リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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感想にてご指摘があった為、少し文章を加筆しました。


16話 リヴィラの異変

 五十人以上の団員が一斉に食事をとる大食堂の一角にて、いつもの四人メンツの内の三人が固まって談笑をしている。

 アイズからもらったサンドイッチをひょいっとつまみながらティオナはアイズに尋ねた。

 

「アイズ、今日は何かする予定あるの?」

「ん、と⋯。一昨日、剣を壊しちゃったから、弁償しないといけなくて⋯」

 

 ──その額、実に四千万ヴァリス。

 それを聞いたティオナ達は納得する。昨日ティオネを加えた四人でゴブニュ・ファミリアを訪れた際に、アイズは整備を頼んでいた愛剣《デスペラード》を受け取ると同時に破損した代剣──細剣(レイピア)を返却する為に持って行ったのだが、その時彼女が目に見えて分かるほどに落ち込んでいたのだ。

 それもそのはず。四千万ヴァリスという額は第一級冒険者にとっても一苦労するものでありダンジョンにしばらくこもらなくてはいけない。

 

「じゃあ、あたしも行くよ!アイズのことだから、一週間くらいダンジョンにこもるつもりなんでしょ?」

「でも、ティオナ⋯」

「大丈夫、大丈夫!あたしだって作り直してもらった大双刃(ウルガ)のお金、用意しないといけないし」

「わ、私もお邪魔で無ければ、お手伝いさせて下さい!」

 

 一緒に資金稼ぎをしようとティオナが提案し、それに負けじとばかりにレフィーヤも協力を申し出る。

 自分の不始末にティオナ達を巻き込んでしまうのはアイズとしては心苦しい思いだったがこう頼み込まれては断り切れない。

 何より二人のその善意が純粋に嬉しかった。

 

「⋯うん。じゃあ、お願いするね」

「まっかせてー!あ、ホームを結構空けそうだし、フィン達に言っておかないと駄目かな?」

「そうですね。次回の遠征はまだ先ですけど、しばらくダンジョンに滞在するなら、ロキ様か団長に申請しておいた方が良いと思います」

 

 ──無断で行ったら余計な心配をかけちゃいますし、とレフィーヤはティオナの疑問に答える。

 三人で大まかな滞在時間や探索日程の話し合いを進めているうちに、周囲では食事を済ませて席を立ち上がる者が出始めた。

 このまま居座るのも片付けの邪魔になると思った三人も彼等にならって席を立とうとした丁度その時。

 

「あんた達、さっきから何話してるのよ?」

「あ、ティオネさん」

「三人で一週間くらい、ダンジョンにお小遣い稼ぎに行こうかなーって。ティオネも行く?」

 

 先ほどまでフィンに、自身の手料理を半強制的に食べさせていたティオネが三人のもとにやって来た。

 全て食べ切れないと固辞された巨黒魚(ドドバス)の丸焼き──思い人の食べかけ──を完食した彼女は中々どうしてご満悦そうだったが、ティオナの口から資金集めの話を聞いた途端に顔をしかめた。

 

「一週間?嫌よ、そんなに団長のお近くに居られないなんて」

「どうせだからフィンも誘ってみようかなー」

「──しょうがないわね、私も付いて行ってあげるわ。感謝しなさいよ」

「やっぱりチョロ〜」

 

 策士ティオナのたった一言で四人目の同行者も難無く決まった。

 

 

 

 

「──というわけなんですけど、もしよろしければ団長も一緒に行きませんか?」

「それはまた、楽しそうなお誘いだね」

 

 執務室にて行っていた仕事を一区切りさせたフィンに、ティオネがずいと前に出ながらも説明する。

 まるで『団長への説明は自分の役目だ』と主張するかの如く振る舞いに苦笑いしながらもティオナ達はフィンの返答を待つ。

 

「僕もそろそろダンジョンにもぐろうと思ってたからね。折角だし一緒に行かせてもらおうかな」

「じゃあフィンも決まりねー!」

 

 派閥の首領として遠征では常に団員達を統率する身であるが故に、私的な迷宮探索も時には楽しみたいとフィンは笑う。

 こうしてフィンが同行することになり、自動的にティオネの参加も確定した。

 

「折角だし、リヴェリアもどうだい?最近は雑務に追われていただろう?」

「⋯そうだな、私も行かせてもらおう。私達が留守の間は、悪いがガレスに任せるか」

 

 フィンの執務室で彼の仕事を手伝っていたリヴェリアの参加も決定し、レフィーヤを除いた六人中五人が第一級冒険者という豪華なパーティが出来上がった。

 

「あ、どうせならリヴェルークとリューも誘ってみよっか!」

「それは良いですね!」

「二人はきっと来れないだろうな」

 

 ティオナが二人を探そうと提案するも、リヴェリアがハッキリとした口調で断定する。

 

「え〜⁉︎どうして?」

「あの二人は用事があると言っていたからな」

「む〜、そっかぁー。でも、いきなりだったし仕方ないか」

 

 リヴェリアの言葉を聞いてあからさまに落ち込んだティオナだったが、そこは流石の第一級冒険者。即座に気持ちを切り替えて前向きになる。

 

「あ、このことベートには内緒ね!聞いたら絶対付いて来るし、付いて来たらうるさいし」

 

 ティオナは意地の悪い笑みを浮かべながらも釘を刺す。

 フィン達は苦笑を浮かべつつも、いっぺんに派閥の主力が出払うのも考えものなので異議は挟まなかった。

 

「それじゃあ、各自準備を行って、正午にバベルに集合といこうか」

『おー!』

 

 

 

 アイズ達は予定通り正午頃にバベルを発った。

 ダンジョンに入ると早速とばかりに『ゴブリン』や『コボルト』が現れる。道すがら前衛に配置されているティオナとアイズが出会い頭にモンスターを瞬殺すれば、敵わないと悟ったのか彼女達の前に立ち塞がるモンスターは激減していった。

 そうしてアイズ達はあっという間に《上層》を越えて《中層》の17階層半ばまで足を進めた。

 

階層主(ゴライアス)居ないけど、誰か倒しちゃったのかな?」

リヴィラ()の冒険者が総出で片付けたみたいだよ。交通が滞るからって」

 

 大人数のパーティでも通行が可能な洞窟状の巨大通路を経て、アイズ達は17階層最奥にある大広間に到着する。

 会話をするティオナとフィンの視線の先に冒険者の行く手を阻む『迷宮の孤王(モンスターレックス)』の姿は無く、代わりに『ミノタウロス』を始めとしたモンスター達が広大な空間にのさばっている。

 襲いかかってくるモンスターの一切合切を軒並み倒しつつも歩を進め、ややあって大広間の奥の壁にポッカリ空いた洞窟──次層の連絡路へと進んだ。

 

「ん〜、ようやく休憩ー!」

 

 傾斜を描く洞窟を抜けたティオナが一段落とばかりに伸びをする。

 18階層に降り立ったアイズ達を迎えたのは頭上よりそそぐ暖かな光。そして木々が疎らに生えた森の入口だった。

 モンスターが溢れる地下迷宮に相応しく無いほどの穏やかな光と清浄な空気。アイズ達が以前の遠征の際に利用した50階層と同じ、ダンジョン内に数層存在する安全階層(セーフティポイント)だ。

 

「ねぇねぇ、どうする?このまま19階層に行っちゃう?」

リヴィラ()に立ち寄る方が先よ。ここまで来る途中で集めたこのドロップアイテムを売り払っておかないと、どうせすぐに荷物が一杯になるわ」

 

 アマゾネスの姉妹が会話を交わす中、一行は現在地である南の森から階層の西部──ダンジョン内に存在する街へと進路をとった。

 その街は大陸の片隅を切り取ったかのような高く巨大な島の頂上付近に築かれている。

 木の柱と旗で作られたアーチ門が記す名前は《リヴィラの街》。中層域に到達可能な限られた上級冒険者が経営するダンジョン内の宿場町である。

 

「あの、前々から気になっていたんですけど⋯。門に書かれている三百三十四っていう数字って、もしかして⋯」

「ああ。リヴィラの街が再築されてきた数だ。今は三百三十四の代。つまり過去に三百三十三回壊滅してきたことになる」

「さ、三百三十三回⋯⋯」

 

 リヴェリアの返答に、アーチ門を見上げるレフィーヤは呆然とする。

 モンスターが産まれない安全階層とはいえ、ここはダンジョンである。突発的な異常事態がいつ何時起こるとも知れない。──事実異常事態が発生する度にリヴィラの街は崩壊してきた。

 そんな中、冒険者達は危機を悟ればこの街をあっさりと放棄して地上へ帰還する。

 そして全てが打ち壊された後に再びこの階層に舞い戻って街を作り直すのだ。

 

「取り敢えず魔石やドロップアイテムを引き取ってもらって、それから⋯って、リヴェリアどうしたの〜?」

 

 街に足を踏み入れた一行はこれから何をするか確認していたのだが、リヴェリアが一人黙り込み街を見回していることに気付く。

 

「街の雰囲気が、少々おかしい」

「そういえば、いつもより人が少ないような⋯」

 

 リヴェリアの言葉を受けて他の五人も周りを見渡す。

 確かにすれ違う人がいつもより少ない。街の入り口付近では気にならなかった人気の少なさも、街中の広場に差しかかると流石に違和感を抱くようになる。

 ここは安全階層唯一の街ということもあって19階層以下を探す際の拠点にする冒険者が数多く存在する。常に賑やか、までとはいかないが雑踏とざわめきが絶えないダンジョンの街は、今は閑散と言っていいほど静かだ。

 

「えーと⋯⋯どうする?」

「一先ず、何処かのお店に入ろうか。情報収集も兼ねて、街の住人と接触してみよう」

 

 フィンの提案を受けた一行は広場から移動する。

 良く見れば商品を放ったらかしにして空けられている店も少なくない中、ようやく天幕で出来たとある買取り所に店主の姿を発見した。

 

「今は大丈夫かい?」

「ん?──おお、ロキ・ファミリアじゃないか!客かい?」

「少し聞きたいことがあってね。街の様子がいつもと違うようだけど、何かあったのかい?」

「⋯あぁ。あんた達、今街に入ったばかりなのか」

 

 店主は渡された魔石やドロップアイテムの鑑定をしながらもフィンとの何気ないやりとりに応じる。

 フィンが核心を突く質問を投げかければ、店主は辟易したように言葉を絞り出した。

 

「⋯殺しだよ。街の中で、冒険者の死体が出たらしい」

 

 フィンを含め、アイズ達は目を見開いて驚きを露わにする。──そして感じ取った。何か嫌なことがこれから起こりそうな、嵐の前触れとでもいうかのような予兆のようなものを。

 そんな予感が当たることになるなど、今の彼等には知る由も無いことであった──。

 

 

 

 

「ごめーん!義兄さん、姉さん、お待たせ!」

「焦らずとも大丈夫です。急ぎの用事というわけでも無いですから」

「一応俺からも、ミアさんに理由を話しておきましたよ」

 

 中央広場(セントラルパーク)にて、顔まですっぽり覆うコートを着用している不気味な三人組が隅っこで会話を交わす。

 そんな場面を多くの冒険者が怪訝な表情を浮かべながらも、三人を横目に見るだけに留めてダンジョンへと足を運んで行く。

 彼等は夢にも思うまい。自分達が不躾な視線を投げつけた三人組の内の一人が世界的に有名なオラリオ最強の冒険者であることなど。

 

「それじゃあ、行きましょうか。リュノ、お供え物は忘れていませんよね?」

「うん!忘れたらファミリアの皆に怒られちゃいそうだからね」

 

 そう言ってリュノ──リューの妹──は後ろ手に持っていた美しい花や様々なお酒が入った小鞄(ポーチ)をリヴェルークに見せる。

 

「ダンジョン内のモンスターは、俺が威圧して追い払います。それでも襲ってくる敵に限り、倒していくという方針にしますか」

「そうですね。その方が効率も良いでしょう」

 

 上層でさえ苦戦してしまう新人冒険者や中層の攻略法を必死に考えている冒険者が聞けば呆気にとられてしまいそうな方針ではあるが、こうしてダンジョンの攻略方法も決まった。

 後はダンジョンの18()()()()()()()戦友達の元を訪ねるだけだ。

 

「この格好で広場に長居していたら目立ってしまいますし、そろそろ行きましょうか」

「はい、そうしましょう」

 

 どこか悲しみを帯びた表情を浮かべながらも、三人も周囲の冒険者と同じくダンジョンへ足を運ぶ。

 彼等が目指すのは18階層。そこに何があるのかは、オラリオ広しといえどもこの三人しか知っている者はいない秘密の場所である。

 ──道中で現れたモンスターは方針通りにリヴェルークの威圧で追い払いながら、まるで遠足のように気楽に歩を進めて彼等は目的地に到着した。

 

「予想よりも早く着きました」

「ルークの威圧が効き過ぎたようですね」

「義兄さんの威圧、上層や中層程度のモンスターには耐えられなかったんだろうなー」

 

 リヴェルーク・リヨス・アールヴは過去に60層まで一人で攻略したこともあるオラリオ最強の冒険者だ。

 そんな怪物の威圧など、上層や中層のモンスターにとって己が死を予感するには充分なものなのだ。故にモンスター達は襲いかからない。彼等の本能が襲うという選択肢を強制的に排除させるのである。

 

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』

 

 目的地が近づくにつれて三人の間に会話も無くなっていく。

 別に話す内容が浮かばないというわけでは無い。三人が三人とも、様々な感情が勝手に溢れてしまい会話どころでは無いのだ。

 ──悲しみ。怒り。苦しみ。情けなさ。様々な感情が湧き上がる。

 それらをなんとか制御しながらも歩を進め、木々のトンネルをくぐった先にある細い木立と水晶に囲まれた狭い空間にて立ち止まる。──そこにあったのは墓場だった。木の一部を紐で結んで作られた十字の墓がいくつも並んでいる。

 三人は十以上ある墓の一つ一つに持ってきた白い花を添え、お酒を順々に飲ませていった。

 そうして最後の一つ。アストレア・ファミリアの団長であったアリシア・ティルフィの墓にも供え物をした三人はエルフの里に伝わる死者に対する敬意を表する時に用いる捧剣──胸の前で己が武器の切っ先が天を衝くように構えて目を閉じ、祈りを捧げる行為──を行う。

 先程制御した様々な感情が再び三人の心の中で浮かんでは消えていく。

 ──どれほどそうしていただろうか。しばらく目を瞑っていた三人だが、誰とはなしに構えを解いて目を開く。

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

 リヴェルークの悲しげな声が狭い空間にて確かに響く。リューとリュノは何も喋らない。だが、そんな彼女達の様子が余計に悲しい空気を増幅させていた。

 彼等三人の用事はお墓参り。かつて救えずに散った戦友達に対して自分達に出来るせめてもの償いであった──。




捧剣については完全にオリジナルとなっております。
次話はなるべく早く更新したいと思います!

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