編集して、オリキャラの容姿についての説明を入れました。
1話 少女の誓い
迷宮都市オラリオ。そこは広大な地下迷宮、通称《ダンジョン》を中心として栄えている。
そんなダンジョンの地下
男性の容姿を見れば冒険者について余り詳しく無い者でも驚くであろう。何故ならその男性はゼウス・ファミリアが誇る最強戦力にして
見る者全てを魅了する儚げな容姿とは余りにも似つかないような強さを誇る冒険者であり、今代の英雄として迷宮都市オラリオどころか世界中にその名を轟かせている人物その人なのだから。
「⋯それにしても、
ゼウス・ヘラファミリア共同によるダンジョン遠征で製作された地図は59階層まで。にも関わらずこの男性が一人で60層にいるのは主神と団長以外の誰にも明かさずにこっそり潜っているからだ。
《覇王》という異名を取るLv.8の彼にとって第一級冒険者以外も参加する遠征は正直退屈なものでしか無い。彼自身が強過ぎることもあり基本的に彼は後衛部隊の援護に努め、あわや死人が出るというピンチの場面でのみ暴れて良いと決められている。
それ故、何処かで溜まりまくった鬱憤を晴らす必要がある為に主神と団長は彼に《一人遠征》と呼ばれる自由行動を許していた。
では何故地図は59階層までしか無いのか。それは単純に一人遠征で共同遠征より成果を出されると他の団員の士気が落ちる恐れがあるからだ。
考えてみてほしい。自分達が必死な思いで辿り着いた59階層よりさらに上の階層に、同じファミリアとはいえたった一人で憂さ晴らしで到達されたら。自身の頑張りが惨めなものだと思う者が出てくるかもしれない。それを避けるために地図の製作が禁じられている。
──まぁそれ以外にも、強さを求める彼について行けるほどの強者が殆どいない為に彼が強くなるには一人遠征が必須であるとも言えるが。
それは今は置いておこう。先ほども話した通り、一人遠征の本当の事実を知っている者はオラリオに二人しかいない。そのはずだったのだが──。
「気がかりなのは、あのフェルズとかいう奴が何故一人遠征の詳細を知っているのかですね」
黒いローブに身を包んだフェルズという人物は何故か詳細を知っていた。それどころか『秘密にしてあげる代わりに60層以上にいるモンスターの魔石いっぱい頂戴』なんて巫山戯たことを抜かしやがった。
あいつが誰かの指示で動いているのかがわからない以上は大ごとになりかねない口止めという手段は使えない。詳細を第三者に知られたことがもしバレたら、しばらくダンジョン出禁になりかねないしそれだけは絶対に避けなくては。
別に魔石はそこまで必要では無いし、仕方無く。ほんっっとうに仕方無く依頼を受けてやった。元々一人遠征をするつもりだったのでそのついでってやつだ。
「魔石はこんなもんでいいでしょう。そろそろ帰らないとゼウス様が心配しそうだし、戻るとしましょうか」
☆
ダンジョンの14階層。そこで俺は偶然にも同族の友人に出会った。
「アリシアさんじゃないですか。こんな所で何してるんですか?」
「やぁ、ルーク君!私はアストレア・ファミリアの期待の新人の付き添いだよ。」
迷宮都市オラリオで違法行為を取り締まっているアストレア・ファミリア。そんな正義のファミリアの団長であるLv.4の第二級冒険者、《正弓》アリシア・ティルフィ。
腰まで伸ばした長い銀の髪が動くたびに揺れ動くさまは美しく、切れ長の目は凛々しさを感じさせる。瞳の色は俺と同じ赤なので少し親近感が湧く。
彼女はハーフエルフということもありエルフの里では蔑まれるか空気扱いのどちらかという非道な扱いを受けていた。その為、エルフの王族であるリヴェルークを初めは一方的に嫌っていたがリヴェルークが全く差別意識の無い変わり者であることを知り、ようやく談笑出来るような今の関係になった。
昔からそういう扱いしかされていなかったこともあってハイエルフに対し何ら尊敬の念を抱いていないので、リヴェルークに対してタメ口で話しかけられる数少ない同族の一人だ。リヴェルーク自身はそういう気軽に話せる同族の友達が欲しいと思っていたので彼女の存在は大変貴重である。
そんな彼女が指さす方に顔を向けると、これまた自分と同じエルフの少女が見事な並行詠唱を駆使してモンスターを屠っていた。
「おおっ、凄いですね。俺と大して年が変わらないのに、もう並行詠唱を使いこなしているんですか」
「⋯そう言いつつ、ルーク君はもうLv.8だけどね。それに、もっと幼い頃から余裕で並行詠唱が使えたくせに」
それはそうだろう。これでも俺は王家の歴史上で最も優れたハイエルフなんて言われていた。つまり俺は
まぁそう言われるとはなんとなく分かっていたから取り敢えず話を逸らしておこう。
「ジト目で睨まないで下さい、そんなことをしても可愛らしいだけですよ」
「んなっ、可愛らしい⁉︎可愛らしい、かぁー。⋯って、そんなことハッキリ言わないでくれる⁉︎」
「すいません。⋯彼女って、この前ランクアップしたLv.2の子ですよね?」
「知ってたんだ。また話を逸らされた気がするけど、まぁいいかな。よし、特別に彼女の自己紹介を聞かせてあげよう!──おーい!ちょっと休憩にしようか、こっちおいでー!」
──ああ。これはただ単に逸材とすら言える彼女を自慢したいだけだろうな。しかし、その気持ちは分からなくも無い。彼女のことはゼウス・ファミリア内でもかなりの話題になっている。Lv.2へのランクアップに要した時間が一年という、俺に次ぐ歴代二位の驚異的な速さの少女。確か名前は──。
「こっちが私の友人で、こっちが自慢の後輩!」
「初めまして。リヴェルーク・リヨス・アールヴと申します」
「──リュー・リオンです」
☆
私は団長のアリシアさん同伴の元、ランクアップで上昇した身体能力の確認のためダンジョンに潜っていた。私一人で敵を倒しつつ進み何事も無く14階層へ到達して、並行詠唱の実践練習をしていた時に
「おーい!ちょっと休憩にしようか、こっちおいでー!」
団長の呼ぶ声がした方へ向かうと団長の側に
「こっちが私の友人で、こっちが自慢の後輩!」
「初めまして。リヴェルーク・リヨス・アールヴと申します」
「──リュー・リオンです」
私達エルフの王族にして、私が冒険者になる決意をする
私がまだエルフの里にいた時には既に彼とその姉の名を知っていた。冷静沈着でオラリオ最強の女魔法使いである姉の《
私は弟のリヴェルーク・リヨス・アールヴ様に憧れた。エルフなのに剣技や体技では他の追随を許さないほどの圧倒的な完成度。私と同じくらいの年齢なのに活躍し、世界中に名を轟かせている彼を尊敬した。
でもそんな情報は、彼のことをもっと知りたいという興味こそ私に湧かせたがオラリオに来ようという決意を私に湧かせることは微塵も無かった。
「そういえば、ルーク君はもしかして一人遠征の帰りだったのかな?」
「その通りです。後は強敵を倒せばランクアップ出来るので、そんな敵がいないか探してました」
──これが、私がオラリオに来た理由だ。彼の数多くの伝説とそれに伴うランクアップの世界最速記録でエルフの里が賑わっている時に私だけが感じたこと。それは──彼がいつも
あらゆる階層主や強化種の
私の母も昔はオラリオにいたようで『ダンジョンは危険だから冒険者は皆パーティを組むものだ』と何度も言っていた。そうやって仲間同士で支え合うことが大切なんだと。
では、彼を支えてくれるのは誰?確かに彼の所属するゼウス様のファミリアや同盟を結んでいるヘラ様のファミリアは大規模だけど、彼と同等の強者の存在は聞いたことが無い。──彼には戦場で隣に立って支えてくれる仲間がいない。
「ルーク君は確かに強いけどさ、一人遠征なんて無茶な真似を良くゼウス様や団長さんが許してますね」
「⋯私には同格の強さを持つ仲間がいませんからね。自分自身が強くなる為には、どうしても一人になってしまうんですよ」
そう言って寂しそうに笑う彼を見て私はつい言ってしまった。分不相応で笑われてもおかしくないようなことを。
「わ、私がいつか、貴方の隣で貴方を支えられるほど強くなってみせます!」
☆
「ようやく地上に戻って来れましたか」
あの後、俺は彼女──リューやアリシアさんと軽く言葉を交わして地上へと続く道を駆け抜けた。柄にも無く興奮していることが自分でも分かる。きっとリューが俺に言ってくれた台詞の影響だろう。輝かしいほどに真っ直ぐな瞳と、かけられた言葉を思い出す。
「俺を支えるほど強くなる、か」
自分の派閥の仲間は全員が年上だが、それでもそんな言葉をかけられたことは殆ど無いし同年代からかけられたことなど当然ながら皆無だ。──だからだろう。俺は普段ならば流すことが無いような嬉し涙を僅かに流してしまった。⋯今度会った時、アリシアさんには多分そのネタで弄られるんだろうな。
「はぁ。こんなことを考えていても憂鬱になるだけですね。さっさとホームに帰って、シャワーでも浴びてさっぱりしましょうか」
この感情の昂りも知られるわけにはいかないな。だって弄られるから。
それに、リューの立てた目標は俺とアリシアさんだけが知っていれば良い。俺は誰にも言うつもりは無いし、アリシアさんにも決して他言させない。彼女の美しい誓いは他の何人にも汚させない。だから──約束が叶う時を楽しみに待っていますよ、リュー・リオン。
作者はリュー・リオンが一番好きなので、リューの登場が多くなると思います。
リュー目線でのリヴェルーク推察は、リヴェルークへの尊敬などが多分に含まれており少々大げさなところがあります。
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