リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした!今回はいつもより少し多めの文字数になっております。


過去話 過ぎし日常

「団長、諦めてアルトリアさんとデートに行ってきます。」

「⋯ああ、楽しんでこい。」

 

 憂鬱そうな表情を浮かべつつも色々とぶっ飛んでいる美人ヒューマンとのデートに行くことを決意したエルフの少年を見送った男性は、今から数年前の入団試験の日を思い出す。

 ──当時の入団試験においてあの少年は他の志願者と色々な意味でかけ離れていた。

 見目麗しいエルフの中でも更に整った顔立ちでありながらその表情に一切の変化は無く。幼いながらも王の如く圧倒的な風格を漂わせて志願者どころか神ゼウスの眷族(ファミリア)のエルフ達からも初対面で何故か畏敬の眼差しを集め。試験の模擬戦では相手役を務めたLv.2へのランクアップ間近である団員に恩恵(ファルナ)()()で勝利した。

 試験後にエルフの団員達の報告で少年がハイエルフ(王族)であることが発覚した。それだけでも充分に期待出来る人材なのだが、Lv.1の中では最上位とはいえ恩恵持ちの冒険者に勝利するという実績が加わり特例としてファミリアの蓄えからお金が出されて一級品の武器が作られることになった。

 

「──てなわけで、これから俺と一緒にヘファイストス・ファミリアっつーとこに行くぞ。」

「俺には自分の愛刀があるからそんな物は不要です。」

「そんじゃあ、ついでにソレの整備もお願いすりゃいいんじゃねぇか?刀については良く知らねぇから他には鑑定も頼むことにすっか。」

 

 俺の言葉を受け流して『それじゃあ早速、レッツゴー!』なんて高テンションのままに叫ぶとクティノス?と名乗った副団長である男性は俺を脇に抱きかかえて歩きだした。──って、俺は少し重めの荷物か何かかよ。

 

「恥ずかしいから降ろして下さい、自分で歩きます。」

「って言いつつ、目ぇ離すとダンジョンに突撃かましそうだからなぁ。うーんどうすっかな⋯手ぇ繋ぐか!」

「いや待ってよ、そんな恥ずかしいことは絶対に出来ませんから結構です。」

 

 こんな屈辱的な扱いをされるくらいならコイツをぶっ倒してでも逃げてやる。

 

 

 

 

 あの後結局どう足掻こうとも俺はクティノスの手を繋ぐ(拘束)から逃れることは出来なかった。

 そりゃあそうだろ。いくらなんでも無理ゲー過ぎるわ。俺が最近恩恵を授かったばかりなのに対して相手は最近Lv.7にランクアップしたという第一級の化物だ。抵抗などするだけ無駄ってやつだな。

 

「ほい、到着っと。──ヘファイストス様、お久しぶりっす。」

「ええ、久しぶりね。それで今日の要件は何かしら?」

「うちの新入りのリヴェルークの持ってる武器の鑑定と、新しい武器の作成依頼っす。」

 

 そう言うとクティノスは俺から没収していた愛刀・切姫をヘファイストスと名乗った女性に手渡した。

 本来なら見ず知らずの奴に渡すなんてマネは絶対にしない──その一心で刀の整備法も覚えた──のだがこの女性に対しては何故か不信感を抱くことが無い。なるほど、やっぱり神様って存在は色々と凄いな。

 ──と、そんな風にリヴェルークが一人で変なところで神の威光に対して感心している間にクティノスとヘファイストスの会話はそんな少年の話へと移る。

 

「ところで、あんな文字通り才能の塊みたいな逸材を何処で見つけたのかしら?」

「いやあいつは俺達が見つけたっつーより、あいつが自分から見つかりに来たっつー感じっす。まぁ強いて言うなら、意図せずの大発掘ってヤツっすかねぇ。」

「そう、それなら嬉しい誤算というモノね。ただし分かっているとは思うのだけれど⋯。」

 

 神ヘファイストスは気を遣ったのか言葉を濁したが、それでも冒険者として長いことやっているクティノスだからこそその言葉の続きが分かってしまった。

 

「⋯リヴェルークは冒険者らし()()()、って言いたいんすよね?」

「分かってるのなら良いのだけれど、アレは本当に目を離すと一人で死にかねないわ。」

「そうならねぇように、俺達が見張ってる必要があるのは分かってるんすけどね⋯。」

 

 しかし『周囲のそんな心配など知らん』と言わんばかりにいつの間にかリヴェルークは一人でダンジョンに潜ってしまう。見張りはつけているのだが都市最大ファミリアの片翼を担うゼウス・ファミリアのすべき役目はわりと多い為どうしても目を離さざるを得ない時がある。

 クティノスが困ったように力無く笑うのもそういった複雑な事情が絡まりまくってリヴェルークの見張りを十分に出来ていない現状を理解しているからだ。

 

「それにあんだけ無愛想だと不協和音の基になりかねねぇんですけど、そこはアイツがまだまだガキなのが幸いしましたわ。」

「あれだけ幼い子を『無愛想だから』という理由で放置するほど器の小さい人物はいないでしょうからね。」

「⋯俺の武器の鑑定はもう終わりましたか?」

 

 二人の会話に横槍を入れたのは会話の対象である店内でボーッと佇んでいたリヴェルーク本人だった。

 どうやら待ちぼうけに飽きてしまったらしく、今にもダンジョンに突撃したそうなほどにソワソワしている。流石に長々と話し込み過ぎてしまったみてぇだな。

 

「ごめんなさいね、話し込み過ぎてしまったようだわ。」

「悪りぃなリヴェルーク、俺が会話を長引かせちまってな。」

「いえ、お気になさらず。」

 

 神ヘファイストスは『その辺のお店でも眺めていて』という言葉を残して自分の作業室に行ってしまった。コレは結構時間がかかる感じなのかな?だったらお店なんかよりもダンジョンに──。

 

「言っておくが、ダンジョンに行くのは禁止だからな?」

 

 ──なんということでしょう。自分でも惚れ惚れするほどの名案を提示する前にクティノスからキッチリと釘を刺されてしまった。俺ってそんなに分かりやすいのだろうか?

 

 

 

 

 ゼウス・ファミリアのホームのとある一室。そこでは一人の少年がベッドに横たわっている。普段ならばそのような無駄な時間を費やすことを良しとしない彼ではあるが今は神ヘファイストスの言葉が脳裏から離れずにこうしてボウッとしている。

 

「⋯お前がそのように大人しくしているなど珍しいな。」

「団長、他人の部屋に入るならノックくらいはして下さい。」

「⋯したところで、お前が無視をするのは分かりきっていることだからな。」

 

 まぁ実際その通りなので文句も特に出てこない。

 

「それで、俺に何か用事でもあるんですか?」

「⋯お前の持っている切姫についてなのだが。」

「ああ、なるほど。クティノスから鑑定結果でも聞きましたか?」

 

 自分で選択したので分かっていたのだが、やはり俺の出した結論──新武装は作らず切姫一筋でいく──にクティノスと同様言いたいことがあるみたいだな。

 俺の脳裏に浮かぶのは昼の出来事。あの刀を初めて見せた時に神ヘファイストスは僅かながらも()()していた。クティノスとの会話を長引かせたのも恐らくその動揺を落ち着かせる狙いもあったと思う。──もしかしたら無意識的な行為だったのかもしれないが。

 

「⋯お前の愛刀がまさか《持ち主に試練を運ぶ呪われし刀》などという代物だったとはな。」

「まぁ、俺の目的は強くなることなので試練の方から来てくれるのは嬉しいですけどね。」

 

 神ヘファイストスの話によれば切姫はかつて一人の神に何度も請われて作ったモノらしい。

 今から数年ほど昔。その神のファミリアに極上の逸材が入団したそうだ。その少女の為に神はヘファイストスに武器の作成を頼み込んだ。初めは断っていたヘファイストスだが実に一ヶ月毎日のように通われては折れざるを得なかった。

 才ありしとは言え駆け出しの少女にピッタリの武器は何か。そう模索して辿り着いたのは鍛治師達にとっては邪道中の邪道とも言える武器。ソレは使い手が成長すれば強化される武器。即ち──勝手に至高へと辿り着く武器である。

 切姫にはその神が《神聖文字(ヒエログリフ)》を刻んだ通りステイタスが発生している。つまりは生きているのである。

 使い手が最強に至れば武器もまた最強へ至るものであり、刀と同じくその神の恩恵(ファルナ)を授かった者にしか扱えない代物である。

 それ故にヘファイストスは驚いた。切姫は持ち主と同様に成長する──つまりは持ち主を写す鏡である。そんな切姫が呪われるということはかつての持ち主である少女が切姫に《試練を運ぶ》という呪いが付与されるほどに強さを渇望したということであり、その神の眷族ですらないリヴェルークが何故か切姫を使いこなしているのだから。

 

「神ヘファイストスですら分からないのに、俺に聞かれても何のことですか?って感じです。」

「⋯初めて切姫を見た時に違和感を抱いたのだが、ヘファイストス様の説明で理解出来た。」

 

 違和感を抱いて当然だろう。なにせ本来は扱えない人物が手足の如くその武器を扱っているのだから。その違和感も第一級冒険者や最上位の鍛治師で何となく感じ取れるモノだとは思うが。

 

「⋯お前が切姫を使うと決めた以上、これから先様々な困難が降りかかるのは確定だ。故にお前にダンジョン攻略の許可を出す。」

「おお!遂に正式な許可が出ましたね。」

「⋯困難が降りかかるなら、ソレを超えられるように経験を積んでもらう必要があるからな。」

 

 そう言うと団長は俺の部屋から出て行った。

 ⋯それにしても今日一日で色々な出来事があり過ぎたな。まさか()()から貰った切姫がそんなトンデモナイ代物だったとは。

 昔から読めない文字が刻まれているのは知っていたが強くなる上で関係の無いことには無頓着過ぎたな。昔から切姫で訓練を受けていたから武器の強弱とかも気にならなかったし。

 まぁ何も告げずに俺に切姫を託した師匠に言いたいことや聞きたいことは色々とあるのだが、それでも俺は全ての感情を押し殺して『ありがとう』と心の中で感謝を述べる。この武器さえあれば試練が降りかかるのは確定なんだし後はそれらを超えるだけだ。そうして俺は絶対強者になってリアねぇやアイナねぇを守る剣となろう──。

 

 

 

 

 ──なんて思っていた時が俺にもありましたね。かつての自身への誓いを思い出しながら苦笑する俺の見つめる先では守ると決めた姉が()()()()()を見せつけている。

 

「おいおい、お前の姉さんも流石って感じじゃねぇか!」

「アレが噂の《九魔姫(ナイン・ヘル)》リヴェリア・リヨス・アールヴかニャ。ん〜、いつか闘ってみたいニャ〜!」

 

 ゼウス・ファミリアの副団長クティノスや幹部セレナと共に眺めているのは《神の力(アルカナム)》──《神の鏡》に映し出されている戦争遊戯(ウォーゲーム)の映像である。

 仕掛けた側の神の名は⋯確か⋯⋯忘れちゃった。仕掛けた理由は恐らく嫉妬かな?最近名を上げてきたロキ・ファミリアに勝てば一気に自分達の時代だ!みたいな感じで挑んだのだろうが⋯。

 

「哀れみすら抱いてしまうほどに差があり過ぎですね。」

「そりゃあそうだろう。ロキ・ファミリアは侮っている奴等が勝てるほど弱くねぇぞ。」

「でも、リヴェルークの姉が強過ぎるのも確かだニャ。ロキ・ファミリアは実質《九魔姫》一人で闘ってるようなものだニャ。」

 

 セレナの言っていることは事実だ。ロキ・ファミリアの主戦力である三人のうち闘っているのはリアねぇだけでフィンは指揮、ガレスは控えているだけの魔法部隊の守護に就いている。それでもってリアねぇが一人で敵の冒険者達を相手取って無双劇を繰り広げている。

 なるほど確かに並みの冒険者ならまずその背中を追いかけることを諦めるほどの強さではあるのだが、しかしソレを見たリヴェルークは──。

 

「でも、まだまだ()()()()かな。」

 

 それほどの強さを『まだ足りない』と断定するがそれも当然のことだろう。リヴェルークは《凡才の冒険者》などでは決してない。むしろソレとは対極に位置するであろう《才能の化物》である。──故に並みの冒険者達が見上げることしか出来ない次元に立つ《九魔姫》すらも見下ろす不遜さえ許されている。

 

「リヴェルーク、お前は本当に素直になれねぇ奴だなぁ。無双劇を繰り広げている今でも内心では『もしものことが起きないか?』って姉を心配してるくせによ。」

「でも、それでこそリヴェルーク!って感じがするからいいけどニャ〜。」

「あーもー、うるさいうるさい!俺のことを『素直になれない奴』みたいに言うのはやめろ!」

『照れるなって、リヴェルーク!』

 

 仲が良いのは結構だがその台詞は息を揃えて言うことじゃねーぞ!だって主に俺への精神的(羞恥心)なダメージがデカ過ぎるから!

 

 

 

 

 結局戦争遊戯はロキ・ファミリアの勝利──リヴェリアの独壇場──で終わった。何事も無く終わってくれたのは良いことなのだが何故か俺はリアねぇに捕獲され近場の店に案内された。

 

「姉の勇姿をしっかり観ていたか、ルーク!」

「しっかり観ていましたよ。それより何故だかおかしくないですか?」

「ルークにしては的外れにして変なことを言うな!私は普段通り正常だ!」

 

 んー?リアねぇって普段からこんなに大きな声を出す人だったっけ?その問いに関する答えは否なのだが──戦争遊戯での大立ち回りの余韻がまだ引いていないのだろう。

 

「⋯で?改まって『二人きりで話したい』とのことでしたが、何か俺に用事でも?」

「ルーク、私の強さはその目で見ただろう?──お前にとって私はまだ護るべき存在か?」

 

 ⋯これは何とも答えにくい質問をしてくるな。正直に返答するなら『イエス』なのだがそう答えるとなんか面倒な展開になりそうな気がしてならない。でも、こんなにも真剣な表情で聞いている相手に嘘をつくのも憚られる。だから俺は──。

 

「──はい。リアねぇは俺にとって護るべき対象(弱者)です。」

 

 例え愛する姉を傷つけてでも相手が望むのならば真実を突き付ける。それがどれほど残酷なことか分かっていようとも。

 

「そう⋯⋯か。」

 

 あれほど元気だったリアねぇは、しかし一転して落ち込んでしまった。その姿を見ると半端ない罪悪感に襲われるのだがそれでもこの人に嘘はつきたくない。

 

「それならば、私はもっと強くなるだけだ!見ていろよルーク、私を下に見れるのは今だけだぞ!」

「──っ⁉︎ははっ、そういう結論に至りますか。全く、弟の俺が脳筋()なら姉も脳筋()というわけですね!」

「それはそうだろう、なにせ私達は血の繋がった姉弟なのだからな!」

 

 何とか暗い雰囲気を吹き飛ばせたことにホッとしつつも、弟だからこそ姉が()()()()でこの場を話を逸らそうとしていることに気付いて胸が痛むのであった。




最後の方は若干のキャラ崩壊になってしまったかも(°_°)
武器に関してはツッコミどころがあったかもしれませんが『はいはい、オリジナル設定オリジナル設定』と内心で何とか納得して下さいm(__)m
それと、この話の中では独自設定としてリヴェリア達のランクはLv.6より低いものとなっています。

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