アンデルセン先生による聖杯知識の元の指導によって使い魔を作る程度はできるようになりました水谷響です。
昨日も元気に学校に通いました。本日は休日です。
彼を召喚するに至った際の怪我により、片手に松葉杖のある生活になってますがそれでも日常はかわりません。そんな松葉杖生活は一週間で終わりではありますが。
同級生たちの心ない好奇心に精神的に殺されかけたりしましたが、未来の主人公君になるだろう少年に助けてもらったくらいで特に代わり映えのないものです。
子供の自分としてはこれが当然なのですが、人嫌いなアンデルセンは私についてきてはあれやこれやとぶつくさ言っています。
他の人に聞かれないのならそれでいいとは思いますが、聞かされる私としてはたまには加減をして黙ってくれと思うこともしばしばです。つらい。
「さて、どうやら誘うように彷徨いているサーヴァントがいるようだ。響、練習した通りあれを飛ばしてみろ」
「はーい」
アンデルセン先生の指示した通り、作った使い魔を出します。見た目は彼の出演作品な目のような形のエネミーですが。
道具作成のスキルによって作られたものです。私は魔力供給とどういう形がいいかという提案程度しかしてません。
作る際にある程度私が外郭を魔力で構成したものなので、私が作ったと言っても半分くらい間違いはないですが。
ちなみに人には見えづらいよう魔術的な加工はしているとのことだ。
ここ暫くはアンデルセンが教えてくれて張った結界の中だけ飛ばしていたけれど、今日は遠い距離を飛ばすことになります。ちょっと緊張するね!
「さっさと目を閉じて俺にもイメージを共有しろ、馬鹿者」
「馬鹿は失礼だって何度言えば分かるのさ。ひどい」
「ひどいのはお前の口調だろう」
そんな感じに、仲は悪くない私たちです。
アンデルセンは割りと馬鹿馬鹿と言いつつも面倒を見てくるので、一回男のツンデレはいらないという話で口論になりましたけど。ええ、関係ない話でしたね。
目を閉じて見えたのは、闇の帳の中にある倉庫街。
黒い髪にチャーミングな魅了の気配のある泣き黒子な美男子と、金髪で凛々しい騎士の少女がそれぞれ槍と見えないけれど剣らしきものを構えています。
『ほう、ランサーとセイバーか。あれが三騎士と呼ばれるクラスだぞ。そら見ろ、素人が見たところで到底よくわからん剣戟をかわしていやがる! 出会ったら死んでしまうな!』
私は集中のために黙っているが、アンデルセンが実況者のように野次を飛ばすので、ついつい黙れという意味合いを込めて現実で叩いてしまった。
余計に煩くなってしまったのを残念に思いつつ、倉庫街を上空から俯瞰します。
そこで気がついたのは、仮面を被ったへんな黒尽くしと、ライフルかな。銃を構えてるおじさんとお姉さん。
後はランサーのマスターさんの姿である。
セイバーのマスターさんは銀髪の赤色の瞳な美人さんで、使い魔に撮影機能がないのが残念だと思う。
美人な人は見ているだけで目の保養になりますからね。アンデルセンもその点見た目だけは悪くないんだけど性格が台無しなので残念です。
そんな感じで見ていますと、何故か宙を飛ぶ牛が牽いてる戦車がランサーとセイバーの勝負に乱入しました。
すごい大きな男の人で、その横のマスターさんらしき小柄な人との対比がすごくお腹にきます。
『ふん、輝く顔のディルムッドに、騎士の王と名高いアーサー王、そして征服王イスカンダルか! 此度の聖杯戦争は中々な人物ばかり集まっているとみた。もちろん、使えない三流サーヴァントの俺との対比も含めてな!』
『だからそれ威張ることじゃないよ』
我慢できずツッコミをしてしまいつつ、戦況を見守ります。
ライダーもとい征服王イスカンダルが発破をかけてくるけど、申し訳ないことに私たちキャスター陣営はこの通り非力で脆弱な二人組なので。
ちなみにどうせもう寝るだけだから、ベッドに横になっている私たちです。アンデルセンはベッドの下で私から奪った毛布にもふっと包まりヒーターの前に陣取っていたりする。
この人私に対して遠慮も容赦もしないんですよ? ひどいよね。手を伸ばせば届くのでツッコミをする位置としてはいいですけど。
ライダーの言葉に釣り上げられて、金ぴかの眩しい青年が現れた。王の中の王とか何とか言っている。慢心王とかAUOとかどこぞでは言われてる人物でもありますね、そういえば。
ちらりと使い魔をその赤い双眸に捉えられましたが、様子をよく見る為にちょうど彼より下の位置に浮いていたからかすぐに視線を外されました。一応見逃してもらえるようで一安心ですね。でもちょっと心臓に悪かったです。
そんなちょっと混沌とした空間に真っ黒い鎧が現れて、咆哮をあげた。わかる範囲の残りのクラスから考えてもバーサーカーです。
いやほんとに、私たちは勝てる見込みもないですね! 戦うつもりもないから考えるまでもないけど。
『おお、この金の偉容に傲岸不遜。そして王の中の王ときた。こいつの真名は予想も容易だな。が、何だあのバーサーカー。まったくもって理解できんぞ! そも、見えん!』
『凄い戦闘だねぇ。凄いしかわからないけど。アンデルセン、どの人とぶつかってもすぐ死んじゃいそうだね。まぁ戦うまでもなく降伏するだろうけど』
『それはお前にも言えるだろうマスター。おっと、解説してくれるとは中々いいやつじゃないか征服王』
戦闘については門外漢なアンデルセンは、軽く笑いつつバーサーカーの動きについて語ったライダーにうんうんと頷いている様子です。
確かにあのよくわからない攻防を解説してくれるのはありがたい限りですね。
ところで、この映像もう持ちそうにないけど大丈夫?
『しがない三流サーヴァントとマスターが作ったものだからな。見破られて可笑しくないし、壊されなかっただけ有難い話だったな』
『デスヨネー』
と言っていると、映像がぶつぶつと途切れてくる。これはサーヴァント同士のぶつかり合いで起きる魔力波に耐えきれなかったのだろう。そろそろ使い魔の限界が訪れている証左です。
仕方ないな、と話しているとバーサーカーがセイバーに襲いかかっていく。
かなり途切れ途切れながら見える映像を繋ぎ合わせて状況を把握していると、バーサーカーにランサーが協力して戦おうと……と、え?
『バーサーカーがはねられた……?!』
『ああ、見事にぶっ飛んだな』
ライダーによって撥ね飛ばされたバーサーカーはそのまま霊体化してしまった。
そこまでで映像は完全に途切れてしまったので、呆気にとられつつも使い魔を自壊させます。いやぁライダーは中々破天荒そうだというのが最終的な印象になりました。
自壊させたのは流石に魔力の痕跡を追って来られないとは限らないので、念のためというやつだ。進んで殺されに行きたい訳でもないし。
それにはアンデルセンも同意を示してくれたので良かった。そこだけは意見合うんだね、私たち。
「さて、寝るとするか」
「そうだね。おやすみ」
「ああ」
今日一番の出来事も見えたことだし、さっさと寝ることにしました。
眠気も限界だし。子供に夜更かしは厳禁ですよ。
まぁ私は体が本格的に眠りに落ちても、精神はその半分の時間は活動してるのだけど。
レム睡眠とノンレム睡眠を自分でコントロールしている状態に近いのかな。
何年も見続けた白い空間で目を開き、特に何かを意識するでもなく手元のキーボードを操作する。
毎日一応自己状態の確認をすることを自身に課しているので、指が覚えている通り、見慣れた画面が表れた。
普段と違うのは、先日の怪我の状態が出ていることだろう。
ほぼ無意識に魔術を行使しているので、目に見える形でわかるのはかなり気も楽だ。それに、けっこう回復も進んでいるように思える。
問題もそうなさそうだったので、目を閉じてこの冬木に来ていると言っていた私の初めての友人と繋がるか試してみることにする。
「……、ヒビキ、来たのね」
数分か数十分かくらい経った頃、普段より狭い彼女の寝室に座っていた。
声をかけられて振り返れば、出会った時よりもずっと成長して魅惑的な肉付きになった女性が夢では見慣れたドレス姿で立っていた。
夢の中での成長は、つまり精神の成熟を指し示しています。
「ソラウ、どうしたの? 疲れた顔してるよ」
夢だと言うのに疲労の色濃い顔に、心配してしまうのも友人として当然だろう。
彼女は柔らかく微笑みを浮かべて、私に近づいてきた。
そして、私の頭を撫でて「ありがとう」 と囁いた。
「ヒビキこそ、何だか……揺らぎ、みたいなのがあるわね。どうかしたの?」
「んー……あったといえばあったよ」
そして、彼女に私がサーヴァントを召喚したこと、そこに至った過程、サーヴァントの情報を話せば彼女はとても複雑そうな顔をした。
まあ無理もない。彼女は婚約者と共に参加者として冬木に来ているのだから。
「ヒビキ、あまり外を出歩いてはだめよ。あなたはまだ、ほんの7歳の子供なのだし。キャスターも聖杯も欲していないのなら、引きこもっているのも一手よ」
「うん、心配してくれてありがとう。でも、あんまり学校を休みたくはないし……ごめん、極力早く帰ります、ハイ」
ギッと令嬢にあるまじき視線を向けられて思わず背筋を伸ばしてしまいます。彼女が本気で怒ったら敵いませんから。
「うー……でも、ソラウも気を付けてね。魔術師殺しだっけ?が関係者にいるってソラウ自身がいってたし、婚約者さんに巻き込まれて危ない目に合わないでね? ソラウが私を心配してくれるように、私もソラウが心配なんだから!」
「……ええ、わかってるわ。ありがとう、ヒビキ」
私が力んで言えば、ソラウははにかみ笑う。
その笑顔は少女の頃の彼女を残していて、成熟した肉体とのギャップに、何というか萌えますね! ええ。
非常に眼福でございますとも。
「婚約者さんとランサーの関係はどう? 今日様子見てたけど、あんまり上手く噛み合ってないようにみえたけど」
「あら、童話作家とはいえ、多少は道具作成もできたのね。……いえ、それは今の話に関係はなかったわね、ごめんなさい。……確かに、ヒビキのいう通り噛み合ってはいないわ」
はぁ、と物憂げにため息をつく姿も様になっているのだから美人さんは本当にお得である。
いやそれも本題とは全く関与のない話だけど。
「もういっそ、ランサーの魅了に屈して気も楽になりたいくらいよ。しないけれど」
「あはは、ソラウが言うと冗談に思えないからこわいなぁ。でもそうなるとますます関係が拗れちゃうよ?」
「そうよね、それが困りどころなのよね」
悩む様子のソラウに、私も腕を組んで少し考えてみる。
婚約者さんは勝てる手を打っていきたいと考えるタイプなのに、喚んだサーヴァントは真っ当な戦士、いや騎士ときた。戦士や騎士といわず、武人というのは腕を競い凌ぎを削ることに生き甲斐を見いだしているものだと私は認識していたりする。
見た限りだと彼もそういうタイプのようだから、最終的な目的が一緒でも、そこに至る過程に不和が生じるのも無理はない話だ。
「うーん……たぶん魔術師と武人って、考えてることがまったく同じ方向を向いてないから、だから合わないんだと思うな。魔術師同士なら、最後の目的は一緒なのは分かるけど、武人はその最後の目的は一緒だと限らないでしょう? もしかしたら目的といわず聖杯戦争って意味さえ違うのかもしれないけど。たぶん、そういうことだと思うの」
「……成る程。確かに聖杯を手に入れるという目的は一致しても、それに望む願いは一緒のわけがないわよね。それこそ、キャスターのクラスでない限り」
「たぶんね。うちのキャスターはそのくくりからはずれてるけど、たぶん始めからそっちを喚ぶつもりだったら事態はまた違っただろうねー」
原作のことも思い出しはするが、所詮ずれてしまったどこかの世界での話だ。今言ったことも、そのもしもに含まれたどこかであるかもしれない可能性に過ぎない。
ソラウはそれに同意を示して、ふと窓の外を見た。
「そろそろ、初戦を終えたケイネスが帰ってくる頃かしら。ヒビキ……また、夢で会いましょう」
名残惜しいという表情を浮かべてくれる彼女に、思わず笑みが浮かんでしまう。これは、嬉しいから出てしまうものだ。
「うん。いってらっしゃい、ソラウ。その内現実で会えれば嬉しいな」
「そう、ね。ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」
柔らかな肢体が、私を包み込んだ。
そう思った次にはもう、僅かに感じた温もりは消えていた。
白い空間に戻った私は、繋がらない人を除く参加者たちの思考を夢から繋ぎ合わせていく。
その結果を集めきるよりも先に、私は深い眠りの淵へと落ちていくけれど。
まぁ大丈夫。私の精神は眠るけれど、無意識の内の自分がその操作をしているから。
恐怖することはない。恐怖したことはない。何故ならそれは、すべて私の一部でしかないから。
前世の記憶を無意識でインストールするくらい、私の一部は勝手でしかし自己を一番理解しているから、それでいいと思います。
考えることを放棄したわけでも、するわけでもないけど。
もしかしたらその思考さえ、自分自身に塗り替えられているのかもしれないですが。
とりあえず、明日も学校なので余計な思考は回さないことにしましょう。
私が私であるということに変わりはありませんから。