「⋯リヴェルーク、お前宛てに手紙が届いてる。」
そう言われてイアロス団長から差し出された便箋は白を基調としたシンプルな物ながらも端の方に美しい桜の花の絵が描かれている。
「団長、わざわざありがとうございます。因みに、宛名は誰からの手紙ですか?」
「⋯ヘラ・ファミリアの副団長からだ。」
その名を告げられた時、団長には目の前にいる少年の表情に若干の怯えの色が浮かぶのが見て取れた。
「──え?あー⋯⋯その⋯⋯ソレって中を見なきゃダメですかね?」
「⋯残念ながらな。見なかった時の方が確実に面倒なことになる。」
「アハハッ、デスヨネー。」
「⋯それに、向こうのファミリアには借りがある。こちらは強く出れないところを狙われたのかもしれない。」
「──ハァ。そういうことなら分かりました、行ってきます。」
☆
俺の今の気分は憂鬱だ。よりにもよってあの副団長からの手紙とか絶対に碌なもんじゃないぞ。
『リヴェルーク君へ。
明日デートに行きましょう。朝の九時に北部の広場の銅像前で集合でお願いします。
ヘラ・ファミリア副団長、アルトリア・ヴァンハイムより。』
──こ、この人はっ!いくら同盟を結んでるからとはいえ他派閥の男をデートに誘うなよ!しかも手紙だと一見まともそうに見えるが俺に拒否権が無く一方的で、尚且つ
⋯うわー。団長にはああ言ったけどやっぱり行きたくないわー。
「リヴェルーク、何か困り事かっ⁉︎俺らで良けりゃあ話聞いてやるぜ!」
「そうニャー、話してみるニャ。」
オラリオ三大美人の一人であるLv.7の《麗剣》アルトリアさんからの手紙を前に唸っていた俺に声をかけてきたのは同じくLv.7である副団長の《
この二人なら人生の先達として今の危機的状況を脱する何か良い案を授けてくれると思ったのだが⋯。
「あー⋯⋯こりゃあどうしようもねぇな。諦めて逝ってこい、モテモテなリヴェルーク君よ。」
「ミャーにもコレは無理だニャ、潔く逝ってこいニャ。」
──秒で見捨てられた、だとっ⁉︎しかも行ってこいのニュアンスが違うように聞こえたのは気のせいか⁉︎いや、気のせいじゃないよね⁉︎
「ちょっ、お願いですから見捨てないでよ、ホントに助けてぇ!」
「こればっかは俺らにゃあどうしようも出来ねぇんだ。⋯すまねぇな。」
「ミャー達の力及ばず⋯無念だ、ニャ。」
うん、完璧に見捨てられちゃった。こうなったら最後の手段だ。
「ゼ、ゼウス様!俺に何か良い案を教えて下さいっ!」
「ふむ、良い案か⋯。あるにはあるぞ?」
藁にもすがる思いで我らの主神様に尋ねたのだがよほど自信があるのか不敵な笑顔を浮かべている。
「マジで?教えてっ!」
「⋯それはのぉ、『
──つ⋯⋯使えねぇ!なんだよその案。この駄神、マジで使い物にならねぇぞ⁉︎
☆
「お待たせしました、リヴェルーク君。」
「いえ、俺も今来たところです。お久しぶりですね、アルトリアさん。」
──うん。あの後、俺は結局『諦める』という手段を選択した。だってこの人、ヒューマンのくせにアマゾネスみたいな性格してるから断るとまた強引に連れ出されるに決まってるし。
以前断った時はゼウス・ファミリアのホームにまで来て俺を小脇に抱え、そのまま拉致ったほどの行動力の持ち主だ。そんなことをされるとは全く思っていなかったので俺は呆気無く拉致られた。
こんな情報を知っているのはゼウス・ヘラの
「リヴェルーク君、今変なことを考えていませんか?」
「いえ、何も考えておりません。」
「⋯そうですか。まぁいいでしょう。そんなことよりも、今日はお姉さんとお洋服屋さんに行きましょうね!」
あ、これいつものパターンや。俺がまた着せ替え人形になるパターンや。
「リヴェルーク君は普段からエルフ用の洋服は着ていませんから、ヒューマン用のお店でいいでしょうか?」
「はいはい、もうなんでもいいよ。」
「ふふっ、拗ねているんですか?そんなところも可愛いです。」
「可愛いっていうなっ!あと、さりげなく手を繋ぐなーっ!」
周囲から好奇というより微笑ましいモノを見るかのような視線を集めているのでめっちゃ恥ずかしい。ただでさえ俺は注目されるのが好きじゃないのにっ!まぁ、変装しているから俺達が《覇王》と《麗剣》だとはバレてないとは思うけど。
つーか、俺が思いっきり振り払おうとしてるのに全くビクともしない。ランク差を物ともしていないこの力はどこからきているのか毎度のことながら不思議だ。
「力強過ぎでしょ、何で振りほどけないの!俺の方がステータス的には上なはずなんだけど!」
「うふふふふふ、それはスキルのおかげとだけ言っておきましょうか。」
「何それ、ずっるい。離せー、離してくれーっ!」
「そこまで必死になりますか⁉︎⋯まぁ、そうやすやすと離したりはしませんがね。」
組まれた腕を振り払えない以上は大人しく着いて行くしかねーな。つか、一つ上のレベルの人間を拘束できるスキルとか滅茶苦茶気になるんだけど。でもその辺を詮索すると『教える代わりに言うこと聞け』くらいは言ってくるほど図太い人だから聞かないが。
「それでは早速、服屋さんに行きましょう!今日は私がプレゼントしますよ。」
「え?珍しいですね。普段は日用品とか勝手に選んどいて、俺には『買っときなさい』って指示してくるだけなのに。」
「いいからいいから、細かいことを気にしてはいけませんよ。」
まぁ結局、前に指示された色んな服や日用品も買った
☆
俺は洋服を買いに来たはずなのに──どうしてこうなったんだ。
「やっぱり、普段から着ているので袴のような服装の方が良く似合っていますね。しかしそれでは代わり映えが無いので、敢えて騎士服にした方が良いでしょうか。ですが、紳士服も捨てがたいです。いえ、ここは大穴狙いでメイド服⋯。」
「それはマジ着ないからね。大穴狙い過ぎだから!しかも、段々コスプレ大会になってない⁉︎」
「ふふっ、似合うと思いますよ?」
この人やっぱり俺を着せ替え人形にして楽しんでやがるな。それがプチファッションショーみたいなことになっちゃってるから周りに人がポツポツと集まって来てしまった。
これ以上注目を浴びるのは嫌なのでそろそろ切り上げるとしよう。
「もう、さっきの騎士服で良いんじゃないですか?アルトリアさんも似合ってるって言ってましたし。」
「人が集まってしまいましたので、それにしましょうか。買ってくるので待っていて下さいね。」
そう言うとアルトリアさんはコスプレ感がパナい騎士服をレジに持って行った。半ば強引にとはいえ女性にばかり物を買わせるのは
「ヤバイな、アルトリアさんって何を貰うと喜ぶのか全く分からないんだけど⋯。」
「おやおや、もしかして女性への贈り物をお探しですかな?」
そう俺に声をかけてきたのは紳士然とした普通のお爺さんだった。──いや、ゼウス・ファミリアに所属している冒険者だからこそ分かる。この
「──ハァ。こんなところで何をしてるんですか、ゼウス様。」
「むむ、バレてしまったわい。流石に分かってしまうようじゃな。」
「そりゃあそうでしょう。数年もの間毎日顔を合わせてますし、何より
まさか
「⋯で?ゼウス様は何してるんですか、まさかまた浮気ですか?」
「いやいや、それは無いわい!ルークたんのことが心配になってつけていたってわけじゃ。」
「なら別に良いですけどね。それより、俺に何か用ですか?」
「そうじゃったな、ルークたんにアドバイスをしようと思っての。」
ふむ、なるほど。ゼウス様は浮気野郎ではあるがそれ故に女性を喜ばせるプレゼントとか詳しそうだな。
「是非とも、ゼウス様の考えを教えて下さい。」
「勿論良いぞ。それはのぉ──。」
──流石は女たらしクソ野郎だ。プレゼントのチョイスもさることながら理由もかなり説得力がある。
「それにします、ありがとうございました。」
「気にすることは無いわい!他ならぬルークたんの為じゃからな!」
☆
「ごめんなさいね、レジが混んでしまっていたので遅くなりました。」
「いえいえ、気にしないで下さい。」
寧ろ精算が遅れてくれたお陰でお礼選びをすることが出来ましたし、助かりましたよ。
「はい、リヴェルーク君にプレゼントです!とても良く似合っていたので、日常的に着て下さいね。」
「ありがとうございます。これは、俺からのお返しです。」
そう言うと儚げながらも美しい少年はその場で跪き、見せないように上手く後ろ手に隠していた
「うえ?──っ⁉︎不意打ちでソレは卑怯ではありませんかっ!」
「では、今まで色々と振り回されたことに対するお返しということで。」
「⋯ふふ、これは一本取られてしまいましたね。それならば遠慮無く貰いましょうか。」
そう言って微笑むアルトリアさんの表情は喜びの色に満たされていて、見ているこっちがなんだか恥ずかしくなるくらいの喜びようだった。
マジでゼウス様の言葉──人の心は千差万別じゃがな、プレゼントが選び放題の今でも未だ花は第一線で通用しておるのは何故じゃと思う?それはの⋯心ではなく色や形が、香りが、そして儚さが人間の本能にピッタリとハマるからじゃ──が役に立った。
「リヴェルーク君──本当にありがとうございます。とても嬉しいです。」
ゼウス・ファミリアの一員としては果てしなく複雑なのだがゼウス様の女遊びによって磨かれたセンスは流石の一言に尽きるからな。だから今回は素直に感謝しておきますよ?我らが偉大なる
──そんでもって後日デートを偶然ながら見つけた何処ぞのシスコンな姉やエルフの姉妹への説明に尽力したのは言うまでもないことだ。
今回は本編9話でヘファイストス様との会話で出てきた騎士服についての話です。
オリ主であるリヴェルークと誰かの絡みが読みたいというご希望があれば、教えていただけると頑張って書きます!
感想や評価、宜しくお願い致します(`_´)ゞ