【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はミラクルシャインとは別の視点から物語をお送りします。いやはや、ようやく『視点がコロコロ変わる』のタグが詐欺じゃなくなりました。良かった良かった。



8.1日目 なのだ先輩班(1)

 

 

 ☆星井ミク

 

 星崎沙夜(さや)は今をきらめく女子高生だ。文武両道を体現し、学校のテストではいつも10位以内に入っているし、バスケ部ではエースとしてチームを引っ張っている。容姿にも恵まれており、人当たりもよく。いつだって沙夜の周りには男女関係なく人だかりができる。リア充。勝ち組。カースト上位。そんな言葉がよく似合う、それが星崎沙夜だ。

 

 しかし、当の沙夜は己の人生に辟易としていた。ただ一人ベッドでのんびりまったりゴロゴロしていたいのが沙夜の本性だ。沙夜の本質は、怠惰なのだ。

 

 だが、優秀で高学歴な両親から猛勉強を強いられ、幼い頃から沙夜はひたすら勉強を続けてきた。幼稚園受験、小学受験、中学受験、高校受験と、量も質も追及する両親の下でただ盲目に勉強をすることを求められた。同時に、専属のスパルタなインストラクターの下でどんなスポーツにも順応できるような体作りを強制され、人間関係は将来の武器になるとして、一人でも多くの友達と縁を紡ぐことをノルマとされた。

 

 両親は少しでも星崎沙夜がより完璧な人間となり、世の勝ち組になれるように、沙夜が幸せになれるように沙夜に様々な努力を強いた。しかし、そこに沙夜の意思は、どこにもない。沙夜は知識欲から勉強を始めたわけじゃない。体を動かしたくてスポーツを頑張ったわけじゃない。狭く深くな交流でよかったのに、広く深くな交友関係を無理強いされる。

 

 沙夜は努力に辟易としていた。頑張って勉強して、スポーツで好成績を収めて、皆の人気者になって。それで所詮、何が得られるのか。少なくとも、沙夜の求めるベッドでゴロゴロ生活は遠ざかるばかりだ。

 

 将来楽をするためだと必死に言い聞かせて今まで努力を継続してきたが、努力に終わりは見えない。今、努力していい大学に合格しても、さらに高度な勉強が待っているのだろう。大学を乗り越えても、今度は社会人の勉強が待ち受けている。勉強。勉強。勉強。高収入を得るには。両親の望む勝ち組人生を送るには。ずっとずっと努力し続けられないとダメなのだ。そして、沙夜の怠惰な本質は一生努力することに向いていなかった。

 

 そんなある日。友人から勧められた魔法少女育成計画にボチボチ取り組む中で、沙夜は本物の魔法少女になることができた。この時、星井ミクというもう1つの姿を入手できた沙夜に生まれた感情は、やっと絶好の逃げ道ができたという歓喜だった。

 

 今までの人生は仮面を被って、いい子で居続けた。両親に失望されないため。友達の期待を裏切らないため。本当の自分に背を向けて、蓋をして生きてきた。が、そんな生き方はそろそろ限界だと本能が告げている。だから。耐えられなくなった時。もういい子ちゃんを演じられなくなった時。何も言わずに失踪しようと心に決めた。

 

 魔法少女は失踪に欠かせない要素だ。何せ、魔法少女になってさえいれば餓死しない。顔も別人だから、誰も星井ミクを星崎沙夜だと気づけない。これまでの人生で築いた煩わしい人間関係を完全に断ち切れるのだ。やたらと目立つコスチュームは着脱可能なため、普通の女の子としての着替えさえ用意していれば、どこへだって行ける。衣食住の内、食事を気にしなくていいのなら、後は服と住居を得られる程度のお金を細々と稼ぎさえすればいい。それで、沙夜がずっと望んできたダラダラ生活が手に入る。

 

 傍から見れば、沙夜は相当な親不孝者だ。主に親のせいでダラダラできないなんて贅沢すぎる悩みだ。世の中には親がいなくて貧乏や寂しさに苦しむ子もいるし、友達ができずにいじめられる子もいる。どんなに勉強しても頭が良くならない子もいる。顔に恵まれない子もいる。私は、恵まれている。でも、己の環境に悩み、苦しみ、耐えきれなくなった。

 

 結局、人間が抱える悩み苦しみ不幸は、比べられないのだ。一般的には遠い外国で餓死する子がとても可哀そうなのだろうが、沙夜だって主観的には自由を縛られたとても可哀そうな子供なのだ。そこに差なんて認められないし、認めてはいけない。

 

 そのような鬱屈とした感情を脳内に閉じ込めつつ日々を過ごしていたら、唐突に沙夜は星井ミクとしてバーチャル空間に召喚された。説明役のマスコットキャラクターな妖精から、他の11名の魔法少女とともにVRMMO版の魔法少女育成計画のテスターをするよう頼まれた時、星井ミクは疑った。テスターとしてファンタジーなバーチャル空間をこれでもかと体感できる。しかも報酬まで貰える。そんな上手い話が本当にあるのか。何か裏があるのではないかと勘ぐった。

 

 そのため、デスゲームな展開の小説や漫画が大好きな友人から得ていた知識を元に、妖精にいくつか質問を投げかけ、探りを入れてみた。結果はグレー。完全に信用こそできないが、妖精の説明から12人の魔法少女が殺し合いを強いられたり、強すぎる敵に理不尽に蹂躙されたりするような可能性は見出されなかった。妖精に星井ミクたちを陥れようとの邪な意思は見られなかった。

 

 星井ミクの本質は怠惰だ。本当なら特に探索などしないでダラダラしていたい。何せ、このバーチャル世界での50時間は、現実世界の1秒にも満たないのだ。が、高クオリティなVRMMOを経験できるチャンスをふいにしたくない。それに将来的に失踪し、魔法少女の姿で生きるのなら、今ここで出会った魔法少女たちと良い関係を構築した方がいいはずだ。そのような思惑の元、星井ミクはテスターになった。そして。フォーチュンテラー、ファソラ、なのだ先輩、ムイムイ、ラストエンゲージとともにこの世界の攻略を始めた、のだが。

 

 

(入るパーティー、間違えたかもなの)

 

 星井ミクは若干後悔していた。

 

 

「なぁなぁ! はよこっち来てや! でっかい遺跡があるんよ!」

「おー、すごーい。おっきーいぃ」

「……あ、2人とも危ない……」

「へ? 危ないって何がやね――ふぎゃああ!?」

「はぅわあ!?」

「あらあら。フォーさんとムイムイさんがイノシシの群れに跳ね飛ばされてしまいましたわ」

 

 草原地帯が終わりに差し掛かる中。いち早く石造りの遺跡を発見したフォーチュンテラーが興奮のままに一目散に走り出し、ムイムイも目を輝かせながらフォーチュンテラーの後を追う。ラストエンゲージの棒読みな警告を耳にして、その場に止まったフォーチュンテラーとムイムイが、草原地帯をドドドドと盛大な音を立てて駆けていたイノシシの群れに派手に吹っ飛ばされる。ファソラがなぜか2人を微笑ましく見守る中、普通に考えて洒落にならないダメージを負ったはずが、クルクルと無駄に宙で回転し、草原に頭から着地するフォーチュンテラーとムイムイの様子はギャグ漫画の世界の住民にしか見えない。

 

 星井ミクはなのだ先輩、フォーチュンテラー、ムイムイ、ラストエンゲージ、ファソラのパーティーを選んだ。メタ☆モンがテスターとしてこのVRMMOな世界の攻略にやる気をみなぎらせまくっていたため、そこまで真剣に探索するつもりのない星井ミクとしては、メタ☆モンのいないパーティーを選ぶが吉だと考えたからだ。

 

 しかし。星井ミクは今、パーティー選択を後悔しつつあった。フォーチュンテラー、ムイムイ、ラストエンゲージ、ファソラの性格があまりに自由奔放で、個性的すぎるのだ。

 

 今まで星井ミクが星崎沙夜として付き合ってきた人にここまでぶっ飛んだ人はいなかった。当然だ、星崎沙夜は傍から見れば文武両道で、容姿に優れていて、性格も聖人な以上、星崎沙夜と友好関係を築く者は皆、多かれ少なかれ己の本性を隠し、良い人を演じて星崎沙夜と接触していた。彼らは星崎沙夜に気を遣って秩序ある交流を行っていたのだ。ゆえに。星崎沙夜に、己の気持ちに忠実に従い、フリーダムに暴れるタイプとの人付き合いの経験はない。どうすれば彼女たちと良好な関係を結べるかがわからないのだ。

 

 

(フォーは精神年齢が小学生っぽいし、ムイムイとファソラは雰囲気がぼけぼけしてるし、ラストはあんまり喋らないし、皆何を考えてるのかわからないの。こんなことなら、あっちのパーティーにすればよかったの。ミラクルやコットン、ユウキ辺りは関わりやすそうだったし。……唯一の救いは、リーダーのなのさんだけはまともそうだってことなの)

「ふむ。このままでは頭が土に埋まったらしいフォーとムイムイがイノシシに轢かれまくってリタイアしそうなのだ。ミク、君の魔法で2人を助けるのだ」

「仕方ないの」

 

 フォーチュンテラーとムイムイに迫る危機を冷静に傍観していたなのだ先輩の指示を受けて、星井ミクはイノシシの目の前に堅く太い流れ星をいくつか落とし、未だに頭が埋まったままもがいているフォーチュンテラーとムイムイを守る遮蔽とする。星井ミクはなのだ先輩となら仲良くなれそうだと考えているため、口では渋々だが、内心では彼女の指示に積極的に従い、彼女の好感度を高めることを画策していたりする。

 

 

「それで、どうするの? 星の壁は長くはもたないの」

「ファソラ。君の魔法の音楽で、イノシシたちの進路を逸らすなり、走る意思を消すなり、フォーとムイムイに危害が加えられないように誘導できないのだ?」

「あらあら。お任せくださいまし、なのさん」

 

 強度の硬い流れ星に突進を止められてなお、イノシシは進行方向を変えずに星に頭突きを繰り返す。星に徐々にひび割れが生じる中、星井ミクが今後の方針をなのだ先輩に問いかけると、なのだ先輩はファソラのあらゆる音楽を自在に奏でられる魔法による解決を提案した。なのだ先輩の意見を快諾したファソラはフルートを構え、演奏を始める。

 

 

(今度はゆったりとした音色なの)

 

 自己紹介時のファソラの爽やかな音楽とは違うが、これはこれで趣がある。などと星井ミクがファソラの音楽の心地よさを堪能していると、流れ星にひたすら頭突きを繰り返していたイノシシの群れがドズズーンと一斉に倒れていった。体重が軽く300キロはありそうなイノシシが次々に倒れたせいか、星井ミクたちの足元が激しく振動する。

 

 

「わわッ!?」

「おっと。大丈夫なのだ?」

「う、うん。助かったの」

 

 思わず星井ミクがバランスを崩して倒れそうになるも、なのだ先輩がとっさに手を差し伸べてくれたため、星井ミクは事なきを得た。こういう所で当然のようにフォローを入れられるなのだ先輩は、理性的で非常に人間ができている。星井ミクはますますなのだ先輩と親交を深めたくなった。

 

 

「ところで、どんな音楽を奏でたの?」

「イノシシさんに夢の世界に旅立ってもらう音楽ですわ」

「……これで2人を救助できる……」

「いい加減窒息するかもだし、早いこと2人を引っこ抜くのだ。ついでに、イノシシにトドメを刺してマジカルキャンディを増やすのだ」

「せっかくの報酬を逃す手はないの」

 

 星井ミクの質問にファソラはふわふわとした口調で少々婉曲的に答えを告げる。ラストエンゲージの発言を踏まえ、なのだ先輩が指示を口にしつつテクテクとフォーチュンテラーとムイムイの元へ向かう。星井ミクは自分と違い過ぎる人種とどう関わればいいかわからないため、2人の救助はなのだ先輩たちに任せて無抵抗にぐっすり眠るイノシシにサイズの大きい流れ星を勢いよく落とす形で虐殺作業に着手した。

 

 

「ぷはー! 息ができる! 生きてるって最高やね!」

「みゃあ、空気が上手いねぇ」

 

 なのだ先輩とラストエンゲージにより両足を掴まれピクミンのごとく引っこ抜かれたフォーチュンテラーとムイムイが能天気にはしゃぐ中。星井ミクは魔法でパパッとイノシシを全滅させた。そして。星井ミクがマジカルフォンを見ると、マジカルキャンディが960個増加していた。

 

 

「一気にマジカルキャンディが960個も増えたの」

「ほー、凄いやん! 結構、マジカルキャンディを大盤振る舞いしてくれるんやね。ウチ、報酬あるっていってもマジカルキャンディをケチられるかもって疑ってたんやけど、杞憂やったわ」

「……日本円にして9万6千円。6分割でも1万6千円……」

「あらあら。色々買えて、夢が広がりますわね。イノシシさん、ありがとうございますわ」

「とりあえず、皆に分配するの」

 

 星井ミクがイノシシ殲滅の戦果を皆に伝えると、フォーチュンテラーが意外そうに目を見開きながら己の心境を顕わにする。ラストエンゲージやファソラもマジカルキャンディが一気に稼げたことに大層喜んでいたため、星井ミクは速やかにマジカルキャンディをパーティー全員に等分で渡すことにした。不要なトラブルを未然に防ぐためだ。

 

 

「ねぇねぇ、これ他のイノシシの群れを探して倒して、お金をガッポガッポ儲けるの、アリかなぁ?」

「アリ! 超アリや! 目指せ、億万長者! そしてウチらは伝説へ――」

「……あんな群れ、早々見つけられないかと……」

「チュートリアルの骸骨はマジカルキャンディ1個だったから、マジカルキャンディの数は敵の強さに比例してるはずなの。そんなに強くないイノシシに躍起になるよりは、さっきフォーが見つけた遺跡を探索して、宝箱を見つけるなり強敵を倒すなりした方がいいの」

「あ、そうやった! 遺跡や遺跡!」

 

 ムイムイがふと口にした提案をフォーチュンテラーは猛烈に支持する。が、ラストエンゲージがイノシシの群れを効率的に見つけ出す手段がないことを主張し、星井ミクがマジカルキャンディに対する考察を加えつつイノシシ狩りルートを回避しようとすると、フォーチュンテラーは先ほど自分で見つけた遺跡のことを思い出し、遺跡への情熱を再燃させた。

 

 

「探検しよ、遺跡! 今すぐ行こ! ええよな、なのさん! な、な?」

「うむ。遺跡を踏破するのだ。その前に陣形を再確認するのだ。前衛はミクとムイムイ、中衛がフォーとファソラ、後衛があたしとラスト。いいかな? ……よし、では攻略開始なのだ!」

 

 ミラクルシャインの魔法でも使っているのかと言いたくなるほどに、フォーチュンテラーは目をこれでもかとキラキラと輝かせながらリーダーのなのだ先輩にねだる。遺跡を避ける理由はないため、なのだ先輩はパーティーの陣形を改めて皆で共有した後、遺跡探索を宣言するのだった。

 

 




絶望「畜生ォ、出番を持って行かれた……!」
ふぁもにか「元ネタと違ってセリフにまるで悲惨さが感じられない件」

次回【9.1日目 なのだ先輩班(2)】
※次回更新は8月25日です。

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