なんだ?
上手く頭が働かん。
生きてるのか?
「うわああああ!やめろおぉー!」
あいつの悲鳴が聞こえてきた。
同種の悲鳴に本能的に危険を感じたのだろうか?
一気に思考が覚醒する。
目覚ましとしちゃ最悪の部類だが、効果が高いのは認めざるを得ないようだ。
だが何故奴はあんな行動を?
そもそも装甲を破られたら破られた場所に急行して内部への進行を防ぐのが定番で、その為の準備を誰よりもしているのが防衛班だ。
このアラガミどもはゴットイーターと一戦交えたか、戦っている仲間の横を通り抜けたか、どちらかの可能性が高い。
その直後にゴッドイーターとよく似た生物が物陰から飛び出してきたら不意打ちを警戒するのは当然だろうに。
俺が弱くても次はゴットイーターみたいな奴が出てくるかもしれないと思うだろうからな。
コンゴウを含む複数のアラガミに臨戦態勢で警戒されたなら、ただの人間には隠れるなんて無理ゲーもいいところだ。
自ら一番死にやすい選択とはな。
まぁ、そもそも自殺志願者だし不思議でもないか。
さて、俺の方はっと。
俺が生きてる辺りオウガテイルはクッションになってくれたのかね?
周りに見当たらないし死んでないにしても暫くは動けないと見ていいかな。
となると問題はコンゴウだが。
そのコンゴウさんは俺には対して興味がないご様子。
気が変わる前に視界から外れたいところだが。
・・・なのだが。
どうにもうまく立てねえ。
なんだ?
腕が短いっていうか無いのか?
ちぎれたのかね、こりゃ俺もやばいかもしれん。
それでも時間を稼げば救護班が間に合うかもしれない。
止めを刺されないように逃げよう。
・・・?
走り方がおかしい。
なんて言うか倒れた状態から走り出そうとすると前傾姿勢になり過ぎてまた倒れたりするもんだが、今はそのまま走れている。
むしろしっくりくる。
骨格から歪んでるのか?
それにしても走れないならともかく走りやすくなるなんてあるものなのか?
丁度よく後数歩の位置に窓ガラスがある。
悠長に状態を確認する暇はないが、全体をざっと見るくらいはしてもいいかもしれない。
・・・オウガテイル?
俺がか?
窓の向こうにじゃなくてか?
ちょっとガラス割ってみよう。
俺の頭は甲殻に覆われているしそもそもオラクル細胞だし怪我はしないだろう。
頭突きでいいか。
頭突きで呆気なくガラスは割れ、俺は傷一つ負う事もなかった。
ガラスの向こうには何もいない。
俺がオウガテイルの姿をしているってことで間違いなさそうだ。
ん?
何故だろう、自然に頭突きをしていた。
普通は破片で怪我しないか躊躇うもんだが。
これはどういう事だ?
突然コンゴウの怒号と爆発音が聞こえてきた。
割と近く、さっきのコンゴウで間違いない。
人間側の増援か?
この見た目じゃアラガミごとぶっ殺されちまいそうだ。
こんな鉄火場では弁解する暇もない。
一先ず逃げよう。
今は割と静かになってしまっているが、最初に騒がしかった辺りを目指そう。
多分、そこの近くに装甲を破られた部分があるはずだ。
取り合えず穴が見える場所までは行くことができた。
しかし、ここから先はかなり難しそうだな。
ゴッドイーターが二人張り付いている。
通常の歩兵もいる。
これがゴッドイーターだけで、外から穴を目指すアラガミと交戦中とかだったら後ろから不意打ちして後は走り抜けるのも手だったんだが・・・
装甲の高所に設けられた見張り台にいる奴、穴を何やら粘土みたいなので埋める奴、それを護衛する奴。
単純に目が多すぎるし、一人二人食っても大した意味はない。
ある意味ゴッドイーターより厄介かもしれん。
これは見つからずに行くのは難しいな。
できれば外から新しく仲間が来るのを待って挟撃をしたいところだが、襲撃が始まってそこそこ時間がたっているはず。
もう近場の奴は品切れだとかで、追加は時間がかかるのかもしれない。
そうしている間にも穴は小さくなっていく。
・・・ん?仲間?
いや、不意打ちだの食っても意味はないだのなんかアラガミ側に引きずられてないか?
まあ最も生き残って繁栄するものは最も適応したものであると言うし、体がアラガミになっちまった以上アラガミの生き方に合わす事を考えないでもない。
しかしこれは、乗っ取られることを警戒すべきか。
でも乗っ取ったのは俺の方か?
うん、とりあえず後回し。
とにかくこの場を切り抜けて生き残ってから考えよう。