それと今回は短めです、申し訳ありませんm(_ _)m
──見渡す限り一面が血のような赤色。そこは《死海》と呼ばれている場所。その海が何故死海なのかと聞かれれば答えられる理由はたった一つ。
その為に風に乗って漂ってくるのは塩の匂いを完全に掻き消すほどの強烈な腐臭。
「⋯凄い匂いですね。それにこの浮遊物は、もしかしなくても死骸ですか」
道中で拾った木の枝でツンツンッとつついてみたがまるでゼリーのように柔らかいブニュッとした感触がする。正直に言うとかなり鳥肌が立った。
「この惨状を作り出したのが、他ならぬ
目の前と言っても少年の立つ位置──死海の一部を凍らせた足場──から数百
それよりも何よりも無視出来ないのはその圧倒的な威圧感。《覇王》の異名を取る少年が久し振りに
「見た感じで言うと、竜と言うより蛇と言った方が良さそうですね。もうこいつの呼び方なんて、海蛇って感じで良いですか」
相対する少年の表情に悲観の色は微塵も無い。しかしながらそれは当然のことだ。──リヴェルーク・リヨス・アールヴはLv.8の冒険者である。冒険者歴こそ短いものの、その短期間で世界最高に上り詰めるほどに修羅場を数多く経験してきた。その過程で、死の予感など何度も味わった。
『グギャォォオオオオオオオオッ!』
何故か背筋に悪寒がしたので警戒度を強めた直後。海蛇は数百Mほど離れている状況で俺の存在を感じ取ったらしく、こちらに向かって
「【我が名はアールヴ──アヴァロン】」
その程度で動きを止めるほど覇王も甘くは無い。敵のブレスを新武装の雪羅で切ってかき消して並行詠唱していた魔法を完成させる。
並みの術者なら倒れかねないほどの莫大な魔力を消費して生み出したのは──夜空を覆うかのように浮かび上がる色鮮やかな槍。それですぐさま反撃に転じた。
様々な属性で形作られた数百の槍は術者の少年の意思で海蛇へと一斉に降り注ぐ。その魔法は槍自体の持つ威力と重力で増した速度が重なり合って階層主をも屠るほどの技となる。迷宮内では無く外だからこそ出来る芸当だが、ヒュッと空を切る音を連発させて降り注いだ槍は──。
『グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
しかしながら、海蛇に傷を付けることすら叶わなかった。それどころか放った槍の魔法が吸収されてしまったかのようにかき消えた。しかもこいつ──。
『───────グオオォォオオ。』
──俺の魔法を打ち消した途端に放つ威圧感が更に増してるな。
「まぁ、そんなことは関係無い──っ⁉︎」
──あっっぶない!あの海蛇、さっきよりも威力の強い氷の息吹を吐いてきた!
俺はなんとか避けたが、正しくは避けざるを得なかっただけ。先ほどのように雪羅でかき消そうとしたが避けてなければ恐らく凍死していただろう。
これはどうやら伝承通りの能力──魔法攻撃吸収を持っているとみて間違い無いな。尾ひれがついた伝承が広がっただけだと疑っていたので少し実験してみたが結果はご覧の通り。
だとすると面倒だ。魔法攻撃を当てるとその分強化されてしまう。それ即ち攻撃方法が自ずと物理攻撃に限定されたようなものだ。
⋯この巨体相手に純粋な近接戦とか、かなり骨が折れる作業になるよなぁ。──まぁ負けるつもりは更々無いけどね。勝つ為ならば文字通り
☆
海の覇王の心は荒れに荒れまくっていた。心を荒らしている原因は相手への驚きと己への怒り。
海の覇王──ここより先では《
いや、少し話を自分の良いように盛り過ぎた。──アレは闘いにすらならなかったと断言出来るほどの
しかし、それ以外に彼が敗北を喫したことは一度たりとも無いのもまた事実。ダンジョン内部にいた時から喰いたいモノは気がすむまで貪り尽くしたし気にくわないモノは破壊の限りを尽くした。
それ故に、彼は現状が飲み込めずに驚いている。
──何故この脆弱で矮小な生物は手足を喰い千切られても治すことが出来るのか。
──何故恐れを抱かず死地に身を投じることが出来るのか。
それ故に、彼は現状から己に対して怒りを覚える。
──何故この脆弱で矮小な生物の心を未だに折ることすら出来ずにいるのか。
──何故この生物を未だに殺すことが出来ずにいるのか。
⋯もしもこの時、彼が傲慢さを棄てて勝利するための工夫に思考を割いていればこの死闘の結末はまた違ったものになったのかもしれない。
何故なら現在、地の利があるのは海を住処とする彼の方であるのは明白だから。──覇王が海の中に引きずり込まれることに最大の警戒をしているほどに。
そんな
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