私のゴールデンウィークの感想は『ゆっくり出来なさすぎていっそ笑える』ですね( ´Д`)y━・~~
そんなことよりも、今回はロキ編初のとある猪人の男性とリヴェルークの絡みです。
「あー、いかん。もう始まっとる!」
闘技場から響いてくる歓声を聞いたロキが慌てたように叫ぶ。
「この道で、大丈夫なんですか?」
「おう、ばっちしや!大通り経由するより断然近道やで!」
「お願いですから、迷わないで下さいよ?」
「うちに任せとき!」
つい時間を忘れて屋台巡りにのめり込み過ぎたのが失敗だった。肝心な
ロキの土地勘頼りに進む路地裏は細く狭く人気が全く無い。周囲を建物に囲まれ日が届かない裏道には、今は発光せず眠っている魔石灯が壁のあちこちに設けられていた。
視界の奥で徐々に頭を覗かせる闘技場施設を三人は目指して行く。
『────?』
その道中。アイズとリヴェルークは怪訝そうな顔をした。彼等の耳が一瞬捉えた獣の遠吠えらしき響き。闘技場で調教師と戦うモンスターの雄叫びが風に乗ってきたのか、と納得しようとするも何処か腑に落ちない感じがする。
そうこう違和感を覚えている内に三人は細い道を抜けて闘技場がそびえ立つ広場に辿り着いた。
「あかん、走り疲れたわぁ。⋯⋯うぅん?なんや、この空気」
ロキが息を切らす中、闘技場周辺の雰囲気は張り詰めていた。祭りの環境整備の為に配置されているギルド職員の動きは不安を掻き立てるほどに騒がしい。
今も歓声が絶えず打ち上がっている闘技場とは真逆の空気は動揺と混乱が手に取るように分かってしまうほど。何よりガネーシャ・ファミリアの団員達が武器を携えて広場から散って行く光景が決定的な証拠と言える。
「エイナ、何かあったのですか?」
「あ、リヴェルーク様!⋯と、それにアイズ・ヴァレンシュタイン氏まで。実はですね──」
慌ただしく動き回るギルド職員の中に
聞くに、祭りの為に捕獲されていた一部のモンスターが闘技場地下の檻から脱走して東部周域へ散らばって行ったらしい。檻を見張っていた全ての人間が魂を抜き取られたかのように放心して再起不能に陥らされたとのことだ。
「モンスターを鎮圧するのに人手が足りていません。どうかお力を⋯」
「勿論、協力しますよ。ロキ、そういうわけですが──」
「ん、聞いとった。もうデートどころやないみたいやし、ええよ。この際ガネーシャに借し作っとこうか」
その返答を聞いていた周囲の人間がにわかに沸き立つのを尻目に、エイナからモンスターの数や種類などを聞く。
何故モンスターの脱走を許したのか考えるのは後回しだ。都市の東部一帯を揺るがす事態にリヴェルークは儚く輝くレイピアの柄を掴んだ。
☆
面倒事とは大半が不意に舞い込むものだ。並大抵の者であればソレの前に右往左往し、並より上であれば多少面喰らうも即座に対応することくらいは可能だ。
では面倒事に直面したのがそれらの凡人を嘲笑うほどの才を有する者ならばどうか。答えは単純だ。何事も無かったかのように片付けてしまうか若しくは──。
「怪物祭用のモンスターが逃げ出すなど、一般市民にとっては悪夢のような出来事ですね」
「せやな〜。けど、うちのアイズたんにかかればこんなもんや!」
──ありふれた日常を飾るちょっとした
即座にその対応が出来るあたりは、流石都市を代表する第一級冒険者と言えるだろう。
「それより、何故俺から武器を取り上げてアイズに渡したんですか?」
「最近アイズたんが落ち込み気味やから、ここらで発散してもらおう思ってな!」
「成る程、それは一理ありますね」
そんなアイズを羨ましげに見上げているリヴェルークは何処か悲しげな表情を浮かべる。その様はまるでご飯を前に『待て』を命じられた犬のようだ。
しかし彼もいい年の大人だ。すぐに切り替えて自分の成すべきことを考える。
「アイズも移動を開始したようですし、俺も別方向に行きますね」
「そうやな、ルークたんなら素手でも大丈夫やろ。無理はしないようにな?」
「はい、分かっています」
そうロキの言葉に返答して、リヴェルークもモンスターの討伐の為に移動を開始するのであった。
☆
「うわー、本当に出番無さそー」
「餌を用意されておいて、そのままお預けを食らった気分ね」
「あ、それ分かるかも」
アイズやリヴェルークが行動を開始して少しした後、一人佇んでいたロキの元にティオナ・ティオネ・レフィーヤの三人が合流した。そこで詳しい説明を受けた三人も行動を起こそうとしたが『二人だけで片が付きそうだ』とロキに言われてしまう。
念の為に三人も家屋の屋根伝いに移動していたのだが討ち漏らすどころかアイズとリヴェルークは的確にモンスターを屠り、三人の援護を無用のものとしているのを見て思わず足を止めた。
「お、お二人共武器が無いのに良くそんなこと──って、どうかしたんですか?」
『⋯⋯?』
武器や防具を一切身につけていないにも関わらず気楽なことを言う二人にレフィーヤが苦笑いを浮かべようとしたのだが、当の本人達が眉を訝しげに曲げて周囲を見回しているのに疑問を呈する。
「地面、揺れてない?」
「⋯⋯本当ね」
「地震⋯じゃ無いですよね」
地震というには余りにもお粗末な揺れはティオナ達に不穏なものを覚えさせる。ダンジョンにて培われた感覚がどんな瑣末な出来事にも、如何なる前触れに対しても彼女達を敏感にさせた。
そして。自然に身構えていた彼女達の元に何かが爆発したような轟音が届く。引き寄せられるように視線をそちらに飛ばせば通りの一角から膨大な土煙が立ち込めていた。
『き──きゃああああああああああっ⁉︎』
次いで響き渡る女性の金切り声。揺らめきを作り煙の奥から露わになるのは石畳を押しのけて地中から出現した、蛇に酷似する長大なモンスターだった。
ソレを目視した瞬間にゾッと首筋に嫌な寒気が走った。冒険者として培った直感が警鐘を鳴らしている。
そんな感覚を覚えながらも市民を置いて敵前逃亡などオラリオの双璧の片翼を担うロキ・ファミリアの一員として出来る筈が無い。
即座にティオナとティオネがモンスターに向かって走り出し、その後を一足遅れてレフィーヤも付いて行く。
悲鳴を上げて市民が一斉に逃げ惑う最中ティオナ達は通りの真ん中へ向けて屋根から飛び──だんっ、と勢い良く着地を決めた。
「こんなモンスター、ガネーシャのとこの団員はどっから引っ張って来たのよ⋯」
「これ、新種かな⋯?」
煙が完全に晴れてモンスターの全容が明らかになる。細長い胴体に滑らかな皮膚組織。頭部──体の先端部分には眼を始めとした器官は何も備わっておらず、若干の膨らみを帯びた形状は向日葵の種を彷彿とさせた。全身の色は淡い黄緑色で三人に嫌な既視感を覚えさせる。
顔の無い蛇と形容するのが最も相応しいだろう。そんなモンスターに対してアマゾネスの姉妹は死角から挨拶代わりの拳と蹴りを叩き込むが──。
「──っ⁉︎」
「かったぁー⁉︎」
──第一級冒険者である彼女達の渾身の一撃が阻まれた。
素手とはいえ並のモンスターならば一撃で肉体を破砕される強撃であるにも関わらずだ。凄まじい硬度を誇る滑らかな体皮は僅かばかり陥没したのみである。
「これはヤッバいかなぁー」
「武器が有れば良かったわー!」
いつも通りの気軽さではあるが、しかしながら若干の焦燥を孕んだ呟きを零す。第一級冒険者の姉妹をもってしても焦りが生じるほどのモンスターであることは確定的であった。
☆
──そんな第一級冒険者達でさえ苦戦している『顔の無い蛇』が一体、全身をズタズタに切り裂かれた状態でズシンと倒れ伏した。その次の瞬間にはモンスターの身体が均衡を失い涼やかに砕け散って行く。
散り行く敵を路傍の石の如く眺めているのは金髪赤眼の美青年。彼は東のメインストリートにて突如現れた顔の無い蛇をモノの一瞬で葬ったばかりだ。その余りの早さと手並みに市民達は避難することを忘れて魅入っていた。
市民からすれば《
「信頼してくれるのはありがたいのですが⋯」
その光景を見たリヴェルークは、万が一の時の為に避難して欲しかったのだが逃げる素振りさえ見せない市民達を見て頰を掻きながらも苦笑いを浮かべる。
モンスターが散るのを見て口々に賞賛の声を上げる彼等に対してヒラヒラと手を振れば、それに呼応するかのように爆発的な歓声が響き渡る。
その余りの大きさに耳を塞ごうとしたのだが彼の耳に幼い少年の叫び声が聞こえてきた。市民達の歓声に応じるのを止めて目を閉じ耳を澄ませば、それに気付いた市民達も途端にシンと静かになる。
『────っ!』
「わりと近い場所、かな」
その叫び声が聞こえる大体の方向に当たりをつけて、そっちには近付かないようにと市民達に言い含めると屋根伝いに移動する。
しばらくすれば視界には
技術はまだまだ拙い。当然ながらリヴェルークから見れば子供同士の戯れに見えてしまう筈なのだが、しかしながら彼の目は驚愕で見開かれていた。
(明らかに以前よりも基礎能力が上がっていますね。それも
それが意味するのは一つ。かの少年は成長するにはあまりにも短い期間で驚くべき
「アレは、俺と同じスキル──」
「ほう、それは興味深い話だな」
周囲に誰もいないと油断しきっていた為にポロッと零してしまった俺の独り言を拾ったのは武人然とした
その声に。その存在感に。その強靭な肉体の全てに嫌というほどの見覚えがある巌のような男性だった。
「俺に何か用ですか、オッタル」
「
「──成る程、そういうことですか」
猪人──オッタルのその一言だけでリヴェルークは今回の騒動の全容をおおよそ掴んだ。
恐らく今回放たれたモンスターの大半は陽動でしか無く真の狙いは女神フレイヤが見初めた白髪の少年へ一騎打ちの試練を与えること。それを邪魔されない為にもオッタルが少年の周辺に待機し、援軍が駆けつけた際の邪魔をする手筈なのだろう。
女神に見初められた哀れなる白髪の少年ベルに対して『ドンマイ』と内心で呟き、ベルに向けていた視線を再びオッタルに戻す。
見た感じ彼の装備は本来のものでは無く適当な品を適当に引っ張り出してきただけというお粗末なものだ。それでもLv.8のオッタルが持てば脅威であることに変わりは無いが。
本当に時間稼ぎが出来れば充分という程度の粗末な装備を見て、俺は握っていた魔法で生み出した氷剣から手を離して屋根の上に胡座ですわりこむ。
「助けなくて良いのか?」
「俺にも、あの少年を見極めなければいけない理由があります」
「⋯そうか」
リヴェルークに戦意が無いことを瞬時に見切ったオッタルもリヴェルーク同様武器から手を離し、腕を組んで屋根の上に直立する。
かくてオラリオの双璧を担うファミリアの切り札二枚に見守られながらも少年の死闘は始まった。
(もし今は亡き
(フレイヤ様が見初めた資質を示してみせろ)
それぞれの思惑は違えど示して欲しいモノは一つ。ソレを確かめる為に彼等は騒ぎの沈静化を図ることなど捨て置き、静かに見守ることを選択したのだった。
オッタルの口調に何処と無く違和感を感じてしまう(;´д`)
リヴェルークは魔法により生み出した剣で戦闘している設定です。ロキ護衛時にレイピアを下げていたのは目に見える形にすることによる威嚇の意味もあります。
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