リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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今回はゼウス・ファミリアの団長の二つ名と凄さが分かります。


9話 偉大なる団長

 ──遠征三日前。俺は自分の愛刀《切姫》の整備と新武装が完成する予定日なのでヘファイストス・ファミリアを訪れていた。

 

「あら、リヴェルークじゃない。用件は切姫と依頼品の受け取りでいいのかしら?」

「ヘファイストス様、こんにちは。そのつもりで来たんですけど、椿はいますか?」

「ええ、いつもとは違う場所で武器を作っているわ。⋯分かっているとは思うのだけれど、作業中に声はかけないであげてね」

「大丈夫です、邪魔をする真似は決してしませんから」

 

 先導するヘファイストス様の後ろを着いて行こうとしたらいつもと同じようにしっかりと釘を刺された。

 因みに、この神様は非常に数少ない神格者の一人である為に俺も安心して話すことが出来る。だから椿のいる作業室に着くまで軽い談笑をしていたのだが突然ヘファイストス様から爆弾をぶち込まれた。

 

「そういえば、リヴェルークがダンジョン以外で着ているその白基調の騎士服って、女性からのプレゼントらしいわね?誰から、どういう経緯で貰ったのかとっても気になるわ」

「気にしないで下さい、としか言いようがありませんね。いや、わりとガチで」

「あら?私はてっきり、どこぞの美人ヒューマンからの貰い物だと思ったのに」

「⋯いや、分かっているなら聞かないで下さいよ。貰う前も、貰った後も色々と大変だったんですから」

 

『思い出したくない』と言わんばかりに顔を歪める少年を見て、隣に並んで歩いていた女神は笑みを浮かべた。そんな女神の脳裏に浮かぶのは昨日のことのように鮮明に思い出せる初めて顔を合わせた時の記憶。

 

 ──本当に、少し前とは比べ物にならないほど表情豊かになったわね。あの時は()()みたいに無表情な子だったのに──

 

『少し前』と言っても、それは神の感覚でだ。実際は今から四年以上前の少年が迷宮都市オラリオに来てゼウス・ファミリアに入団し数日が経過した頃の話。

 当時既に《期待の新人》として活躍が見込まれていたリヴェルークをクティノス(副団長)がヘファイストス・ファミリアに連れて行ったのが初めての出会いのキッカケとなった。

 ──まぁ、その話はまた今度することにしよう。

 

「本当に、リヴェルークは良い方向に変わったわ。初めて会った時はあんなにも冷淡な態度をとっていたのに、今ではこんなに優しくなっちゃって」

「出来れば、その話もやめて下さい。あの時の俺にとっては、リアねぇとアイナさんの二人だけが自分の大切な人でしたから。神様とかも正直、恩恵(ファルナ)をくれる便利屋程度にしか思っていませんでしたし」

「そこは、リヴェルークが主神や家族(ファミリア)に恵まれたことを祝うべきね。──はい、作業室に到着したわよ」

 

 ヘファイストス様と雑談していたので到着まであっという間だった。いつも案内される場所とは異なっていたが、高レベルだからこそハッキリと感じとれるピリついた雰囲気が部屋の中から漂っている。ヘファイストス様に言われずとも椿が中にいることがすぐに分かった。

 

「案内、ありがとうございました」

「気にしないで。それじゃあ、またね」

 

 そう言って、ヘファイストス様は手を振りながら去って行った。本当あの人は女神なのにカッコいいな。

 ヘファイストス様が去って直ぐに椿の集中力が途切れたのを感じたので俺は部屋の中に足を踏み入れる。

 

「椿、俺の切姫と新しい武器を取りに来ました」

「おお、リヴェルークではないか!約束通り出来ているぞ」

 

 そう言って俺に手渡されたのは対極とも言える二口(ふたふり)の刀。片方は俺の愛刀の切姫──柄から刀身、切先にかけて赤みがかった黒色の禍々しさを感じさせる刀。もう片方は頼んでおいた新武装──切姫とは真逆の、柄から刀身、切先の全てが白一色の神聖さを感じさせる大太刀。

 

「これが、リヴェルークに頼まれていた新しい武器《雪羅》だ。手前の作った武器の中で、間違いなく最高の出来だと自負している」

「雪羅か、良い武器だな。大きさも3M(メドル)ほど、この武器ならきっと⋯」

「『きっと、三大冒険者依頼(クエスト)を越えられる』か?あまり無理をしてくれるなよ?」

 

 椿からも心配の眼差しを向けられた。本当に、姉といいファミリアの皆といい椿といい、俺の周りの人達は心配性しかいないのか。──ありがたいが小っ恥ずかしい。

 

「俺が死ぬと、椿と専属契約している優秀な冒険者が減るからか?」

「リヴェルークよ、お主のそういうところは子供っぽいというか、捻くれているというか。年相応なところは割りと好きだぞ?」

「うるさい、アホ椿。好きとか気安く言うなよ!」

「なんだ、照れているのか?可愛い奴め!」

 

 椿はそのまま俺を力強く抱きしめてきた。彼女は()()とは言わないがとてつもなくデカいくせにサラシしか巻いていないので、柔らかい魔の感覚がダイレクトで俺の顔に当たっている。

 ⋯ここで突然だが、俺は世界で唯一のLv.8とはいえまだ十二歳のD・Tである。恋人すら出来たことが無い。そんな経験豊富などとは全く言えない男がいきなり超戦力の()()に抱きしめられて気絶しないとでも思ったか?──答えは否、断じて否だ。

 

 

 

 

「⋯リヴェルーク、そろそろ起きろ」

 

 誰かに肩を揺すられていることを感じて目を覚ますと、俺は誰かの背中におんぶされていた。

 

「んぁ?⋯⋯⋯あ?」

「⋯起きたか。そろそろ自分で歩いてくれると助かる」

 

 俺を背負っていたのは団長だった。俺の混乱が深まったのは言うまでも無いことだろう。

 

「えーと、どういう状況ですか?」

「⋯気絶していたリヴェルークを俺が運んでいる状況だ」

 

 その後団長から詳しく聞いたところ──椿の部屋に俺を迎えに来た団長が、鼻血を出して気絶し膝枕されている俺を発見して連れ帰っている途中だったとのこと。──うわぁ、そういえば凄まじい体験をしたんだった。あの柔らかさはエゲツない。男を虜にしダメにする感触だ。

 

「それはなんと言うか、迷惑かけてすいません」

「⋯いや、気にするな。俺も同じ男故に、分からなくはない」

「団長のそんなフォローなんか聞きたくなかったー」

 

 ハードボイルドとも言える性格の人からそういうフォローを受けるとなんとも言えない気持ちになる。そんな気持ちを誤魔化す意味もあったが俺は団長に質問した。

 

「あ、団長はこれから暇ですか?時間があるなら、俺の新武装の慣らしに付き合って欲しいのですが」

「⋯ああ、いいぞ」

 

 

 

 

 アビリティを制限しているので今の俺は精々Lv.6程度。しかしアビリティを制限しても落ちないのが個人の技量であり、技量の差でレベルの差が覆ることもある。

 当然、そんな重要なファクターを磨かないようなもったいない真似はしない。近接戦に対応出来る武器は一通り扱えるし刀剣に限れば俺は《剣聖》の異名も持っているほどだ。

 だが認めるしかない。俺の目の前の怪物は俺の倍は生きている。それ故に──。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「⋯リヴェルーク、お前の技量は凄まじい。先読みすら可能とする剣聖のスキルなどはため息しか出ない」

「はっ、余裕そうな顔して何言ってんですか。俺、剣聖なのに自信無くしそうですよ」

 

 マジでありえねぇな。──読み合いは俺が勝っている。それなのにこの人は膨大な戦闘経験で研ぎ澄まされた第六感で俺の攻撃を感じ取って即座に対応している。

 俺が振るった剣を全て盾で防ぎ瞬時にカウンター。これが団長の剣と盾による攻防一体のスキル《神聖剣》。更には俺よりも優れているが故に発現している二つ目のスキル《第六感(シックス・センス)》。

 それらに支えられ決して破れない防御力を神が賞賛し、畏怖を込めてつけられた二つ名は《神域の盾(アイギス)》。

 

「ああ、くそっ!三大冒険者依頼の前に対等な条件で団長の守りを破っておきたかったのに!」

「⋯お前がアビリティを制限していなければ俺がいつも負けている」

「それでもっ!こんなんじゃ、《力》としての働きなんか⋯」

 

 ──無理なんじゃないか。そう言おうとした俺に団長から励ましの言葉がかけられた。

 

「⋯お前の強みは、Lv.8の器・限界すら超えたアビリティ・剣聖としての技量に並行して使える強力な魔法。それに何より、()()()だってある」

「その剣聖としての技量が、ヒューマン相手に通用していないから焦っているんです!」

「⋯ならばこう考えろ。剣聖ですら破れなかった盾が、お前達攻撃役(アタッカー)を支える。だからお前達は、俺達盾役(ディフェンダー)を含めた全員の希望になれ。それが、俺の求める《力》だ」

 

 ──ゾワッ──

 

 団長の言葉を聞いて俺は鳥肌が立つのが分かった。──やっぱり団長はスゲェな。言葉一つで仲間に勇気を与え、士気を増幅させるカリスマ性。流石は俺の憧れの人。

 

「団長、三日後の挑戦は全員で生きて帰りましょうね」

「⋯ああ、絶対に」




死亡フラグ的なのが立ちました、回避できるでしょうかね。
神聖剣はSAOのヒースクリフのアレです。

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