リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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戦闘シーンはやはり文字にするのが難しいというのを改めて感じた今日この頃です。
文才無しなりに頑張って書きました。


6話 恐ろしいのは団長と姉でした

 キャンプに残って防衛に務めていたリヴェルーク達とカドモスの泉に向かっていたフィン達は合流した後に負傷者を治療する為に少しばかり休憩を取っていた。

 

「フィン、ルークが言っていたことに気付いているか?」

「勿論。嫌な予感が消えない、彼の言った通り恐らくまだ何かある」

「むう。かと言ってここまで来て撤退するというのものう」

 

 新種のモンスター達は主にリヴェルークの魔法によって撃退したが、それでも何故か嫌な予感がしたフィン。

 彼はキャンプ地の東西南北それぞれに第二級冒険者を見張りとして配置した後にガレスやリヴェリアと今後の方針について話し合っていた。

 

「いや、今はダンジョンの異常をいち早くギルドに報告することが先決だ」

「はぁ、ベート達が文句を言う光景が目に浮かぶな」

「仕方あるまいて。他ならぬフィンの決定なのだからのう、嫌でも従ってもらわねばな」

 

 リヴェリアの言葉を聞いたフィンは困ったように苦笑いを浮かべる。

 彼もベート達がきっと口々に文句を言うだろうと思ってはいるが、ガレスと同意見で従ってもらうしかないのだ。

 ──じゃあ、と切り出して方針を決定しようとした丁度その時に三人は新しい危機の到来を知ることになる。

 

「団長っ!リヴェルークさん達が──!」

 

 幕屋の中に駆け込んで来たとある団員の叫び声は彼ら三人に事態の急変を報せるには充分なものだった。

 

 

 

 

「キャンプに残ってやがったアイツらは無事なんだろうな?」

「ええ、俺がしっかり治療しましたからね。もしかして心配していたのですか?」

「えーっ⁉︎ベートが他の団員の心配なんてめっずらしー!」

「うるせぇっ、荷物持ちが無事じゃねぇと深層から帰れねぇだろ!ただそれだけだ、勘違いしてんじゃねぇ!」

 

 ベートの言葉を聞いて恒例のようにリヴェルークとティオナがそれをイジり始める中、その周囲には弛緩した空気が流れ出している。

 言い合いをしている三人の側にはへたり込むラウルに叱咤激励の言葉をかけるティオネ。体育座りで寛ぎ会話をしているアイズとレフィーヤ。見張り以外の団員も各々が好きなことをして時間を過ごしている。

 ベートイジりに飽きたリヴェルークの視界に映るのは第三級であるが故に自分達の荷物持ちを務めているファミリアのメンバーが談笑している様子。

 

「それにしても、さっきのモンスター達はヤバかったよな」

「そうね。正直な話、リヴェルークさん抜きじゃ怪我人がもっと増えていたでしょう」

 

 ダンジョン内は確かに危険ではあるのだが、ロキ・ファミリアには第一級に分類される強者達が極めて稀な程に所属している。

 それに加えて新種のモンスターを討伐したばかりでもあるが故に少しばかり気が抜けてしまうのも仕方が無い。

 だからこそ表面上はリラックスしているように見えて彼らの分も負担し周囲をより一層警戒していたリヴェルークや他の第一級冒険者は見張りの人間が報告に来るよりも早くに異変を察知することが出来た。

 

「──っ⁉︎全員、即時戦闘準備に移れっ!」

「リヴェルーク様、西の方角より多数の敵影が迫って来ています!」

「貴方は団長のいる幕屋に行ってこのことを伝えて下さい。ベート達は団長が来るまで──」

「ウルセェ、テメーが命令してんじゃねぇぞ!」

「あー、もう。本当に短気過ぎるでしょう。分かりました、好きなように動いて蹂躙しなさい!」

 

 ⋯はぁ、全く。ウチの団員はクセの強い奴らが多いとは前から思っていたけどベートはその中でもトップクラスだ。しかも恐らく、さっきのイジりのせいで普段よりも意固地になってる。いつもはもう少し素直で良い子なのに⋯。

 でも俺が声をかける前に敵襲に気付いた点は流石だ。

 

「ねぇリヴェルーク、私も好きに動いていいでしょ〜?」

「──いいですよ、第一級冒険者は皆好きにして下さい。それ以外は俺の指揮に従ってもらいます」

 

 もうヤダ。この子達何言っても絶対に聞いてくれないよ。だってティオナだけじゃなくてティオネやアイズまでアイコンタクトで『私にも行かせて』って訴えかけてるんだもん。

 

「リヴェルークは戦わないの〜?一緒にモンスター狩りしようよ!」

「俺の分はティオナにあげますよ」

 

 ホント、ロキ・ファミリアの第一級は皆戦闘狂の気があるから困る。これは将来、このファミリアの頭脳になる予定のラウルが困り果てる様子が目に浮かぶよ。

 

 

 

 

 あの後直ぐに駆けつけたフィン達も合流し、フィンの指揮による見事な連携で瞬く間に敵を撃破してのけた。

 新種とはいえ一度相対して情報を得ている以上彼等に敗北は文字通りあり得ない。

 

「まぁ、妥当な結果でしょうね」

「ネタの割れている手品ほどつまらないものはありませんから」

 

 普通なら苦戦、下手をしたら命を落としかねない敵を『つまらない』と言えるほどに。

 ──ここで突然ではあるがロキ・ファミリアについての簡単な紹介をするとしよう。

 ロキ・ファミリアはオラリオ二大派閥の片翼を担う程の強大なファミリアだ。所属している冒険者のランクの高さは勿論のこと、それに比例してくぐり抜けた修羅場の数も並とは一線を画する。

 いきなり何言ってんだ?と思っただろうが落ち着いて欲しい。何故ならこれから起こった更なる波乱は()()()彼等だからこそ察知することが出来たのだから。

 

「───!」

 

 一通り暴れていた彼等は、野営地にて指揮をとるフィン達の様子を確かめるべく一枚岩の方角に振り返ろうとした──丁度その時に音が届いた。

 木をいっぺんにへし折る、東方より響いてきた破砕音が。

 皆が同じくその方角に振り向き、各々の武器を握り直して臨戦態勢を再度整える。

 一枚岩の下に下りて好き好きに敵を屠っていたベート達には視認出来ていないが岩の上にいる団員達は恐らく既に音の正体を視認しているだろう。

 そう思ったベート達は自らも正体を確かめるべく岩を登ろうとして微かな焦燥感を抱いた。

 フィン達のいる岩の上から()()の物音が聞こえないのだ。これではまるで──。

 

「⋯どうなってやがる」

 

 ──まるで団長達が正体不明の()()()に圧倒されているようではないか。

 不謹慎にも心の内でそう思ってしまった彼等は上に向かうことを断念し全神経を注ぎ音の鳴る方角へ注意を払う。その間もフィン達の声を失ったかのような静寂が身構えるベート達の不安や緊張をかき立てる。

 一体、どれほどの時間待ったか。

 油断無く音源の方角を見つめていた彼等の視界にもついに()()は現れた。

 

「アレも下の階層から来たっていうの?」

「迷路を壊しながら進めば⋯⋯なんとか?」

「馬鹿言わないでよ⋯」

 

 半ば呆けた様なアマゾネスの姉妹の会話のみが静まり返った場に通る。

 現れたソレはおよそ六M(メドル)ほどだろうか。先程まで戦っていたモンスターの大型個体よりも更に一回り大きい。

 黄緑の体躯に扁平状の腕を持ち、芋虫型のモンスターの形状を引き継ぐ姿ではあるが全容の作りは大きく異なっている。

 芋虫を彷彿させる下半身は変わらず。ただ小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き人の上体を模していた。──海鷂魚(エイ)。あるいは扇にも似た厚みの無い腕は二対四枚。後頭部からは何本も垂れ下がる管のような器官。

 あまりにも醜悪で見るに耐えないその全容もさることながら。その他にも問題点はある。

 

「あんな、デカイの倒しちゃったら⋯」

 

 愕然とした表情でポツリと呟いたティオナの言葉が問題点だ。仮にアレを芋虫型と同類と考えれば、あれほどの巨体を倒した場合途轍もない量の腐食液が周囲に飛び散ることになる。

 更には芋虫型のモンスターの大半が力つきる瞬間に自らその体躯を破裂させていた。あの巨大なモンスターも同じならば芋虫型とは比べ物にならないほどの量を死に際に撒き散らすことになる。

 もしそうなったなら辺り一帯にいる者が巻き添えとなり撃破しても多大なる犠牲を出すだけだ。

 当然ながらそんなことはファミリアの長にして頭脳であるフィンでなくとも理解出来る。

 

「かと言ってアレを放置しておくわけにもいかない、か」

「⋯フィン。貴方とは、ファミリアの戦力を底上げする為に俺は余り戦闘に参加しないと約束しましたが、コレばかりは他の者には荷が重いでしょう」

「そうだね、折角の戦力を出し惜しみする理由は無い。それにアレは、どうやらそれほどの敵のようだ」

 

 リヴェルークの言葉や表情から自身の想定より敵の脅威度が高い可能性を悟ったフィンは彼一人にアレを一任することを決める。

 何故リヴェルークが約束を反故にしてまで主張したかと言えば彼が元ゼウス・ファミリアだからだ。ゼウス・ファミリアの到達階層はロキ・ファミリアよりも更に深層である。そんな彼でもこのモンスターは見たことが無い。

 ──つまり。ゼウス・ファミリアでさえ未到達の階層より上ってきた敵である可能性があるのだ。

 故にリヴェルークが単独での討伐を願い出てフィンはそれを許可した。

 

「総員、撤退だ」

 

 フィンが淡々と告げる。その言葉を聞いて多くの目が見つめる中、彼は油断無くモンスターを見据えながら指示を出す。

 

「速やかにキャンプを破棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する。ベート達にもそう伝えろ」

 

 ベート達から絶対文句言われますよ、と心で思っていたのだがやはりと言うべきかその通りになった。

 フィンからの伝言を聞いたベート達は一枚岩の上に登ってくるなり口々に不満をぶつける。しかし個人の感情を慮る暇など無い。フィンによる『団長命令だ。』という言葉で皆が口を閉ざした。

 不満げな表情を見せながらも撤退し始める彼等を尻目に俺は未だに動きを見せないある意味()()()とも言える二人に語りかける。

 

「そういうわけですから、貴方達二人も早く行きなさい」

「⋯私は、足手まといにはならない」

「私にも、ルークの無事を見守るという責務があります」

 

 その二人とはアイズとリューだ。アイズの主張は同じ冒険者として分からなくもないのだがリューのはもはや暴論だ。もうね、流石は巷で話題の戦闘狂のヤベー奴とリヴェルーク好きのヤベー奴って感じだ。こうなった二人は説得するのに時間がかかるので諦める。説得に時間を使っている暇が無い。

 

「はぁ、分かりました。後で一緒に団長からのありがたいお説教を受けましょう。」

「⋯うん。」

「そうですね、仕方ありませんか。」

 

 ついでに言うとベート達、というより主にベートから滅茶苦茶文句言われそうな気がする。それも俺だけが!──はぁ。何故に戦闘が始まってすらいないのにこんなに疲れなくちゃいけないんだよ。

 

「それでは、アイズとリューには雑魚の露払いをしてもらいましょうか」

「⋯露払い?」

「あの巨大なモンスターに目がいき過ぎましたね。その背後を見てみなさい」

 

 そう。何も敵は巨体を誇る醜悪なモンスターのみでは無い。ソレの背後にはまるで将に率いられる兵士のように芋虫型のモンスターが続いている。

 

「リュー、わかっているとは思いますが」

「ええ、アイズが無理をし過ぎないか注意しておきます」

「⋯無理なんて、しないよ」

「貴方のその言葉には、説得力の欠片も無いですよ」

 

 お互いに軽口を叩きながらも視線は一瞬たりともモンスターから切らさずに歩を進める。

 成る程。コレは見れば見るほど気分が悪くなるし何より存在感がある。だがしかし──。

 

「コレに勝てないようでは、海の覇王(リヴァイアサン)討伐者の名が泣いてしまいますからね」

 

 ──かつて殺し合った怪物達に比べれば可愛いものだ。

 そう内心で感じながらもリヴェルークはニコニコと無邪気な笑顔を浮かべつつ歩いて距離を詰める。

 そんな挑発としか取れない様子を見たからなのか。女体型のモンスターは雄叫びを上げながらも腕を振り下ろす。その威力はリヴェルークが居た場所を中心に大きな亀裂が走るほど。

 押し潰したことを確信した女体型は身を震わせて声にならない音を発そうとして──違和感を感じ取った。

 

「貴方が探しているのは、この無様に切り落とされた右腕ですか?」

『────────────ァァァアアッ⁉︎』

 

 持ち上げようとした右腕の感覚がいつの間にか消えていたのだ。

 それを認識し、遅れてきたのは激しい痛み。女体型は初めての感覚にただただのたうち回るしかない。

 

「折角の遠征を邪魔した奴がこの程度では割りに合いません、もっと必死に足掻いて下さいよ」

『──────ッ!』

 

 女体型が震え、無貌に見えた顔面部に横一線の亀裂を生み出しながら口腔を開放する。

 そこより鉄砲水のような勢いで撃ち出されるのは例の腐食液。だがその量や速度は先程の戦闘時とは比べものにもならない。

 誰が見ても絶体絶命。それ故にリヴェルークの取った対処法はきっと女体型の予想とはかけ離れたものだったのだろう。

 

「おやおや、戦闘時にそんな間抜け面を晒すのはいけませんよ」

 

 身に纏わせた雷を周囲に放出することで液を消し飛ばすなんて力技は考えもつかなかったのだ。

 不意を突かれた女体型はリヴェルークの接近を容易く許してしまう。

 

「これで終いです」

 

 優しい声音とは裏腹に振るわれたのはアイズの《リル・ラファーガ》をパクった結果生まれた必殺技。自身の剣に灼熱の焔を溜め、それを相手に向かって放出する。

 放たれた焔は敵の身を焼きながらダンジョンの天井部スレスレまで伸びる火柱となった。

 

「あ、ミスった。魔石諸共焼き尽くしちゃいました」

「相変わらずルークは緩過ぎて中々締まりませんね。こちらも芋虫退治が終わった所です」

「⋯少し物足りない、かな」

「二人共お疲れ様です。ですが、まだ終わりではありませんよ?」

 

 俺の言葉を聞いて二人は不思議そうな表情を浮かべるが女体型より恐ろしいモノが待ち受けていることをどうやら忘れているようだ。

 

「ほら、アレを見て下さい」

 

 俺が指をさした方向を見た二人の目からハイライトが消えた。アイズとリューにも漸く分かったらしい。

 

「説教は短めでお願いします、フィン様に姉上様」

「さて、それは約束しかねるとだけ言っておこうかな」

「お前達、覚悟することだな」

 

 指をさした方には笑顔を見せつつも静かにキレているフィンとリヴェリア、呆れ気味のガレスの姿があったとさ。

 それを見た俺達は内心で『終わった』と思いながらも諦めて彼らの元に戻るのであった。──ちなみにこの後、三人揃って正座状態で滅茶苦茶怒られました。




今回もこの作品をお読み下さりありがとうございます。これからも頑張っていきますので宜しくお願いします!

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