現在地──ダンジョンの50階層──はモンスターが出現しない貴重な
「
「いっつも49階層越えるので一苦労だよね〜。今日なんかは出てくるフォモールの数も異常に多かったし」
「
「ルークが遊ぶ前に私が倒していました」
フィン団長の労りの言葉に返答したのはティオナだ。いつもならフィンの呼びかけに真っ先に反応しそうなのはティオネだが、彼女はフィンの労いを聞いて自分の世界にトリップしてしまっている。
そんでもって俺に対抗するかのように淡々と言葉を紡いだのはリューだ。まぁ出来ないことでは無いと思うけどいかに
「ははっ。とにもかくにも、乾杯しようか。お酒は無いけどね。それじゃあ──」
『乾杯!』
一連の会話に笑みを浮かべながらフィンが音頭を取ってそれに皆の唱和が続く。ダンジョン内でことを頭の中に留めながらも談笑や飲み食いを通して彼らは羽を休める。
「おい、リヴェルーク。アイズの奴が全然飯食ってねぇぞ」
「おやおや、気になるのですか?それなら本人に直接聞いたら──」
「てめぇ、それが出来りゃあ苦労しねぇだろーが!だいたいよぉ、俺がんなこと聞くとか似合わな過ぎだろ!」
──ふむ。どうやらそれくらいの自覚はあるようだ。普段はティオナと罵り合いをしている情けない姿が大半を占めているがこれでも一応第一級冒険者だし、その辺の自己評価はしっかりして出来ているみたいだね。
「あの、アイズさん。本当に食べなくて良かったんですか?」
「うん、大丈夫⋯」
「なーんて強がって、実はお腹ペコペコなんじゃないのー?ほらほら、素直に答えてみなってー?」
端っこで一人ブロック状の携行食を齧っていたアイズにレフィーヤとティオナが声をかけた。
レフィーヤの持つ皿から放たれる食欲を刺激する香りはさながらアイズを誘惑する悪魔の如し。しかし彼女はソレを鉄の意志にて跳ね除ける。その様子を眺めていたリヴェルークはというと──。
「ベート、あの様子なら強引にいくと逆効果になってしまうと思います。ですから、本人をその気にさせるのはどうでしょう?」
「その気にだぁ?んなことやっても効果なんか皆無に決まってんだろ」
「大丈夫ですって、彼女持ちである俺を信じなさい!良いですか──」
──ベートに何やらアドバイスを授けている。聞く側のベートも《彼女持ち》というキーワードによって真剣な表情を見せており、その真剣さは二人の様子をすぐ近くで伺っていたラウルが『何事か?』と不思議に思い首を傾けるほどだ。
「⋯良し。俺が言った通りにして来なさい!大丈夫、信じる者はきっと救われます」
「⋯⋯ちっ、やりゃあいいんだろ。てめぇの口車に乗せられた感が半端ねぇけどな」
口ではそうやって文句を言いつつも結局俺の言ったことを実行してくれる。素直じゃないこの狼クンは本当に可愛いと思いますわ、はい。
かつての事件のせいでちょっと尖った性格になっちゃったけど強さに貪欲な点とか似てる部分があるからついつい
「リ、リヴェルーク様っ!お聞きしたいことがあります、お時間宜しいでしょうか⁉︎」
「相変わらずレフィーヤはお堅いですね。もっと砕けた感じで接してくれても良いんですよ?」
「そ、そんなこと畏れ多くて出来ませんよ!」
ベートを送り出した俺の元に、今度は小柄な
この子の潜在能力は高めだと思うんだけど、本人が自分に自信を持てていないせいで未だにそれを引き出せていない。彼女に《魔導》の発展アビリティが発現しているのも含めて、ホント勿体無いって思っちゃうよね。
「それで、俺に聞きたいことというのは何ですか?」
「あ、あの!ベートさんのことなんですけど⋯。ベートさんと上手くやる方法って何かあるのかなと思いまして!」
「なるほど、つまりはベートともっと仲良くなりたいと。──青春ですねぇ、歳をとったおじさんには眩しいですよ」
「ち、違います!そうではなく、リヴェルーク様はベートさんと仲が良いように見えるので、何か理由でもあるのかなと思いまして!」
ああ。なんだ。おじさん、てっきり恋愛的な意味かと思っちゃったよ。ていうよりそっちの方が面白そ⋯なんでもないです。別に何も考えていませんよ?
「そう聞かれると返答に困りますね。んー、強いて言うならば彼のロキ・ファミリア
「入団理由がリヴェルーク様?それはどういう⋯」
「それじゃあ、今後のことを確認しようか!」
レフィーヤが何か言おうとしたが、それを遮るようにフィンの呼びかけが木霊する。まぁ急ぎの用事では無いだろうし今度また相談されるのを待てば良いかな。
☆
「今回の遠征の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今回はそれにプラスして、59階層を目指す前に
「冒険者依頼⋯確か今回はディアンケヒト・ファミリアからの依頼でしたか?」
「ああ、その通りだ。内容は51階層の《カドモスの泉》にて要求量の泉水を採取すること」
「カドモスの泉⋯⋯うえー、メンドくさ〜。でもリヴェルークがいるしそんなの楽勝だよね!」
ティオナは心底面倒臭そうに嘆いてから、俺という存在に完全に頼り切ることで乗り切ろうと算段を立てている。そんな彼女には悪いのだが──。
「残念ながら俺は留守番なので、カドモスの泉には行けませんよ?」
「うえっ⁉︎そんな〜、どうして⁉︎」
「俺がいると他の人が経験を積めないって理由に基づき、フィンがそう判断したからですよ。文句ならフィンにお願いします」
「え、文句なんか無いって!だからそんなに睨まないでよティオネ!」
うわー、ティオネ滅茶苦茶怖いな。フィンに惚れ込んでるだけあって彼に対する侮辱にも取れる発言はたとえ妹でも許さないって感じ。フィンが欲しいのは同族であるパルゥムの妻なのにティオネがいる限り大変な道のりになりそうだな。
「そういえば、リューはカドモスの泉には行かないんでしたっけ?」
「ええ、個別で冒険者依頼を受けていまして。懇願されると断り辛くなってしまいます」
「きっとそれは、貴女が過ごした
「遠征中だというのに申し訳ないと思います」
そう零すとリューはシュンと落ち込んでしまった。落ち込んだ表情も何やらこう、そそるものがあるのだが、それを以前リューに伝えたら汚物を見る目を向けられたので黙っておく。だって嫌われたくないし。
「リュー、貴女のそんな正義感の強いところが俺はとても好きですよ」
「こんなに大勢の目があるところでそんなことを言われると、とても恥ずかしい」
『クッソォォオ、爆ぜろこのリア充がぁ!』
「このバカ弟め、時と場を弁えた発言をしろ!」
思ったことを言っただけなのだが怒られてしまった、解せぬ。
☆
「姉上も居残り組に配属されたんですね。正直な話俺一人で充分だと思うので、姉上は消費した
「⋯すまない、もしもの時以外は任せるぞ」
「ええ、任せて下さい。それよりも、泉に向かった彼らは大丈夫でしょうかね?」
「フィンがいる班は大丈夫だろう。少し心配なのはアイズ達の班だ」
あの班を心配してしまうのは仕方が無いだろう。何せそのメンツは
ティオネにはフィンが『君だけが頼りだ』と念を押していたが、彼女の本性は戦闘狂二人よりも凶暴だからな。レフィーヤにそんな他三人を御しきれる筈も無い為マジで何事も無いことを祈るしかない。
「はぁ、せめてもう少しだけ大人しくなってくれると良いのですが」
「⋯お前がそれを言うか?過去のお前の方が寧ろ酷かったような気がするぞ」
「その言葉を否定出来ないのが悔しいですね」
「リヴェルークさんの昔ってそんなにヤバかったんですか?」
「ああ、今のコイツからは想像も出来ないほどだぞ。例えば──」
俺と姉上の会話に周りで聞いていた団員達が興味を示す。そんな彼らに対して俺の過去を語り出した姉上の表情はどこか寂しげだ。『強くなること』に貪欲になり過ぎて姉上の心配を無下にしていた過去の自分を恥じるつもりは無いが、もっと視野を広く持つべきだったな。
リヴェルークは内心でそんなことを考えていた。──彼やその他の団員達の元に未知なる襲撃が起こることなど知らずに。
いつもより少し短めですが今回はここまでで。それよりもベル君を早く登場させたい!とにかく頑張ります!
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