先日ランキング9位と14位に入りました!評価してくださった人、ありがとうございますm(__)m
低評価だろうと高評価だろうと、自分の拙作をわざわざ読んで評価してくださったことに変わりはないのでありがたいです!
今後とも宜しくお願いします(*´-`)
俺は先ほど、ようやく姉上の説教から解放された。一日で二人から連続して説教を受けるなんてとんだ厄日だ。
「リヴェルーク様、ありがとうございます!」
「いえいえ。同じファミリアなのですから、これくらい当然ですよ」
内心にて抱える鬱憤を悟られぬように笑いながらレフィーヤに応じる。
現在リヴェルークは『顔の無い蛇』との戦闘にて負傷したレフィーヤの治療に当たっていた。
団長と姉上からの説教が予想してたより早く終わったので、その辺をフラフラしていたらレフィーヤがこれからギルドの治療を受けるという場面に出くわしたのだ。俺の治療魔法の方が多分手っ取り早いだろうし、頑張った後輩を褒めるついでに治療を代わってもらったというわけだ。
「レフィーヤの活躍は聞きました。凄かったみたいですね」
「い、いえ!自分なんてまだまだです!寧ろ、アイズさん達の足を引っ張ってしまって⋯」
普段ならそこで終わる筈のレフィーヤの返答。しかし今回の彼女は自虐して終わりではなかった。
でも──、と少女は続ける。
「もう、助けられるだけなんて嫌なんです」
「──そうですか」
「あ、生意気なこと言ってしまってごめんなさい!」
あたふた、という擬音を体現するかの如く身振り手振りを交えながら謝罪をする彼女を見て微笑ましい気持ちになりつつも、先の戦闘を経て彼女が確かに一歩成長したことを感じた。何故なら『助けられるだけなんて嫌』と言った彼女の瞳はソレを感じさせるほどに真っ直ぐなモノだったから。
「──これで良し。レフィーヤ、治療が終わりましたよ」
「ありがとうございます、リヴェルーク様!」
そう言いながら律儀に頭まで下げるレフィーヤ。──本当にええ子や。この子の爪の垢を煎じてベートに飲ませてやりたい。
遠征なんかをすると当然ながらベートでも負傷をする。そん時は俺もベートの傷を癒したりするのだが、ベートは礼も言わずに再度敵に突っ込んでいくからね。あのバカにはレフィーヤの態度を見習ってもらいたいよ。
「それよりも、やっぱりレフィーヤは堅いですよ。俺のことは『ルーク』で良いですからね」
「いえ!そんな、畏れ多くて呼べません!」
「うーん。
何気無く放った一言。しかし、その言葉はレフィーヤがずっと欲して止まなかった言葉である。故にそんな言葉をオラリオ最強たるリヴェルークから掛けられたことに多少面食らったが何とか気持ちを整えて返答する。
「──っ⁉︎はい、分かりました!」
お?いつも通り断られるかと思ったのだが意外なことに了承してくれた。なんだろう、心境の変化でもあったのかな?
──当然ながらレフィーヤの心境などリヴェルークは理解出来ていない為に少女が何故素直に頷いたかなど知る由も無い。
「取り敢えず、ここで気長にティオナ達の帰還を待ちましょうか」
「はい!」
レフィーヤから聞いたところ、彼女達はモンスターの刈り残しがいないかを捜索しに行ったようだ。もう少ししたら戻って来ると思うのでここでステイしておく。
☆
「──それでですね、
「も〜、その話は今日何回も聞いたって!」
「正確には、今ので四回目ですね」
緩み切った表情を見せながらも話す様は、まるで付き合いたての恋人との惚気話をするかの如し。
実際に惚気話の類だったなら既にウンザリしてしまうほど聞かせれているのだが、その内容が内容なので他の人も『しょうがないな』と思いながら律儀に聞いている。
「それで、早速愛称呼びにしたってこと?」
「まだ本人相手には呼びにくいので、何気無い会話で慣れていこうと思いまして!」
「様付けもしなくて良いと思うけどな〜」
「駄目ですよ!ルーク様は私達エルフの誇りですから!」
そう言って手を腰の脇に置き胸を張るレフィーヤに同族であるリューだけが何度も首肯して同意を示すが、それ以外のいつもの面々は『また始まったよ』と言いたげな表情を見せる。
しかしそれは口に出さない。リヴェリアやリヴェルークがあまり気にしないので忘れがちだが、彼女達エルフにとって
「けど、あの二人ってエルフじゃ無い私達からしたら『近所の凄い姉弟』って感じよね」
「だよね〜!リヴェリアもリヴェルークもわりと緩いからな〜。特にリヴェルークが」
「⋯傲らないのが、良いところだよ」
「ルークさんに関して言えば、見てくれと挙動だけならただの優男だしね」
などと好き勝手に抜かすロキ・ファミリアのエルフ以外の女子メンツ。
「昔のルークさんを知ってるリューさんからしたら、今のルークさんって特に変わってないんですか?」
「そうですね。態度だけなら変わってないと言えるでしょう」
──そう。態度だけなら。
昔から彼はそうだった。初めてダンジョンで会った時も、共にダンジョンに潜った時も、闇派閥との戦闘において共闘した時も、私が復讐にかられた時も。常に優しく紳士的。しかし真剣な時に見せる表情はより一層彼の魅力を引き立たせる。
「態度だけなら?」
「はい。強さへの熱意などは、寧ろ昔の方がありました」
『へぇ〜』
彼はリューにとって憧れの存在だった。昔から近くで見ていた。だからこそ分かる。今の彼からはそんな熱意が欠けてしまったことに。
(いえ、少し違う。彼も歳をとって落ち着いたということですね)
昔のひた向きな姿勢も好きだが、今の落ち着いて大人びた雰囲気の彼も当然ながら好きだ。──と、そこまで考えて自分がいつの間にかリヴェルークの好きなところ告白しかしていないことに気が付く。
「リュー、顔真っ赤っかだよ〜?」
「なっ、何でもない。気にしなくて良い」
「え〜?ホントかなぁー」
「──はい、本当です」
炸裂するリューお得意のポーカーフェイス。先ほどの動揺などまるで見間違いだったのかと思ってしまうほど上手な感情操作。
だがしかし、幼い頃からなにかと世話をしてくれた彼女の頰がほんの少しだけ赤くなっていることにアイズだけが気が付いた。もっとも、この場でそれを言うのは無粋だろうと感じ取ったのか彼女がそれを指摘することは無かった。
「それよりさー、夕食の席にもロキいなかったね〜」
ティオナが呑気な喋り方で場の話題を急に変えた。それに対してティオネが肩をすくめながらも答える。
「急用が出来たらしいわよ。遅くなるから、夕飯もいらないって」
「またお酒?色々とあったのに、元気だよね〜」
「もしかしたら、神同士のお付き合いかもしれませんね⋯」
日が徐々に傾いていく。黄昏が静かに街を覆っていく様を眺めながらも彼女達は不気味なナニカを感じ取り表情を僅かに曇らせる。
☆
都市の南。魔石灯の光が氾濫する繁華街。
夜半を迎え空が吸い込まれるような黒一色に染まる中においてその盛り場は昼間のように明々としていた。種族問わず多くの冒険者が店の出入りを繰り返しており、装備に身を固めた冒険者はもとより容姿の整った神々の姿も多く見られる。
深夜でもこれほどの賑わいを見せる繁華街の一角に建つ高級酒場。そこの貴族の一室を思わせるほど広い個室にてロキとフレイヤは卓を挟んで腰を下ろしていた。
「もう、こんな時間に呼び出して、今度は何の用?」
「薄々感づいてるくせによく言うわ」
杯を手に酌み交わす女神達はどちらも笑みを浮かべている。フレイヤは瞑目した余裕のある笑みを。ロキはニヤついたいやらしい笑みを。
「今日のフィリア祭の騒ぎ、起こしたのは自分やな」
「あら、証拠でもあるのかしら?」
「そんな馬鹿の一つ覚えみたいな言い回しすんな。あんな状況や、自分しか出来る者はおらんやろ」
──魅了のオンパレードなど寧ろ正体を掴んでください言うてるもんや。
と、確信めいた口調でロキはフレイヤに詰め寄る。
「ガネーシャのとこの子もギルドの連中も魅了して、腑抜けにして見張りをあっさり往なしたんやろ?」
美神フレイヤの《美》は万人を魅了してのける。理性が太刀打ち出来ないその力は凡そ全ての生物の本能を揺さぶり、ある時は恍惚からの放心状態を意図的に喚起し、またある時は一方的に対象を美の虜にしてしまう。
「外に出たモンスターは誰も傷つけてへん。ちゅうより、
人を一度も襲おうとしなかったモンスターの奇行や状況証拠を踏まえて、ロキはそう結論づける。
「あんな大事起こしといて死人無しなんて芸当、自分以外に誰も出来へん。何がやりたかったのかは良く分からんけどな」
「⋯ふふっ、そうね。概ね貴女の言う通りよ」
「ほほう、殊勝な態度やな」
あっさりと己の推理を認めるフレイヤに対してロキはいやらしそうな笑みをより一層酷いものにする。
「ギルドにチクったろうかなぁ〜?
隠しもせずに脅しをかけてくるロキだったが、しかしフレイヤは微笑を崩さなかった。閉じていた瞼を開けて余裕の理由たる言葉を告げた。
「鷹の羽衣」
「⋯はっ?」
「貴女に貸したあの羽衣、まだ戻ってきていないわ。私をギルドに売るんだったら、その前に返してくれない?」
「なっ、あれは天界にいた時に頂いたゲフンゲフンッ!か、借りたやつやぞ⁉︎今更もう時効やろ⁉︎」
「私の知ったことではないわ。勿論、女神ともあろう者が約束を反故にするとは言わないわよね?」
微笑を保ちつつ眼差しだけが鋭さを帯びたフレイヤの表情にロキはたじろぐように声を詰まらせる。
「いや、でも。あれ⋯うちのオキニやし、今更返せって言われても⋯」
「そう。なら代わりに、リヴェルークを私にくれるなら良いわよ?」
「なっ──⁉︎」
その要求は想定外だった。
「それだけは絶対にアカン!」
「もし、今日のことを黙ってくれるなら。いえ今後の私の行動に目を瞑ってくれるなら⋯羽衣もあげるしリヴェルークも求めないわ」
「この性悪女っ!昔のことやら眷属やらを引きずり出しおってっ!」
「ゆすろうとする貴女も大概よ。それで、どうかしら?」
クスクスと面白そうに肩を揺らすフレイヤを見てロキはあからさまに不機嫌な顔で背に体重をかけた。豪華なソファーが彼女の身体を柔らかく受け止める。
「ったく、ホンマ腹立つなー。うちの可愛い子達はけったいなモンスターの相手させられて、損な役回り押し付けられたんやぞ。ちょっとは溜飲下げんとやってられんわ」
「⋯⋯?」
キョトン、と。美の女神に似合わない、どこか愛嬌のある表情を浮かべるフレイヤに対してロキは眉をひそめる。
「なんや、その顔は。しらばっくれるつもりか。おったやろ。二匹の蛇みたいな花みたいな、気色悪いモンスターが」
「⋯私が外に放ったのは九匹だけよ?」
「⋯嘘こけ、十一の間違いやろ」
「本当よ。貴女とガネーシャの子を足止めするだけが目的だったんだもの、イタズラに被害を広めるつもりは無かったわ」
両者怪訝そうな顔を浮かべる。この時になって彼女達は服のボタンを掛け間違えていたかのような話の内容の食い違いに気付く。
「⋯じゃあ、あのモンスターはなんやったんや」
「さぁ?私には、貴女の言うそれが何であるのかも分からないし」
言葉が途絶える。顔を見合わせたままロキとフレイヤの間に奇妙な沈黙が落ちた。
今回はここまでです。
なにやら不穏な感じが仄かに漂ってきましたね(棒)
次回も宜しくお願い致します!