リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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この話も含めて、後日談をいくつか書いたら次章に移りたいと思います。


15話 栄華の崩落

──報告書──

 

 特別に使用を許可されていた神の力で死闘を見物していた神々から『決着の報せ』を受けた我々ガネーシャ・ファミリアの冒険者は黒竜とゼウス・ヘラファミリアの死闘が繰り広げられた場所へと赴く。

 そこで見つけられた生存者は──ゼウス・ファミリアのLv.8《覇王》リヴェルーク・リヨス・アールヴとヘラ・ファミリアのLv.4《雪の妖精(スノー・フェアリー)》イレーネ・グラハムの()()のみ。

 二名を見つけた場所が数キロ離れていたことと発見時の周りの状況からイレーネ・グラハムは何らかの影響で戦場より吹き飛ばされたと推測。

 回収出来た遺品も僅か九つで、残りの全ては衝撃に耐えられずに木っ端微塵になってしまった模様。

 尚、発見から十日経った現在でもリヴェルーク・リヨス・アールヴが目を覚ます気配は未だに無い。

 

 

 

 

「こんなところに呼び出して、あんのクソ神はほんまどういうつもりなんや?」

 

 問いかけるのはフードを被って朱色の髪を隠している狡猾そうな女性。呆れ口調ではあるが何か面白いことが起きるのを内心では楽しみにしているのがバレバレな態度。

 

「さぁ?私は()()()()のことで忙しかったのだけれど」

 

 応じるのは、同じくフードを被ることで美し過ぎる容姿を隠している銀色の髪の女性。こっちの女性は本心から思っているからなのか『迷惑だ』と言わんばかりの雰囲気を全身から醸し出している。

 

「⋯ま、向こうの要件は一つやろな。ちゅうか、三大冒険者依頼(クエスト)に挑むって言い出した時から()()なるとは何となーく思っとったんやけどな」

「あら、流石は天界きっての道化師(トリックスター)ね。その勘の冴え具合は恐怖すら感じるわ」

 

 軽口を叩き合う二人の女性は最大勢力を誇っていた二柱の神が待つ高級店の個室へと向かう。そこで話される内容が以前にも聞かされた今後のオラリオの行方を左右するものであると何となく感じながら──。

 

 

 

 

 ──迷宮都市オラリオの二大派閥であるゼウス・ヘラファミリアの壊滅。並びにリヴェルーク・リヨス・アールヴが未だに意識不明の重体。それらの報せはオラリオ中を駆け巡る。当然ながらその情報はとあるブラコンの姉やその仲間の耳にも入った。

 

「死んだら決して許さんぞ、リヴェルーク(バカ弟)め⋯」

「ガッハッハッ!なぁに、彼奴はそう簡単には死なんだろう。なにせ、()()リヴェリアの弟なんじゃからな!」

「⋯ガレス、()()とはどんな意味だ?」

「怒らせると怖⋯なんでもないぞ、なんでもないからそう睨むな」

 

 好々爺の如く笑っていたドワーフの同僚を視線のみで黙らせた私は再びリヴェルークのことを考える。

 現在もゼウス・ファミリアの本拠地で眠っているであろう《覇王》。ロキから聞いた話ではあの隻眼の黒竜を()()へと突き落としたのはリヴェルークらしい。かつての英雄は己の命を代償にすることでようやく片目を奪って英雄譚として謳われている。それほどの功績だ。迷宮都市オラリオの住民達はリヴェルークの成し遂げた偉業を褒め称えるだろう。

 しかしながら、そんな偉業を成し遂げた本人であるリヴェルークが素直に喜ぶには出した犠牲が多過ぎた。

 

「ままならないな⋯」

「リヴェルークの性格上、自分自身を責めてしまうはずじゃからな」

 

 ガレスの言う通りだ。リヴェルークの性格を思えば、成し遂げた偉業よりも出してしまった犠牲に目を向ける。そしてきっと犠牲の多さがあいつの視点から見ると目立ってしまうだろう。

 きっと本人は成した偉業を誇れない。それなのに外野の私達が本人の気持ちを無視して褒めてしまうのは彼に対する一種の侮辱になる。しかし、自分勝手と言われても姉としては褒めてあげたい。『良くやった』と。『良く無事に帰って来てくれた』と。──故に『ままならない』と思ってしまう。

 そんな私の思考を打ち破ったのは私達を呼ぶフィンの声だった。

 

「ガレス、リヴェリア。ロキが話があるらしいから、今すぐ来てくれ」

「ガッハッハ、なにやら一波乱起きそうな予感がするわい」

「⋯ああ。わざわざ団長のフィンを使ってまで呼び立てるとは、余程のことらしいな」

 

 その予感は正しいのだと執務室で待っていたロキの悪巧みしている時特有の顔が雄弁に語っていた。

 

「今からやってもらいたいことがあるんやけどね、それは──」

 

 その表情を見てある程度の覚悟を決めていた私だったがロキが言ったことはそんな覚悟を嘲笑うようなぶっ飛んだ内容だった。

 

 

 

 

 ゼウス・ヘラファミリアについての報せは勿論とあるエルフの姉妹の耳にも入っていた。

 

「お姉ちゃん、リヴェルーク様は大丈夫だよね?」

「貰った魔道具の宝石の色こそ赤色ですが、砕けていないのであるならルークさんはすぐに起きるでしょう」

 

 ルークさんとの思い出は鮮明に憶えている。一緒にダンジョンに潜ったこと。より高度な戦闘技術を教えてもらったこと。バベルに買い物に行ったことなど。ルークさんには色々なことを教わってきた。それなのに私はまだ何も返せていない。

 貴方にちゃんと恩返しをしたい。それに、もっと沢山の事を私達に教えて欲しい。だからどうか元気な姿をまた見せて──。

 

「気になるならさ、一緒にルーク君の看病にでも行こっか?」

「団長は、ノリが軽過ぎるのではないでしょうか?それに今の状況では、私達でも建物に入れてもらえるかどうか不明です」

「そのことなら私に考えがあるから大丈夫だよ!ほらほら、神様的に言うならば『善は急げ』だよ!」

「お姉ちゃん、ここはアリシア団長に任せてみようよ」

 

 団長だけではなく心底行きたそうな顔のリュノにもここまで言われてしまったのなら素直に従っておく方が得策でしょう。ここで断固拒否してリュノをガッカリさせるのは私の望む展開ではありませんから。

 

「分かりました。しかし、決して騒いだりすることの無いように」

「分かってるよっ⁉︎全く、リューちゃんは私を何だと思ってるのかな?」

「⋯口で言わなければ分かりませんか?」

「くぅーっ、リューちゃんの冷たい瞳は破壊力がありますな〜。──ってごめんごめん、流石に病人の前では大人しくしてるよ」

 

 団長から言質を取れたので団長が騒げば遠慮無く静かにさせることが出来ると安心した私は、リュノと三人でゼウス・ファミリアのホームへ向かう──その道中で事件は起こった。

 

 ──ドゴォオオオオオオンッ──

 

『彼に会いたい』という願望を吹き飛ばすかのように突如地響きを伴って耳をつんざく轟音が鳴り響いた。原因不明の事態に混乱した住民達は冷静さを欠いて逃げ惑う。そんな様子を見て放置など『正義』を何よりも重んじているアストレア・ファミリアに所属する彼女達には出来ない。

 三人で手分けして住民達を音がしたのとは逆方向へと避難誘導した後に爆発音の原因を調べるために行動を起こす──のだが何故だか嫌な予感がする。何故なら音が聞こえた方向にある主な建物がゼウス・ファミリアの本拠地くらいだから。

 

「団長⋯⋯」

「⋯言わなくても分かってるよ。何でだろ、嫌な予感が止まらないね」

 

 辿り着いた場所はたった()()を除けばいつも通りの風景であった。普段ならば人通りの多いソコ付近には現在人影が全く見られないこと。それよりも何よりも普段と違ったのは──オラリオ最大規模を誇っていたゼウス・ファミリアの象徴たる豪邸と呼べるほどの建物が崩壊し十数人の冒険者が庭に倒れ伏している点だ。

 

「なっ⁉︎これは⋯酷い⋯⋯」

「──あっ⁉︎リヴェルーク様って、まだ意識不明だったよね?そういうことならもしかして⋯」

 

 リュノの呟きを聞いた私と団長は大声で彼の名前を叫びつつ瓦礫をかき分ける。──もしも。もしもこの大量の瓦礫の下に生き埋めになっていたら流石のルークでも無傷とはいかない。

 ケガ人の看病をリュノや応援に駆けつけたファミリアの皆に任せて手の空いた者と一緒に数時間かけてルークを探した。しかし──私達はルークを見つけることは出来なかった。




次章からはいよいよベル君の出番も!

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