リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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七月末に投稿するとか言っておきながら、気が付けばもう八月。遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m
言い訳になりますが、途中(3、4000字くらい)まで執筆していたのに操作ミスで消してしまったのです。


18話 胎動する悪意

 ダンジョン18階層リヴィラの街、ヴィリーの宿にて。頭部を失った遺体が晒すステイタスをリヴェルーク達はそれぞれの表情を浮かべながら見下ろしていた。

 

「ほ、本当にこの人は力づくで殺されたのでしょうか?」

「ハシャーナのアビリティ欄には《耐異常》があるから、劇毒を盛られたとしても効き目は然程無いだろう」

「故に、手段は限られるというわけか」

 

 発展アビリティである耐異常──毒を始めとした様々な異常効果を防ぐ能力項目。ハシャーナの能力高低はG。G評価の耐異常ならば例え専門家が作った劇毒でも彼の自由を奪うには足りない。だからこそ力づくで殺されたという結論に行き着いてしまう。

 そこまで議論がなされた時にティオナから『イシュタル・ファミリアの戦闘娼婦がやったのではないか』という意見が出たのだが、もし()()ならばあからさま過ぎるから恐らく違う。

 そんな議論がなされている最中にボールスの取り巻きの一人が半狂乱で叫び声をあげた。

 

「そ、それらしいこと言ってるけどなっ!今ちょうど街にやって来たって顔をして、本当はお前等の誰かがやったんじゃねーのかっ⁉︎」

 

 その発言を皮切りにボールス達から泣く子も黙る実力者集団たるロキ・ファミリア一行に疑惑の目が向けられる。

 確かに実力面で言えば、この場でハシャーナを真正面から殺せるのは彼等だけなので疑いたくなる気持ちは分かる。しかし、そんなことを言われてもリヴェルーク達にとっては全く身に覚えのない冤罪でしかない為に苦笑いを浮かべるしかない。

 

「コイツ等がやったとすると⋯⋯」

「まず、フィンはありえねぇ」

 

 そんなリヴェルーク達の気持ちなどお構い無しに、ボールス達は『ロキ・ファミリアの誰がやったか』という推測をたて始める。

 彼等はまず小柄な小人族(パルゥム)で何より男であるフィンを真っ先に除外した。この時にリヴェルークを除外しなかったのは、彼の容姿がそんじょそこらの女性とは比べ物にならないほどに整ったものだからだ。

 その後ボールス達はロキ・ファミリアの残りの面々の身体を順々に見た。目撃されている女はローブの上から見ても分かるほどに胸もとの豊かな身体つきだ。

 アイズ、レフィーヤ、リュー、と視線が移り、リヴェルーク、リヴェリア、ティオナに彼等の目が止まる。──薄い胸回り。とりわけ露出の高いティオナの胸囲をジッと眺めながら『うむ』と一様に頷く。

 

「コイツ等は無いな」

「ああ。あり得ない」

「うぎーっ⁉︎」

「⋯⋯⋯何故俺を見た」

 

 両手を振り上げ暴れようとするティオナを羽交い締めするアイズと、ショックのあまりその場で呆然としているリヴェルークの肩をポンポンと叩くリュー。

 部屋の中はカオス状態なのだが、そんなものは気にも留めずにボールス達は一人の女性冒険者に舐るような視線を向ける。

 ──深い谷間を作る豊かな双丘。キュッと締まった腰。大きく柔らかそうな臀部。ほど良い肉付きの太腿。何処を取っても垂涎ものの身体つきをした女性に思わず生唾を飲み込む。

 

「⋯⋯⋯ゴクッ」

「その身体を使えば、男なんて幾らでも誑し込めるだろうなぁ?」

「───あァ?」

 

 そんな視線や言葉を投げかけられた女性──ティオネは。目を見開き途轍も無い表情で憤怒の炎を爆発させた。

 

「私の操は団長のものだ!ふざけたこと抜かしてると、その股ぐらにぶら下がってる汚ねぇモノを引き千切るぞっ⁉︎」

 

 凄まじい罵詈雑言が炸裂する。彼女の逆鱗に触れたボールス達ばかりか、無関係のフィンやリヴェルークまで急所に手を当ててしまいそうになるほどの凄味があった。

 

「⋯あー、ボールス。ご覧の通り、彼女達には異性を誘惑出来る適性が無い」

「お、おおう。疑って悪かったな、すまん」

「もう一度この場を検証したい。物に触るけど、いいかな?」

「ああ。もう、好きにしてくれ」

 

 自分の手に負えない一件だと悟ったのか。それともティオネの怒声に怖気付いたのか。それは定かでは無いが、ボールスは呆気無く現場の指揮権をフィンに譲った。

 フィンは早速、他の皆を部屋の一角にまとめてからハシャーナの骸に手を伸ばすのであった。

 

 

 

 

「⋯で、結論から言うと?」

「ハシャーナの死因は首の骨を折られたことだ。彼の頭部はその後に破壊されている」

 

 ──それは残された骸の状態からでも判別出来ることだ。犯人はハシャーナを殺した後にわざわざ頭部を破壊している。それには何かしらの理由がある筈。

 

「それで、他に分かったことは?」

「うん。犯人はハシャーナが所持していた『何か』を奪うつもりだった。しかしハシャーナは既に『何か』を持っておらず、苛立ちから頭部を破壊したのだろうね」

「その『何か』というのが、ハシャーナのバックパックから出てきた冒険者依頼(クエスト)に書かれていたものですか」

 

 ──ハシャーナのバックパックから出てきた冒険者依頼。そこには『30階層に単独で赴き、とある荷物を回収せよ』と途切れ途切れではあったが書かれてあった。

 他には強引に引き裂かれたハシャーナのバックパック。周囲には幾つかの道具も散乱しており、焦って中身をぶちまけたというよりは何処か乱暴に物に当たっていた感情が見え隠れしている。

 

「成る程。つまり目当ての『荷物』が見つからず、癇癪を起こして死体に当たったということですか」

「それなら、確かに筋は通りますね」

「ついでに言えば、未だにガネーシャ・ファミリアが動きを見せていないことから、ハシャーナの単独行動なのは間違いないだろう」

 

 街の中でこれほど騒ぎになっているにも関わらず、派閥の者が何も行動を起こしていないところを見ればその推測も恐らく正しいのだろう。

 

「で、この街を封鎖した理由は何だ?まさか、未だこの街に犯人の女が滞在してるなんて言わないよな?」

「ハシャーナほどの人物が極秘に当たる依頼ならば、犯人の探している『荷物』はよほどの代物な筈だ」

「それに、女は殺人まで犯している。もしまだ確保出来ていないなら、手ぶらで帰るわけにはいかないだろう」

 

 ──それに、と続けて訝しげな表情をしているボールス達に対してフィンは告げる。

 

「きっと、まだこの街にいると思うよ。──勘だけどね」

 

 ペロリと親指を舐めながらそう述べるフィンの碧眼に薄ら寒いモノを覚えながらも、ボールス達はなんとか首肯を返す。

 その直ぐ後にボールスの指示の元、彼の舎弟達が慌ただしく動き出す様をリヴェルーク達は眺めていた。

 

「なんだか、凄いことになってきたね」

「ここまできたら、ハシャーナの弔い合戦ね。絶対に犯人を捕まえるわよ」

「そうですね。殺人犯を放置する理由などありませんから」

 

 物言わなくなった遺体を見つめ、そっと目を伏せ追悼の念を抱く。少し経ってから顔を上げて自分達も行動を始める。──リヴィラの街は今まさに揺れ動こうとしていた。

 

 

 

 

 ボールスによって封鎖命令が下されたリヴィラの街の中は、いつに無い騒めきと動揺が伝播していた。

 それも当然だろう。街の皆には封鎖をする際に『Lv.4の第二級冒険者が殺された』という情報が伝えられている。それが皆に不安や恐怖といった感情を抱かせている。

 皆が『広場に集合』という命令に迅速に従ったのも、『一人でいると殺されてしまうのではないか』と怯えている証拠だろう。何せ第一級冒険者に匹敵する殺人鬼が街の何処かに潜伏しているのだ。個人行動に危惧を抱くのは当然の帰結である。

 

「この人数を調べるのは大変そうだな〜」

「でも、ここから女の冒険者に絞れますからね」

「あ、そっか!ハシャーナを襲ったのは女の人だもんね〜」

「付け加えるなら、男の欲情をそそるような体の持ち主、という点だな」

 

 一先ず広場に集まった人間を男女で分け、古代に行われていた魔女狩りのように一箇所に集められた女達を男達が取り囲んでいる。

 ここで可能ならば背中のステイタスを確かめさせてもらうのが一番手っ取り早いのだが、流石にそれは情報の秘匿の規則に違反してしまう。

 それに我が物顔で調べてしまえば都市中の他派閥から反感を買ってしまうので、身体検査や荷物検査を行うしかない。

 

「フヒヒッ。そういうことなら⋯⋯女どもぉ⁉︎身体の隅々まで調べてやるから服を脱げー!」

『うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!』

 

 ボールスの要求を聞いた全ての男性冒険者達が握り拳を作りながら熱烈な歓声を上げる。中には上半身裸になって脱いだ服を振り回している者までいる。

 俄然やる気を漲らす浅ましい男達に対して『ふざけんなーっ!』、『死ねーっ!』と女性冒険者達から大顰蹙の声が飛ぶ。

 まぁそんな下衆な要望はこの場にロキ・ファミリアがいる時点で絶対に叶わないのだが。

 

「全く、馬鹿なことを言っているな。お前達、我々で検査をするぞ」

「だよね〜」

「分かりました!それじゃあ女性の皆さんはこちらに並ん、で⋯」

 

 リヴェリアの指示に従い、ロキ・ファミリアの女性陣が横一列に並んだのは良い。そこまでは良かったのだが、広場に集まった女性冒険者は一人たりともリヴェリア達の列には並ばなかった。

 リヴェリア達の視界に映るのは黄色い悲鳴を上げながら自分達の前を走り去り、とある二人の男性冒険者の前に長蛇の列を成している女性の集団の姿だった。

 

「フィン、早く調べて!」

「お願い、身体の隅々まで!」

「貴方になら調べられても良いわ!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 ──多くの少年趣味の女性が、遠い目を浮かべる少年のような中年に目を輝かせながら詰め寄る。

 

「リヴェルーク様、早くお調べになって!」

「そのまま押し倒して頂いても⋯」

「寧ろ押し倒してください!」

「あはは、これは困りましたね」

 

 ──多くの美青年好きの女性が、困り果てたように頬を掻く金髪赤眼の青年に胸元を強調しながら詰め寄る。

 《勇者(ブレイバー)》フィン・ディムナ。《至天(クラウン)》リヴェルーク・リヨス・アールヴ。オラリオで女性冒険者人気の一、二を争うほどの第一級冒険者である。

 二人に対してのみ女性が殺到している様子を見て街の男性冒険者は死んだような顔を浮かべたり泣いていたりするのだが、取り残されたリヴェリア、アイズ、ティオナ、レフィーヤには彼等に構っている暇が無い。何故なら。

 

「あ、の、アバズレどもっ⋯!」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「ちょ、ティオネ落ち着いてって!それにリューも、無言で人殺せる目は止めなよ〜」

 

 フィンに殺到する女性陣を見てブチ切れるティオネと、リヴェルークに殺到する女性陣を見て塵芥を見るような冷たい瞳になるリュー。この二人の怒りを何とか抑え込むことで精一杯なのだ。

 

「フィンが押し倒されたぞー!」

「いや、お持ち帰りされそうだ!」

「あ、リヴェルークが逃げた」

「その後を半分くらいの女が追いかけてくぞ!」

「──うガァァァァああああああああっ!」

 

 男性冒険者達による実況を聞いたティオネは妹の拘束を振り解き、女性集団目掛けて突撃していった。残念ながら彼女の怒りの炎を鎮めることは出来なかったらしい。

 

「あぁ、もう何が何だか⋯」

「あ、あはは。ティオネさんらしいですけどね。それに比べてリューさんは静かですけど⋯って、あれ?さっきまで隣にリューさんが居ませんでした?」

「レフィーヤが呆けてる間にリヴェルークのとこ行っちゃったよ〜」

「ほら、あっちを見てみろ」

 

 レフィーヤはリヴェリアに促された方向に目を向ける。そこでは広場に集まっていた凡そ二百の女性の半分程度がリヴェルークの後を追っていたのだが、気がつくと一人、また一人と気絶させられて倒れ伏していた。

 

「な、何が起こっているんですか?」

「何って、リューが意識を奪っている()()だよ〜?」

「あまりにも早い芸当故に、第一級でなければ見逃してしまうな」

「⋯うん、凄いね」

 

 こんな何気無い一場面でもレフィーヤは他のメンバーとの埋めがたい力の差を痛感してしまった。──愛しの彼氏の奪還(場面が場面)故に、周囲の人間にとってはレフィーヤの小難しい顔はかなり浮いた物になっているが。

 

「⋯?」

「アイズさん、どうかしましたか?」

「⋯アレ」

 

 アイズの微かな変化に、隣にいたレフィーヤだけが気付いた。アイズが見つめている視線の先には広場の中心地を愕然と見つめたまま震え、怯えている一人の犬人(シアンスロープ)の少女だった。

 彼女は後退りした後、集団の混乱を利用するように素早く広場から逃げ出した。

 

「──追いかけよう」

「は、はいっ!」

 

 その不審の身を放置するという選択肢は無かった。逃げた少女を追うように駆け出したアイズの後を、レフィーヤは必死に付いて行くのだった──。

 

 

 

 

「あーらら、騒ぎになっちゃったね〜?」

「揶揄うな。私は今すこぶる機嫌が悪い」

「でも、殺したのは早計だったんじゃなーい?」

「見られたからには口を封じる。エニュオにも、そう言い付けられている」

 

 男の喉を潰し、骨を折った感触は、未だ手の中に残っていた。指を小さく蠢かして右手を浅く開閉しながら行き場の無い感情を持て余す。

 

「探し物以外に『アリア』の件まである。ああ、面倒臭い」

「そっちは私はノータッチだから知らなーい」

「黙れ。──もういっそ、この場で皆殺しにでもしてやろうか」

 

 そんな物騒なことを隣に立つ少女にのみ聞こえる声量で呟く。それに今は馬鹿な女どもが騒ぎを起こしている為に、こちらに意識が向いている人間はいないだろうから。

 

「それはお好きにどうぞー。でも、私の標的は取らないでね?」

「そう睨むな。取りはしない」

「そっ!なら良かったわ。折角の()()との逢瀬を邪魔されたくないものね」

 

 本当にこの場で大量虐殺が起きることなど、どうでも良さげにはしゃぐ少女を見て内心で溜息をこぼす。

 

(この女の相手をするなど面倒極まりない。標的だけと言わず、満足するまで殺せば良い)

 

 この女は強過ぎるのだ。自分の力に自信はあるが、この化物の相手が務まると思えるほど自惚れてもいない。

 そこまで思考を働かせていたが、ふいに人混みの中を走る獣人の冒険者が視界を掠めた。その後を追う金髪の剣士とエルフの魔道士の姿も。

 追われ、追う彼女達からただならぬ雰囲気を感じ取る。

 

「⋯⋯行くぞ」

「ん〜?あの三人のこと追うの?」

「ああ。その方が良い気がした」

 

 怪訝そうな視線を浴びながら群衆の間を縫い、二人は少女達の後を追って広場から立ち去る。

 ──階層の上空。天井にて輝きを放つ水晶の光はゆっくりと薄れていき、街には『夜』が訪れようとしていた。




最後に出てきた二人組。一人はアニメで出た彼女ですが、もう一人は果たして⋯。

次回はなるべく早く投稿したいと思います!

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