リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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更新遅くなりましたm(_ _)m

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16話 頂点か道化か

 迷宮都市オラリオの街外れ。人通りの少ない道を傍に逸れた小高い丘には雨に打たれる一人の人物がいた。

 降りしきる雨の中に佇むのは金の髪に赤い瞳の少年。彼の目の前にはボロボロの状態になりながらも未だ存在感を放つ五つの武器が地面に突き刺さっている。

 それらの武器は黒竜との戦場で散っていった英傑達のそれぞれの成長を支えし無二の相棒()。武器を見ただけでそれが誰の物であったかを思い出し、その人物達の様々な表情や暖かい日常の風景が思い浮かんでは消える。

 この場にあるのはたった五つ。それでも俺にとってはその五つだけで充分過ぎる証になる。それは──偉大なる英傑達が確かに存在したことと、そんな彼らを他ならぬ()()殺してしまったことから目を背けないようにするための証だ。

 

「やはり、ここにいたか。話の途中で急に飛び出していくから驚いたぞ」

「⋯ああ、申し訳ありません。未練がましくも、俺達の敗北を受け止めることが出来なくて」

 

 俺が話の途中で飛び出たのを見てすぐに追って来たのだろう。リアねぇも何も持たずに雨に打たれてずぶ濡れになってしまっている。──これは俺の失態だな。リアねぇならそうすると分かれたはずなのに。

 

「俺のせいで、リアねぇまで濡れてしまいましたね⋯」

「そんなことはどうでも良い。それよりも、お前は私を──私達ロキ・ファミリアを恨むか?」

 

 そう尋ねるリアねぇの表情は真剣で、本気で俺が姉を恨んでいる可能性すら考えているのだろう。そう思う理由はきっと──ゼウス・ファミリアの本拠地()()()()()がロキ・ファミリアの眷族だからか。

 正直に言うと『何言ってんの?』が初めてソレを聞いた時の俺の偽らぬ感想だ。

 なにせ目が覚めたら何故かロキ・ファミリアの本拠地のベッドで寝かされていて、その上どうしてこんな状況になっていのかと問えば『黒竜戦での二大ファミリアの崩壊』や、更に追い討ちをかけるかのような襲撃で『両主神がオラリオを追い出された』ときた。

 ゼウス様やヘラ様はきっと大丈夫だろうな。俺に施された神の恩恵(ファルナ)が消えてないし、何よりあんな巫山戯た神様でもやるときはやる神物だ。

 それに黒竜戦敗退はなんとなく分かっていた。俺が最後に見た光景がもう敗北一直線のモノだったから。

 だが、俺達のファミリアの完全崩壊は予想してもいなかった。しかもその襲撃の下手人についてロキの口から直接『自分達だ』と聞かされた。

 これほどまでに自分にとって悪い方への激しい状況の変化などすぐに『はい、そうですか』なんて納得出来るわけが無い──のが()()()の人間なのだろう。

 しかし俺は()()()()のせいで骨の髄にまで『弱肉強食』の原理が染み付いている。

 

「⋯こんな状況で聞くのもアレなんですけど、話の続きを教えて貰ってもいいですか?」

 

 変えたいと思ったことが無いと言えば嘘になる──が幼い日より何度も刷り込まれて人格の一部にまで昇格してしまったモノはもう直しようが無い。

 あんなに守りたかった仲間達の死を悲しいと。皆を守ると言っておいて皆に生かされた自分が情けないと。けれどもそう思うと同時に『俺達が弱かったのだから仕方が無い』と冷たく割り切って過去の出来事にしている自分がいる。──そのくせ未だに事実を受け止められずこの丘に足を運んで()()()を、事実を心に刻み込もうとする自分もいる。

 そう思ってしまう自分が嫌で。けれどもそんな自分を変えられない。割り切っているはずなのに心の何処かが悲鳴を上げる。そのジレンマ(ズレ)から目を背ける為に。気付かないフリをする為に俺は敢えてリアねぇに話を続けさせる。

 

「⋯ああ、分かった。ギルド本部の意向は『唯一生き残った第一級冒険者を色々な意味で遊ばせておく余裕は無い』ということらしい」

「なるほど、それはつまり──」

 

 ──ゼウス・ファミリアを潰したロキ・ファミリアかヘラ・ファミリアを潰したフレイヤ・ファミリアのどちらかに所属せよ、という無言の命令というわけか。⋯全く。管理職に就いている人間も大変だな。覇王()に恨まれる可能性すらあるのに闇派閥(イヴィルス)の増長を出来るだけ抑える為、俺の扱いについてそんな意向を取るとは。

 まぁ俺も更に力を付ける必要があるしギルドの意向に反意を示す理由は今のところ特には無いから従うけど。

 

「それからもう一つ。ルークの()()()()()()に伴い、新しい二つ名が決まったそうだ。ルークの新しい二つ名は──」

 

 その二つ名は珍しくも神が純粋にリヴェルークの成し遂げた偉業を讃える為に付けた名だったのだが、本人であるリヴェルークにはくしくも()()混じりのモノにしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 リヴェリアから通り一遍の話を聞いた後でリヴェルークはロキ・ファミリア内部で与えられている部屋に帰って来ていた。視線を備え付けの机の上にやると──そこには欠けたりヒビ割れたりとボロボロな四つの武器が存在している。

 先ほどの丘には元々九つの武器があったのだがリヴェルークがその内馴染みの深い四人の武器を持ち帰って来たのだ。殆どの部位が欠けて鉄屑と化しているのはイアロス団長の盾。持ち手の無くなった鉄塊はクティノス副団長の斧。切っ先の欠けた二(ふり)の剣は幹部であるセレナの愛剣。四つの中で唯一元の形を保っているのは他派閥の俺なんかを気にかけてくれたヘラ・ファミリアのアルトリア副団長の大剣。

 俺が心から信用し、信頼し、尊敬していた英傑達の相棒()。姉二人と俺という三人で世界が途切れていた俺に仲間の暖かみを教えてくれた、世界の広さを教えてくれた人達。武器を通して今は亡き彼らに告げるかのように少年は言葉を紡いだ。

 

「俺の二つ名──至天(クラウン)だそうですよ?娯楽好きの神様達も、偶には()()名前を付けますよね」

 

 リアねぇの口から教えてもらった俺の二つ名は鍍金の英雄たる俺にはピッタリの二つ名だ。

 神様達はどうやら古の英雄と同じ偉業を成した俺を純粋に讃える為に頂点に立つ者(crown)と名付けたようだ。しかし俺は『仲間を守る』とあれだけ誓ったくせにその仲間に生かされただけの存在だ。──ははっ。なるほどこれではその名の通りの、まるで道化(clown)ではないか。

 これは本当に傑作だよな。純粋な敬意でつけられた二つ名なのに捉え方によってはまさかこんな皮肉なモノとして捉えることが出来るとは。

 

「でも⋯例え俺が鍍金だろうと道化だろうと、いつの日か必ず──」

 

 ──あの黒き竜を下してやる。だから今は力を付けなくては。その為にもどちらかのファミリアに入る必要があるのだが⋯。

 

「道化なら道化らしく、似た者が主神のファミリアに入るのがいいよな」

 

 少年は部屋の外に出て道化師が待っている気がする場所に足を運ぶのだった。




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