リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

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今回は今までで一番多い五千字近くになりました。

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14話 英傑の墓場

 ──死屍累々──

 

 その戦場の悲惨な状況を言葉で表すのにこれ以上適切なものは恐らく無いだろう。むせ返るほどの血の匂いが充満する戦場に転がっているのは世界に名を馳せていた戦士達()()()もの。そんな凄惨な光景を前にリヴェルークは唇を噛みしめる。

 そして、その光景を目に焼き付ける。──己の無力さを悔やむ気持ちや仲間の無念をいつの日にか晴らしたいという思いと共に。それはまるで心に刻み込むかのようでさえあった⋯。

 

 

 

 

「【我が名はアールヴ──アヴァロン】っ!」

「⋯【妨げろ──ウロボロス・シールド】」

「【その祈りは天まで届く──アマテラス・ヘヴン】」

 

 俺と団長などの魔法で黒竜のブレスや爪、しっぽによる攻撃を防ぎヘラ・ファミリア団長の【アマテラス・ヘヴン】で使用した精神力(マインド)を回復する黄金パターンの繰り返し。単純だがそれ故に嵌れば強力。その作戦が功を奏して黒竜から受けた攻撃は未だにゼロ。しかしダメージを与えられていないのはこちらもほぼ同じ。

 リヴェルークの【アヴァロン】で氷柱を創り出し、それを駆け上がる形で黒竜に近付いて一撃離脱(ヒットアンドウェイ)を繰り返す。そこまではいいものの、先日屠った二体の怪物でさえ及ばないと言いきれるほどの強度な鱗があらゆる物理攻撃を通さない。

 更に反応速度がヤバすぎる為にそもそも鱗にさえ辿り着けない者が続出している。しかも《剣聖》のスキルで黒竜の弱点は目以外特に見つけられないのだが目に攻撃を当てることすら困難ときた。

 

「これじゃあ、膠着状態に陥って千日手になっちまうじゃねぇか」

「落ち着くニャ、分があるのは今のところこっちニャ〜」

「死地で余所見なんて、流石は《壊獣(クラッシャー)》クティノスさんと《白き風姫(シルフ)》セレナさん」

「そういうオメャーは、流石は《覇王》殿ってかニャ?」

 

 俺の皮肉なんてどこ吹く風といった感じで受け流されてしまった。話の掴みとして言った言葉だし別に流されたからって悔しくなんか無い。⋯無いったら無い。

 

「一つ試したいことがあるんですけどノリませんか?」

「ノッてやらんこともねぇけどよぉ──取り敢えず睨むのはやめろ。お前の睨みは迫力があり過ぎておっかねぇ」

「さっきの受け流されたのが悔しいのかニャ〜?ん〜?お姉さんに言ってみにゃ〜?」

「⋯セレナさんはこの死闘の後で覚えてて下さいね?まぁ、そんなことよりも俺の作戦は──」

 

 俺の脳筋作戦を聞いた単純な脳筋二人組は思い描いていた通り俺の作戦にノッてきた。──とは言いつつも『作戦』なんて言えるほど上等なモノなんかじゃないんだけどね。

 

「流石は世界唯一のLv.8にして、こと戦闘に限りゃあ頭のおかしさダントツ一位の覇王様じゃねぇかっ!」

「バカだアホだ鬼畜だリヴェルークだとは思ってたけど、やっぱりリヴェルークだったニャ〜」

「おいコラ、マジでお前ら二人共覚えとけよ」

 

 実際にこんな感じで単純脳筋戦闘狂阿保二人にさえ『イかれてる』みたいな言われ方しちゃったし。でもさ──仲間を守る為ならば俺はどんな狂人にだってなってやるよ。清濁併せ呑めなければ守れる者も守れないんだからな。

 それに、戦場で他人に頼ったんだから作戦内容を抜けばコレってかなり成長してるんじゃね?──というような何処ぞの姉が聞けば『むしろ悪化しているっ!』的な感じで怒りそうな思いを抱いていたりもした。⋯それから『リヴェルーク』は悪口じゃ無いと思いました。

 

「団長、ちょっとやりたいことがあるんですけど⋯」

 

 作戦実行許可を得る為に団長に話しかけたのだが、団長は何も聞かずに無言で首肯をするだけ。そんなことをされると──説明せずとも俺達を信じてくれる団長の信頼に何としてでも応えたくなる。

 

「ははっ、やっぱり俺って単純かもしれないな」

「気にすんじゃねぇよ、俺もアホ猫も同じ気持ちだ」

「アホ猫って言うニャッ!⋯でも、単純云々の話にはミャーも激しく同意だニャ〜」

 

 取り敢えず脳筋作戦開始だな。んでもって勝利の栄光を我らが団長に!ってな。

 

 

 

 

『グギャオオオオオオオオッ!』

「っ⁉︎いってぇなこのクソ野郎っ!リヴェルーク、再生頼むわ!」

「ミャーもお願いするニャ〜」

「【我が名はアールヴ──エデン】っ!んでもって、これでも喰らっとけや」

『グォォオオオオオオオオッ!』

 

 俺達の作戦はいたってシンプルなものだ。即ち──『黒竜が隻眼ならもう片方潰せばよくね?反応速度が馬鹿みたいに早いなら手足を犠牲にしてでも接近しつつリヴェルークの並行詠唱で再生させりゃよくね?』って感じ。

 コレ、頭のネジが2、3本は飛んでるとか思われても仕方無いかもしれないけどわりと使い慣れた作戦だったりするんだよな。実際に対海の覇王(リヴァイアサン)戦でも『再生すれば何とかなるさ〜』作戦を使ったし。

 

「つか、かなりの回数【エデン】使って突撃かましてるのに、未だに目を潰せてないというね」

「こうなりゃ、リヴェルークの()()()でも使っちゃうか?」

「んー、それも一つの手ではあるけどさ⋯」

 

 この状況でアレを使うのはあまり気乗りしないんだよなぁ。──そんな俺の躊躇が理解出来たのかどうかは謎だ。でも結果だけ見れば黒竜は俺が切り札を切ろうか考えた丁度その時にこの死闘を決めにきた。

 

『グルゥゥウウウウ──。』

「⋯おいおいおいっ!なんかあの野郎、チャージみてぇなことしてねぇか⁉︎」

「⋯防御魔法の使い手である団員は詠唱、それ以外は全員後ろに隠れろ」

「【我は望む万難の排除を我は望む万敵の殲滅を──】」

 

 団長みたいな第六感が無くとも俺が冒険者として何度も修羅場をくぐってきた経験が訴えている。──コレは絶対に避けれない。しかも、いつもの詠唱法では確実に間に合わない。だから高速詠唱してるんだけど練習以外で使うのメッチャ久し振りだ。そんでもって込める精神力は当然ながら残りのほぼ全部。

 

「【我が名はアールヴ──アヴァロン】」

「⋯【妨げろ──ウロボロス・シールド】」

「【その頑丈なるは聖なる光盾なりて──セイント・シールド】」

『グォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 ──ビキビキビキビキッ!──

 

『お前達の勝ち目など無い』という絶望を告げるかのように耳を塞ぎたくなるほど大きな亀裂音が鳴り響く。その音はきっと()()()()()だったのだろう。

 俺の【アヴァロン】で生み出した氷の壁を。団長の【ウロボロス・シールド】を。その他のメンバーによって編まれた防御魔法を。今まで皆を守ってきたそれら全てを嘲笑うかのように──赤い閃光が俺の視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

「ぐぁっ⋯うぁぁあ⋯⋯」

 

 全身が痛む。恐らくすぐに再生させないとヤバいレベルの損傷。しかし、胸に下げていたリューから貰った魔道具がボロボロになっていたのでコレでもダメージは減らされているみたいだ。

 何とか力を振り絞って()()()右腕一本で上体を上げて後ろを振り返ると──目に入るのは倒れ伏す仲間と血の海。

 

「【我が名はアールヴ──アヴァロン】」

 

 きっと誰かが生きていることを信じて俺は残りの精神力を振り絞り、無理矢理魔法の効果範囲を広げて再生を施す。すぐに先ほどは喪失していた自分の左腕と右足の感覚が戻った。

 

「誰か⋯⋯生きてるか?」

「⋯何とか生きているぞ」

 

 いち早く答えたのは団長。それ以外で立ち上がれた奴は俺を含めて僅か()()。五十人近くいた人数がその六分の一近くまで減らされた。全盛期を支えたゼウス・ファミリアのメンバーも俺以外で僅か三人しか生き残れていない。

 

「⋯リヴェルークは今すぐ奥の手を使え。クティノス、セレナの二人は俺と一緒に、リヴェルークの為に道を切り拓く礎となれ」

「ヘラ・ファミリアの残り全員もリヴェルークに賭けるぞっ!全員、その命を捧げろ!」

「なっ⁉︎そんなこと俺がさせるわけが──」

「リヴェルークっ!」

 

 俺の言葉を遮ったのはゼウス・ファミリアの一員になって()()()聞いた団長の怒声だった。それに続く言葉は無く。しかし、向けられる視線には痛いほどの信頼があった。──こんだけ俺を信頼してくれる団長やその仲間を信頼しないで俺は誰を信頼するんだよって話か。

 

「黒竜からの攻撃への対処は全て任せます。俺はただただ、黒竜を屠ることのみに専念させてもらいますね」

「⋯それくらいは任せろ。全員、気合入れろよ」

『おぉぉおおおおおーっ!』

 

 頼もしい仲間達の雄叫びを聞きながらも頭の中ではしっかりとイメージ──自分に巻き付く頑丈な鎖を強引に引き千切る──を膨らませる。実際に切り札である《限壊》を使用するのに特にイメージは不要なのだがルーティンとして行っている。

 この札を切ることを躊躇っていたのは使用時はステイタスが超高補正される代わりに仲間が視野に入らなくなるから。それは全ての意識を敵に注ぐ結果である。つまり黒竜の攻撃を凌いでくれている仲間達を認識出来なくなることと同義であり、仲間達の努力に対する最大の侮辱だと思う。──でも使おう。それでもいいと彼らが俺を頼っているから。

 

「──《限壊》、発動」

 

 リヴェルークの顔に複雑な紋様が浮かび上がる──と同時にリヴェルークは愛刀・切姫を構えた。狙いを黒竜一点に定めた獣はただソレのみを視界に収める。

 

「⋯全員、リヴェルークの道を切り拓け」

 

 その言葉を皮切りに今代の()()達が動き出す。黒竜のブレスを魂を削って編んだ防御魔法で防ぎ。爪を用いた振り下ろし攻撃を腕を代償に受け止め。尻尾による振り回し攻撃を身体で強引に逸らす。全ては自分達の希望──()()の一撃へと繋ぐ為に。

 

「ハァァァアアアアアアアアアッ!」

 

 戦場を一陣の風が吹き抜ける。拓けた道を駆けるのは希望。──身体が軋む。文字通り《限りを壊す》動きに肉体が付いていかない。それでもリヴェルークは止まれない。

 彼の目には倒れ伏し、腕をもがれ、吹き飛ばされる仲間は()()()()()()。不思議と攻撃が自分に当たらずに逸れているという結果のみが映る。それでも──信頼に応えたいという想いは何故か理解出来ている。

 一心不乱に戦場を駆け抜け。ブレスの影響で舞い上がる岩石を足場に空を駆け抜け。遂に黒竜の目前に辿り着く。

 

「古のモノよ、ここで散れ。抜刀一閃──【無間】」

 

 普段ならば生半可な集中力では失敗してしまう業。ソレをなんでもないかのように繰り出せるのも限壊の利点。タダでさえブッ壊れているのに更に超高補正されたステイタスが生み出す一撃は普段の比ではなく──。

 

『グギャアアアアアアアアアアッ⁉︎』

 

 黒竜の潰れていない方の目から上半身までを真っ二つに切り裂いた。

 頭から叩き切られて生きていられる生物など決して存在しない。故に──勝ったという感情が、獲物を屠った手応えから限壊が解けた為に無理をした反動で一ミリも動けないリヴェルークにも攻撃を防ぐことに専念して英雄に道を切り拓いた他の七人の英傑達にも芽生える。

 そんな想いを嘲笑うかの如く──夥しい黒い粒子が黒竜の上半身より発生した。不吉を予感するかのように立ち昇る黒い光の粒に誰もが言葉を失う中、おぞましい勢いで真っ二つになっている上半身がくっ付く。

 戦慄と絶望に襲われている八人の視線の先でただ一箇所()()()が再生されていない黒竜が姿を現した。

 

『グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 身体の一切が動かない。それどころか今にも意識が飛びそうな俺の視界を埋め尽くしたのは本日二度目の赤い閃光だった。流石の俺も死を覚悟したちょうどその時に俺の前に七つの人影が映る。

 薄れゆく意識の中で最後に俺が見たのは──こちらを笑顔で見つめる満身創痍の団長達の姿だった。




この作品は『黒竜無双』です。タグに追加しておきますが、黒竜のヤバさはマジパネェと思って下さい笑

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