リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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いつもより少し長め。今回の話は、ゼウス・ファミリアの主戦力の人との絡みです。


8話 確かな思い

 ──ダンジョン18階層の《迷宮の楽園(アンダーリゾート)》。リヴィラの街が存在する安全階層(セーフティポイント)に僅か一時間足らずで到達した二人の間に会話は無い。道中でモンスターが出現しても、何度も一緒に遠征に行った二人にとって意思疎通などアイコンタクトでほとんど充分だ。まぁソレが上手くいかずにリヴェルークが独断専行して狩りまくってしまう時もあるが。

 そんな二人は現在湖沼のほとりで寝っ転がって休憩中である。

 

「いやぁ、道中大量にモンスターハントしましたね。偶々遭遇したインファントドラゴンも秒で狩っちゃいましたけど、魔石は邪魔なのでリヴィラの街で売っぱらいましょう。⋯それで、俺に用事って何ですか?」

「⋯相変わらず、リヴェルークは凄いな。お前の強さは皆に安心感を与える」

「それを言うなら、団長だってそうでしょう。貴方のことを皆が信頼しているんですよ」

 

 俺がそう告げると団長は僅かに口角を上げて軽く笑った。本当に渋めでクールな人だよなぁ。

 こんなに物静かな人があんなに明るい同じ派閥の非戦闘員──《恩恵》を与えられていない臨時構成員──の女性(ヒューマン)と結婚した時は心底驚いたものだ。しかし最初こそ意外だと思った組み合わせだが二人を見ていると段々とお似合いだなって思うようになった。

 

「⋯今度の遠征──特に《隻眼の竜》との闘いは、きっと誰もが未経験の死闘になる。その時に頼れるのは、Lv.8のリヴェルークだろう。俺は団長だが所詮はLv.6だからな」

「確かに俺達のファミリアには団長より上のレベルは複数いますが、《団長》が務まるのは貴方だけですよ。俺を含む他の第一級の団員は好戦的過ぎて、指揮官は向きませんから」

「⋯それでも、圧倒的格上との死地を突破する上で最終的に重要になるのは《力》だ」

 

 団長の言い分は確かだ。《未知》に対して指揮や作戦、団結などは重要。ただし、それらを食い破るような本物の《化物》にはそれに対抗出来るだけの《力》が必須となる。団長はきっとその役目を俺に任せると言いたいのだろう。

 しかし、ゼウス・ヘラファミリアの中で最年少の俺にそんな使命を本当は背負わせたく無いと言う気持ちと背負わせることになる自分達の不甲斐無さを悔いているかのようだ。流石の俺でもその程度は何となく分かるくらいの時間を共に過ごしてきた。

 

「俺は、仲間を守る為に今まで高みを目指してきました。《力》としての働きなんて、俺にはピッタリの役目じゃないですか」

 

 俺がそう言って敢えて不敵に笑うと団長も固い表情を崩してくれた。

 

「⋯そうか。俺以外の他の皆にもそう伝えておく」

「もしかしなくても、やっぱり他の皆さんも気にしているんですか?」

「⋯ああ。リヴェルーク(最年少)の強さを信じてはいるが、同時に歯痒さも感じている」

 

 俺がLv.8であり、最も強いことが分かっているのにそんな風に思ってくれるから俺は自分のファミリアが好きになった。そんなファミリアだからこそ俺は自分の力で守りたい。

 つーか自分のことを思い返すと、本当に昔の俺の面影がどこにも無いな。オラリオに来た頃はリアねぇとアイナさんの二人を理不尽から守る為に力を渇望していた。──そんな俺の想いに応えるかのように【限界破壊(レアスキル)】が発現し、()()との狂気の鍛錬(研鑽)の日々が身を結んだかのように【剣聖】や【魔聖】のスキルも得た。狂人のように毎日ダンジョンに潜り、同じファミリアの団員とも碌に話しもせずに他人に頼ることを《弱いこと》と捉えていた。

 しかし最近は割りと頼るようにもなったと思う。リアねぇは全然頼ってないと思っているみたいだがそんなことはない。まぁ、その殆どが日常生活での話であり戦闘面で頼ったかと言われたら黙るしかないが。

 

「大丈夫ですよ。なんせ俺は《覇王》ですから。仲間を守る為に、立ち塞がる全ての敵を斬り伏せます」

「⋯頼り甲斐はあるが、何故こうも脳筋になったんだ」

 

 俺のセリフを聞いた団長はそんなことを言いつつ困った表情を浮かべた。──脳筋とか失礼な人だな。けどわざわざこの為だけに時間を割いてくれたんだから本当に真面目な人ではあるが。

 にしても俺がこんなことを言えるのも、昔と違って同じファミリアの皆も守るべき対象になった今だからこそなんだろうけどね。

 

「⋯お前は、良い表情をするようになったな」

「ファミリアの皆さんのおかげですよ。それより、そろそろ地上に戻りますか?」

「⋯そうだな、遅くなるとゼウス様が怒りだす」

 

『本当に困ったものだ』と冗談めかして言う団長に、俺は珍しいモノを見たので一瞬驚いたが面倒事になる(ゼウス様が怒る)のが嫌なのでさっさと地上を目指すのだった。

 ──それと今更ながらの余談ではあるが、アリシアさんから貰った手料理(報酬)はダンジョンに潜る前に団長と二人で分けて食べた。

 

 

 

 

『お帰りなさい、団長にリヴェルーク様!』

「⋯只今帰った」

「只今帰りました。お二方、門番ご苦労様です」

 

 ホームへ帰るとエルフの二人組が門番をしていた。この二人は最近──と言っても半年ほど前──Lv.3になった者達だ。このファミリアのエルフ達は俺に対して過剰な敬意を表してくるがこの二人もその例に漏れずってやつだ。

 

「そういえば団長、三大冒険者依頼(クエスト)には団員を選抜して行くんですか?」

「⋯ゼウス・ヘラファミリアのLv.4以上で行く。両ファミリアの数少ないLv.3以下は留守番とする」

「まぁ、そんなとこが妥当ですかね。Lv.3以下は正直、死にに行くことになる恐れが大ですから」

 

 ゼウス・ヘラの両ファミリアの団員は合わせて50人程度だろう。そこからLv.3以下を引くと多分40人にも満たないが、作戦次第では犠牲無しで《隻眼の竜》まで到達も可能だ。その作戦立案は団長達の領分なので俺は与えられた俺の仕事を確実にこなすだけだ。

 改めて覚悟を固めていると副団長から声をかけられた。

 

「リヴェルーク、ちょっと俺の模擬戦に付き合ってくれやっ!」

「クティノスさん、もうすぐ夕飯なので少ししか出来ませんよ?」

「そりゃあ分かっちゃいるけどよぉ、一秒でも長く体を動かしときてぇんだわ」

「了解です、俺で良ければお付き合いしますよ」

 

 クティノスとの模擬戦なんて久々だから、ちょっとだけ本気でいかせてもらおうかな。

 

 

 

 

 見ただけで屈強なのが分かる茶髪オールバックのドワーフの青年と、見た目とはかけ離れた強者の雰囲気を感じさせるハイエルフの少年は10M(メドル)ほど離れた位置で向かい合っていた。

 

「それじゃあ、いつでもかかってきて下さい」

「んじゃあ、遠慮なく行くぜ」

 

 その言葉を言うと同時に青年の姿がブレて目の前から消えた。──次の瞬間には少年の後ろに回り込んで巨大な斧を力任せに振り下ろしたが、少年はソレを()()だけで受け止めてしまった。

 

「本当に、軟弱なエルフのくせしてお前はどんな馬鹿力してやがんだよ」

「俺の基礎アビリティの出鱈目さを、副団長はその目で見たんですから知ってるでしょう」

「あ〜、まぁな。ホント嫌になるぜ、アビリティの限界突破とかマジで頭おかしいだろぉが」

 

 軽口を叩きつつも、相手は斧をドワーフに見合わない速さと迷宮都市(オラリオ)トップクラスの圧倒的な力で何度も叩きつけてくる。──流石はLv.7に至りし化物ってところか。

 

「お前は、ホント先読みしてるみてぇに避けやがるな!一発くれぇ当たりやがれ!」

「まぁ、コレは俺が自力で習得したスキルのなせる技ってやつですよっ!」

 

 振るわれる武器の速度がだんだん速くなる。ずっと避けていたのですっかり体も温まったしそろそろ攻撃に移りますか。

 

「クティノスさん、そろそろ俺も反撃しますね」

 

 

 

 

 ドワーフの青年の内心は穏やかなモノとはかけ離れた状態だった。

 ──化物だ、化物だ、化物だ、化物だ、化物だっ。マジでふざけんじゃねぇぞ!リヴェルークのアビリティがバグってんのも、技術がハンパねぇのも知ってる。俺じゃあ勝てねぇことだって分かってる。けどよ、こうも差があるのを改めて知ると情けなくなるぜ──

 そう思ってしまうのも仕方ない。何故なら先ほどから青年の振るう斧によるパワーアタックが封殺されている。

 少年は己が技巧によりパワーを受け流す柔らかい防御を刀で成しているのだ。これは口で言うのは容易いが行うのは至難の技である。僅かでも受ける力が強過ぎれば吹き飛ばされるし逆に弱過ぎれば問答無用で叩き斬られてしまう。

 少年はアビリティ任せに攻撃を受け止めることが出来るにも関わらず力加減・角度・タイミングが狂えば破綻してしまう綱渡りを現在行なっている。何故なら、アビリティに振り回されずに技術を高めることも強さであると分かっているから。

 そして受け流すと同時に反撃に移り、青年の無防備な部分に着実に切り傷を付けていく。その様は流麗であり少年の技の冴えを否が応でもまざまざと見せつけられる。

 

「これぞ《剣聖》なんて呼ばれることもある所以だな。気ぃ抜くと戦闘中でも見惚れそうだわ」

「恐れ多いことです、自分はまだまだですからね」

「なぁんて、すっとぼけたこと抜かすくせにやることは超一流かよ。つーか、そろそろ時間もアレだし次の一撃で最後にしよーぜ!」

 

 そう言うとクティノスは超短文詠唱を行い自分の武器に付与魔法(エンチャント)を施して土を纏わせて斧を巨大化させる。これがクティノスの二つ名《壊獣(クラッシャー)》の由来の一つ。

 それを見届けた俺は自分の愛刀の切姫を握り直し、もう一段階本気を出すことにした。

 

「これで終いだぁっ!」

 

 今までよりも圧倒的な速さで突っ込んで来たクティノスは上から巨大な斧を振り下ろしてきたので纏ってる土ごと武器を斬ってやろうとした──。

 

「は〜い、そこまでニャ」

 

 が、そうなることは無かった。とある人物が俺達の間に割って入り、俺の切姫とクティノスの斧の威力を一本ずつの剣で上手いこと受け流したから。

 本気ではないとはいえ俺に対してこんな芸当が出来るのは──。

 

「何で止めやがった、猫女っ!」

「落ち着くニャ〜。これ以上はちょっとばかし、やり過ぎってやつニャ」

「⋯悪りぃ、熱くなり過ぎちまったわ」

「気にするニャ、そこが副団長の良いところでもあるのニャ。ルークも、ここでお終いにするのニャ」

 

 まぁ、盛り上がり過ぎたのは否定出来ないな。正直止められなかったら遠征前にクティノスの愛斧?を壊すところだった。

 

「分かりました。そろそろ夕食の時間ですし、三人で一緒に食堂に行きましょうか」

「腹も減ったし、そうすっかぁ」

「今日のメニューは何だろニャ〜」

 

 この白猫はこんなに気の抜ける喋り方だが名高いLv.7の冒険者だ。オラリオで俺の次に速いと言われている敏捷(あし)の持ち主、《白き風姫(シルフ)》セレナ・ラルグリス。綺麗な白い毛並みと空色の瞳が特徴の女性で美人というより可愛い系の人だ。

 この場にいる俺達三人がゼウス・ファミリアの団長よりも上のレベルの戦力だ。俺達以外にもLv.6が数名いるのだが俺達三人が今度の遠征で頑張る必要がある。脳筋気味だがそれが分かっているからクティノスは俺に模擬戦を挑み、セレナはやり過ぎないように止めに入ったのだろう。

 皆が《未知》への挑戦を意識している時だからこそ最高戦力の俺が普段通りに振る舞うべきなんだろうな。

 

「あんま深く考え過ぎんなよ?お前は一番強ぇけど、一番年下なんだからな」

「そうニャ〜、難しいことはミャー達に任せるニャ。ルークはもうちょっと、頼ることを覚えるべきニャ」

「⋯分かりました」

 

 表情に出したつもりは無いけど、この二人にはお見通しだったかな。──昔からこの二人や団長は特に俺のことを気にかけてくれていた。

 団長やこの二人の働きかけで、俺は他の団員と過ごす時間も悪くないと思うようになったし時間をかけてお互いを理解することで最高戦力の俺のことを心配してくれる優しさを知り、ゼウス・ファミリアの皆を守りたいと思う気持ちが生まれ、それが日に日に強くなっていった。──本当に俺は家族(ファミリア)に恵まれたと思う。

 そんな大事な人達だからこそ俺は強敵を打ち倒すための《力》になることを自分自身の決意(プライド)に誓おう。




二つ名のルビは、もっとしっくりくるやつがあれば変更するかもしれません。

それと今回も本編とは関係ありませんが、『ノゲノラ』の映画を見てきました。小説とはまた違った良さ(迫力とか音楽とか)が味わえたので良かった(*´∀`)♪

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