リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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ようやくダンジョンから帰還。今回はリヴェルークのステイタスを久し振りに公開です。


8話 ロキの愛情

 迷宮都市オラリオ。広大な面積を誇る円形状の都市は堅牢な市壁に取り囲まれている。

 外界と隔てる市壁の内側は大小様々な建物が立ち並び、都市中央には天を衝く白亜の巨塔がそびえていた。地中に開く大穴──ダンジョンの入り口を塞ぐ蓋として建設された摩天楼施設《バベル》。このバベル、つまりダンジョンを中心にしてオラリオは今もなお栄え続けている。

 

「やっと帰って来たぁ」

 

 都市北部。北の目抜き通りから外れた街路沿いには周囲一帯の建物と比べ群を抜いて高く長大な館が建っていた。高層の塔がいくつも重なってできている邸宅は槍衾のようでもあり赤銅色の外観もあって燃え上がる炎にも見える。

 塔の中でも最も高い中央塔には道化師(トリックスター)の旗が立ち、今は茜色に染め上げられているロキ・ファミリアのホーム──黄昏の館。

 

「今帰った、門を開けてくれ」

 

 フィンの言葉を受けて男女二人の門番が帰還した一団に対し敬礼した後に門を開く。フィンを先頭に、皆は雑談しながらぞろぞろと敷地内に足を踏み入れた。

 

「──おっかえりぃいいいいっ!皆ぁ、無事やったかー⁉︎」

 

 と、いきなり。一団の入門を見計らっていたかのように館の方から走り寄ってくる影があった。

 朱色の髪を揺らしながらも駆けてくる姿はまるで恋人の帰りを待っていた少女のよう。しかしその顔に浮かぶ下卑た笑顔が雰囲気を台無しにしている。

 

「ロキ、今回の遠征での犠牲者は無しだ。到達階層も増やせなかったけどね。詳細は追って報告させてもらうよ」

「んんぅー、了解や。おかえりぃ、フィン」

「あぁ。ただいま、ロキ」

 

 駆けてくるなり一団の女性陣にダイブをかました恋する少女──いや変態神はリヴェルークに顔面を掴まれる形で空中に浮かびながらも返事をする。

 そのザマからは全く感じさせないが、彼女は紛れも無く人類やモンスターとは次元の異なる超越存在(デウスデア)にしてフィン達と契りを交わしたファミリアの主神たるロキだ。

 

「あー、疲れたー。お肉沢山頬張りたーい」

「私は早くシャワーを浴びたいわね」

「あはは⋯。ロキ様ただいまです」

 

 そんなザマのロキは最早見慣れたモノなのでアマゾネス姉妹は完全スルーで館の中に入って行く。姉妹の対応を見たレフィーヤは苦笑いを浮かべ一応挨拶をしつつもその後に続いた。

 

「ロキ、神としての威厳を無くすような振る舞いは控えてくれ⋯」

「グフフ。すまんなぁフィン、こればっかりはやめられへんわ。──ちゅうかリヴェルーク、自分邪魔せんといてぇなぁ〜」

「どうせ避けられて失敗するのですから、やるだけ無駄でしょう」

「そんなん自分が訓練称して鍛えたせいやで〜。折角のうちの乳繰り合い(楽しみ)が台無しやわ」

 

 ロキがリヴェルークに文句を言うのにも理由がある。

 以前はレフィーヤがロキの魔の手に合い、よく押し倒されて体を触られていたがリヴェルークの厳しい訓練によりロキのダイブ程度なら避けられるくらいには動けるようになったのだ。

 ロキには女神でありながらも女好きという厄介な嗜好があった。彼女の勧誘によって形成されたロキ・ファミリアに美女美少女が多いのはその趣味が大いに反映されている。

 

「それやのに⋯。ほんま勘弁して欲しいわ〜、うちの計画が台無しや」

「そのような計画は頓挫して正解です。ルーク、私はこれからギルドに依頼の件の報告に行ってきます」

「あ、なら俺も暇なので付き添いますよ。フィン、良いですよね?」

「うん、勿論だよ。ロキに対してのダンジョンでの詳細の説明は、僕の方からしておこう」

 

 さっすが団長様だ。二人でゆっくり寛いで話したいっていう思いを汲んでくれたのかな。まぁ、そういうことにしておこう。

 

「そういう訳で、早速行きましょうか」

「ええ、そうですね」

 

 そんなわけで俺達は道中でジャガ丸くんを購入しつつもギルドへと向かった。

 

 

 

 

「はぁぁあああああああああっ⁉︎」

「エ、エイナさぁぁあん⁉︎こ、声が大きいですよ!」

「あ、ゴメンね。──じゃなくて、新人が一人で5階層なんて何考えてるのよ!いつも口を酸っぱくして冒険者は冒険しちゃいけないって言ってたのに!」

「す、すいません⋯」

 

 言い訳のしようがない為に僕はエイナさんの言葉を聞いてうな垂れた。

 運命の出会いに憧れて冒険者になったはいいものの調子に乗って死にかけるなんて笑い話にもならない。──あぁ。これでは一攫千金ならぬ()()()()()なんて夢のまた夢だ。

 ギルド本部のロビーに設けられた小さな一室にて絶賛落ち込み中の僕を見て、対面に座るエイナさんはこれみよがしにため息をついた。

 

「全く、リヴェルーク様達のお陰で何事も無かったから良かったけど!」

「⋯それって、僕を助けてくれた人達ですよね?どんな方々なんですか?」

 

 エイナさんからのありがたいお言葉を頂戴してひと段落がついたので漸く僕の知りたかったことを話してくれるみたいだ。

 僕を助けてくれたあの美男美女の容姿を思い浮かべながらもエイナさんの言葉を一言一句聞き漏らさないように耳を傾ける。

 

「教えられるのは公然となってることくらいだよ?⋯まず、アイズ・ヴァレンシュタイン氏について」

 

 ──《剣姫》アイズ・ヴァレンシュタイン。ロキ・ファミリアの中核を担うLv.5の女剣士。剣の腕前は冒険者の中でも間違い無くトップクラスであり、たった一人でLv.5のモンスターの大群を殲滅したことから冒険者間でつけられたもう一つのあだ名は《戦姫》。その美しい容姿に魅了された異性は軒並み玉砕しており、ついこの前に千人斬りを達成したらしい。

 

「次はリヴェルーク・リヨス・アールヴ様について」

 

 ──《至天(クラウン)》リヴェルーク・リヨス・アールヴ。Lv.9というまごうこと無き世界の頂点に座する冒険者。剣と魔法の両方で最高の練度を誇る才能の怪物であり今代の英雄達の筆頭。冒険者間では多くのあだ名が存在しており有名所は《剣聖》、《魔導王》など。因みに彼の前で恋人の悪口は駄目、これ絶対。

 

「恋人っていうと、あの、ヴァレンシュタインさんのことですか?」

「え?違う違う、リヴェルーク様の恋人は同じエルフの女性だよ」

 

 エルフ?もしかしてミノタウロスから助けてもらった時に何かを手渡そうとしてくれた人かな?

 ──あ。そう言えば僕の行動って向こうからしたらその人の言葉を無視しちゃった形になるんじゃ⋯。アレ?もしかして僕の冒険、始まる前に終わっちゃう感じなのかな?

 

「どうしたの?ベル君、顔が真っ青だよ?」

「じ、実はですね──」

 

 僕はつっかえながらも助けられた後の出来事を事細かに説明する。最初は真剣な顔で聞いていたエイナさんは、しかし徐々にその表情を柔らかくさせていった。

 

「わ、笑ってる場合じゃないですよー!もしこれでロキ・ファミリアの人から目をつけられたら⋯」

「そんなに焦らなくても大丈夫だと思うよ?リヴェルーク様達もそんなに狭量じゃ無いから」

「ほ、本当ですか?」

「本当だってば!もー、そんなに気になるなら直接聞いてみる?」

「む、むむむ、無理ですって!大体、他ファミリアですから話す機会も無いといいますか⋯」

 

 そんなこと無理に決まってる。エイナさんの説明にもあったけど、そんなに凄い人達が僕なんかの為にわざわざ時間を作ってくれるはずも無いし。

 それなのにエイナさんはとても楽しそうに僕に提案してくる。

 

「じゃあ、話しかけてみればいいじゃん!」

「いやいや、そんな度胸も無いですし、第一出会う確率も低いといいますか⋯」

「う〜ん、今なら百パーセント話せると思うよ?」

 

 ホラ、と言いながらエイナさんは僕の左側を指差す。まさかと思いながらもそちらを見れば美男美女のエルフが窓口にて受付嬢とやり取りをしていた。

 ダンジョンではテンパり過ぎてチラッとしか見ていなかったがこうして改めて明るい場所で見るとその容姿と相まって、まるでその二人だけが輝いているように感じてしまった。

 

「アレがリヴェルーク様とその恋人のリューさんだね。ん〜、いつ見てもあの二人が並ぶと絵になるな〜」

「そう、ですね⋯。いつか僕も──」

 

 ──ヴァレンシュタインさんとあんな風になれたらなぁ。なんてことを考えていたのだが顔に出ていたらしくエイナさんには散々からかわれてしまった。

 ⋯なんだかんだで結局、僕は尻込みしてしまって二人に話しかける事は出来なかった。

 

 

 

 

 ギルドに依頼の件について報告を終えた俺達はロキ・ファミリアのホームに帰還した。ギルドで久しぶりにエイナと話そうと思ったのだが、どうやら別の新人冒険者の相談に乗っているらしく今回は断念することとなった。

 

「今日中にステイタス更新したい子おったら、うちの部屋まで来てなー。明日とかまとめていっぺんにやるのも疲れるし。そうやなー、今晩は先着十名で!」

 

 現在は皆で夕餉を取っている。ロキの方針で飯は居る人全員で取ることになっている為に食堂は大変混雑しており賑やかだ。

 そんな時に晩酌をしていたロキが思い出したように立ち上がり、気まぐれな神らしい無計画でいい加減な連絡をする。まぁそんな連絡にも慣れたもので今更文句が上がることも無いのだが。

 

「ロキ、俺のステイタス更新も頼みます」

「了解や、入ってええよー」

 

 俺は食堂にて団員達と軽い雑談をした後にロキの部屋へと足を運ぶ。別に急ぐ必要も無いのだが明日に後回しにする理由も無い為に今日更新することにした。

 

「ほな、いつも通り服脱いで丸椅子に座ってな」

 

 俺はロキに背を向けて言われた通りにする。長めの金髪をまとめて肩から前の方に流せば、一切の傷の無い美しい背中がロキの眼前に晒される。

 

「フヒヒッ。ほんま、なんでリヴェルークは男なんやろなー。女だったら良かったのになぁ」

「そんなこと、俺に言われても困りますよ」

 

 自分の背中に刺さる不穏な視線をしっかりと感じ取りながらもため息を漏らすだけにとどめる。

 恐らく俺よりも前に来たアイズ辺りにセクハラ紛いのことをしようとして失敗したのだろう。見られるだけなら減るもんじゃ無いし、俺なんかの背中で良ければ満足するまでどうぞ御自由にって感じだ。

 

「もう充分や!ほな、始めるで〜」

 

 ようやく満足したらしい。ロキは元気な声でそう言うと慣れた手つきでステイタスに掛けてある(ロック)を外して更新作業に入る。

 この更新作業はほぼ神一人による手作業となる為、多くの団員を抱えるファミリアは日割りや更新対象の優先順位などを取り決めてなんとか数を捌いている。

 普段はおちゃらけているような神だがこういった作業の挙動からも自身の眷属に対する愛情を伺うことが出来るほどに優しく暖かい。

 

「ほい、お終いや」

「ありがとうございます」

 

 背中に刻まれたステイタスは鏡を用いても読みにくく、また神聖文字(ヒエログリフ)は殆どの子供達によって難解である為に下界で一般的に使用されている共通語(コイネー)に神が訳すのだ。

 そんな作業が全て終了し、ロキから一枚の羊皮紙が手渡される。俺は羊皮紙を受け取って視線を走らせた。

 

リヴェルーク・リヨス・アールヴ

 

 Lv.9

 

 力:A 873→A 885

 耐久:A 819→A 831

 器用:S 976→S 983

 敏捷:S 913→S 928

 魔力:S 984→S 999

 狩人:E

 剣士:S

 魔導:S

 業師:A

 孤立:B

 精癒:D

 耐異常:G

 

魔法

【アヴァロン】

 ・攻撃魔法

 ・脳内イメージの具現化

 ・使用精神力(マインド)の量により威力増幅

 《我は望む、万難の排除を。我は望む、万敵の殲滅を。今宵、破壊と殺戮の宴は開かれる。立ち塞がる愚者に威光(ぜつぼう)を示せ──我が名はアールヴ。》

【エデン】

 ・回復魔法

 ・対象の傷の回復や部位欠損の再生

 ・損傷具合により、使用精神力(マインド)の量が変動

 《万民を救う神業を体現し、傷の悉くを癒そう。全ての者に理想郷(きぼう)を示そう──我が名はアールヴ。》

【ガーデン・オブ・アヴァロン】

 ・強化魔法

 ・同じファミリアの冒険者のステイタスを大幅に向上

 ・自身のステイタスを大幅に減少

 《祝福の光はここに降り注ぐ。己が力を対価とし、幾千の同胞に神域を侵させよう。全ての者よ、心して我が宣告を受けるが良い──我が名はアールヴ。》

 

スキル

【剣聖】

 ・弱点察知

 ・近接攻撃の先読み

 ・剣技の模倣と最適化

【魔聖】

 ・魔法効果の増幅

 ・魔力回復速度の上昇

 ・魔法攻撃の最大射程拡大

限界破壊(リミット・ブレイク)

 ・早熟する

 ・限界を超える

 ・《限壊》使用可能。使用時、全ステイタス超高補正

 ・力への渇望が続く限り効果継続

 ・渇望の強さにより効果向上

 

「相変わらず、飛び抜けて高いアビリティと化け物じみたスキルやなぁ」

 

 ロキが驚くのも無理はない。通常ならばアビリティはレベルや元の熟練度が高くなればなるほど上がりにくくなっている。

 にも関わらず俺のアビリティはスキルによって成長にブーストがかけられている為これ程の成長を遂げた。しかし──。

 

「やはり成長の幅は以前よりも更に縮小してしまいましたね」

 

 例えば自分がLv.8の時ならば今よりレベルが低かったことを加味しても尋常では無い成長速度だった。──それが落ちたのはいつからだろうか。

 ロキ・ファミリアに入団して、かつて失った仲間の優しさや暖かさに触れたり、人を愛することを学んだりしたせいだろう。

 この十数年の間でかつて誓った仲間の仇をうつという意思や復讐の炎も小さくなった。自身の強さよりも同じファミリアの後輩達の成長の手助けを優先するようになった。

 

「かつての誓いを忘れつつある俺は、人として終わっているのでは⋯」

 

 成長速度の減少が、そんな俺の疑問に拍車をかける。俺のスキルは力を渇望すればするほどブーストの掛かるものだ。成長速度の幅を見ればかつてと比べて渇望が薄れてきていることは明白である。

 

「自分は気にし過ぎなんやないか?」

「そう⋯ですかね?」

「せやな〜、ゼウス・ファミリアの人間は皆リヴェルークのこと大切に思ってたみたいやし。それにうちやったらやっぱり、大事な子には復讐に囚われるより楽しく生きて欲しいって思うわ」

 

 ──はぁ。ホント、ロキのこういった時に発揮する勘の良さと言葉のチョイスには脱帽するな。普段の軽薄な態度とは打って変わり、真面目な態度で真剣にそんなことを宣うロキの言葉には重みや説得力がある。

 

「⋯まぁ、そうですね。復讐の道に走ったら天から見守っているであろう彼等に顔向け出来ません」

「そやで〜。それにな、あのいけ好かないクソ神(ゼウス)だって同じよーなこと言うと思うわ」

「このタイミングでゼウス様の名前は反則でしょう」

 

 俺を息子同然に可愛がってくれた主神の名前を出されると弱い。あの不真面目だけど優しい主神がもういないのは理解している。だが、もしいたらきっと同じことを言うだろうなとは思う。ロキとゼウス様は無乳がどうだのこうだのと言い争いをしていたが、考えていることはわりと似ているのだ。──本人達に言うと面倒事になるから言わなかったが。

 

「ありがとうございます、ロキ。お陰で幾分楽になりました」

「気にせぇへんでええよ。こんなんでも自分達の主神やからな、悩みあったらまた聞くで〜」

 

 真剣な話をしたのが恥ずかしいのか、ロキは照れ隠しのように先ほどとは一転してまた軽薄な態度を取る。そのサマが神とは思えずとても親しみやすくて俺はついつい笑みをこぼしてしまった。

 

「何笑っとんねん、うちの顔になんか付いてるか〜?」

「なんでも無いですよ」

 

 ロキのそんな様子を見て俺は一人思った。──やっぱりこのファミリアに入って良かったと。




神からしたらリヴェルークもまだまだ子供って感じですね。
次回は酒場のシーンを予定しております。物語の進行が遅くて申し訳ありませんorz

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