リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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タイトル通り、オリ主の過去話です。
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4話 過去の惨劇

 リヴェルークが迎えに来た団員と共に去った後、残された三人は中々その場を離れられずにいた。──リヴェリアの表情が、彼女と初対面の人にも伝わってしまうほどに悲しげなモノだから。そんな表情に仲間であるフィンとガレスが気付かないわけが無いから。

 

 ──絶対的な強さが欲しい──

 

 いつからだ。私の弟があんな考えを持つようになったのは。あんなに怖い表情をするようになったのは。──いいや、それは私自身が良く分かっていることだ。

 

「リヴェリア、良かったら教えてくれないかな。リヴェルークがあそこまで強くなることにこだわる理由を」

「そうじゃな。昔から思っていたが、あの思いつめようは普通では無いぞ」

「⋯分かった、話そう」

 

 全ての始まりは()()()の悲劇からだった。

 

 

 

 

 王家の血を色濃く受け継いだ少女、リヴェリア・リヨス・アールヴ。彼女の秘める才能は他のエルフを凌駕していた。それほどまでに優れていた少女は両親の自慢でもあった。

 彼女が両親に愛されながらも健やかに育っていたある日、両親から弟が母のお腹に宿っていることを知らされる。初めて出来る年下の家族。彼女はその子が生まれてくる日を楽しみに待っていた。⋯そしてついにその日がやって来た。

 

 ──リヴェルーク・リヨス・アールヴ(才能の怪物)の誕生──

 

 ()()が引き起こしたのは思い描いていたような楽しい毎日の始まりではあったが、同時に悲劇の幕開けでもあった。──まるで、産まれながらに英雄の素質を有する彼に対して何処ぞの誰かが英雄となる覚悟の有無を問うかのように。

 

 

 

 

「最近、父上と母上が私に全くかまってくれない」

「リアはもうお姉さんでしょ!産まれて数年しか経ってないんだし、弟クンがもう少し大きくなるまで我慢しなさいよ」

「アイナの言いたいことは分かっているつもりだ。⋯まぁ、ルークは可愛いから仕方無いとは思うがな!」

「──はぁ。あんた、弟クンのことになるとキャラがブレるわよね」

 

 アイナは私の言葉を聞き、呆れるようにため息をつきながらそんなことを言った。

 弟のリヴェルークが産まれてから、私は変わったと良く言われるようになった。『将来はヤバめのブラコンになる』とも言われた。ブラコンがどういう意味かは分からないが。

 

「それにしても、天才なんて呼ばれてるリアより魔法の才能が有るなんて驚きだわ。両親がかかり切りで、弟クンに魔法の勉強をさせる理由も分からなくは無いかな」

「英才教育と言うには、些か厳し過ぎると思ってしまうがな」

「それだけ期待してるってことでしょ。なんたって、自分の思い描いた属性の魔法を使いこなすような天才なんだし。それに、両親が厳しくて勉強の時にしか相手にしてくれないからその反動でリアに甘えるようになったんでしょ?」

 

『良かったじゃない』なんて口では祝福しつつも、その目に宿るのは揶揄いの感情。それが分かったからこそ私は自分の気持ちとは真逆の返答をした。

 

「ふん。甘えられても迷惑なだけだ」

「⋯え。リアねぇは、ずっと迷惑だと思ってたの?」

 

 アイナのモノでは無い、そんな言葉が聞こえた。声のした方を見ると愛しの弟(リヴェルーク)が目尻に涙を溜めていた。

 

「あーあ、リアお姉ちゃんは酷いね〜。代わりにアイナお姉ちゃんが慰めてあげよっか?」

 

『おいでおいで〜』などと言いつつ両手を広げてルークを誘惑するアイナを見て、武力介入を行うことにする。

 

「冗談だ、バカ者。私がルークのことを迷惑だと本気で思っているわけが無いだろう」

 

 私はアイナの頭を叩いてからルークに向き合い、しっかりと目を見て自分の意思を伝えた。──当然ながらルークの頭を撫でることも忘れない。

 

「あいたた。もう、リアは本当に弟クンのこと好き過ぎでしょ。一周回って引くわよ」

「何とでも言うがいい。お前もきっと、年下の家族が出来ればこうなるぞ」

「私は弟や妹より、自分の子供が欲しいかな〜。特に娘が良い。名前はエイナなんて可愛いと思うわ!」

「アイナねぇは、その前に彼氏を見つけないといけませんねっ!」

 

 ルークが発した幼いが故の純粋な言葉。ソレがもたらしたダメージは甚大だったようだ。

 アイナは部屋の隅に移動すると膝を抱えて死にそうな表情になってしまった。この状態のアイナはしばらく復活しないので私はアイナの存在を頭の隅っこに追いやり、ルークに質問をする。

 

「それよりもルーク。この時間はいつも、魔法の勉強をしている筈ではなかったか?」

「最近勉強しかしていないので、外に遊びに行こうかと言われました。父上が弓を教えてくれるそうです。⋯僕としては、僕の才能にしか興味の無い人から教わる弓よりも、初めての外の世界の方が楽しみですけどね」

「父上もお前に期待しているだけだろう。それより、もしも道中でモンスターが出て誰かが怪我を負ったのなら、ルークの回復魔法で癒してあげると良い」

「分かりました。僕の回復魔法は凄いみたいですから、皆の傷も全部癒してみせます!」

 

 やはり、はしゃいでいるルークも可愛いな。この時の私はそんな呑気なことを考えていた。何故なら──ルークの無邪気な笑顔を見る機会がこれで最後だとは全く思っていなかったから。

 

 

 

 

「なんだ、これは⋯。ここで一体、何があったんだ⋯⋯」

 

 外に遊びに出かけた父やルーク、及び二人を守護する護衛達の部隊と連絡が取れなくなった次の日。捜索隊とそれを指揮するリヴェリアはエルフの里を囲む巨大な森のとある場所で行方不明となっていた一団を発見した。ただし、彼らが見たのは──血と肉片が散らばり赤く染まった地面にリヴェルークだけが無傷で座り込んでいる光景。

 そんな、見た者全てに吐き気を催させるようなおぞましい光景だった。そんな中で傍目からは呆然と座り込んでいるようにしか見えないルークの表情の僅かな変化を家族であるが故にリヴェリアは理解した。いや、理解()()()()()()

 

「それなのに何故だ。ルーク、お前は何故⋯⋯笑っているのだ」

 

 

 

 

「⋯ハイエルフの王や、その王を守る精鋭部隊が殺されたのか」

「ただ殺されたわけではない。文字通り、ミンチにされていたのだ。唯一生き残ったルークの話では、相手はたった()()の女性だったそうだ」

 

 私のその言葉を聞き、フィンとガレスは息を飲んだ。当然だろう。()()()近い熟練者のエルフがたった一人に皆殺し(細切れ)にあったのだから。

 

「その女性の種族は分かっておるのか?」

「いや、フードを被っていたそうだ。そいつにルークは声をかけられたようで、それが女性のものだったらしい」

「三十人のエルフを一人で細切れにしたのなら、剣の腕前は半端じゃなかろうな」

「《剣聖》の異名も取っている今のルークほどでは無いだろうが、それでもかなりの手練れだったのだろうな」

「確かにそうだね。⋯続きを聞かせてくれないかな」

「ああ、話そう。ただし、今でも分かっていないこともあるのでそこは話せないぞ」

 

 

 

 

 父である国王陛下や護衛達の死から二週間後。エルフの里の中央に位置する巨大な王城の玉座の間に、城で働いているお偉いさん方が集まっていた。その他にもリヴェルークの母である()陛下や姉のリヴェリアもいる。

 そんな彼らは皆、自分の耳に飛び込んできた幼い声で発せられた言葉を理解出来ずに呆けていた。その中で最も早く我に帰ったのは新しい里の統治者たるリヴェルークの母だった。

 

「リヴェルーク、貴方は自分が何て言ったのか、ちゃんと分かっているの?」

「はい、分かっていますよ。女王陛下、それが僕⋯()の望みです」

「認められるものか!たった()()のお前が、()()で里を出て修行に行くだと⁉︎いくらお前が天才とはいえ無理に決まっているだろう!」

「無理だったとしたら、その時はその時です。気にする必要は無いですよ、リアねぇ」

 

 ルークのそんな投げやりな言葉を聞いて、私の怒りは頂点に達した。

 

「気にするな、だと?巫山戯るな!それに、死んだらどうするつもりだ!」

「もしも呆気無く死んだなら、俺はその程度だったということでしょう。それに当てもあります。本当に心配しないで下さい」

「当てだと⁉︎今までエルフの里から碌に出たことの無いお前に、そんなモノがあると本気で言っているのか⁉︎」

「はい、その通りです。数年後には強くなって帰って来れると思います」

 

 そう言うルークの瞳は私が今までで一度も見たことの無いモノだった。当時の私は()()がどのようなモノか分からずにただ圧倒されただけであった。しかし、今ならば分かる。アレは──冒険することを覚悟した()()()の瞳。

 それよりもルークの話を聞いて一つ気になったことがあった。

 

「お前がエルフの里の外に出たのは、この前の惨劇の日が初めてだ。あの日、お前はその()()とやらを見つけたのか?」

「はい。あの日に、俺の目指すべき強さの()()()に出会いました」

 

 リヴェルークの言葉から感じた違和感。母もそれに気が付いたようで、周りにいた全員を各自の持ち場に帰し、玉座の間には家族三人だけとなった。

 

「リヴェルーク、貴方まさか⋯」

「母上、俺は強くなることを決意しました。例えソレを手に入れる道が修羅道であったとしても」

「⋯母として。女王として。貴方の願いを聞くことは出来ません。部屋に帰って頭を冷やしなさい」

「許しなどいりません、俺は勝手に出て行きます」

 

 コレではただの押し問答だ。お互いに引くつもりが無い為、時間だけが無為に過ぎてしまう。

 

「一先ず、今日はお互い頭を冷やす為にここで話を一旦切ろう。母上もルークも、それでいいのではないか?」

 

 私の提案を受けて母上もルークも自室に帰った。──だが、安心は出来ない。恐らく今日の夜に、ルークが何らかの動きを見せるであろうことを姉弟だからこそ分かってしまったから。




次回も過去話になりそうです。
子供は幼いながらも敏感ですから、リヴェルークは両親が自分自身を見ていないことを理解しています。

なるべく早く戦闘シーンを入れられるように頑張りますのでご容赦下さいm(_ _)m
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