リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ございませんでしたm(__)m

masa ハーメルン様、誤字訂正ありがとうございます!

話は変わりますが、本作の通算UAが15万を突破いたしました。今後とも応援宜しくお願い致します!


14話 至天の結論

「そういえば、生まれる子供の名前はもう決めているんですか?」

 

 三大冒険者依頼(クエスト)に数えられる怪物達の討伐に向かう船の上にて、幼き日のリヴェルークはゼウス・ファミリアのイアロス団長に問いかける。

 

「⋯ああ。女の子ならばスズだ」

「へぇー、良い名前ですね。もしも男の子だったら?」

「⋯そうだな。もしも男の子だったら──」

 

 ──あの日あの時あの場所で、イアロス団長が言った名前を俺は最近になって思い出すことが出来た。先日の、白髪の少年ベルの戦闘を見てヘスティア様の元に送り届けた日の夜に見た夢のおかげで。

 団長はあの時なんと言っていただろうか。確か、そう。もしも男の子ならば──。

 

 

 

 

「──リヴェルーク、ぼうっとしているな」

「ああ、分かっていますよ。この一戦は見逃せませんからね」

 

 遠い日の記憶を夢見た先日の出来事をボンヤリと思い浮かべていると、隣で直立しているオッタルから現実に引き戻される。俺としたことが気の抜けた姿を晒してしまったな。

 あの日、船上で子供の名前候補を尋ねたのはただの気まぐれだ。その後に状況が激動してしまったこともあり、団長との些細なやり取りはすっかり忘れていた。

 そんなやり取りを最近になって思い出した原因は分かっている。俺の視線の先でモンスターと一騎討ちを演じている少年のせいだ。

 

(それにしても、彼の武器に既視感を覚えるのは何故だろうか?)

 

 少年──ベルの武器にリヴェルークが既視感を覚えるのは当然。なにせリヴェルークの愛刀である切姫と()()()()を有しているのだから。

 その性質は使い手が《最強》に上り詰めれば武器も《最強》へと至る。それ即ち、勝手に至高へ辿り着いてしまう武器。このような武器は鍛治士にとって邪道もいいところである。

 更に付け加えるならば、リヴェルークの切姫とベルのナイフはどちらも女神ヘファイストスにより生み出されし物。

 性質も作り手も同じ。これで既視感を覚えない方が無理だろう。まぁ、そんなことはリヴェルークが知る由も無いのだが。

 

「⋯そろそろ決着がつくな」

「ええ、そのようですね」

 

 離れていても伝わるほどの覚悟。ソレをベルから感じ取った二人は一騎討ちの終焉が近いことを悟った。

 

 

 

 

「ボクが君を勝たせてやる。勝たせてみせる。今、君は自分のことを信じてやれないかもしれない。だから、君を信じているボクを信じてくれないかい?」

 

 自分の目を曇りのない瞳で真っ直ぐに見つめながら、神様はどこまでも愚直にそう言った。

 泣きそうになった。鼻の先がツンと痺れてくる。瞳の奥では涙が滲んでいたかもしれない。

 そんな神様の信頼に応えたくて、僕はグッと足に力を込めて大地を踏み抜き疾走する。

 

『ガァァァァアアアアアアアッ!』

 

 通路の奥、真正面にて一匹のモンスターが猛々しく吠える。

 シルバーバック。ステイタスが強化された今でもまともに戦っては打ち負ける怪物。

 勝機は程遠い。本当に自分があのモンスターを打倒出来るのかベルはまだ半信半疑だ。しかし、惨めで情けない自分は信じられなくても──ヘスティアの言葉なら何処までも信じられる。

 

『いーい、ベル君?これから言うことは参考程度に聞いておいて。命知らずな真似しちゃ絶対にダメだよ?』

 

 シルバーバックに接近したベルの脳裏に続いて浮かび上がったのは、エイナに教わったモンスターのいろは。

 モンスターがモンスターたる所以。モンスターであるが故に抱え持つ唯一無二の《核》。そこにたった一撃を加えることが出来るのなら理論上はどんなモンスターでも倒せるはず。

 モンスターの核──つまりは魔石。ベルが目指すべき場所は絶対の有効打になる相手の胸部ただ一点。

 ステイタスの強化により600オーバーという馬鹿げた上昇を遂げたベルのアビリティが生み出す速力は異常の一言に尽きる。

 ステイタスが強化される前までのベルの速力しか知らないシルバーバックだからこそ、全身全霊を賭けた全力の突撃に対処することが出来なかった。

 

「──ハァァアアアアアアアアッ!」

 

 自身を一本の槍に見立ててベルは敵の胸部目がけて突貫する。捨て身の突撃槍(ペネトレイション)。漆黒の刃がモンスターの胸部中央に突き刺さる。肉を穿つ感触に次いで硬質な何かを砕いた手応え。

 シルバーバックは限界まで両目を剥いて背中から地面に倒れ込む。

 

「──⁉︎」

 

 突貫の勢いを殺しきれなかったベルが空中に舞う。速度制御や受け身など意識の埒外にあり、最後まで眼前の敵を貫くことしか考えていなかった少年の体は実物大の人間砲弾と化して空中にて綺麗な放物線を描き──間を置かずに墜落した。

 

「ぐえっ⁉︎」

 

 地面を派手に転がること七回。ようやく止まり、仰向けの態勢になったベルはしばし悶絶した後にハッと目を見開き後方を振り返る。

 通路の真ん中で大の字に転がったシルバーバック。短刀が胸に突き立てられているモンスターは時を止めたままやがてボロリと体の一部を崩す。

 魔石を破砕された肉体は灰へと還り、風に乗ってその姿を跡形も無く消滅させた。

 

『─────ッ‼︎』

 

 歓喜の声が迸った。二人の戦いを見守っていたダイダロス通りの住民達による惜しみ無い歓声。迷宮街の一角は闘技場にも負けず劣らずの熱気に満ち溢れていた。

 それを見たベルの顔にも笑みが浮かぶ。『やりました』と通路の奥にいるヘスティアに笑いかけようとして──路上に倒れている小さな彼女を発見した。

 

「神様っ⁉︎」

 

 蒼白になったベルは《ヘスティア・ナイフ》を回収して彼女の元に駆け寄る。

 力無く横たわる彼女の目の下にある盛大な隈に最後まで気が付かないまま、大歓声に祝福されながらもベルは彼女を抱いて一目散に走り出した。

 

 

 

 

「⋯アレが、フレイヤ様が見初めた冒険者か」

「おや、不満ですか?」

「⋯いや」

 

 口では否定しているが、その表情は納得しきれていないのが丸わかりだ。

 それもそうだろう。先ほどの戦闘は技も何もあったものじゃ無い稚拙さ。確かにLv.1の冒険者としてはアレが妥当かもしれない。

 事実、自分達もあれくらいの頃があった筈だ。だが人は強い立場に立った時に、弱かった頃を忘れて昔の自分と同じ弱き者を平気で見下せる生き物である。

 皆が皆とは言わないがそういう性質が強いのも事実。隣にいるオッタルも僅かながらも()()なのだろう。しかし──。

 

(俺にはそうは思えないですね。寧ろ、彼の戦う姿に魅せられてしまいます)

 

 心がざわめく。血が滾ってくる。叶うのならば肩を並べて戦ってみたいとすら思えてくる。もしかして。もしかしてこれは──。

 

「恋、なのでは⋯」

「アホですか、アホですね、アホなんでしょう」

 

 三段論法の如く、流れるように俺を罵ったのは最愛の人(リュー)だった。

 

「分かっていますよ。リューが近づいて来るのを感じたので、少しからかってみようと思いまして」

「そんなことだろうと思いました。ルークはアホですから」

「アハハ、流石に酷過ぎやしませんか?」

 

 結構辛辣な言葉なのだが、昔から言われているのでもう慣れてしまった。別に俺はMでは無いので快感などは感じないが不快にもならない。

 寧ろこれぐらい言い合える仲だと実感出来て嬉しい。あ、嬉しいのは言い合える『関係』のことであって言われた『言葉』に関してでは無いから本当に誤解しないでね。

 

「それより、リューは俺に用事があったんですか?」

「はい。ルークに伝言を頼まれているので探してました」

「うわ、嫌な予感がしますね。⋯因みに誰から頼まれました?」

「団長からです」

 

 あ、これは俺が鎮圧作業をサボっていたのがバレているパターンじゃないですか。きっと団長の用事はお説教でしょう。

 確かにベルの戦闘を見学する為にサボってはいましたがそれは俺にとって結構重要な任務だったんですよね。俺は彼を見極める必要がありますから。そもそも団長は俺に対して少し厳しいんですよ。問題児なら他にもベートとかベートとかベートとか某アマゾネスが居るじゃないですか。そんなことだから──。

 

「ルーク、内心で愚痴ってないで早く行きますよ」

「分かってます。それじゃあオッタル、また今度」

「⋯ああ」

 

 俺を見るオッタルの目は俺に同情するかのような哀しそうなモノだった。──この日見たオッタルの憐れみの目を俺は一生忘れない。

 付け加えるならば、この後に見た団長の笑いながらキレている表情も忘れることは無いだろう。あと正座の地味なツラさも。

 

(しかし、それらを含めてもあの戦闘を見れた価値の方が上です。お陰で見極めも出来ました)

 

 たとえ同情の目で見られようが、怒られようが、正座させられようがこう言い切れるほどに価値があった。

 リヴェルークによるベルの見極めは終わった。今なら確信が持てる。ベルはきっと、あの英雄の子供であると。

 結論が出たならば残すは一つ。それは──。

 

(本人との接触のみ、ですね)

 

 今代の英雄と、英雄への切符を自らの手で掴みかけている少年の再度の邂逅がわりと近いことなど、当然ながらリヴェルークは知る由も無い。

 

「おい、リヴェルーク。姉のありがたい話の途中で考え事など、まさかしていないだろうな?」

「はい、勿論でございます」

 

 ──ああ。折角団長からついさっき解放されたばかりなのに、今度は姉上に捕まることになるなんて不幸過ぎるだろう。




今回はここで切ります。次回もなる早で更新致しますのでお待ち下さい!

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