゃないだろう。そのように考えて背後を目線だけで振り返ってみるとルミアが見事なフォローを決めていた。素晴らしい。流石大天使と言われるだけのことはある。

 

 その後、生徒達の質問攻めを翻したクライトス先生はシスティと話がしたいと言って出て行ってしまった。……此処で魔術講師と生徒があのように堂々と婚約者アピールをしていいのだろうかと考える俺は前世での常識が抜けきっていないんだろうか……?学校の風紀的にどうなんだろう。

 

 まぁ、ともかく。今はとりあえずいいだろう。嫌な気配を感じたと言っても学院内で堂々と行動を起こすわけもないだろうし。最後の講義まではまだ時間がある。あの打ち上げ花火擬きでも改良しに行こうかなと。

 

「ねぇ、サン君」

「……はい?」

 

 何やらルミアに話しかけられたので反応をする。すると、自分と一緒にクライトス先生とシスティの後をつけてくれと言われた。まさか彼女からそんなことを言われるとは思わなかった。どうやら彼女には彼女なりの考えがあるようだ。

 グレン先生とは違いふざけてこんなことは言わないだろうから俺はとりあえず頷いておくことにした。

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

「と言うわけでストーキングなう」

「あはは、もう少しオブラートに包んでくれると助かる、かな?」

「俺はレオスと白猫の恋路を見に来たんじゃない。サンの様子を見に来たんだ…!!こいつの顔が、歪む瞬間を…!」

「グレン。誰に向かって言っているの?」

 

 ルミア、グレン先生、リィエル、俺とストーカーパーティーがやって来たのは園庭。思い出話をしている二人の近くに在る草むらから彼らの様子を確認している最中である。

 しかし様子がおかしい。クライトス先生は結構楽しそうなのにシスティは明るい表情を見せることはなかった。……これ、もしかして乗り気じゃないんじゃないか?取り敢えず、ルミアが何か聞いていないかと尋ねてみる。けれど本人も直接聞いたわけではないので断言はできないらしい。

 

「女ってのはな、過去に縛られない生き物なんだよ。男と違ってな」

「なんでちょっと悟った感じで言うんですか」

 

 真理だけどさ。確か前世の方で振られたら引きずりやすいのは男の方だって言ってた気がするし。女は現実を男はロマンを求める生き物らしいし。そのようなことを考えていると、どうやら向こうの方で状況が動いたようだ。何時の間にか隣同士で歩いているのではなく、真正面から向き合っていた。

 

「システィーナ。私と結婚してください」

 

 直球ドストレートの求婚にシスティ―――ではなく何故かグレン先生が大興奮である。隠れていることも忘れて盛り上がってまいりましたー!とか言ってた。この人他人の恋路大好きじゃねえか。

 

 しかし、システィの返答は否だった。予想外だったのか先程テンションが上がっていたグレン先生は疑問符を頭に思い浮かべていた。一方ルミアの方はこの結果が分かり切っていたのか特に驚いた様子は見せなかった。

 

「お爺様と約束したの。メルガリウスの天空城を解くって。その為にはもっと多くの知識が、魔術が必要になる。だから―――」

 

 あぁ、成程。そういえば昔からシスティはそれを夢に見てたんだっけ。親友であるルミアもこのことを知っているから驚きもしなかったわけか。納得した。

 

「あはは、相変わらずですねシスティーナ。昔と全く変わらない。貴方はまだそんな夢みたいなことを考えていたのですか」

「―――――えっ」

 

 笑いながらそう言うクライトス先生。けれど、その言葉に思わずシスティは口を塞ぎ、驚きに目を見開いた。いや、驚きではない。彼女は今確実に傷ついた。……一応、これでも昔に面識が合った身の上。色々と相談を受けて来た身である。その時彼女はぼそりと夢のことについて語ってくれた。実に楽しそうに、まさにこれが生きがいとでも言うかのように。まぁ、そのことを知ってもなおヘタレな俺はグレン先生が来た時に慰めに行けなかったのだが。とにかく言いたいことは、今クライトス先生が口にした事はシスティの中で一番大事にしている事である。

 

「――――魔導考古学、古代遺跡の探索やアーティファクトの発掘。究極的には古代文明の謎を解き明かし古代魔術を再現する……しかしそれを成し遂げたものは未だに居ない。つまり不可能で無意味なことなんです。私は貴方に()()()()()で一生を使ってほしくはないのですよ」

「そんな、こと……」

「貴方のお爺様もあんなものにさえ傾倒しなければ、魔術史にもっと多大な功績を残せたでしょうに」

「―――――――っ……!」

 

 地雷原の上でタップダンスをするように言葉を続けていくクライトス先s―――レオス・クライトス。どうやら彼の目には目の前で辛そうな表情をしているシスティのことは見えていないらしい。

 

「システィーナ。どうか私と、私が専門とする軍用魔術研究の支えとなってくれませんか?」

「………っ、ごめんなさい。レオス、貴方には貴方の夢があるように私にも私の夢があるの」

「私は、ただ貴女に人生を無駄にしてほしくないだけです」

 

 どうしてそこで微笑むかなぁ……。システィ、思いっきり瞳に涙浮かべてますけど。周りを見てみれば悲痛な表情のルミアに先程のテンションは何処に行ったのかイライラを募らせるグレン先生、そして一切興味のなさそうだったが現在進行形で敵意むき出しのリィエル。……婚約者なんて間柄じゃなくてもシスティのことを察せるのに、レオス・クライトスと来たら全く……。

 

 いやね。こんなの柄じゃないことは分かってますとも。俺はショック・ボルト以外は雑魚だからね。ここで殴り込みに行っても返り討ちにあうだけだろうし。けど、某三分しか戦えないヒーローも言ってたじゃん。男なら誰かの為に強くなれって。

 

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

 

「――――………」

 

 優し気な表情で手を差し伸べるレオスだったが、システィーナの表情は当然すぐれないものだった。当たり前である。先程レオスが言ったことは今までのシスティーナの人生を丸ごと否定することと同義である。いくら久しぶりの再会だからといってここまで言われてはシスティーナも限界だった。

 堪えていた涙腺が決壊し、涙が流れそうになる――――その時、彼女の顔と彼女に差し出された手との間に一筋の光が走った。それは魔術師であれば見慣れた紫電の光。レオスは手を素早く引っこめると、誰だ!?と声を上げる。そしてその声に反応して出てきたのはシスティーナの予想していない人物だった。

 

「あ、申し訳ありません。クライトス先生。少し、電気が滑ってしまいまして」

「………貴方は、サン・オールドマン」

「もしかしてお邪魔しちゃいましたか?いや、それは重ねて申し訳ありません。……しかし、システィは大丈夫?顔を俯かせて随分と具合が悪そうですが……あ、もしかしてショック・ボルトに当たったとか!?」

 

 システィーナの様子を見て心配そうに声を上げるサンだが、当然それが原因でないことにはこの場にいる誰もが気付いている。なんせ彼が放ったショック・ボルトは直撃していないのだから。なら何故、サンはそういったのか。答えはレオスに今の状態のシスティーナを見せることに在った。

 

 ショック・ボルトに当たっていないのに、彼女が具合が悪そう―――と言うより泣きそうな顔をしているのは即ち、先程まで彼が話していたこと。もしくは彼が居たこと自体が原因であると本人に分からせる為である。

 その意図に気づいたのか、彼は先程講義で見せていた甘い仮面から少しだけ素を出したかのようにサンを睨みつけた。しかし言葉は平静を装った。

 

「か、彼女なら大丈夫です。ショック・ボルトは私達の丁度間を通って行きましたから」

「本当ですか……よかったです。……あれ、でもそれならばどうしてシスティは顔を俯かせて身体を震わせているのでしょうか?この状態になっていたのは何時からですか?」

「………それは……」

「ご存じでない?クライトス先生、余計なことを言うようですがそれは婚約者を自称する身としてどうなんですか」

「――――っ!」

 

 思わずという風にレオスは歯噛みをして、もはや隠すことなくサンを睨みつけた。対するサンはその視線に真正面から迎え撃つ。

 

「それにしても、随分とタイミングが良かったですね。まさか覗いていたんですか?いけませんよ覗きは。それに魔術を使う時はしっかりと周りを見ないと」

「はい、すみませんでした。今度からは細心の注意を払います――――尤もその言葉、鏡に向かって言った方がいいんじゃないんですか?この言葉の意味、分かりますよね?」

「ぐっ、子どもである貴方には関係のないことですよ。口出しをしないでいただきたい」

「友達が辛そうな顔をしているのです。これで口出しをせずに何時出せとおっしゃるのですか?」

 

 サンが前世で培った屁理屈でレオスの逃げ場を無くしていく。だが、それでもレオスは引こうとはしなかった。

 どれだけ口を重ねても降参しないレオスのしぶとさに少しだけ焦りの色が見えるサン。この話し合いがいつまでも続くかと思われた。だが、ここに居るもう一人の当人が話に終止符を打つべく、口を開いた。

 

「レオス。実は、貴方のプロポーズを断ったのには理由があるの。メルガリウスの天空城とはまた別の」

「……?それは何ですか?」

「それは、そこに居るサンと私が――――将来を誓い合った恋人同士なの!だから、レオスとは結婚できない!」

 

「えっ?」

「えっ(初耳)」

『えっ(よりにもよってその手段?)』

 

 

 

 その時、顔を真っ赤にして言い放ったシスティーナの一言は内心はともかくその場に居た者達全員に同じ言葉を発させることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジャティスさんに合掌。

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