リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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5話 後悔と決意

 雲間から差し込む一条の月光。ソレが照らし出したのは里の出入り口付近で佇む二人の姿。

 通り道を塞ぐかのように立っているのは未だにあどけなさが残っているが知性的で美しい少女。そんな少女と対峙しているのは儚げながらも瞳には強い意志を宿した年端もいかない少年。

 

「⋯リアねぇ、どうして俺が今夜、里を出て行くつもりだったことが分かったのですか?」

「私が何年お前の面倒を見てきたと思う。何となくだが、お前の考えていることは分かるぞ」

「母上は分かっていなかったようですが、リアねぇは分かるんですね」

「母上は父上同様、お前と共に過ごしていたのは魔法の勉強の時くらいだろう。その点私は、お前の素の部分を両親よりも見てきているからな」

 

 彼らの両親は少年の才能に目が行き、それ以外に目を向けることがあまり無かった。だから気付いてなどいないだろう。こうして少年がコッソリと里を出ようとしていることなど。

 傍目には無表情に見える二人の表情だが、姉弟であるからこそお互いが浮かべている表情を読み取るくらいは出来る。

 ──少女が浮かべているのは悲しみ。自分では弟を止めきれないと頭では分かっているからこその悲しみ。

 ──少年が浮かべているのは喜び。自身が遥かなる高みへと登ることを確信しているからこその喜び。

 

「ルーク、どうしても行くのか?」

「はい。そこを退いて下さい、リアねぇ。いえ⋯リヴェリア・リヨス・アールヴ」

 

 言葉を発すると同時に少年の瞳が鋭く冷たいモノに変化した。ソレは決して家族に向ける()()では無かった。

 

「行かせるわけにはいかない。お前の話を聞いて分かったが、お前の当てとやらは父上などを殺した女性のことだな?」

「その通りです。あの女性は仇ですが、圧倒的な強さの持ち主でもあります」

 

 少女には同胞を殺した人物に教えを乞おうとしている少年のことが理解出来なかった。──同胞達の血の海で一人座り込み、笑みをこぼしていた少年の心情も。

 理解出来ないが故に、頭では止められないと分かっていても体を張って止めようとしてしまう。

 

「どうしても行きたいのなら、私を倒して行け。もし姉すら乗り越えられないようなら潔く諦めろ」

「⋯分かりました。リアねぇ、負けても泣かないで下さいね?」

 

 ──その言葉が、天才の称号を欲しいままにしてきた姉弟の激突の幕開けとなった。

 

 

 

 

 自分目掛けて連続で振るわれ突かれる杖を紙一重で避けつつ、俺は詠唱を開始した。

 

「【我は望む、万難の排除を。我は望む、万敵の殲滅を。今宵、破壊と殺戮の宴は開かれる。立ち塞がる愚者に威光(ぜつぼう)を示せ──我が名はアールヴ】」

 

 ──並行詠唱。エルフの中でも使える者の限られている離れ業。そんな高等技術を弱冠五歳で使いこなせるからこそ自分は才能の化物と呼ばれている。

 

「【アヴァロン】」

 

 並行詠唱を駆使して完成させた詠唱で現れたのは()をゆうに超える氷の剣群。それらが鋭い音を立てながら相手に降り注ぐ。コレで終われば楽なのだが──。

 

「私をナメているのか?殺す気で来なければ、私の結界は破れないぞ」

 

 並行詠唱を使えるのは俺だけでは無い。リアねぇも先ほどの連撃の最中に並行詠唱を使って結界魔法を完成させて剣の雨を無傷で耐え切っていた。⋯相変わらず強固で面倒な結界だな。本当にリアねぇの真面目でお堅く妥協しない性格をよく表している魔法だ。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールヴ】」

「【我は望む、万難の排除を。我は望む、万敵の殲滅を。今宵、破壊と殺戮の宴は開かれる。立ち塞がる愚者に威光(ぜつぼう)を示せ──我が名はアールヴ】」

 

 再度魔法を行使する。詠唱終了はリアねぇの方がワンテンポだけ早かった。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 放たれたのは敵の動きや時空さえも凍てつかせる無慈悲な雪波。そんな極寒の吹雪を俺は──。

 

「【アヴァロン】」

 

 リアねぇのレア・ラーヴァテインをイメージした魔法に魔力の大半を注ぎ込んで強引に吹雪と結界魔法を同時に打ち破り、その後に()()()で襲い掛かるようにイメージしていた雷の矢の雨を降らせた。

 

「なっ⁉︎時間差の魔法攻撃だとっ⁉︎」

 

 両親もリアねぇも知らない。俺の魔法がイメージ次第で()()()()()でも出来るモノであるという性能を秘めているを。そんな俺にとって一つの詠唱式で二つの事象を引き起こすのなんて簡単なことだ。

 予想もしていなかった雷撃をその身に受けたリアねぇは身体が麻痺して動けなくなった。──初めての姉弟対決の決着はあまりにも呆気無く付いた。

 

 

 

 

「リヴェリアほどの魔法使いが、当時五歳のリヴェルークに敗れたのか」

「ワシもフィンと同じく驚いたが、リヴェルークだからと言われると納得してしまいそうになるのう」

「私も両親も、ルークの魔法の本質に気付くことが出来なかった。ルークの才能の大きさを計り間違えていたのだ。だからこそ私はルークを止められなかった」

 

 意味の無いことなのに何度後悔しただろうか。『もしあの時ルークを止められていたら』と。

 

「結局、ルークが帰ってきたのはそれから三年以上が経ってからだ。仇の女性がどうなったのかも、三年間どんなことをしていたのかも知らない」

 

 ──ただ分かっているのは、里で魔法特化の訓練をしていたリヴェルークが《剣聖》としての片鱗をその時から発揮していたこと。Lv.8の今でも使っている不壊属性(デュランダル)切姫(愛刀)を携えて帰って来たこと。その他には──。

 

「強さを渇望するようになったこと。里に帰って来てからも、ルークは時間があれば剣を振り魔法を撃つようになった。私やアイナが話しかけた時は里を出る前みたいに楽し気なのだが、私達以外と話しているルークは人形のように無表情で、氷のように冷たい態度だった」

「成る程、それがリヴェルークのLv.2昇格時の二つ名の大元の原因みたいだね」

「《最速の氷妖精(レコード・ドール)》か。一ヶ月半という規格外で世界最速のランクアップと、その無表情な顔と冷たい態度が印象的だったからという理由だった筈じゃな」

 

 リヴェルークは今でこそよく笑うようになったがオラリオに来たばかりの当時は酷いものだった。愛想の『あ』の字も感じさせない冷めた態度と、私達以外に向けていた鋭い瞳。あの状態のルークを心配するなという方が無理な話だ。

 

「心配だから私は、同じファミリアにルークを入れようとしたのだ。⋯それなのにあのバカ弟は、私の心配を煩わしく思って別のファミリアの入団試験を勝手に受けてしまったのだ!」

「当時は僕達三人もあまり仲が良くなかったけど、あの時のリヴェリアの怒る姿を見て、リヴェリアだけは怒らせないようにしようと思ってしまったからね」

「フィンもそうか。ワシもあの時ほどリヴェリアを怖いと思った時はないぞ。ガハハハハ!」

 

 大声で笑うガレスに私は『静かにしろ』と小言を言いつつ、過去の後悔を嘆く気持ちを頭の隅に追いやった。

 過去を振り返ってもどうにもならない。そんな暇があるなら強くなって、ルークに頼られる存在になってやろう。──あいつにとっての死線で守るべき弱い存在から死線で頼るべき強い存在になってやろう。

 

「私はあのバカ弟が心配だ。だからこそ、ファミリアは違うが首を突っ込んでしまう。口出しはダメだと分かっていても、つい言ってしまう。だが、言うだけではルークは絶対に止まらないことは昔から分かっているから、私はルークと共にオラリオに来て強くなることを決意した」

「僕は一族の復興のためにオラリオに来たけど、強くなる理由がまた一つ増えた。⋯リヴェルークはまだ子供だ、それなのにいつも焦っている。子供には子供らしく、もっと楽しい毎日を過ごして欲しいからね。まぁそれ以外にも、()()()()のそんな過去話を聞いてしまったら、僕等も無関係ではいられないよ」

「ああ、そうじゃな。ワシらも強くなって、リヴェルーク(子供)のバカな考えを正してやろうかのう。それが、ワシらなりの恩返しにもなるはずじゃ」

「⋯すまない、ありがとう」

 

 こんなにもお前(ルーク)のことを気にかけてくれる者がいるのだぞ。それはお前のファミリアの者だってきっと同じだ。だから──苦しい時は誰かを頼ってくれ、バカ弟め。それは決して、弱いことなどでは無いから。




今回の話が、リヴェリアが同じファミリアにオリ主を入れようとした理由の大半です。それをリヴェルークは煩わしく思っていました。『親の心子知らず』と言いますが、今回はそれの親→リヴェリア、子→リヴェルークって感じです。

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