リヴェリアに弟がいるのは間違いない事実だ   作:神木 いすず

12 / 39
ついに覇王対決が決着です。


12話 真の覇王

 ⋯うーん。一通り観察してみたが、やはり海蛇は俺のことを今まで狩ってきた連中と同列視しているらしい。いや少し違うな。──コレは認めたく無いだけか?絶対強者の己が俺のような小型生物を未だに仕留めきれていない現状を。

 相手が慢心してくれているおかげで俺にとっての致命傷を受けること無く海蛇に切り傷を与える目論見は成功している。しかし裏を返せば、それは俺の攻撃も傷を与えているだけで致命傷には至っていないということ。

 あいつは魔法攻撃を吸収するので物理攻撃限定になるが新武装の雪羅で漸く傷を作れるほどの頑丈さ。

 

「⋯いやコレ、マジで倒す方法一つしかなくね?あまりしたく無いけど、討伐のためにはするっきゃないよな?」

 

 外部からの攻撃がほぼ効かない相手を倒す方法──それ即ち、内部からめった斬りしてぶった斬って殺るしかなくね?⋯うん、それでいこう。脳筋とか言われそうだけど知らん。

 手足噛み砕かれても消化液に溶かされても再生すれば良いだけだ。一番マズイのはこのままズルズルと長引かせて俺の精神力(マインド)が枯渇してダウンしちゃうことだし。ダウン中に喰われて死亡とか一番ダサい結末だ。

 

 

 

 

『グギャァアオオオオオオオッ!』

 

 ──彼は勝利の雄叫びをあげる。遂に!遂に!あの忌まわしき生物を丸呑みにする(仕留める)ことに成功したぞ!──と。

 ここまで時間にすると数時間ほどだが戦闘の密度が濃かった為にもっと長い間殺し合いをしているような気になっていた。しかし、それもここまでだ!あの生物はもうこの世に存在しないのだから!

 あんなに激しく動き回っていたくせに急に動きを止めて大人しく喰われたのには謎だがこれで終わりだ。

 故に──彼は酔いしれる。黒い竜とは違って格下の存在でありながらも自分を苦戦させた標的を仕留めたことに歓喜する。

 彼は気付いていない──破滅への爆弾(トロイ)が既に運び込まれてしまっていることに。

 

 

 

 

「【我が名はアールヴ──アヴァロン】」

 

 一度の呪文で二つの工程──胃液の凍結と適当な物を燃やすことで灯りを確保──を行う。胃液をそのまま放置しておくと溶かされそうだし。⋯つーか現に、この場に着いた時から周りの固形物が徐々に溶けてるのが見えるし。

 それにしてもここまで上手くいくとは流石に思ってなかったわ。強引に口を開けさせて自分の体を押し込んで内部侵入という最終手段も考えたほどだが『生まれながらの強者』などと謳われている海蛇にとっては口に入ったモノ全てがエサでしか無いのだろう。

 

「まぁ、そのありようが俺の勝機に繋がったから感謝だな。自分の反面教師として、怪物ながらも一生心に刻みつけておきます」

 

 ──強者を殺すのは強者故の慢心だというのは世の常だということを。

 

「─────フー、ハァー」

 

 何度も深呼吸をして集中力を極限まで高める。雪羅は鞘に納めたまま。これから放つのは俺の最高の抜刀術。

 しかしながら、集中力が散漫になると《剣聖》たる俺でさえ成功率が極端に落ちる技。邪魔者がいない怪物の腹の中(この場所)だからこそ極限まで集中力を高めることが出来る。

 

「抜刀一閃────【無間】」

 

 ──その一閃は音を置き去りにする超絶技巧。距離という概念を喰らうような飛ぶ斬撃を打ち出すという俺の持ち得る中での最強の抜刀術。

 ズババババッという地が割かれる音が響いた時には、その一閃は海蛇の前方方向の腹を内部から真っ二つに斬り裂くにとどまらず、更に後方の大地に百メートル以上にも及ぶ裂け目を刻み込んでいた。

 斬り裂いた場所から外に飛び出した俺は未だにこちらを殺す気で睨んでいる怪物と目が合った気がした──と同時に、この瞬間で仕留めなければヤバイという根拠の無い恐怖に襲われる。空中に散らばった肉片を足場にして海蛇の頭部付近まで一気に近付く。

 

「神技──【死響】」

 

 超高速詠唱で唱えた雷魔法を併用することで使える業。振るわれる刀の速度は《海の覇王》ですら見切れず、故に何度振るわれたか正確な数は分からない。

 分かったのは──自分が斬られたということ。次いで感じたのは身体が切り削がれた時に生じる身を蝕む激しい痛み。

 ──新武装・雪羅が振るわれたのは四度。しかし、たった四度の太刀筋にも関わらず見切れないほどの速さ。一度目で海蛇の最後の足掻きである魔法を斬り裂き、二度目で脳天をかち割る。三度目にはその切れ込みを利用して左右に真っ二つにし、四度目で腹を完全にぶった斬る。

 それ以上はオーバーキルになると判断したので四度で十全。それで死闘は終結した──。

 

 

 

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯グフッゲホッ」

 

 なんとか呼吸を整えようとして失敗した俺はなんとか気合いで身体のダルさや身が千切れそうな痛みを我慢し、改めて()()に目を向ける。

 俺の視線の先にあるのは──死して尚、異様な威圧感を放つ怪物。死闘時は集中し過ぎてあまり気にしなかったが糸が切れた時にコイツを見ると『よく勝てたな』と思う。

 ──決して楽な戦いではなかった。魔方面では日頃陥ることは早々無い精神疲労(マインドダウン)一歩手前まで追い詰められた。近接面では新調した雪羅を大分消耗させてしまった。

 

「それより⋯かなり⋯⋯限界」

 

 自分の傷を魔法でしっかり癒したところで迎えたのは──精神疲労。遠くで自分の名を叫ぶ多くの声を微かに聞き取りながらも俺は襲ってきた疲労の波に身を委ねた。

 

 

 

 

「リヴェルークは無事か⁉︎お前ら全員、リヴェルークを探し出せっ!」

「副団長!あそこの小高い丘から北方に巨大な物体を確認出来ます!」

「⋯全員、周りに注意しながら北方に移動開始」

 

 ゼウス・ファミリアの《神域の盾(団長)》の号令を合図にファミリアのメンバーは注意を払いつつも各々の全力で北方に走り出す。

 そんな彼らが遠目で視認する事が出来たのは──()()()()()()()怪物たる《陸の王者(ベヒーモス)》に勝るとも劣らない怪物と、フラフラで今にも倒れそうなリヴェルークの姿だった。

 

「リヴェルーク、無事か⁉︎」

 

 叫び声が聞こえたのかは分からないが一瞬こちらに目を向けたかと思うと、次の瞬間にはその場に崩れ落ちてしまった。

 

「リヴェルークっ⁉︎──お前ら、回復魔法の並行詠唱開始!」

「⋯ポーションもありったけ用意しろ」

 

 騒ぐ団員達に俺と団長で指示を飛ばす。⋯取り敢えず回復魔法を施したがそれを眺めている団長が嬉しそうで寂しそうな表情をしているのに気が付いた。

 

「団長、何か思うところでもあるんすか?」

「⋯クティノス。俺達の自慢の息子は、更に遠くに行ってしまったかもしれない」

 

 ──それが嬉しくもあり、離れていくことが寂しくもあり、と団長は続けてそう述べた。

 

「どんなに遠くに行っても、あいつはあいつだろぉよ。今はあいつの偉業を素直に褒め称えときゃ良いんすよ」

 

 その方が単純で良いだろ?とイタズラ気味に笑いかければ団長も笑ってくれた。──未来のことなんか知らねぇ。今はただ自慢の息子を誇って褒めてやるだけだ。




愛刀・切姫は不壊属性なので、切れ味とかは新武装の雪羅の方が上なため、この死闘ではそっちを使っています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。