俺が一番可愛い 作: マイ天使GXⅢ
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「うん、俺ってば超可愛い。寝ぼけ眼も最高だ。眠そうな半目と、寝癖ではねた髪が間抜けでそこがまたそそる。いつものキッとした鋭い視線と無表情な顔とのギャップが素晴らしい。
そしてその愛らしい姿に口元が緩む姿がまたキュンとくる。あー、もう何しても可愛いな俺って奴は」
燕は転生後すぐに自分がTS転生者であることに気が付く。そんな趣味のない燕はそれはもう項垂れ、泣いた。
しかし、小学生五年生の年齢に達した辺りで自分が美少女であることに気が付いた。しかも彼の好みであった"格好良いクール系の美少女"だ。このまま成長すればイメージは氷とかいう格好良い美女になるに違いないと確信するほどである。それからは着せ替え人形のように自分を着飾る日々が続いた。
その結果、普段はボーイッシュな服を着る男勝りという設定をつくり、たまにロリロリなふわふわファッションに身を包み、慣れない恥ずかしさで顔を赤め、それを誤魔化すためにキッと睨み付けるという高等技術まで会得するほどになった。
「――良い」
小学六年生となった燕は新たなクラスで一人の少女を見てそう呟いた。
何が良いかというと容姿が良かったのだ。燕の転生した世界は何かと容姿のレベルが高い。それこそ不細工という言葉が性格に向けてしか使用できないほどに皆が皆、整った容姿をしていた。しかし、燕は転生者故にその高水準を軽く凌駕する容姿の持ち主である。燕の通う学校においては一番と言っても過言ではない。
「何言ってんの? 燕たんが世界最強の美少女なのは当たり前だろ!」
と、このように本人もそれを自覚している。ナルシストと端から見れば嫌味なやつだが、そこは安心転生者。燕に不利になるようなことは本人が失敗しない限り訪れない。良くある転生とはそういうものであり、燕のそれもテンプレである。それに彼の燕へのキャラメイキングはちょっとやそっとで崩れるようなものではない。
百々のつまり、何が言いたいかというと燕と並び立つ者がいなかったのだ。となると、やはりファッションショーや撮影会は燕単体となる。無論それだけでも彼を刺激し萌えさせたが、やはりマンネリというものがある。もう一人加えて百合百合しいファッションショーや撮影会をしてみたいという願望があった。しかし叶わず。そんな中で現れたのが燕が「良い」と判断した少女、凰 鈴音であった。
「……しまった」
燕は鈴とファッションショーや撮影会を行うため、早速接触を行おうとした。無難に自己紹介を交わし、遊ぶ約束をして、普通の小学生のように振る舞い友好を深めていく。そしてお楽しみである。そう考えたがやめた。燕のキャラはクールキャラ。自ら輪を広げるのは違う気がしたのだ。そも、キャラを考えるのであればファッションショーを行うのもおかしな話である。なので鈴を引きずり込もうとすれば、あっちからの接触を待ち、自然な形でファッションショーと悟られぬようにそれを行わなければならず、その難易度の高さに彼は枕を濡らした。
「はぁ……可愛いなぁ……燕たん今日も可愛いよぉ」
翌日には燕たんは一人で十分可愛いからそれで良いと立ち直った彼は何時もの如く鏡の前で、危ない発言をしながら顔を蕩かしていた。
「行ってらっしゃい燕」
「ん、行ってくる」
早起きをしてたっぷり一時半もの時間をそれに費やし、燕は登校した。自分の教室につき、席に座った燕は本を取り出して、周りを遮断する。クールキャラは主要メンバー以外には心を開かずというテンプレに従ったものだ。残念ながら主要メンバーは未だいないのでボッチである。ボッチであるが美少女なので問題はない。それだけで絵になる。美少女ずるいな、と心で思いながら自身が今その美少女であることに笑みが溢れた。僅かな微笑みだったがその笑顔に落とされる男子数人。普段の無表情からのそれは破壊力抜群であった。
「……」
その日の放課後からだろうか、燕への小さないたずらが始まった。気になる子にいじわるというアレである。可憐でクールな燕だがまだ幼く、そのいじわるは精神にダメージを与え――なかった。当然である中身は変態だ。逆に燕の人気の高さに喜んだ。むしろなんでこれまでなかったんだと怒っていた。
「あんた達やめなさいよ!」
そんな日々はしばらく続き、いじわるはいじめに変わった。とはいっても小学生レベルの可愛らしいいじめなので燕は特に気にも止めなかったのだが、周りはそうではなかった。
ある日、ついに正義感にかられた何時か燕が目をつけた少女、鈴がそれを行っていた男子にキレたのだ。
それからは良くある展開である。鈴が男子を言いくるめ無事解決、鈴と燕は友人となった。一応は一人でも満足していた彼だったが、やはり二人でというのは捨てきれないのでこの状況を喜んだ。
勿論、全て彼の思惑である。
なにせ彼は転生者、この程度造作もない。いじわるまでは偶然だが、それからは鈴が接触してくるように、周りにはいじわるの存在を完璧に隠し、鈴にだけその存在を匂わせていたのである。あとは正義感の強い鈴が釣れるのを待つだけの簡単な作業。見事に成功した。
「じゃぁ、行きましょう燕!」
「ん」
そして鈴と燕はほぼ毎日遊ぶようになる。タイプが違うので基本的に鈴がはしゃいでそれを燕が見守る感じだったがそれも絵になるので彼は喜んだ。
しかし、残念なことに一つ誤算があった。確かに鈴は燕を助けたがそれは一人でやったことではない。そう、鈴は彼女の思い人である織斑一夏を助っ人としていたのだ。
「それ重そうだな、俺が持つよ」
それはつまり鈴と燕の関係に織斑一夏も入るという訳であって。織斑一夏は男であり、ということは百合百合しなくなるわけで。
彼は心の底からこう叫んだ。
――テメェはいらねぇよ織斑ぁ!
(´・д・`)