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「いっくよーッ!」
大声をあげて自分を鼓舞しつつも目を疑うほどに巨大な大双刃を構えティオナが走り出す。特注品の獲物を両手で軽々とぶん回しながら疾走して瞠目するモンスター目がけ思いっきり振り抜いて切断。
「よ〜し、これで五匹目!」
力任せの一撃でモンスターを死骸へと変えると目もくれずに次なる獲物へ飛びかかった。
「あのバカティオナ、一人で前に出過ぎだわ!──はぁ。アイズ、貴女まで揃って出過ぎない程度に
自重という言葉など知らんと言わんばかりに完全に出過ぎているティオナの補助をアイズに頼むのは姉のティオネだ。
まぁ、口では文句を言いつつも殲滅の為に動かしている身体は全く止まらない。そのせいで呆れ口調で喋っているのに周りでは怪物が断末魔を発しながら生き絶えるという何とも言えない状況が生じている。
「分かった」
ティオネの呼びかけに返答しつつも金髪を翻しながら繰り出す斬撃をもって自身に群がろうとするモンスター達を切り払う。
──現在位置は51階層。
頭上にて灯る燐光によって照らし出されるのは幅広の直線通路にてアイズ達と対峙している黒光りした皮膚組織を持つモンスターの一群。《ブラックライノス》という名称の前傾二足歩行を取る犀型のモンスター。
「とりゃー、えいさーっ!」
「────ッ!」
彼等は鎧と言っても差し支え無いほどに硬く厚い皮膚を誇っているが縦横無尽に振り回されるティオナの
そのすぐ側ではアイズがモンスターに斬撃を見舞い蹴散らしていく。何度敵を斬りつけても
「レフィーヤ、呪文の準備が出来たら言いなさい!」
「【──略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ──】」
アイズ達がモンスター相手に奮闘している間、未だに湧き続けるモンスターに対してレフィーヤが杖を構えて詠唱を開始していた。
しかし、紡がれる言の葉にはいつものスピード感が無い。誰が見ても深層に棲息するモンスター達の威圧感や先達の獅子奮迅ぶりに気圧されてしまっているのが分かる。
モンスターがそれを理解したのかは不明だが──。
『グォォオオオオオオオオッ!』
『オォォォオオオオオオオオオッ!』
「ひゃっ⁉︎」
群れの中の一体が全身を切り裂くほどに強力なアイズ達の攻撃を完全に無視してレフィーヤに特攻を仕掛ける。
更にはいきなりレフィーヤの真横の壁が破れて破片を撒き散らしながら赤と紫が混色した巨大蜘蛛《デフォルミス・スパイダー》が出現した。
あっという間に二体のモンスターに挟まれてしまったことで突然窮地に陥ったレフィーヤはその場で硬直してしまう。
『ギエッ⁉︎』
「レフィーヤ、構わず詠唱を続けなさいっ!」
しかし回転しながら飛来した湾刀がレフィーヤへの奇襲を阻み、ソレに続いて長い黒髪をなびかせながらティオネが駆けつける。彼女はモンスターの顔面に突き刺さった湾刀をひねり、振り下ろし、瞬く間に敵を解体する。
そんな姿を視界に収めつつも未だに動揺が抜け切らないレフィーヤが詠唱を再開する前にアイズ達三人はモンスターを殲滅しきってしまった。
「す、すいません⋯わ、私⋯⋯」
「いーよいーよ、レフィーヤ。こういう時もあるから仕方無いって!」
「落ち着きなさい、レフィーヤ。Lv.が低くてもあんたの魔法の腕ならここのモンスターにだって通用するわ」
アマゾネスの姉妹からの慰めを受けてレフィーヤはなんとか笑みを作り上げる。
──私はまた、アイズさん達の足手まといに⋯⋯──
しかしその内心で少女は嘆く、己の力不足を。少女は痛感する、己の覚悟の無さを。そんな自覚が少女から元気を奪っていく。
「もう、レフィーヤは気にし過ぎだって!アイズー、アイズも何か言ってあげなよー!」
「⋯レフィーヤ達後衛と、私達前衛じゃ、することは違うよ。私達は、モンスターからレフィーヤ達を守って、レフィーヤ達はモンスターを⋯私達を⋯その、ん⋯」
次第にアイズの口調がたどたどしくなっていく。普段からあまり喋らない弊害によりアイズは意思疎通があまり上手く図れない。
言いたいことを必死に纏めようとするアイズは顔を僅かに赤く染めながらも視線を少し泳がせ、やがて次の言葉を紡ぐ。
「私達は、何度でも守るから⋯⋯だから、危なくなった私達を、次はレフィーヤが助けて?」
「──はいっ!」
自分をまっすぐ見つめる透いた金色の瞳と信頼を寄せる言葉に対してレフィーヤは目を見開く。言葉を失った彼女は唇を震わせた後、目尻に涙を溜めながらも強い返事をする。
暗い雰囲気が一変してどこか優しい空気が流れる。
「それじゃあ、さっさと魔石を回収しちゃいましょうか」
「おっけー、了解〜!」
☆
「ティオネ〜、ドロップアイテムとか置いてきちゃったけどいいの?折角落ちたのにもったいなくない?」
「あんなデカイ角や皮、荷物になるから持っていけないわよ。それに最優先は目標の泉水でしょ」
モンスターの核となる魔石やドロップアイテム──肉体の一部分──を集める理由。それは端的に言ってお金の為だ。これらはギルドや商業系ファミリアを通して換金が可能でありダンジョン探索の主要な収入源となっている。
「はぁ、リヴェルークが一緒に来てくれれば荷物持ちを任せることが出来るのにな〜」
「流石にそれはリヴェルーク様に対して失礼ですよ!」
「え〜、リヴェルークなら笑いながらやってくれそうだけどなー。アイズはどう思う⋯って、どうしたの?」
ティオナはレフィーヤとリヴェルークについて話していたのだが、突如立ち止まったアイズに声をかける。
「⋯この先、何か、変な感じがする」
「この先って言うと
「警戒するにこしたことは無いわね。慎重に行きましょうか」
アイズの危機察知能力には眼を見張るものがある。それ故にアイズが『変な感じ』を感じた時には警戒しておいた方が何かといい方向に作用する。
「あの、カドモス?っていうのは、その⋯」
「うん、凄く、強いよ。力だけなら、
「ひぃえぇぇ。や、やり過ごすことは出来ないんですか?」
「無理ね。あの竜は泉の番人のようなものだから、泉水だけ回収して逃げ出そうものなら殺されるわ」
「あたしなんか吹き飛ばされちゃって、体中がぐちゃぐちゃになっちゃったことあるしねー」
──リヴェルークの回復魔法があったから助かったけどね!なんてティオナの言葉も血の気を引かせているレフィーヤにはなんの効果もない。
「じゃあ、先に仕留めて安全確保しちゃおっかー。泉水の採取はそれからでも大丈夫でしょ」
「作戦は定石通りでいくわ。アイズとティオナ、私の三人がかりでカドモスを抑え込む。レフィーヤはデカイ
「レフィーヤ、今度はバッチリお願いね〜!」
「は、はいっ!」
レフィーヤの尻込み具合を吹き飛ばすように淡々と作戦を練っていきつつも歩を進めると、やがて一本道の通路の終わりに着いた。そこから先は開けた空間へと繋がっている。
そこは《ルーム》と呼ばれている広間であり、このルームに《カドモスの泉》は存在している。
足音をひそませながら残り僅かな距離を進む。しっかりと隊列を組み直して先頭のティオネがルーム内の様子を見て突撃の合図を下す手筈となっていた。──そう。予定ではその筈だったのだが突如アイズが眉を怪訝そうに曲げながら無遠慮な動きで立ち上がる。
「ア、アイズさんっ⁉︎そんなに急に立ち上がったら危ないですよっ!」
「⋯おかしい、静か過ぎる」
「確かにそうね。起きてるにしろ寝てるにしろ、何かしらの物音は聞こえてくる筈なのに」
そうなのだ。さほど遠く離れているわけでもないこの状況ならば何かしらの物音は聞こえてくるのが当然だろう。しかしそのような音が一切聞こえてこないということは考えられる可能性は自ずと絞られてくる。
「な、なんですかこれ⋯。まるでナニカに荒らされた後のような⋯?」
「しかもなにこれ、くっさ!めっちゃ酷い匂い⋯」
「どうやら、この酷い悪臭の原因は
真相を確かめるために意を決してルーム内に足を踏み入れた四人の視界に入ってきたのは林に届かない程度に生えていた木々が無残にへし折られ、あるいは押し潰された痕跡。周囲の地面や壁もまるでナニカが暴れまわったかのようにひび割れて粉々になっている。
更にティオネが見つけた悪臭の原因となっていた物体はなんと驚くべきことにカドモスの泉にて番人の如く鎮座しているはずのカドモスの
「わ、私達以外のファミリアの冒険者が倒したんでしょうか?」
「こんな深層にまで来れるパーティが、私達の遠征期間に被らせてここまで潜るわけがないわ」
「それにドロップアイテムも置き去りにされてるよ〜。これってさぁ⋯もしかしなくても面倒事かな?」
もし仮にロキ・ファミリアの遠征に日程を被せるような勇敢なパーティがいたと仮定した場合、一度のダンジョン探索で少なくない金を飛ばす冒険者が莫大な資金に換金可能な《カドモスの皮膜》という希少な
なのでこの惨状から他のモンスターの仕業だという仮説が浮かぶのだがカドモスは
──
ティオネ達の会話に耳を傾けつつもアイズは己の主神がよく使う口癖を胸の中で呟く。
『あああああああああああああああああっ⁉︎』
いきなりだった。臓腑の底から引きずり出されたかのような絶叫がアイズ達の元に届く。ことの重大さを直感させる凄惨な人の悲鳴は自分達にも聞き覚えのある声音。
その絶叫に弾かれたように顔を見合わせて一気に加速し走り出したアイズ達が見たものは、全身を黄緑色に占められた巨大な芋虫とそれに追走されつつも全力で逃走しているフィン達二班の姿だった。
☆
──時はアイズ達が未知の生物との接触を果たした時より少しばかり巻き戻る。
リヴェルークが己に与えられている天幕の内部にて、とある短刀の手入れを行っているとリヴェリアが一人で彼を訪ねて来た。
「ルーク、今後のことで少し相談があるのだが──っと、すまない。何やら取り込み中だったか?」
「いえ、すぐに終わるのでその辺の椅子にでも座って待っていて下さい」
「ああ、分かった。別に急用ではないので焦らなくて良いからな」
私の言葉を聞いてルークは再び作業に戻る。しばらくの間、私は真剣な表情で短刀を手入れするルークをなるべく音を立てないように注意しつつ眺めていた。
アレは第一級冒険者が持つべき物ではなく、駆け出しの冒険者が使う貧相な代物だ。そんな物をルークが持っている理由が分からずに以前本人に直接聞いたことがあるのだが──。
「これは俺と、俺が尊敬している四人の先達との繋がりなんですよ」
そう言って寂しげに微笑むルークを見て、あの短刀が黒竜戦で命を落とした英雄達の壊れた武器を再利用して作られた物だと悟った。
かなり無理を言って作ってもらったようだが、破損した武具を再利用するのはかなり面倒だという理由でかなりの値がしたそうだ。
それなら同じ値のヘファイストス・ファミリアのロゴ入り武装を買えばいいと思ったが、そういう単純な話ではないのだろうから言わなかったが。
「まぁ、今ではお守りみたいに思えて中々手放せなくて、こうしてダンジョン内にも持ち込んでしまいます」
「別にいいんじゃないか、そういう心の拠り所があっても」
寧ろ、あの
「──ふぅ。こんなもんでいいでしょう。さて、俺に相談があったんですよね?」
「ああ、主に見張りのローテーションなどについてなのだが──」
『うわぁああああああああああっ⁉︎』
「───ッ⁉︎何事だ!」
姉上の相談を聞くために俺も椅子に座ろうとしたのだが、何かが起きたことを容易く予感させるほどの絶叫が会話を遮る。
「ぐおぉ、いてぇよー!」
「な、なんだよコイツら!こんな怪物なんか見たことねぇぞ!」
「全員落ち着け!負傷者は後方へ急いで避難だ!歩けない者には手を貸してやれ!」
「姉上、負傷者の治療は俺に任せて下さい。姉上は残りの団員達の指揮をお願いします」
「分かった、そっちは任せるぞ!」
俺に団員達の指揮を執ることなんて性に合わな過ぎて無理だし、やっぱこういう時は適材適所が一番だろう。
「リヴェルーク様、負傷者の避難が完了しました!」
「じゃあ、ここはいいから姉上の指揮下に戻りなさい。俺は治療が終わったら向かいますから」
『はい、了解しました!』
誰一人乱れることの無いこの返答を聞けば圧倒的なカリスマ性を誇るリヴェルークにも指揮を執ることが出来そうだと思うだろうが、本人は『向いていない』と割り切っているから言っても仕方の無いことだ。
「【万民を救う神業を体現し傷の悉くを癒そう全ての者に
超高速詠唱によって紡がれた魔法で負傷者達は軒並み元気になった。それはいいのだが、先ほどの怪我の仕方を鑑みるとあの芋虫型の新種モンスターの攻撃方法は恐らく消化液のようなものだろう。
百戦錬磨の姉上もそれは理解しているらしく、消化液にかからない立ち回りを完璧に指揮しているがやはり若干押され気味だ。
「全く、疲労気味の姉上に余計な苦労かけないで下さいよ。これだから無駄に湧くモンスターは⋯」
「ルーク、すまないがお前は後方支援に努めてくれ。アレは遠くから大火力で焼き払った方が効率が良い」
「それなら、味方への補助も同時にやっちゃいましょうかね」
リヴェリアの指示を受けたリヴェルークは詠唱の準備に入る。しかしそれは【アヴァロン】でも【エデン】でも無く数年前に発現した三つ目の魔法。
「【祝福の光はここに降り注ぐ。己が力を対価とし、幾千の同胞に神域を侵させよう。全ての者よ、心して我が宣告を受けるが良い──我が名はアールヴ。ガーデン・オブ・アヴァロン】」
まるで天からの祝福を告げるかのように、詠唱終了と同時に戦場にいる
「それじゃあ、反撃開始といきましょうか」
「全員、ルークからの勝利の祝福を無駄にするなよ!」
『ラジャーッ!』
リヴェルークの三つ目の魔法はfgoのマーリンさんが元になっております。魔法の効果の詳細などは次回の話の中で出しますが、メリットとデメリットありの魔法となっているとだけ言っておきます。
感想や評価など、宜しくお願いしますm(__)m